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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode 10 色彩なき覚悟。千里vs???
133/190

まさかの襲撃。vsマアラ勃発!!

あいも変わらずのカフェテラス。


最初は気にも止めてなかった客たちも、何か様子がおかしいと気が付き始めた中で対談は続く。


「このゲームが終わる、なぁ……」


「ほう? あいも変わらず、理解した後はいやに冷静だな?」


「まーな。よくあることでもあるし……それに、言い回しを聞けば『全てが終わる』ってわけでも無さそうだ」


第一部完、に例えられた世界の行方。


その真祖に行きつくのは簡単だ。


「つまり最起動(リブート)。元になるものから邪魔なものをとっぱらい、新しく産まれ直すってことだろ」


「邪魔なものを……?」


そのワードに、誰より敏感に反応したのは良襖だ。


「ちょ……ちょっと待って!? そうなったらあたし達みたく元々ゲームに関わっていたスタッフはどうなるの!」


「そりゃあ大部分は切り捨てられるだろう……君もAi‐tubrも。もちろん僕も……ひょっとしたらチエカもかもね」


「ッ!?」


「当然俺も切り捨てられるってわけだ」


「ま、元から君は依願退職寸前だったから関係ないか」


傍楽があっさり流す端で、誰よりも幻想を愛する或葉は震える。


「そんな、チエカ殿まで……? 彼女はこのゲームの根管であろう?」


「ああ。だがチエカシステムの解析は終わってるようだ。……ごらん」


「なにを…………!?」


示された先にあったのは……お菓子の街を背景に舞う……


()()()()()()()。どうやら、僕の奇跡の再現に成功したらしい」


「嘘だろ……?」


無尽強襲。シュガーマウンテンの街角を行くは、巨大な骸骨に座す 《死骨の愛で手シイカ》の群れだ。


一体一体が紛れもない『本物』の挙動。それでいて、量産されたチエカ同様ステアリングキーが外れている。


魂の複製。


禁忌にすら見える技術は確かに確立された。


「元から、このゲームは電子的な『霊体』をいっぱい作ることで、プレイヤーの魂を文字通りの意味で引き寄せていた。

墓場や葬儀場で、魂が道ずれを求めるようにね……だから新たなコピー元になれる可能性は誰にでもあった」


このゲームの全てが明かされた事で、それを奪われる事の重大さが身にしみた。


ーーーーこんな技術を、一介のゲームに縛り付けて置けるのか?


「だが悲観することは無い」借夏は他人事のように冷静だった。「切り捨てられた部分の著作権は、僕にもタダで使える契約だ。

これをロースペック版に移植し、手頃なパソコンにもサーバー役が務まるようにする。

それで今度こそ、誰にも邪魔されない千里の居場所を作ることができる…………」


一気にまくしたてたが、つまりこういうことか。


現行の『スタンピード』は脱皮前のサナギのようなものだという。


タギー社の長、マリスはそこから不純物を取り払い、必要なものだけを厳選して『スタンピード・リブート』とでも呼ぶべきものを作るつもりのようだ。


そうして取り残された要素の著作権は事実上借夏に移され、大部分がリブートに流れていく中で、千里達少数のメンバーが集い旧スタンピードを楽しむ………?


