四者対面。心を束ね、チエカの正体に挑め。
そして、時間が流れての放課後。
千里が利用する拠点、ユリカの喫茶店までやってきたのだが……。
「待っていたわ」
「よっ。また会ったな」
「………………………………………………………………………………………ちょっと待てコラ」
なぜか来るはずのない二人が待っていた。
「オマエらなぁ……なんでここに来たよ特に傍楽ァ!!」
頭を抱える状況だった。
記憶が欠けているだけの魔王サマこと良襖と、現在絶賛敵対中のAi‐tubaこと傍楽がその入口に立っていたのだ。
気安く語り出すのは、かんらかんらと嗤う傍楽からだ。
「いやな? あいにくと、オマエらの監視をするようにって言われてたもんでな。それに言ったろ? 或葉が戦場に出るなら俺も出張るって」
「うぐ…………そりゃあ立場的にはそうするんだろーけどなぁ……」
「わたしも」良襖も口を挟む。「わたしをずっとだまくらかしてた相手が誰なのか知りたいものねぇ」
「あのなぁ……」
くらりと来るほどハードモード。敵だらけな状況の激流に身を任せてどうかしそうになるが、
「よいでは無いか」
そこを或葉が押しとどめる。
「ちょっ……良いのかよ或葉?」
「彼らにも、立場や事情があるであろう。それにどうせマリスは元からチエカの正体を知っているのであろう?」
「……ああ。マリスはチエカの本体と直接交渉したと言っていた」
「であれば拒む理由もあるまい」
ふっと笑って言ってのける。
彼女本来の、柔和な面が戻って来ていた。
「それにせっかくの真相。皆で向かわねば損と言うものであろう。……こうして、久しぶりに四人が揃ったことであるしの」
「あ……」
確かに、彼ら四人が全員揃うのは久しぶりかもしれない。
時間としては僅かでも、間に起きた出来事はあまりにも多く……。
「あの合宿以来か」
「うむ。思えばあれから遠くまで来たものよのぉ」
「え、合宿? なんの話?」
「ああそれはお前の作戦でムギュブル!?」
「余計な情報はいらねーんだっての空気読め」
歩き続けた道筋は、彼らに様々なものを残した。
決して、良いものだけではなかったけれども。
「あれからさ。『強く』はなったよな、俺たち。特に心は……きっと同じくらいのみんなとは比べ物にならないくらい……」
「であろうの。あれほどの試練はそうそうあるまい」
「そりゃあ、気に入ってくれてドーモ。……お前の厳しさもガッツリ響いたよ」
「…………、色々あったのね、みんなも……わたしにも……」
「ああ」
この中で一人だけ、良襖は思い出を共有していない。
敵の首領、マリスに思い出を奪われたからだ。
「だから取り戻す」改めて千里は宣言する。「俺はマリスを倒す。そしてスタンピードの舵と一緒に、良襖の思い出を取り戻す! そのためにも、俺は今からスタンピードの真実を知りに行く。……だから、マリスをぶっ倒す時に邪魔をする奴は連れていけない」
良襖はまあいい。問題は傍楽だ。
「うげ……睨むなよ」
「たったひとつだけ答えてくれよ。オマエが或葉を止めるのは、人殺しを起こさないためなんだよな? マリスに肩入れして、その野望を守ろうってんじゃないよな?」
「違ぇよ」否定は即座に返ってきた。「俺ももうAi‐tubaは辞めるつもりでいる。『恵まれ過ぎた』。どう考えても過剰に、恵まれすぎて、自分がなんのために行動したらいいかわからなくなっちまってた」
カツン、と一歩を喫茶店へ向ける。
そして。
「それを自覚できたのはお前のおかげだ。だからマリスはもう要らん。これから先の戦い……必要とあらば俺もマリスの軍勢に立ち向かうさ」
拳を触れ合わせ、共闘の意思を示す。
千里も言葉は不要とばかりにグーサインを出し、彼は拠点へと向かっていった。
「戦いね。なら、かつてのわたしからの餞別を渡さなくっちゃ」
「センベツ?」
言って、千里の方へ近づくのは良襖。
「あの後ストレージを漁ってたら出てきたのよね……フェルドスパー・ロード。かつてのわたしが作った最強の切り札よ」
言って、スマートフォンの画面を見せてくる。
《フェルドスパー・ロード》✝
ギア5マシン ステアリング POW 0 DEF 0
【場のカードを、合わせて10枚になるようにセンターに設置】このカードをセンターに呼び出す。こうして場に出たなら、このカードは場を離れない。【マルチギア】
【常時】XXXXXXXXXXXXXXX。
【1ターンに一度、数字をひとつ宣言する】XXXXXXXXXXXXXXXXXX。
【このマシンがセンターにある】自分の場のマシンカードを、このマシンの下に重ねても良い。
「…………ナニコレ、どんな化け物?」
「新しい切り札よ、多分」おぞましいテキストにも怯まず続ける。「このカードは、もうすぐ発売される第三弾カードパックの看板を務める……わたしの最高傑作、らしいわ」
「へぇ……」
どこか夕日を思い浮かべるような赤い輝きは、いつかどこかで見た景色。
「似ておらんか、あの日の夕日に」
「ああ。きっとあの日に作ったんだ」
思い出すのは、ユリカが繰り出した『かぐや姫の難題』。リアルの旅を強要する無茶ぶりだったが、その果てに彼らも素晴らしい経験値を得た。
「素敵な思い出だったのね、きっと」
「ああ。すぐに思い出させてやんよ」
「ありがと。楽しみに待ってるわ……じゃあ、先に行っておこうかな」
また一人、拠点の中へと向かう。
それを見届けて。
「…………そんじゃ、俺たちも行こーぜ」
「うむ」
千里と或葉も、足を踏み込む。
目指すは、ログイン用の防音ネットブース。
そこに、彼らが目指す『御旗チエカの正体』が待っているはずだ。
「おい、開け、開けってんだよ!」
「……なーにやってんだか」
奥まで辿り着いた千里が見たのは、鍵がかかった扉の前で悪戦苦闘する傍楽と良襖の姿だ。
「ああ千里か! 聞いてくれよ中から鍵をかけられてるんだ! ちっくしょここまで来て往生際が悪いぞこの『正体』!!」
「あーっと……鍵んとこに溝あるでしょ。底に一円突っ込んで……」
「駄目だ良襖。ガッチリ固定されて動かない。中から開かないと……ん、なんだこの音……」
ーーーーーーーーUUUUUURAAAAAAAAAAA!!
「ひいいいいいいいやあああああああ!? なんだよ今の声!? 化け物か!? ヤツの正体は化け物だったのか!?」
「んなわけねーだろ……きっとホラービデオかなんかを再生したんだよ」
そういえばめっちゃビビりだったよなコイツと思いながら、千里は前に出る。
「まあ、往生際が悪いっってのは同意だ。だけど諦めさせる方法はある」
「方法?」
「チエカの正体を当てればいい。……多分中に居るヤツも、そうして欲しいんだろうし……なあ、誰かさんよ?」
その問いかけに、不気味な音声がピタリと止まった。
千里の声を聞く準備だ。
「……ほんとに当てられるのかの?」
「心配ねぇさ或葉。必要なカギは全部揃ってる」
向き合うは、重く硬い鉄扉。
頑丈なそれは中に待つナニモノカの、心の壁のようにも見えた。
コキリと首を鳴らし、息を吸い、少し吐き……改めて見据え声を放つ。
「覚悟決めろよ誰かさんよ。今からアンタの神秘をひっぺがす」
宣言は届いた。
先駆千里による、最後の最後の最後の謎解きが始まる。