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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode 9 愛ゆえのロンド。千里vsアルジ
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想いを護る戦い。千里、覚悟の戦場へ。

その時。


命が砕かれる音は確かに鳴っていた。


或葉が怒りを込めて放った弾丸は、狂い無くマリスを撃ち抜く軌道を描くはずだった。


電子の血しぶきが舞い、暗い空間に鮮やかな赤が混ざる。


ただし。


それは怨敵マリスから流れたのではなく。


「…………なにゆえ、なのだ」


驚愕が、少女の口から漏れた。


目の前の光景が信じられなかったのだろう。


困惑に応えるように、千里が。


「なんでも、なにも、ないだろ……こんなこと、誰にだってやらせられるかよ……」


「でも……だって、千里よ……」


少女が、或葉が撃ち抜いていたのは。






「手が………お主の手が…………!!」






千里の手のひら(・・・・・・・)


彼の利き手が、赤く黒く射抜かれてしまっていたのだ…………!!


横から掴んでも止められない……そう悟った千里は、銃口を前から握りしめて狙いを無理やり逸らしていたのだ。


そうまでしてでも止めたかった。


だから後悔はなかった。


「いいんだ……このくらい……」


「なんで……何故に、そこまで……」


「ダメなんだよ……これだけは、本気でダメなんだ……」


諭すように。


魂を宥めるように、真実を語りかける。


「いいか、良く聞け或葉。良襖を撃っちまったのは……記憶を奪っちまったのは誰だと思う…………?」


「……? 何故今そのような……」


「前から気になってたんだ……良襖の意識が『いつ途絶えたか』」


それは矛盾を繋ぐ、ちょっとした謎解きでもあった。


「良襖が自分で設定して、自分で自分を捌いた時じゃねぇ。その後でフツーに会話したからだ」


彼女は 《ガイルロード・ジューダス》を自分のリミッターとして『予め』用意した。


土壇場のアドリブならともかく、さすがに前もって『自己破壊』を仕込む事までの精神性はなかったらしい。


だが手加減をするには、まず『壊すだけの力』を用意してからでなければならない。


そんな揮発油(ガソリン)じみた力の原液を、千里は手にしてしまっていた。


「アイツの意識が本当に途絶えたのは、そのあとのホムラとの戦いん時だ。

あの時……このカードの本質をわかってなかった俺は、敵意のままにホムラに弾丸を打ち込んじまった」


「!? ならホムラは……いやしかしホムラは確かに此処に……」


「助かる理由があったんだ」


本来、何かの条件が違えばホムラだってここには居なかった。


そうならなかった理由が彼にはあり、『彼女』にはなかった。


「ホムラは、カードの効果で。味方マシンの身代わり効果で破壊を免れたんだ。……だけどホムラは、無防備な良襖のアバターを抱えてた。

()()()()()()()。だから、意識が途絶えちまった。そうとしか思えねぇ……」


「……! ま、まさか……」


真相は一人相撲。


捻れた状況、その起点に立っていたのは。


()、なんだよ。俺が考え無しに引き金を引いちまったから、良襖が酷いことになっちまった。ここまで厄介な事態になっちまった……」


それこそがこの捻れの原因。


自作自演とまでは行かずとも、誤作動を起こす原子炉のブレーカーを下ろしてしまった……それくらいの過失は、先駆千里自身にあった。


「だからダメなんだ。その場の感情に任せたら、絶対にろくな事にならないってわかりきってる。だから、やめてくれよ……!!」


「で、でも……こやつは……」


あるいは、懲らしめるだけでは済まされない。


本当に、取り返しの付かない事態になりかねないと。


