絶望粉砕!! 千里vs晴天の流星雨!
はっきり言って、提示された縛りで同一ターンに100000ものダメージを与えるのは絶対に不可能だった。
ゲーム中でも屈指のダメージ効率を誇る 《勝利の導き手チエカ》でさえ単体では28000。コレを三体並べたとしても合計は84000にしかならない。
仮に千里が無限の手札を使えたとしても、理論上不可能としか言いようのない要求だった。
除去しやすいマシンやジューダスなどによって破壊可能になったアシストカードと違い、イベントを効果で破壊する方法も存在しない。
そしてターンを跨ぐには、マシンカード二枚の破壊が必須。普通に考えたら、最初から場に出てるホムラとユリカを犠牲にせざるを得ないように見える。
だったら、普通じゃない事をすればいいのだ。
かの日狂喜に踊り払った、この世界の女神のように。
見据えるは晴天の巨流星。
打ち砕かんと千里が挑む。
「俺は試練の与え手ホムラの効果を発動。このカードをアシストカード置き場に移動する」
「むぅ……?」
指示が飛ぶ。
勝利を目指す指示が踊り舞う。
「続いて、極上の乗り手ユリカの効果発動! センターのギアが4の場合、このカードをセンターに置く事ができる!」
「!? あたし達を避難させるつもり!? 無理よ、そんな事したって……」
「どのみち次のターンが来れば破壊されるんだろ? だから次のターンなんて待たないし……10万の攻撃力を用意するつもりもない」
「は?」
効果破壊ができないカードを攻撃もしない……?
ユリカはそんな疑問符を浮かべたが、千里は構わず進める。
「こんな理不尽なミッションに真面目に乗る必要はなかったって訳だ。……まず一枚目! 手札から設置アシスト 《マストカウンター》を発動!!」
三枚の無地札のうち一枚目が色付く。
巨大な帆船のマストがせり出す。
《マストカウンター》✝
ギア2アシスト/設置 ステアリング
◆【相手がアシストを使用した時/このアシストを捨て札に】使用条件となったアシストを無効にして破壊する。
「え? なんで今アシストカードのメタを……」
「効果に意味は無いッ!!」
「ええッ!?」
「ギア2って所に意味があるんだよ」
頭に? をたくさん浮かべるユリカだったが、まあ見てないのだから仕方ない。
これはかの日、幼き魔王が使った戦術だ。
「続いて二枚目! 手札から 《ミスター・トレーラー》を呼び出す! 更に効果発動、ホムラとマストカウンターを疲労させる事で山札から新たなギア1を呼び出す。出てこい! 《グリーン・タートル》ッ!!」
二枚目が色付く。
号令に従い、次々と戦列が整っていく。
《ミスター・トレーラー》✝
ギア3マシン ATK10000 DEF8000 スカーレットローズ
◆【場札二枚を疲労/一ターンに二度】山札からギア1一枚を呼び出す。
《グリーン・タートル》✝
ギア1マシン スカーレットローズ POW 0 DEF7000
残るワイルドカードは一枚。
何を呼ぶかは決まっていた。
「…………これで、俺の場にはギア1のタートル、ギア2のマストカウンター、ギア3のミスタートレーラー、そしてギア4のホムラとユリカが揃った。
さっていよいよだ。あの隕石をカッ消すマジックショーを見せてやんよ!」
「…………あ」
ユリカが気づいた。
この状況からでは、二ターンかけたって10万の打点は用意できないだろう。
だからわざわざ用意はしない。
全てを一息に解決するべく、三枚目のカードを掲げ。
口上が述べられる。
「ーーーー始まりの時を巡る豪鬼。蒼く聳える母なる原初! 魔王の愛機の栄誉を受け、最速最高の高みから周回遅れを見下ろしやがれ!」
ボキリゴキリと鋼が膨れ上がる。
筋肉質な体表、滑らかな質感は命の熱を感じさせる。
所どころにサーキットマシンのパーツを浮かばせながらも、磨き上げられた鉤爪を握る所作にぎこちなさは微塵もない。
矛盾から産まれたような造形。
ジューダスの対となる、蒼く輝く鋼の悪魔を形取る。
ツノの代わりに歪なサイドミラーを生やした、誰より速く駆ける獣が踊りい出る。
「ーーーー三枚目!! 来やがれ原典ド有能!! 《マスター・フォーミュラ》!!」
ーーーーGOOOOOOOOOOOOOOOONNNNN!!
《マスター・フォーミュラ》✝
ギア5マシン スカーレットローズ POW15000 DEF15000
【自分の場に、1~4までのギアが全て揃っている場合のみこのマシンは場に呼び出せる】
◆【登場時】経過ターン数と自身のギアを0にする。以降、このマシンは【マルチギア(経過ターン数と同じギアを全て得る)】を得る。
◆【三回行動】
魔王・鳥文良襖の切り札。
忠実なる、もう一体の『魔王の配下』。
高らかな咆哮に震えながらも、見覚えのあるカードに。
「マスター・フォーミュラ……そっか」
「ああ。千里の勝ちじゃあ…………」
勝利は確信された。
世界に異変が生じる。
理が書き換えられる。
「……マスター・フォーミュラの効果。このカードの呼び出しに成功した時、経過ターン数とこのカードのギアをゼロにする」
バキリと水晶達が砕ける。
巨大な隕石さえも内から崩壊していく。
「……確かに、このゲームには無差別除去は無いし、作られたばかりのイベントを指定除去する方法ももちろん無い」
まるで全てが風化して行くような光景の中で、千里は一人滅びゆく流星を見つめる。
「だがルールの力には従って貰うぜ。このゲームのルールでは、経過ターン数を上回るギアは存在を維持出来ない!
