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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode 10 色彩なき覚悟。千里vs???
125/190

最後のリスタート。近くて遠い四人のお話。

そもそも、この物語は一人の少年の居場所探しから始まった。






カードショップという遊び場を失った先駆千里は、兄の借夏の手引きで電子の居場所 《カードレース・スタンピード》に足を踏み入れる。


ゲームのマスコットキャラにしてナビゲーター・御旗チエカとの戦いの後、このゲームに潜む陰謀の影を察知する。




その後丁場或葉と詩葉、彼女ら姉妹との出会いを経て、彼はこのゲームの深部に迫って行く事となる。尖りに尖った敵、Ai‐tubaらとの戦いの中、彼らの正体が自身の回りの人物だということに気が付き始める。


同年代のマアラ、喫茶店の経営者ユリカ、級友の母たるルイズらとの戦いの中、彼らと徐々に戦場の絆を深めていく。




そしてスタンピードにおけるグランド・クエスト 《七つの試練》を中頃まで攻略した頃、ゲームマスターが自分の友人、鳥文良襖である事が発覚する。


心が追い詰められていた彼女は暴走し、ゲームに多大な亀裂が入ってしまうが……その暴走は謎の大樹の氾濫によって食い止められる。




その隙をついて満を持して動き出したのは、スタンピードのスポンサーである大企業・タギー社であった。


尖兵として送り込まれた最強のAi‐tuba・ホムラに追い詰められ心が折れかけた千里だったが、チエカの言葉を受け再び立ち上がる力を得る。


そして良襖を止めた大樹の真の姿、ガイルロード・ジューダスを手に立ち向かいホムラを倒す。ジューダスはゲームの理をも侵食する恐るべきキルスイッチだったのだ。


スタンピードがヒトの精神を取り込む危険なゲームだと知った千里は、チエカや仲間たちとともにタギー社との全面戦争に挑む覚悟を決める。




その事を知ったタギー社の首魁・マリスは秘書のシイカとともに対策を講じ、良襖の精神データの片方を保持するとともに、Ai‐tubaにして千里の級友・アルジを利用し千里達の実力を測る。

彼らの目的はこのゲームを乗っ取り、そこに秘められた力を使い人々の魂を掌握することだったようだ。


友との決戦に勝利した後、敗北する前提で部下を送り出し、あまつさえ瀕死の精神体さえ利用するマリスのやり口に千里は激昴。首魁への決闘を挑む。




マリスとの前哨戦に勝利した千里は正式なゲームの決着を求めるが、それを蹴ったマリスは千里らをまとめて封印するためだけのイベント 《星が終わる夜》を発令する。


しかし絶対攻略不可能のはずのそれを打ち破ったのは、皮肉にもゲームマスターの良襖が愛用した切り札 《マスター・フォーミュラ》だった。


千里はフォーミュラとジューダスの力を使い、マリスの両足の神経データを回収する。そしてマリス側は良襖のデータと自身を滅ぼすデータ、千里側はジューダスとマリスの両足のデータを掛けのチップとした『最終決戦』の約束を取り付ける。








そして今。


決着の日まで、あと二週間未満の時に。


明かしておくべき、最後の真相がある。







十二の月。


季節は冬に差し掛かっていた。ぬくもりは消え去り、突き刺すような寒気が押し迫る。


まもなく雪が積もるかといった中、住宅街の一角では世界を暴く作業が進められていた。


「……どうだ?」


「……………、うん。けっこう思い出した」


鳥文宅、リアルでの会話。


精神の半分を失った少女に施したのは、ジューダスの力による精神への治療だ。彼女がログインした後、千里がアバターに向けて治療を行ったのだ。


ジューダスの力は予想以上だった。このゲームの生殺与奪権そのものとさえ言えるほどの力を持っていた。


だが……


「なら、今日が何日かわかるか……?」


「2019年、九月一日……って思ったけど、違うのよね?」


「……ああ。……ちくしょ、俺がはじめてログインした日か」


それでも、記憶は完全には戻らなかった。


千里の道筋の一切合切は欠けたままだし……他にもいろいろ不具合があるようだ。


「ッ……痛ったい……不思議な感じ。他人の記憶を、バラバラにして読んでるみたいな」


「まじか……マリスの事は、覚えてるか?」


「マリス……ああ稲荷鞠守。あの社長なら、何度か会ったはずだけど……あんまりよく、思い出せないかな」


ふらりふらり、頭上をまう星を数えるように記憶を辿って行く少女。


その頭脳には、世界を壊すほどの性能が詰まっているはずだが……やはり完全では無い。全てを解決するには、やはりマリスを撃破し彼女のもう片割れを取り返す必要があるようだ。


