懐かしき姿映す再戦。千里vsマアラ後編・B
「カードドロー!!」
菓子の並木をふたりが行く。
亜高速のバトルもいよいよ終盤。
マアラが握るカードも熱を持つ。
「僕は 《クッキー・ボードソルジャー》を呼び、続いて《クッキー・ボードアヴェンジャー》を呼びます」
クッキーが溢れ出る。
細かな兵士が寄り集まり、やがて巨人の姿を形取る。
《クッキー・ボードソルジャー》✝
ギア1マシン シュガーマウンテン POW2000 DEF2000
【登場時】センターに置かれたカード一枚のギアと同じ枚数になるように、このカードを増殖させる。その後好きなゾーンへ好きな数配置する。
《クッキー・ボードアヴェンジャー》✝
ギア2マシン シュガーマウンテン POW5000 DEF5000
【登場時/自分のマシンカードを好きなだけ疲労】自分ターン終了までこのカードの攻守を、コストの枚数で倍化する。
【このマシンのステータスを半分に】このマシンと同名、同一ステータスのマシンを作成して空いているマシンゾーンに置く。
予定調和の進化形態。
この二枚は、同時に使う事前提でデザインされていた。
「僕はボードソルジャーを五枚に増やし全てアシストゾーンへ。そしてフィアーリジェクションの下に置かれた三枚と合わせて八枚! ボードアヴェンジャーの効果で疲労させる!! よって攻撃力は…………」
ボードアヴェンジャー攻守……………5000×8=40000!!
「ちょ……攻撃力四万だと……!?」
「暴虐、天を穿つ。半端な防御は通じないと知れ! さあウイニングランです! クッキー・ボードアヴェンジャーでゴールだッ!!!」
「チ……させるかよ!! 手札から 《総勢・進路妨害》を発動!!」
「!?」
千里の乗る人面レッカー車が、運転手を置いて前に出る。
無論、マアラの進路を妨害するためだ。
《総勢・進路妨害》✝
ギア3アシスト スカーレットローズ
【ターン終了まで】自分のセンターに置かれたマシンは【進路妨害】を得る。ただし、戦闘破壊不可能なマシンが露出した時点でこの効果は消滅する。
「小癪な……時間稼ぎのつもりですか!」
「そうじゃないのはわかってるよな?」
千里が目を細める
「俺の場には 《リサイクルブースト》がある。コイツのおかげで、俺はマシンが破壊される度に1走行できる」
「あなたが妨害に使えるのは二台、あなたの残り走行距離は3……これは一体?」
「つまりはチキンレースだ。俺に残り一キロを詰める手が無いと信じるならかかってこい。だが信じきれないなら……」
挑発するように。
自身を運ぶブースターにまたがり、意地の悪い笑みを浮かべて手ぶりで示す。
やれるもんならやってみな、と。
「そのまま突っ立ってターンを終えるこったな。さあ二者択一だ、どうするマアラ!?」
「……、」
マアラは思考する。
(……誰がやれるものか)
千里の手札の三枚は、当然のマニュアライズで加えた最下級だ。
大した手が打てるわけないし、このままターンを明け渡す義理も無い。
なによりマアラには 《絶望ーフィアーリジェクションー》の効果も味方してくれる。
このターンで決める。
決める!!
