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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode 10 色彩なき覚悟。千里vs???
134/190

チエカの淡き自意識。崩壊するセカイ、戦士達の決起!!

『警告します。きょうこの時より、後の最終イベント 《群衆事変(スタンピード)》終了までこの世界の全てが戦場となります。繰り返しますーーーー』







平坦な声で告げるのは、シュガーマウンテンの統括者たる白い少年、マアラだ。




『本日より、ボクを含む徘徊型イベントシンボルが各地に出現します。もちろん他エリアのもの同様、接触次第即レースに移行しますのでーーーー』




少し離れた所で告げられる宣告に戦慄しつつ、最も情報を持っているであろう者に問う。


が。


「おいアニキ、これは一体……」


と見やった時点で不覚に気がついた。


もう居ない。


これ以上の語らいは不要とばかりに、大量のチエカを残して去ってしまった。


「にゃロウ……逃げやがったか!?」


「おやおや、まるで追い込み漁ですねぇ」


「!? チエカ……これがなにかわかるのか?」


「ええまあ。人は今ある場所が窮地となれば新たな天地を求めますからねぇ。

最終イベント終了後、ちゃーんとリブート版のエリアに移ってもらうために、古い居場所を焼き打つようです」


「……ッ」


わかりきっていた事だが、マリスの真意が改めて染みる。


他のプレイヤー達にも激震が走っていた。


『ーーちくしょう、さすがに予告無しでこれはやばくないか!?』


『いやこれでも予告程度なんだ、噂じゃ本番はもっとヤバい……ぐはぁ!?』


ーーーーマリスに、借夏との約束を守る意思はこれっぽっちもない。


用があったのはあくまでもチエカのカラクリとキャラクター性。その解析さえ終わればプロトタイプの世界に用はない。


そもそも現行のスタンピードは様々な場所から人材を寄せ集めて作った不完全なもの。初めから『破るべき殻』として設定されていた。


マリスは積もった思い出ごと燃えるゴミとして焼き尽くし、燃えカスを借夏に渡して『約束は守った』と言い張る気だ。


この事実を借夏が知らないはずはないのだが…………


「くっそ、いい所で逃げやがってアニキってばよー!!」


「アレで引き際は弁えてるっぽいですからねーアノ人。今度は何を考えてるやら」


「……よく言うぜ。どーせ脳みそ繋がってたりするくせに」


「アーアーナンノコトヤラー」


わざとらしくすっとぼけるのは、ステアリングキーを下げたオリジナルチエカだ。


彼女自身の意思はあれど、その大筋は借夏と同意見のはずだが。


ここまで来ても相変わらず真意が知れないその立ち振る舞いには辟易するしかない。


「全くよォ……チエカ…………お前はどっちの味方なんだ?」


「……そりゃあもちろん百億パーセントアナタの味方……と言い切りたい所なんですけどね?」


ちょっぴり寂しげに、申し訳なさげにチエカは言う。


「いつでも味方になれるワケじゃーありません。マリスのイベントの時みたく、出て来れない時もあるかも……。

今空を舞ってる美人秘書サンに本気で警戒されるぐらい、この先の戦い、ちょっとばかりワタシは便()()()()()()


「シイカか……やっぱあの時のオマエは出たくても出て来れなかったのな」


マリスとのファーストコンタクトの際、彼女は戦場から消えていた。おそらく同時に消えていたシイカが小細工をしてたのだろう。


「それに、最終決戦で戦うってのにずっと一緒に居たら興ざめです」


骸骨に跨る無数のシャーマンを眺めながら語る。


その意味はもう千里も気が付いている。


ここが踏ん張り所だと。


「だからこの先は、アナタ自身の力でこっちまで来てください。大丈夫、ここまで来たアナタなら、きっとこの先も乗り越えて行けますよ☆ だから……」


「へ?」


気づかないうちに距離を詰められた。


そして不意に……ほっぺたに、柔らかいものが当たる感覚。





【WARNING!! あなたはステータス異常 《別れの口付け(チエカ)》を受けてしまいました。今後御旗チエカまたはチエカ・ブロンズコーデを撃破するまで 《勝利の導き手チエカ》並び 《最速疾駆チエカ・ブロンズコーデ》は使用できません】





