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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode11 最終決戦の始まり。千里vs???!!
150/190

絶望世界への挑戦。挑め、始まりの戦士たち!

カードレース・スタンピードは未曾有の危機に見舞われていた。






行けども行けども廃墟ばかり。


通っていたカフェテリアも、色鮮やかな街路樹ももう無い。


全て、溶け落ちた飴色の海に沈んだ。


今のシュガーマウンテンは、出来損ないの創作菓子みたいな歪さに満ちていた。


そんな世界で、二人のプレイヤーが出会う。


「……よぉ、まだログインしてたのか」


「ああ、まあな……」


名もしれぬプレイヤー。いや、もはやアバター名を確認する気力すら彼らにはない。


もうこの世界はダメかもしれない、と彼らは思っていた。


消費者を追い込むコンテンツに未来は無い。上り調子だったアクセス数も一気に下がってしまったようだ。


大規模なキャンペーンを前に課金を控えるのはよくある話だが、アクセスそのものを控えるような事態ははっきり言って異常だ。


それでも希望はあった。


なんというか、わざとらしい希望だったが。


「最終イベント……ね」疲れきった男の声が「噂じゃあ新しい領域が実装されるみたいだが」


最終イベント・群衆事変(スタンピード)


それさえクリアすればこの騒動は収まり、同時に新たなエリアが解放されるようだ。


おそらく領域の名は 《ステアリング》。これまでカードにのみ存在していた、特別な領域(クラス)が、新しい舞台として提供されるのだろう。


しかし、そこへ目を向けさせるために焼き討ちをかけるということは。


「新しい領域っていうよりか……事実上のリメイクだなこりゃ。前にカードデザイナーの夜ノ神がやらかしてクビになった噂が流れてたが、今回はそれ以上のやらかしと見える」


「アンタ行くか?」


「いいや」


即答だった。


裏切られた気分だった。もうついていけないと思っていた。


新たな天地に出向いても、それを今までのスタンピードと同じように愛せる自身はなかった。


「俺はさ。『この街が』大好きだったんだ。未成熟だったかもしれないけど、その分ちょこっとずつ改良していって、そのたびにちょっとずつ良くなっていって……その思い出があったから大好きだったんだ」


「……わかるな、それ」


改善に改善を重ね、今日では大分快適にプレイできるようになったスタンピード。


しかしそれは最初からのことではない。何度もユーザーの希望を聞いて、それをゲームに反映させてきたからこそだ。


それを唐突に放り投げた。


顧客を無視した理不尽が突如として襲いかかってきた。


「別に、カードの環境がどうとかじゃない。作られるカードは相変わらず一級品だ。だが今度のはそれ以前の問題だ。なんというか、トップには心が無い」


「それか、目の前が見えてないか。今度のアップデートは相当の自信作らしいしな。よっぽどそっちを遊んで貰いたいんだろうぜ」


どっちにしろ、そんな腹積もりで運営するゲームに未来は無い。


そんなふうに思いながら、ただ彼らは失望の縁で微睡み、終末の時を静かに待っていた。


「なあ、今のうちに一回走っとくか?」


「んや……いいわ。なんかこう、気が乗らねぇ」


「だよな」


まるで、かのネビル・シュートが描いた反応兵器による世界の終わりのように……もはや彼らは争いさえしない。


絶対の終了宣言を前にしては、小さい人間の足掻きなど無駄。


せめて安らかにその時を迎えたいと、少なくとも彼らは思っていた…………


が。







『ーーーーアバターハッケン、アバターハッケン♪』







「「!?」」


しかし悪意は、最期の願いさえ踏みにじる。


耳障りなノイズ混じりの音声が、彼らの思い出浸りを阻害した。


「や、べぇ……シイカビッドだ!」


「クソッタレめ、逃げるぞ!」


慌ててマシンを呼び出し乗り込み、揃ってその場を離れる。


シイカビッド。特殊なフルフェイスメットを装備する事で、単なるシイカの分裂体から改良されていた個体だ。


その機動力、索敵能力は、イベントが告知された直後に大量発生したそれとは比較にもならないほどだ。


そして捕まったが最後、彼女の 《試練》を強制的に受けさせられる。とてもクリアできたものでは無いらしく、その間アバターは彼女の領域【マギアサークリット】から出られなくなる。