と、ふと気がついたように千里へ顔を向ける。


「それはそうと……改めて『久しぶり』って言った方がいいのかしら。千里君」


「おー。俺たちの事はどのくらい覚えてくれたよ?」


「多分……千里君が思っている通り。ちょくちょく遊ぶくらいの、ただのオトモダチ」


「…………そっか」


少し寂しいような、悔しいような気がした。


だって、先駆千里は彼女に勝ってない。


彼女を止めたのは、彼女自身が残した自滅機構(ジューダス)だ。そして彼女の母親かつAi‐tubaのルイズだ。


その上対して見向きもされてなかったとあっては、なんだか心まで負けたような気がして。


(……ったく。なんでこんなこと考えちまうかな。俺はコイツに殺されかけたってのに……付き合いなんてなかった方がよかったのかもしれないのに……)


見た事もない色の感情が、彼をくしゃりと痛めつけた。


赤毛の少女を見つめながら……嗚呼、オマエは本当に非道い奴だ……と、千里は思わずに居られなかった。


「……なによ、へらへらしちゃって」


「え、マジ?」


知らぬ間に綻んでいたらしい頬を正し向き直る。


「あっと……まあ、ひとまずありがとう、かしら? あんまり実感わかないけど……」


「ま、その辺のお礼は全部終わってから『元に戻った』オマエから聞くからいいよ。それより」


「?」


今はお礼よりも欲しい情報があった。


「今のオマエだからこそ答えられるはずの質問をしたい。この先の一連の流れにとって、重要なはずの情報を知りたいんだ」


「……へぇ、どんな?」


息を吸い、息を吐き。


問いかける。


「このゲームのキルスイッチ………… 《ガイルロード・ジューダス》をどうやって作ったか教えてくれ」











時は流れ、登校中。


良襖は学校を休んだ。頭痛が響いたのと、記憶が戻った影響で混乱していたのが理由のようだ。


(確証は得た)


彼女からの情報は、千里の疑念を全て晴らしてくれた。


(これで、あとは放課後に『アイツ』と決着をつけるだけだが……)


「よっ」


「……オマエ」


声に振り返ると、もじゃもじゃ頭の同級生が立っていた。


真実を知ってからだと、その爆発頭は実験に失敗した科学者のデフォルメにも見えた。


「……なに、敵対したばっかで気さくに挨拶してんだよ。どこの星食い宇宙人だテメーは」


「誰が宇宙人だ誰が。……一応、礼を言っておこうって思ってさ」


彼は風間傍楽。つい最近 《科学の担い手アルジ》として千里と激戦を繰り広げたばかりだ。


「礼ってなぁ……俺は容赦なくぶっ倒しただけだっつーの」


「だがおかげで、俺も目が覚めた」


こきりこきりと骨を鳴らす姿は、憑き物が取れたように軽やかだった。


「きっと増長してたんだ。産まれてからずっとずっと。こんな所は俺なんかが居ていい場所じゃないって。

その感情に、いっぺん底の底まで叩き落とされて、ようやく気づけたんだ。だからさ…………ありがとうってな」


「……そりゃあどうも。ちょうど目覚まし時計になりたいって思ってたんだ」


照れくさくなって、ちょっぴり鼻をかいたりするが。


「そしてもうひとつ……マリスからの伝言だ」


間髪入れない情報にびくりと震えた。


「今日の午後、ドデカいことをやらかすからちゃんとゲームにログインしておけよ……だとさ。それと、俺ももうひと仕事頼まれている」


「?」


「『然るべき時まで、丁場或葉を抑えておけ』……だってよ。アイツの殺意は危険だと判断したらしい」


その言葉に、マリスの首をはね飛ばそうとした或葉の姿が浮かぶ。


「わかるか?『説得力あるように聞こえる説得』……それがアイツのやり口なんだよ。だから逆らうのは難しい。千里、俺も或葉の殺意はヤバいと思う。もしお前が或葉を抑えてくれるなら、俺は出張らないでおく。だがもし戦場に出たら……」


ぐいっと迫る。


互いに衝突しかねない距離に肉薄する。


「そんときはもう一度だけ、お前達の『敵』に回る。そうしてでも、一番大切なものを守りきって見せる」


「…………、」


「……そんだけ言いに来たんだ。じゃあ、学校でな」


言うだけ言って、スタスタと歩き去ってしまう傍楽。


彼の言う大切なものも気になるが、一番は。


(或葉…………)


マリスの戦場で、彼女はタガが外れかけていた。


あの日の彼女を止められたのは、彼自身の経験があってこそだ。


会いたい。会って話さなければ。


見据えるのは、彼方にそびえる我らが学び舎。


「待ってろよ。すぐに行く」


そうして、彼は学校へと再びかけ出す。


しっかりと。










最後のリスタート。


ここから先、物語はどんな決着を迎えるのか。


それはまだ、誰にもわからない。

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