ちょっと待てシステムウインドウの表記が露骨過ぎないかぶん殴るぞ担当。(千里談)


「ちょっ……今のッ……!!」


「いわゆる背水の陣ってヤツですよー。頼れるって思っていざと言う時に頼れないよりはマシでしょう?」


「そういうハナシじゃねーよナニ今の!? ひょっとしてまさか、キ、キキキキキキ」


「おやおや、おねーちゃんの唇では不満ですか?」


「お、おねーちゃんって!?色々そういう問題でもねーだろバカ!! もうちょっと雰囲気を……いやじゃなくて!! なんて言うかその!!」


「ショージキ、ワタシもちょっと困惑してまして」


えへへと照れくさく微笑む彼女からは、借夏のような陰鬱な要素は見受けられない。


肉体を脱ぎ捨て、電子の怪物となることで吹っ切れた気安さがあった。


「たしかに、アナタの兄、借夏とワタシの記憶はだいたいを共有してます。

ですがそこから得られる感情までもが共通とは限りません。彼は純粋に『弟』を溺愛しているようですが……ワタシはなんかその、ドキドキしてしまいまして」


その心は、もはや誰のコピーとも呼べない。


「その感情を借夏サンに相談したらこう言われたんです。『無理に僕と同じ感情にとか、姉や妹になりきろうとしなくていい』って。『君は君だ、思うままを生きればいいって』って」


世界で唯一無二の群体。


万物を愛する、御旗チエカという概念の


「だから、迷ったんですけど、やっぱり宣言しときますね」


宣言する。





「ワタシは最初の最初から!! アナタのことが大、大、だーーーーーーーーい好きな味方ですっ!!」





「………………………………………………………………………………ぐはっ。オマエってばもう…………」


ふらり、まっすぐすぎる告白に打ちのめされてしまう。


言った本人も、思いっきり自打球で火傷しているようで。


「あ、あはは……離れていても、たとえレースで対面することになっても……それだけはワタシの真実です。忘れないでくださいね……?」


「ああわかったよぉ!! わかったからさっさと他の人の避難でもさせとけ!!」


「はいなー♪」


それを最後にチエカの群れは消失。


耳どころか全身から火を噴きかねない千里へ、入れ替わるように通信が入る。


『……まったく。羨ましい限りよのぉ千里よ』


「或葉か。そらどーも……無事だったか?」


『うむ。量産されたチエカ殿らのおかげで全員脱出できた。まだ良襖はゴネているようであるが……』


「ま、これだけ好きホーダイやられたらなぁ」


辺りを見回す。


マアラの掃射以前から、飛来しら量産型のシイカが骸骨の爆撃を繰り返していたようだ。


平和だった始まりの街の面影はもうどこにもない。街並みは粉々に砕け、あちこちから焦がしすぎた砂糖の匂いがした。


血の代わりにクッキーの大地に広がるのは、火災の高温で泥と化したチョコレートだ。極彩色の飴も溶け、糖の海に多くが沈むのも時間の問題だろう。


そこらじゅうに、無数の破棄されたらしいアバターが転がっていた。


「チエカはこれを追い込み漁だと言っていた。マアラはこれが二週間弱先の最終イベントまで続くと言っていた。

こんな襲撃にそんな長い間耐えられると思うか? 手心ゼロ、マリスはガチでこの世界をぶっ壊す気だ」


「だったらどうする?」


「こっちから行く」


ゴールは見えた。


ここからは早い。


「そもそも最終イベントは、七つの試練を突破した者が挑戦できるもののはずだ。

だったら攻略を進めて行けば、連中もキャップ解放日時を早めざるを得ないはずだ」


『ふむ。であれば、拙者も行こう』


「?」


一瞬だけ意図が不明だったがすぐ理解した。戦列に加わる気だ。


『拙者にも攻略する時間はあった。既に試練も半分はクリアしておる』


「大丈夫かよそれ? 傍楽のやつが邪魔しに来ないか?」


『その時はその時。拙者の鞘走りを止めてくれるのなら歓迎すらしよう』


「そーさな。んじゃその他細かい話は…………」


そして千里は、背後の気配を感じ取りーーーー







「つっかまーえた」






「ーーーーコイツをぶっ潰してから、ゆっくり話そーぜ」


白い少年との接触。


それは、最初の敵との再戦を意味していた。

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