プレイヤーの自由を奪う悪逆。


こんなイベントを誰が考え、だれが通したと言うのだ。


悪魔め。


いや悪魔に失礼か。


と、二人のうち片方に速度を合わせた手がそっと乗せられる。


『ハイ、ツカマエター♪』


ボウ……と魔法陣が浮かび上がると、そのまま彼の転送が始まる。


「な!? やめろ待って……ぐあああああああああああ!!」


「な……てめぇぇぇぇぇ!」


傍らを走る誰かがやられた。


すし詰めの世界に送られた彼はもう、望む大地を走る自由すら失ってしまったというのか。


ビットがグルンと、機械的に首を回す。


人間性さえ捧げた挙動は、見るものにくまなく恐怖を配る。


『アト、モウヒトリ♪』


「ちっくしょおおおおおおお!!!!」


絶望に駆られ、飴の道を駆け涙目で叫ぶ。


トップギアで逃げているのに逃げきれない。


そもそも逃げられるようにできていない。






ーーーーああ、何故ですか。






もはや男には、天に嘆く事しか出来なかった。


自分たちはただ楽しく遊んでいられたらそれで良かったのに。


どこまでも自由に駆け抜けられるこのセカイが大好きだったのに。


あのままの流れを維持してくれるだけで、幾らだって資材を注いだというのに。


そんな、走馬灯代わりの訴えを踏み潰すように、恐怖の手のひらは向けられーーーー








そこに、希望が降り立つ。









「ぶっ飛ばせ! 《ブラック・グリズリー》!!」


高く、響く少年の声だった。


号令に従い、黒金の熊がシイカビットを討つ。




《ブラック・グリズリー》✝

ギア4マシン スカーレットローズ POW16000 DEF10000




WIN グリズリーPOW16000vs15000DEFシイカビッド Lose




『ピギャアアアアア!?』


ゴシャアアア!! と一撃で粉砕されるシイカビッド。


血の一滴も残さず四散したのは、もはやサーバーの負荷を減らすためとしか思えなかった。


突然のことに理解が追いつかなかったが……。


「? ……? はぇ?」


「大丈夫か?」


その言葉で理解する。誰かが割り込んで助けてくれたのだ。


スタッと着地し、声をかけたのは銀髪の少年だ。


長く流す様はともすれば少女に見間違えかねないし、どこかこの間まで居た看板娘チエカの面影さえあるが、紛れもない少年だ。


その背中は、闘う戦士のそれだ。


「え、あー、俺はだいじょうぶ……」圧倒されながらも言いかけて止まる。「じゃねえええええ逃げろ!?」


「チッ」


見やると、複数のシイカビットがこちらに向かってくるところだ。


『テイコウヲカクニン』『テイコウヲカクニン』『テイコウヲカクニン』『テイコウヲカクニン』『テイコウヲカクニン』『テイコウヲ……』


「クソッタレめ。大勢でつるみやがって」


「落ち着いてんじゃないアンタも逃げるんだよ! さっきみたいにバトルで破壊してもその隙にもう一体にやられる! 立ち向かうだけ無駄なんだ逃げなきゃ!!」


「ハッ!! やなこった!」


「なんでぇ!?」


混乱する男だったが、少年は自身満々に言う。


「逃げる必要なんてねーからだよ。……なあお前ら!!」


「おう」「うむ!」「はいはい」


「……え?」


声に反応してみると、一人が立つ場所から二人の仲間たちが飛び出すところだった。


「出て来いオレの過去の肖像。 《一方的勝利(ワンサイドゲーム)ブラッドサガーン》!!」


「いでよ拙者の新たな相棒! 《唐鞍灰棄・過甘(カーマ)》」




《唐鞍灰棄・過甘(カーマ)》✝

ギア4マシン サムライスピリット POW16000 DEF5000

【登場時】山札からマシンカード一枚を選んでアシストゾーンに置く。このターン、置いたカードと同名のカードは使用できない。

【自身がアシストゾーンにある/自場札三枚を疲労】このカードをマシンゾーンに置く。




砂の巨影と共に、仕掛け時計を組み込んだ和馬車が飛び出す。


重厚なマシンたちはいずれもパワータイプ。殴り続ける限り負けない。


ジリッと押し込み、睨みを効かせて。


「「「全軍行進!! シイカビットを撃破せよ!」」」


『『『ヒィッ!?』』』


そして号令が飛ぶ。


先のブラックグリズリー共々、一気呵成にシイカビット達に襲いかかりーーーー






WIN カーマPOW16000vs15000DEFシイカビット lose


WIN サガーンPOW16000vs15000DEFシイカビット lose


WIN カーマPOW16000vs15000DEFシイカビット lose


WIN グリズリーPOW16000vs15000DEFシイカビット lose


WIN カーマPOW16000vs15000DEFシイカビット lose……






『『『グ……グワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』』』


完全撃破。


猛攻を受け、悲鳴を上げて爆発四散、全滅に至るシイカビットたち。


ーーーー仮にも個々に人格があったはずだが、既に魔改造されてまともな人間性を失った彼女らに交渉の余地はない。


願わくば、チエカシステム同様の統一人格でもあれば幸いかーーーー


「あ、あの…………?」


ーーーーなんて考えは爪の垢程も知らない名もなきプレイヤーは、白髪少年と共に飛び出した和装少女と男性型アバターに話しかける。


少年もすぐに気が付き。


「……あーわりー。アバターは無事か?」


「え? あー俺は無事だったけど……一緒に話してた奴が、その……」


「あら、それって彼のこと?」


「ああそうそんな感じの……ってぇぇえええええ!?」


声の方に目をやると、赤毛の少女がなにやら細工していたらしく、先の光景が逆回しになっていた。


消えたもう一人が、傷も綺麗さっぱり直して復活していた。


「うわぁあああん助かったよぉおおおおおお!!」


「なんだなんだぁ!? 良かったけど一体何が起きてんだ!? 良かったけど、良かったけど!!」


「だってあたしカミサマだし、一応。これくらいの巻き戻し(ロールバック)なら朝飯前よ」


「ぇぇええカミサマって!? いやあの……アンタらは、一体……」


「あ、俺ら?」


結局、終始混乱しっぱなしの男に告げてやる。






「そうさな……しがない『勇者パーティー』って奴かな?」






「妥当だな」「言い得て妙ね」「うむ」と仲間たちの同意を得る白髪の少年。


この少年こそ、このゲームの中心部に据えられた『異物』にしてこのゲームを救う『勇者』となりうる可能性を持つ存在。


先駆千里。


彼の率いる逆転劇が、いよいよもって始まる。

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― 新着の感想 ―
[一言] Twitterフェローありがとうございます。 また読ませていただきます! 頑張って下さい。
2020/09/01 09:43 退会済み
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