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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode11 最終決戦の始まり。千里vs???!!
159/190

それぞれの心の着地点。血と魂の絆!!

三兄姉弟、並んで日常に帰る。





ありふれた願いに見えて、その実途方もなく遠い願いを千里が放った。


それを受けた借夏は。


借夏は語気を強め、敢えて突き放すように叩きつける。


『……言ったな千里。ねじれた今を壊す宣言を。遥か遠き理想に手を伸ばす世迷言を』


「ああ。二言はねーよ」


『なら止めて見せろ奴を軸に渦巻く悲劇の連鎖を、自分勝手が占め尽くす奴の計画を。そして…………()()()を越えて見せろ。電子の看板として立ち続けたチエカを。そしてその原典にして、全ての経験値を共有するお前の兄を!! そして何より、目につく全てを喰らい草の根ひとつ残さないあの悪意を!! 全てを十全以上に乗り越えられるものなら乗り越えて見せろ』


「あたぼー。そのための旅路、だったんだろーしな」


先駆千里は、どこまで理解しているのだろうか。


どこまでが自分の意思で、どこまでが託された願いなのか、その境界は限りなく曖昧だ。


だがしかし、千里は己を失わない。


「……っと、チエカに変わってくれるか?」


『いいだろう……こほん。ハイハイもしもし?』


「明日、最初の約束を果たす」


彼にとっての始まりに向けて。


「全ての領域のAi‐tubrを倒し、最後に『オマエ達』を倒すのが、このゲームのクリア条件だったな。それを明日達成する。このゲームの第一部をクリアして、正しく次のステージに押し上げてやる!」


『ではでは、明日を楽しみに待つとしましょう! 必ず。必ず、ワタシの所まで来てくださいね? そして……』


咳払いひとつ。


どこか二人がダブついたような声色で、最重要の願いを託す。


『……僕たちを。オリジナルチエカとチエカ・ブロンズコーデを倒し、マリスの野望を阻止するんだ。いいな?』


「ああ。絶対の約束だ!!」


『健闘を祈る』


ーーーープツリ。


と、通話が切れたスマホを手に。


「アニキ、チエカ……待ってろよ。必ず『助け』に行くからな。このゲームごと、全部救い出してやる」


覚悟を決めた独白が、澄んだ夜に融ける。









「…………ふぅ」


千里宅の玄関にて、こちらも通話を終え一息ついていた。


借夏は()()()()()()()()()()()()


(……どうだった?)


(あはは……どうもこうも)


チエカの苦笑が、()()()()()響く。


(ワタシもワタシで因縁はありますが、やっぱり生涯を一緒に暮らしたオニーサンとの因縁には敵いません。一緒に過ごした時間が違いすぎて、すっかり気おくれしちゃいました)


(そうか……そうだよな。すまない、このゲームの最初からずっと見守ってくれたのは君なのに……損な立ち回りをさせてしまって)


(いーんですよ。アナタはワタシ、ワタシはアナタなんですから)


こんな感じの……心の中での気安い会話が、かつては度々あった。


二つのココロをひとつの体に入れての対話も、しかし徐々に恐ろしくなって行ってしまった。ゆえにある時を境に、チエカは電子の世界に行ったっきりになっていたのだ。


だが、こうしてひとつの体に収まると実感する事もある。


(……そうだな。やはり君は、僕の片割れなんだよな)


(ナニを当たり前のことを。ワタシに姿を、声を、魂を分け与えてくれたじゃありませんか)


(何を言う。それは自分自身を千里のために変えようとしただけだ……)


(ですから、それで間違ってないんですよ)


あくまでも借夏の半身として。


それでいて、御旗チエカという独立した人格としての言葉で、チエカはもう一人の自分に語りかける。


(その頑張りがあったからこそ、ワタシはこうしてここに有れるんです。そして、大勢の人たちに夢を届けられた。それだけでワタシは……)











「そこにおるな?」










不意を打たれた。


「…………!!?」


扉の向こうから聞こえた声。


(彼女は、確か千里の友人の……或葉ちゃんか!?)


(待ってください借夏さん!! ここはワタシが出ます!!)


咳払いひとつ、声色をチエカのそれに切り替える。


男性の体のままに、女性的な心と声を解放する。


「……来てくれたんですね、或葉サン」


扉の向こうに居たのは、チエカを病的なまでに信仰していた少女。


なぜこの時間に来たかは分からない。だがもしかしたら、千里の通話を偶然見かけ、隙を突けるとでも思ったのかもしれない。


その目的は明確だ。


『うむ。決戦の前に、その状態のおぬしと直に話をしたかったゆえ。あいにくと、この扉を開く勇気まではもてんかったがの』


「……ケンメイな判断です」


彼女と借夏は一度対面しているが、あくまでもチエカの製作者としての建前があった上での話だ。


もしもこの状態の借夏(チエカ)と真正面から対面してしまったら、さすがに認識がバグると確信できた。中性的とはいえ、長身の男性から可愛らしい年頃の乙女声が出ていたらめまいを招く。まして信仰レベルで推していた相手ならなおさらだ。