ここで間違えたら、世界が壊れる程の事態になると彼は肌身で感じていた。


「千里……よ……」


「なあ、さっき俺に言ってくれたよな。自分みたいになるなって。

だけどそうじゃない。『お前が俺に』じゃない。これは『俺がお前に』言うべき事なんだ!」


被害者面をするには重すぎる過失。


それでも、だとしても、だからこそ彼は言わなければならない。







「或葉!! 『俺みたいになるな』ッ!! 悪意(マリス)に飲まれるんじゃあねぇよ、或葉……!」






「………………、」


必死の訴えに。


少女は。


怒りに震えていた少女は。


「……まったく。ひどい事を、言ってくれるの……言ってる事とやってることが、しっちゃかめっちゃかではないか……」


苦笑が漏れ。


それに伴い。


「だが……お主は正しい…………」


少女の力が、弛緩する。


千里に被さるように、力なくもたれかかる。


「ここでマリスを手ずから討ち取っても、残る物は自己の満足のみ、か。

くだらぬ情で世界を砕くは大馬鹿者(うつけ)の所業。……ばかばかしい流れは経つべきにござろうな」


「…………っ」


少年は流れの中に居た。


故に少女を流さずに済んだ。


「……繰り返して欲しくなかった」


静寂の中、心情が流れる。


「俺は多分、手遅れなくらい深みにハマってるから。だから繰り返してほしくなかった。せめて或葉には、繰り返して欲しくなかったんだ」


「うむ……わかるとも。すまぬの、心配をかけて。傷付けてしまって……」


「だから……気にしねーってのこれくらいさ……だから、こんな荒っぽい手段じゃなくてよ。

電子のマリスを抑えてるうちに、真っ当なやり方で表の鞠守を裁いてもらおーぜ」


「うむ……」


怒りの頂点は乗り越えた。


緩やかに下る意識の坂の中、ふたりはしばらく身を寄せ合うのだった。











「ああああああああぁぁぁあああもうびっくりしたわよぉでも良かった丸く収まってさうぅぅぅうぅぅぅ…………ぐすん……!!」


「ええい控えよみっともない……む?」


うんうんこういうのいいのよねーと涙ぐむユリカの隣で。


ふと、ホムラが気が付く。


「おい待て……儂の息子は、マリスはどこに失せた?」


「え?」


いない。


というより、アバターのあった場所の様子がおかしい。


人型の水晶体が、変わり身のように転がっていた。


「ナヌ……? まさか、今まで偽物と対峙しておったというのか!?」


「待った、それはない。偽物だったら『ステアリングキー』を使い慣れてるホムラやユリカさんを騙せるわけが無い。

途中で入れ替わったんだ……俺達の隙を突いて……」


「え……あのごめん千里クン、本物だったのはわかってたけどいつ入れ替わったのかはさっぱり……」


「儂は見ておった。瞬きする程の間に入れ替わったんじゃあ……予め、脱出コードかなにかを仕込んでおったんじゃろう」


「……? ???」


ここまで来て、だだ逃げたのか?


そうは思えない。今まで粘っこく手を打ってきたタギー社の頭目、マリスがただ逃避行をするだろうか。


ありえない。こんだけお膳立てしておいて、この程度で終わるはずがーーーー


と。






ーーーーこつん。






「へ?」


不意に、頭上から何かが落ちた音がした。


なんだろう、と先の戦いで吹き抜けと化した天蓋を見上げ。


つられて上を見た皆とともに。


「は?」


「ぬ?」


「ちょ」


「な゛」


一斉に絶句する。


「……………おい、おいおいおい………」


ーーーーそれは、燃え盛る結晶体。


見上げる空を覆い隠す程の、巨大で歪な質量塊。


星の滅亡を司る、宇宙が育む天然のリセット装置。


つまりは…………






ーーーーBOOOOOOOOOOLOOOO…………GOGOGOGOGOGOGOGIGOGOGOGOGOGO……………!!







それは、轟音を立てて迫る巨石だった…………!!


