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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode11 最終決戦の始まり。千里vs???!!
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手繰り寄せる因縁。詩葉よりシイカへの挑戦状!

変わらず【ヘルディメンション】の曇天の下。


しかし微かな日差しを浴びながら、詩葉と千里はスタート地点まで帰還して行ってた。


「……というか。冷静に考えたら、アドバンスフォーミュラの走行に絶影使ってたらもっと有利に戦えてたよな……」


「そ、そこはホラなんつーの、気力体力時の運ってなやつで……」


「いや違うって普通に迫力に飲まれてたんだオレが……」


ちょっぴりへこみながらも勝ちは勝ち。


いつぶりかも分からないほどに久々の勝ち星を得た詩葉は、ほんの少し誇らしげに見えた。


「……まあ、これから直して行けば済む話か」


「というと?」


「決まってる。オレも修行に混ぜてくれ」


つまりは戦場に出る意思表示。


吹っ切れた覚悟が、詩葉の瞳に光を取り戻していた。


「噛ませ犬として玉砕する……なんて事はもう言わない。真正面から打ち勝つ実力が欲しいんだ」


「ほーん? なんつーか、詩葉ならもう十二分に強く見えるけどなー」


「何を言う。オレなんて……」


「だってよだってよー? あそこから持ち直してこっちの予想を超えて来たんだぜー? それにハンデスを仕込んでたって事は、急に振られたレースでも勝ちに行く気気マンマンだったんじゃん?」


「……まあ、な。でもそこまでだった」


詩葉は反省するように言う。


「もう一押し、がいつも足りなかった。いつも事前の準備だけで満足してすらいた。心のどこかで……予定調和の敗北を想定してた。それじゃダメだったんだ」


ハングリーさが足りなかった、というだけの話。


そもそも詩葉はかつて、自身を下した千里に五連勝した経験もある。本来の実力はそう低くは無いはずだったのだ。


いつしか染み付いた負け犬根性。


それを振り払うきっかけを、ずっと求めてた気がする。


「……ちょっと、外野抜きで何をはなしこんでるワケ?」


と、ぞろぞろと仲間たちがやってくる。


思えば、ここまで長い道のりだった気もする。


妹のために立ち上がり、かつての絆を取り戻しながらも、自身はどうにも擦りむいて擦り切れてばかりの日々。


だが、自虐趣味もここまでだ。


「ああ悪いな。改めて、折り入って頼みがーーーー」






「おやおやまぁ。敵の目の前でなんともお気楽なことですね?」






「「「「!?」」」」


「……やはり来たか」


全員が驚き焦る中、詩葉だけが冷静に対応した。


詩葉が最後に使った 《死骨の愛で手シイカ》。


そのビジョンが消えずに残っていたのだ。


そこに居るのは紛れもないAi‐tuba……マリスの秘書シイカだ。


「なんで……アンタがここに居るのよ! ここは元から死の荒野……ほぼ無人のエリアのはずなのに!!」


「『Ai‐tubaは自分のカードを使われた時、そのビジョンとアバターを同化できる』……魔王サマならこれくらいご存知ですよねぇ?」


「くっ……」


そういえばそうだった、と見てる千里も思った。前にマアラが同じ事をやってたし、Ai‐tubaとのレースで彼ら自身のカードと同化するのを何度も見てきた。


しかしそんな事を気にするだけ無駄、と言わんばかりに馬鹿にした態度で。


「ま、そもそもこの世界は端から端まで社長の管理下ですし。先日ラバーズサイバーでせこせこ励んでいたのもオミトオシですのであしからず。

……ハイそこジューダス構えない。今わたしは分身経由で話しているのでステアリングキーは持ってきてませんよぉー?」


「チィっ!!」


悔しがりながらも、一応はとジューダス(巨影狩りの宝刀装備)の弾丸でズガンと一発打ち込んでみた千里だが……やはりキーは飛び出さない。




WIN ジューダスPOW9000+7000vs15000DEFシイカ pain!!