だからせめて、傷つけない言葉で。


「なんていうか……ごめんなさい、こんなワタシで。なんかその、ゲンメツ、しちゃいました?」


『そんなことはない』


優しい声だった。


無理も取り繕いもない、本心からの優しさが滲み出ていた。


『むしろ納得したくらいぞ。拙者も最初は自分でもわからなかった。なにゆえ拙者は、ああも千里に強力したのかが。オヌシの幻想を砕く流れに寄り添ったのか。

きっと拙者は血にも……魂にも惹かれた、のであろう。チエカ殿と千里が血と魂を分けたきょうだいであったからこそ、迷いながらも協力をやめなかった』


「血に……魂に……」


チエカはあくまで、先駆借夏の一人格に違いない。その心を、言葉を作るのは先駆千里と同じ遺伝子と魂だ。


だからこそ少女は。


『もとより、辿りついた答えに文句は付けないつもりであった。どんなに空想を積みあげようと『公式こそが正義』というのは心得ておるつもり……だった。そしてオヌシの正体がどうであれ、編み出した幻想を守るためにあらゆる意味で全てを捧げた存在であるのに変わりはないのであろう?

ならばなにも問題ない。ただ楽しみ、ただ信仰し、ただ楽しい時を過ごすのみぞ』


「…………」


『千里からも聞いたであろうが……明日、全ての決着がつく。そこで辿り着く結果も、可能な限り受け入れたい。であるが、願うなら。それはおぬしと共に迎えたい。

故に生きて欲しい。おぬしにも命があのであろう。ならば、例え世界の事情を無視してでも生き延びて欲しい』


「なんで、そんなにワタシを……同じ血や魂を持つ借夏サンや千里サンではなく、なぜワタシを?」


『決まっておろう』


なにを当たり前のことを、とでも言いたげな間を置いて、飛び出した言葉は。









『拙者は、おぬしの生き様に惚れた故。血や魂から生じるチカラを、誰よりも尊く輝かせるのはおぬしぞ。だからこそにござるよ』








「…………ッ」


どこまでもまっすぐに、チエカに届いた。


『また語らおう』


それを最後に、バイクが遠ざかる音がした。おそらく姉のバイクに乗せてもらって来たのだろう。


しばし、無言の時が続いたが……やがて内から茶化される。


(……まったく。あんな熱心に推してくれるファンが居るなんて、看板娘冥利に尽きるな)


「うぐっ…………ッ。そ、それを言うならアナタの手柄でもありますからね借夏サン!? なんせワタシはアナタなんですから」


(ああ、今それをすっごく自覚できてる。ちょっと顔が熱いぞ?)


「え……うわ、あっちゃー……オリジナルチエカでは、大きめの感情に触れないよーにしてたのに…………っ」


感覚のシンクロ。


チエカへの賛辞を身に受け、より明確に自覚していく。


離れていた認識が深く結ばれなおす感覚。


身体中のリミッターが外れ、二つの魂が同調していく。


(これは、燃え尽きて死ぬなんて許されそうにないな)


「あはは……そうですね……もう明日に備えて寝ちゃいましょう、うん!」


(おいおい寝逃げか?)


「のーこめんとでっ!!」


こほんと咳払いし、借夏の意識を表に出す。


「それじゃ……おやすみ、()()()()()()


(ええ。おやすみなさいませ、()()()()()()()())


かくして宿敵は眠りにつく。


目覚める時は、世界の敵役として立ち上がる時だ。










「……良かったのか、直接会わなくて」


サイドカーに乗せた妹に、姉こと詩葉は語りかける。


「うむ、これで十分にござるよ。あの扉を開けたら、きっと拙者の中のなにかが壊れてしまう」


「だろうな。特に理性のリミッター辺りが危うい」


「理性ッ!?」


「ジョークだ。……ただまあ、衝撃が強すぎるってのはわかるな。ぶっちゃけ弟の立場で耐えられてる千里の方が異常だ」


改めて、彼がギリギリで調整されたヒーローなのだと悟る。折れる寸前で踏みとどまったからその粘り強さが彼にはあった。


だから、自分の妹の身を案ずる。


「……明日、ちゃんとやれるか?」


「正直、自信はない。仕組まれた宿命に乗っかってせいぜい、と言った所か」


「だろうな」


明日の最終決戦、マリスは或葉の憎しみを利用して戦場を切り分けるつもりだ。千里たちも敢えて乗っかるつもりではあるが……


「きついなら、無理しなくてもいいんだぞ? こっちの仕事とは違って、おまえの仕事は最悪ポシャってもなんとか……」


「大丈夫」


決意は揺るがない。


「例え乗せられても……乗せられてでも、千里のツケは払う故に。問題は無いにござるよ」


「そうか……」


闇夜の冷たい風を切る。


凍える程の世界を切り裂きながら二人は進む。


「なら、こっちはこっちの仕事をしなくちゃな」










それぞれが、それぞれの役割に思いを馳せる。


決戦は明日。


むき出しの因縁が、戦士たちを待ち受けるのだ。

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