そして、そのカードが場から離れた時点で【ルーザーズ・ハイ】が起動する!!」
ホムラの時と同じ。
無策な改変を試みる者にとって、遥か最初から存在する力こそが天敵となるのだ。
背後に立つ或葉も、状況についていけなかった所からようやく追い付いたようで。
「やった……? やったではないか!! マリスを逃したのは悔しいが……とにかくミッションは達成したと」
「いや。マリスも逃がしはしない」
「え?」
「或葉、マリスはどこに居ると思う?」
まだ終わりじゃない。
言いながら完全なるトドメを刺すべく、千里は砕け落ちた流星の欠片によじ登る。
そして。
「きっとあそこだ」
「おいおいおいおい……なんだそのカード!?」
その時、世界のどこかでガタンと音が鳴った。
マリスは『安全な場所』に居たはずのマリスに冷や汗が浮かんでいた。
誰にも秘密の安全地帯がビキリ、ビキリと崩壊していく寝床の中で、仮面のCEO・マリスは困惑の渦中に居た。
「ちょっと待て、そんなカード知らないぞ……」
『勉強不足だぜ、マリス』
聞こえないはずの声が響く。
『スタンピードMikiくらい読もーぜ。役立つ情報がてんこ盛りだ』
彼が居た空間にヒビが入る。
バコンと開いた亀裂から、電子の晴天と睨む目玉が見えた。
先駆千里だ。
「イッ……よく俺さんが『イベントの中に居る』ってわかったなぁ、おい?」
ーーーーマリスの居場所は、全長500メートルはくだらない流星の中だった。
例え攻略されても、破片のひとつに包まり安全に離脱できる設計のはずだったが……ルールによるバウンスは想定外だったという訳だ。
「ま、今までのゲームでプレイヤーの居場所がどこだっだかって考えたらここに居るわなって思ったぜ。
お前は言っちまえば、マシンと同じように『イベントに乗ってた』ってわけだ」
「そうかそれは良かったな……それで? 今度こそ俺さんのドタマをぶち抜くってのか?」
「いーや、んな事はしない」
は? と言う体の空白。
「その代わり……敗北を知って貰う」
キョトンとする、心では敗北すまいと決めていたマリスの前に。
視界すべてを覆うほどの、紫水晶と流星の破片が殺到する。
「何ィ…………ッ!?」
「もう一度言うが、スタンピードのルールでは『経過ターン数を超えるギアを持つマシンは全て手札に戻す』。
経過ターンがゼロになった以上、もちろん俺たちを拘束するのに使ったギア1マシン、マリス・クォーツも全て手札に戻して貰う」
「!? 馬鹿言え……ジューダスに撃ち抜かれないよう、ざっと数百枚はばら蒔いたんだぞ……? そんな事したら処理しきれずに、俺は引き寄せられた水晶に押しつぶされちまう……!!」
「自業自得だろーよ。元からイベントのルーザーズハイは、敗北を踏み倒す代わりに、場から離れたら強制で敗北するんだよな?
だったら、お前に相応しい負け方はもちろん頼った流星に押しつぶされる事だ」
「テメ………………!!」
もちろん、これはマリスが自分で用意した仕様ではない。
むしろ仕様の外の挙動をさせてしまった結果、想定外の被害を受ける羽目になった。
デバック無しのぶっつけ本番の報い。
無用な改変を行うからこうなるのだ。
「だからきっちり宣言しておこうと思ったんだ。わかりやすいように、きっちり効果名をよ」
「よ、よせ……」
「喰らえマスターフォーミュラの効果攻撃…………クラスター・デリィィィィィィィィィィィィト!!」
「よせえええええええええええええ…………!!」
盤面処理開始……
マリス・クォーツA……マリスの手札へ
マリス・クォーツB……マリスの手札へ
マリス・クォーツC……マリスの手札へ
マリス・クォーツD……マリスの手札へ
マリス・クォーツE……マリスの手札へ
マリス・クォーツF……マリスの手札へ
マリス・クォーツG……マリスの手札へ
マリス・クォーツH……マリスの手札へ
マリス・クォーツI……マリスの手札へ
………………
処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能処理不能…………中略。
ーーーーズガ、ズガ、がシュグギャ……
「がは……!?」
案の定手札に入り切らず、水晶体のまま次々とマリスの体に激突していくマリス・クォーツ達。
このまま彼は血のりに彩られた、悪趣味な石材のオブジェとかすのであろう。
それでも、だからこそ。
「心配するなよ」
冷めきった炎の心で引導を渡す。
「脳天が粉々になってもめちゃくちゃ痛いだけだ。体験した俺が言うんだから間違いない」
「ふざけ、ひぃ、よせ、やめろ、こんな……!!」
「そんじゃ……GOOD LUCK」
「まって、ぐが、ぐあああああああああああぁぁぁあああああああああぁぁぁ!!」
ーーーーバキ! ドカグシャグチュボキガリバキグリグシャアアアアアア!!
中略…………《END of THE WORLD~星が終わる夜~》をマリスの手札へ
千里…………ルーザーズハイの効果により勝利→MISSION・CLEAR!!
ようやっと聞けた敗者の断末魔。
コレで結果がどうなるかはさておき。
「ま、スカッとはしたか。もうこれ以上の奥は無いって『安心』できたんだからよ」
見下ろした先に鎮座するは、巨大で尊大なマリスの墓標。
彼のズタボロの体が表に出るには、もうしばらく時間がかかる。
後始末は、その後で良い。
雲ひとつない晴天の中……流星雨の成れの果てを見下ろし、千里は暖かな風に吹かれた。