「そんなのッ……ただの抜け殻じゃねーか……!」


「抜け殻で結構」


もはや冷徹でさえあった。


「本来、こんな大がかりなことになる予定じゃあなかった。だがマリスは派手好きでね。

色んな人間を巻き込んで、その『軋み』を利用してこのゲームをより高めようって考えたのさ」


もうそこで、なんとなくわかった。


先駆借夏は、自分の意思で動ける程の立ち位置に居ない。


借夏とマリスの間には、あまりにも深い社会的地位の差があった。あるいは、それこそが歪んだ状況の原因か。


「アニキの口車に乗るなよ」千里が話をまとめにかかる。「どうせアレもマリスの仕込みだ。全員を救うみたいな事を言いながら、やってることは支離滅裂なんだ」


同様する級友に目をやりつつ、改めて自身の兄を睨める。


「それとなアニキ。そんなくだらねー契約はもう忘れていーぞ」


「何故?」


「決まってる。俺がこの居場所を、スタンピードの世界を守り抜くからだ! せっかくできた俺たちの遊び場、身勝手を通り越したテロリズム野郎にくれてやるこたねーだろ?」


視線を受け、バツが悪そうに差し出していた手を引っ込める仲間たち。


「そうね……さっきのは撤回するわ。結局のところ、あたしを焚きつける『だけ』にチエカを使う相手と手は繋げないわ……べ〜だ」


「たしかに、手放しで理解を示せる相手でも無さそうにござるの」


一人、また一人と手を引いていく中。


まだ手を動かさずに硬直する者が居た。


「……傍楽?」


「念の為、こいつを渡しておく」


へ? と驚くまもなく唐突に渡されたのは、この世界の鍵の一つ。





《超越・エボルアルジャーノン》✝

ギア1アシスト ステアリング

【このカードはゲーム中一度しか使用出来ない】

【センターに置かれたカード一枚を選択】対象のカードを手札に戻す。この効果でカードを手札に戻したプレイヤーは、自分の手札から同じギアまたは一つ上のギアを持つマシンカード一枚を場に出す事ができる。この効果は 《化学の担い手アルジ》の効果としても扱う。




「ちょ……!?」


受け取ったカードに驚愕する。なぜって……


「これ、お前の必殺技じゃぁ……試練をクリアしないと手に入らないやつじゃあ……」


「良いんだ。どうせ俺はステアリングキーを取られて自力で 《試練》を与えられない。

……ま、俺の試練はマリス主催の元、別のやつに受けてもらうことになるだろーさ……なあ?」


楽しげに或葉の方を見やると、或葉が気まずげに目線をそらす。


むき出しの宿命を見据えつつ、千里にアドバイスを送る。


「いいか。『目的があるという事はなによりも楽しい』……千里。この言葉を覚えておけ。

今のは俺の本音なのと同時に、この世界の真理だと俺は信じている。後のち役に立つ言葉のはずだ」


言うだけ言って、突如あらぬ方向を見やり。






「そうだよな、指示待ち世代の綿毛君よ?」






一瞬わけがわからなかった。


だが彼が警戒の達人(ビビリクン)であること、この状況で事前に知らせた戦力だけで来るわけが無いという推測から結論を出す。


(新手……!?)


そうして至った考えをなぞるように、


『あーあ、バレちゃいましたか』


と聞き覚えのある幼気な言葉が響いた。


なにをするかはわかっていた。


「や、べぇ!! みんな伏せーーーー」


言葉は間に合わなかった。


間に合わせる義理は相手になかった。




ーーーーZUGARAGASYAVOGAGIGURAGASYASYASYASYAAAAAAAAAAAAA!!!!




『ぎゃああああ!? なんだ徘徊型イベントでも出てきたかあー!?』


『嘘でしょ!? 始まり街担当のこのエリアにそんなのーーーーきゃああああ!?』


掃射の雨が降り注ぐ。


阿鼻叫喚の光景の中、傍楽に貰った 《アルジャーノン》を手放さずにいられたのは事前の気付きがあってこそだ。


ジューダスのそれではない、しかし見覚えのある弾丸に千里は震え上がった。


弾丸を扱う手合いなど、自分を除けば一人しか知らない。


「……くそったれ。なんで今更、アイツが出張って気やがるんだ……?」


硝煙の向こう、見知った人影がゆっくりとあゆみ寄ってきた。


その姿は。


()()()()


()()()()()()()()()


千里が、最初の最初の最初に倒したはずの相手が、ここに来て『恐るべき敵』として立ちはだかろうとしていた。

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