「やってやりましょう。クッキー・ボードアヴェンジャーで、あなたのアクティブ・ピットマンを攻撃!」
WIN アヴェンPOW45000vs5000DEFピットマン LOSE
勝敗は圧倒的。
菓子の拳が、現実を無視して鋼のマシンを粉砕した。
「チ……この瞬間リサイクルブーストの効果発動。ピットマンはアシスト化し、俺は一キロ走行!」
千里残り走行距離……3→2
「まだまだ! ボードアヴェンジャーの効果、ステータスを半分にすることで二体に分離します!!」
ボードアヴェンジャー攻守……40000→20000
半分でもなお二万。
圧倒的な暴力の拳が千里のマシンを襲う。
「さあ受けてください! クッキー・ボードアヴェンジャーであなたのクリスタルハイヤーを攻撃!」
WIN アヴェンPOW20000vs6000DEFハイヤー LOSE
千里残り走行距離……ブーストにより2→1
砕かれて砕かれて、とうとうギア1の 《コズミック・エッグ》だけが残る。
センターには常に一台以上のマシンが存在する必要がある。よってコズミックエッグは破壊されず、破壊不能のマシンが露出したことで 《総勢・進路妨害》の効果も消えた。
もう千里を守るカードは一枚も置かれていない。
「オマエももう攻撃できるマシンは無い……が『切り札』がまだ残ってるか」
「もちろん。ここでフィアーリジェクションの効果」そして詰めの絶望がやってくる。「自分のターンごとに一度、山札からマシン一枚を呼び起こす。自身のHP以下のステータスしか許されませんが、合計26000以下なら『彼女』が呼べる!」
山札を探査し、然るべきマシンを呼び起こす。
「では懐かしの再会です! 現れよ 《ショコラクイーン・エレナ》!」
厄災の渦から、ガラス細工のような飴の馬車が飛び出す。
率いるのは、チョコ色の若き女王だ。
《ショコラクイーン・エレナ》✝Chocolat_queen_
Helena…
ギア4マシン シュガーマウンテン POW10000 DEF15000
【進路妨害】
【常時】このマシンはコントローラーのカード効果では破壊されない。
【一ターンに一度/センターの下のマシンを疲労】このカードはターン終了まで、コストとなったマシンの効果を得る。
「ハハハ……クソッタレめ、本当に懐かしいのが出てきたな」
素直に懐かしむのは千里だ。
「そうだ。あの日、オマエに若葉の試練を受けた時……俺はコイツに気を取られてポッポを踏んずけかけたんだ」
「今日のはもっとエグいですよ? なんせ彼女には僕の効果を注ぎ込めるんですからね」
恐怖の連携が可能となる。
クイーンが走行後、更に下になったマアラの効果をコピーさせることでその効果を使えるのだ。
当然、走行の弾丸さえ…………
「そ、そんなのアリかよオイ……」
「ハッ! どんな手を抱えているかは知りませんが、さすがにもう二回の走行を阻止は出来ないでしょう。これで終わりです!
ウイニングラン!! ショコラクイーンエレナでゴールですッッッ!!」
轟!! とショコラクイーンが加速する。
もうマアラは勝っているつもりだった。
飴細工にまたがり、前に出た千里の後を追いかけ…………
ガツリ、と。
不意に、チョコの姫の首が吹き飛んだ。
「…………ええ……?」
「ホント、何から何まで懐かしーぜ。 手札から《絶影・スナイプシュリーカー》を発動。捨て札から 《ブラック・グリズリー》を呼び出しバトルする」
首を撥ねたのは鋼鉄のプレートパーツ。
それを投擲したのは、懐かしの黒い高級車。
熊の機構を組み込んだその威容は、今なお色あせることを知らない。
《絶影・スナイプシュリーカー!!》✝
ギア1アシスト ステアリング
◆【相手マシンの攻撃宣言時】センターと同じギアを持つマシンを捨て札から呼び出す。その後、使用条件となったマシンに攻撃を行う。この処理が終わるまで対象のPOWは+3000され、他のカードの効果を受けない。
《ブラック・グリズリー》✝
ギア4マシン スカーレットローズ POW16000 DEF10000
+3000
+3000=22000
WIN グリズリーPOW22000vs15000DEFクイーン LOSE
役割を果たす前に、不意打ちで崩れ落ちるショコラクイーン。
車体から振り落とされ、あちこちを擦りむき、呆然と立ち尽くすのはマアラだ。
「そんな……なんで。ブラック・グリズリーなんて、今まで影も形もなかったのに」
「 《死炎印》の手札コストだ」千里が説明してやる。「虫の知らせか。チエカが抜けた穴をコイツで埋めたんだ。……結局、あの頃と同じ。またグリズリーがショコラを捕食したんだ」
「ははは。なるほど……やられました。これで僕はターンエンドです」
もうマアラ自ら打てる手はなかった。
切り札を取り戻した千里の勝ちは揺るがないようにも見える。
だが。
それでも、戦局はまだわからない。
「……俺のターン、ドロー」
これが最後のターン。
マアラの場に残る壁は、厄災を使い果たした出涸らしの障壁くらい。
と見せかけて。
(忘れるかよ、ばーか)
もう一枚、攻略する必要がある。
さあ、どう仕上げるか。