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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode11 最終決戦の始まり。千里vs???!!
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少女たちの往くべき道。マギアサークリット解放クエスト発生!!

時間は少し遡る。




『ーーーーコレは、あたしからの慰謝料みたいなものと思って』


ユリカの喫茶店にて、渡されたのは新たな切り札。


『……これは』


『しょーじき難産だったわ。あんたには計測するだけの戦闘データが無い。……というか、チエカに依存しすぎて他の要素、側面が出てこない」


『否定はせん』


『わたしも。好きな物に全力を注ぐのもゲームの醍醐味だもの。……でも、チエカの出現が不安定になった今はそうも言ってられない』


チエカが敵に鹵獲された影響は深刻だった。


彼女はサポーターとしてはもちろん、ゲーム中のカードとしても大きな戦力だった。それを失った千里たちには、彼女ナシでもやって行ける程の新たなエースが必要だったのだ。


『だから、悪いけどあんた自身とチエカのアイノコみたいなのを作らせてもらったわ。それをどう使うかはあんた次第。

もうひとつ先の段階も用意しとくから、上手く使いなさいよね』


『うむ、有難く受け取ろうぞ』


手にした力は新たなる自我の種火。


それを絶やすか、より大きく広げるかは彼女次第だ。


とはいえ、火が消える心配はあるまい。


『それと償いとは言ったが、拙者はお主に恨みは無い』


『は?』


『お主はただ、正体不明の友を信頼して共に歩んだまでのこと。拙者が忌むべきはあくまで、その幻想を汚すマリスただ一人よの』


『…………そ。ありがとね』


『礼には及ばぬ』


やり取りは気安く。


一本の芯が通ればこそ彼女の、或葉の道に迷いはない。


良くも。


悪くも。









「………まだ足りぬ」


自らの切り札を見つめ、改めて思い直す。


千里とは違い、依存がすぎた或葉の戦術はなかなか変えられない。最後の切り札に至るためにも、更なる経験値を積まなければ。


彼女の強さは危うさも込み。


たとえ彼女自身が壊れずとも、周囲を踏み潰す無制御の重機の在り方は正さなくては。


そんな思考の脇で。


「ーーーーほえー、あんたらが勇者ねぇ? ……はぁ」


「なんすか、そんな信じてませんオーラ出しちゃって」


「だって、さぁ……」


呆れたように関心を述べるのは、先ほど救ったプレイヤーの一人だ。若干元気がないように見えるが、いまだログインしている辺り情熱が完全に消えた訳ではあるまい。


「なんかどうにもしっくり来ないが……なにか? どっかの王様にでも頼まれて来てんのかい?」


「んーや、自称っすよ」「これから本当にするがな」「なんなら先代魔王の力も添えよう」


「あの。大丈夫か? なんかすげー不安なんだけど」


なにやら「勝手に添えないでくれる?」みたいな声も聞こえたし、一枚岩かすら怪しい集団を信頼しきるのも無理があるだろう。


だが、奇跡を実感した者は違うようだ。


「だったらよ」ここで発言するのは、先ほど()()()()()()()救われたプレイヤーだ。「もし本当に勇者の真似事をしてくれるってんなら……ひとつ頼まれてくれやしないか?」


「頼み事?」


「ああ。さっき『マギアサークリット』に飛ばされた時……一瞬だったが見たんだよ。大量のプレイヤーがあの領域に閉じ込められてる。

出来たら解放してやって欲しい。あれをそのまま放っておくのはあんまりにもあんまりだ」


それは虐げられし者からの依頼(クエスト)だ。


マギアサークリット自体はそう悪い所ではない。転送が目的である以上、それが済んだ後はシイカビット達も非好戦的(アクティブ)になる。本来の雰囲気も悪くは無い。


だが、そこに全エリアのプレイヤーをすし詰めにして、脱出不可能とするのは屈辱以外の何者でもなかろう。


ゲームは自由度が命。


手に入れた自由を削がれる事ほどユーザーを苦しめる事は無い。


話を聞き遂げ、うーむと唸り、やがて思考のために閉じた目を開き、仲間たちに問う。


「……だってよ、どーする」


「どうって、もう決めてるんだろ?」


「語るまでもあるまい」


「いや。いやいや待て待てちょっと待て!! オイオイ大丈夫なのか? 勇者だか魔王だか知らんが自称だろ? いくらなんでもあのネズミ捕りに自分から向かって行くってのは……」


「さっき見たろ? 俺たちなら引っかかっても抜け出せる。それに」


途中、自信たっぷりに見せるのは一枚のカード。


「俺にはコイツが……ガイルロード・ジューダスがあるからよ」


「ええ……? 上級のくせに基礎ステータスは格下未満、効果はまあまあ強いのにコストが無駄に重い可燃ゴミで何するってゴベらガはッッッ!?」


その発言が幼い魔王の逆鱗に触れた。とりあえずゴミバケツ型オブジェクトを顔面に食らったプレイヤーは好感度をマイナスまで下げた。


「他の人が好きなカードを罵るのはやめなさい。あと個人的にめちゃ腹たった」


「前半正論だけど本音は後半だよなこのマセガキ!? あーもうお前たちのこと絶対信用しねぇからな!? それはそうと嫌な事言ったのはごめん!!」


「いいっての。……信用は行動で勝ち取るさ」


言って、千里は雑に飛び上がると。


『イッ!?』


「ヘイタクシー! ちょっとそこまで頼むぜ!」


そこらを巡回していたシイカビットを捕まえ、わざとゆっくり襲いかかる。


もちろん着弾より前にシイカ側の魔法陣が広げられ……フッと消失する。


『……!? ナンナノダイマノハ』


「ハイ隙だらけ」


『エ? ガ、グギャアアアアアアアア!!』


後始末は仲間が担当。先ほどのようにあっさり撃破し周囲の警戒に戻る。


ポカーンと口を開けて光景を見ていたプレイヤーたちに向けてかけられる言葉があった。


「あたしたちを信用しなくてもいい」


困惑する者に無茶は強いない。


ただ必要なことだけ求める。


「それでも、この世界を諦めないで欲しい。まだスタンピードはやり直せる。少なくとも、あたしはそう信じてる。……ま、イチバン可能性があった頃の記憶しかないからそう思うだけなのかもだけどね」


「記憶? あの……あんた一体何者で……?」


「聴いたでしょ、先代魔王よ」


あっさりと、自分を嘲笑うように語る。


「このゲームの初代デザイナー。数週間前に盛大にやらかした『夜ノ神』とはあたしのこと。……それじゃぁ、あたしはあたしの仕事をしなくちゃね」


驚愕の瞳に見守られながら償いの腕が唸る。


全てを創る神の手が。


全てを統べる魔王の手が。


滅びゆく世界に、希望と救済の光を灯す。

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