=16000



まあ当人へのダメージは通る訳だが。


「ーーーーがぼぼぼぼぼぼ!? 熱い痛い熱い痛いやめげびっ!!!?」


「あー、ヤベぇアバターに直接当てちゃダメなんだったわ今治す」


「ふ、不要ですッ!! 出て下さい新たな 《シイカ》ッ!!」


怒りを吐血ごと吐いた彼女は、新たな分身を作り出すとそのまま消えてしまう。


そして分身の方が膝から崩れ落ちる。そちらにログインしたのだ。


「ひっひっふー……いや痛いですってこれこんな苦痛を平気な顔で受けてたんですか頭おかしいでしょチエカ。本当にシイカシステムが持つんですか……」


「なんつーか。チエカって本当にスゲー奴だったんだなって」


「黙ってくれますか銃殺犯。……はっ。こんな野蛮な少年が核のコミュニティでは、後の大戦の結果が知れるというものですねぇ?」


骨の杖を取り出し、ぜえぜぇと肩で息をしながらも罵りは忘れない。


「まあアレです……ハァ……どうせ状況は詰んでるんですし? あなたがたは常に手のひらの上……ハァ……諦めるならお早めに。では」


言うだけ言ってパチンと指を鳴らし、帰還用とおぼしき魔法陣を展開する。


『お前たちは手のひらの上だ』とだけ言いに来たのか、それとも痛みのフィードバックが辛くて予定を切りあげたのかは知らないが、ともかくとっとと帰還しようとする。


「まあ待て。そんなに急いでどこへ行く」


それを呼び止める声があった。


詩葉が、むき出しの因縁を捉えるべく動いたのだ。


「……なんですかぁー?」


「こちらからもひとつ、言っておくべき事があってな」


コキリ、コキリと首を鳴らし、睨みを効かせる。


これは自分の役割だと直感した。


「さっきのレースで改めてわかった。スカーレットローズの爆発力は凄まじいが、その分コンボを崩されると一瞬で瓦解する。

だからお前が天敵なんだ。手札をまとめて消し飛ばしてくる【マギアサークリット】を仕切るお前がな」


くすり、と笑みを浮かべる。


今さら、運営サイドの彼女がその程度の事をわかっていない訳がない。


それでも、無敵のデッキなどありはしない。


そんなデッキなど誰も許さない。


「だが、捨て札利用に尖った【ヘルディメンション】ならそうはならない。どんなに手札を減らされても、捨て札を第二の手札として活用できる」


「だからなんです? 今さらそんなわかりきった前提を確認して何を?」


「つまりだ」


そうして、手袋を投げつけるように。


宣言する。






「お前の相手は、この【ヘルディメンション】使いの丁場詩葉が受け持つ……そう言っているんだ」






「……ぷ」


堪えられない、といった感じで笑みを吹き出す。


「くすすす……な、なに言ってくれてるんですかぁ。同じ領域を操るユリカにも勝てない癖に」


「それでもやるのさ。オレ達の動きさえお見通しのお前に、身内のユリカのメタが張れないわけが無い」


見知った相手のクセを見抜かれる戦いは不利、という話。


全てを見通す女には、()()()()()()()()こそが相応しい。


「わざわざ不安要素に乗るとでも?」


「乗せてみせるさ、何がなんでもな」


拳を握り、一歩前へ踏み込む。


自分史上最大の試練に挑むように。


「状況をコントロールして、味方が有利に戦えるようにするのがオレの仕事だ。だからお前には絶対に負けない。仕えるばかりのお前になんかにはな」


「語るだけならご自由に。……ではまた、最終決戦の日に会いましょう」


「首を洗って来い」


「そちらこそ……ア・デュー♪」


そして、ぴちゅんとビジョンが消えた。


罵りだけが目的なら阻止できていないし、他の目的があったとしてもそれを止めたのは千里だ。


詩葉はまだ何も成せていない。


それでも、挑む事はできる。


「ユリカ、居るな? 稽古を頼む」


目覚めた闘志が試練を望む。


「もう二度と、負けて当然なんて思われないように、そしてオレ自身が思わないように! 確固たる強さを掴めるくらいの試練をくれ!!」


「……言われなくても。嫌だと言ってもやめてあげないんだから」


覚悟を決めた。


奇跡へ向かう流れが、確かに動き出していた。









そして、更に数日の後。


限界間近の電子の霊界。


荒れ果てた【シュガーマウンテン】……始まりの街から新たな奇跡が始まろうとしていた。

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