「『隕石』だ。ここを跡形もなくぶっ飛ばすくらいの巨大な隕石だ…………!?」


「「「ッッッ!???!?」」」


どこまでも、マリスはまともに戦うつもりはなかった。


自身を餌にしてでも、千里達をおびき寄せて一網打尽にする腹積もりだった。


「ハアアアアアアアア!? なにそれ、つまりあたし達罠にかかったってワケ!?」


「拙者達は、まんまと誘いこまれた……?」


混乱する彼女達に代わり、指揮を取るのはホムラだ。


「千里ィ!! ジューダスのキルスイッチで砕くんじゃ! ただの電子質量なら問題なく砕ける!」


「わーってる!!」


負傷した利き手に変わり左手で、ドウッ!! と破壊の弾丸を放つ。


放たれた弾丸は、サイズ比を無視して巨大質量を抹消する力があったはずだ。


しかし。





ーーーーGilinn! ……GOGOGOGOGOGOGOGOGOGO………






ほんのちょっぴり、子気味いい音を立てただけで傷ひとつつかない。


「効かない……砕けもしないじゃと!?」


「何アレ……ただの障害物じゃない。しかもジューダスの弾丸が効かないって事はマシンでもアシストでも無い……?」


「じゃあなんなんだよ!? このゲームにはマシンとアシストしかないはず……」


「第三のカード」


ゾワッとする言葉に、鍵持ち達が振り返る。


その言葉は、愛深き少女のものだ。


「普通、完全に新しい種類のカードはそうそう出てこない。環境をむやみに掻き回しかねないからの。

であるが、カードゲームのいろはも解らぬ輩が運営に付いたとしたら……」


ありうる。


ぼくのかんがえたさいきょうのカードを、大真面目に自信作と言い張って送り出すなんて事をやりかねない。


そうして間を置いて、ガピ……とわざとらしい音を立てて声は降る。


『……ははは……やっぱり警戒しておいて正解だった』


声が聞こえた。


飄々として掴みどころのない声が。


「マリス……か。テメェどこに居やがる!」


『どこってそりゃ、安全な所さ。……まあ、それを言ったらさっきも安全っちゃ安全かもな。

お前が優しい優しい奴だってわかっていたからこそ、安心して首を晒すことができたんだからなぁ?』


「!? 舐められてたってのか……? 俺がお前にトドメを刺さないとタカをくくって、実際その通りだったって言いてぇのか……?」


『おうさ。今だから言うが、アルジはきっちり役割を果たしてくれてたんだぜ? 「今のお前」がどんだけの精神性か教えてくれたんだからな』


はっとした。


思えばアルジとの戦いに、あちら側の直接的なメリットは無い。わざわざ入り口の鍵を持たせて戦わせたのは、千里の現在の成長具合を確かめるためだったという訳だ。


「待て……ではこの広間の戦いの意味は」


『俺の邪魔になる奴を一掃する』


キッパリと言い切った。

言い切ってはいけないことを言い切ってしまっていた。


『いやー危なかったぜ? もしも千里。お前にビビって引っ込んでたら、俺はやべぇのを一人見逃してた。

そうだよなぁ或葉ちゃんよォ? お前のドス黒い意思にはビックリだ』


「マリス……おのれ……おのれおのれおのれ……!!」


『おぉっと凄んでも無駄だぞ? お前達はそこから出られない。

大人しく、俺さん特製のイベントを堪能するこったな』


ポトリと、一枚のカードが落ちてきた。


それこそが、現在迫る危機そのものを表現していた。


ヴゥー!! とけたたましいブザーとともにガイダンスが表示される。





《END of The WORLD~星が終わる夜~》✝

ギア()()()()() サイサンクチュアリ

HP1()0()0()0()0()0()

【イベントはマシンゾーンに置く。攻撃を受ける度に相手のPOWの分HPを減らし、0になったら破壊する】

◆【レクイエムキーパー(自分が敗北する場合、その前にこのイベントを展開しても良い。他の方法では発動できない)】

◆【ルーザーズ・ハイ(このカードが場から離れた時自分は敗北するが、その他一切の方法で敗北しない)】

◆【このマシンの登場時】このターンを中断する。その後相手は追加で二度自らのターンを行う。

◆【相手ターン終了時】相手は自分の場のマシンカード二枚を破壊する。この破壊に失敗した場合、相手はゲームに負ける。




【MISSION!! あなたの場に 《極上の乗り手ユリカ》 《試練の与え手ホムラ》 《豪鬼の狩り手ルイズ》を置いた状態で開始。

任意のメインデッキ、任意の手札三枚を持ったメインフェイズからスタートして、相手ターン開始までに 《END of tha WORLD~星が終わる夜~》の【ルーザーズ・ハイ】を起動して勝利せよ。ただし 《ユリカ》 《ホムラ》が破壊された場合は()()()()()()()()()()()()()()




絶望的なテキストに絶句する。


悪意まみれの文面が目を焼く。


「ったくよ……おいおい待て待て待て待てなんだこりゃ……!?」


「イベントカードって……こんなの今まで見たことないわよ!?」


「まるでちゃぶ台返し……負けを認められん餓鬼の悪あがきか!?」


レースを模したゲームへの侮辱。


勝ち星を得たはずの相手に、突如として振り下ろされる理不尽の姿がこれか。


と、気の抜けたような声が再び響く。


『あーあー、テステス。効果は読んだな? そういう訳だから、お前らにはまとめて二週間くらい夢の中に居てもらう。

完全に意識を断てなくても、意識レベルを下げることくらいはできるからな』


「おいちょっと待て! なんだこのクリアさせるつもりのねぇイベントは!?」


『だってしょうがないだろぉ? お前が持ってるガイルロード・ジューダスの効果に耐えるには、ゲームカード同士のルールに守ってもらう必要があるんだからな?

全員、隕石のお布団の下でぐっすり眠ることだな……あー、わかってると思うが逃げられるとは思うなよ? 一面のマリス・クォーツがお前達の脱出を阻むぞ』


バキン!! と耳障りな音が響いた。


はっとして振り向くと出入口が無数の紫水晶で塞がれてしまっていた。


出口はなく、四方と床は水晶で塞がれ、上空からは悪意しか感じられないイベント・ミッション。


まるで、すり鉢の中のゴマ粒をすりこぎで潰すような無慈悲さ。


「嘘だろ……コレをゲーム上のミッションって言い張る気か……?」


単純に考えて、器械兵タンジェントの三倍以上。


それを瞬殺する必要がある上に盤面は固定。


もしも瞬殺に失敗した場合は『みんなで隕石の下敷き』か『()()()()()()()()()()()()()()()()』の二択を強いられる。


理不尽すぎるミッションに絶句してしまう。


『まあ、頑張るだけ頑張ってみろ。どう足掻いたって親父とユリカがオネンネするのは確定だろうけどな』


「ありえねぇ……テメェ心の底まで人間じゃねぇ!!」


『勝手にほざいてろ。……じゃ、good luck』


ブツンと、あえてわかりやすくしたような切断音が響いた。


わざとらしい死刑宣告。


それを受け静かに、その身が砕かれる覚悟を決めた大人たちが居た。


「……ふーむ。あたしらの合計攻撃力は16000+11000+0で二万七千……ここから十万目指すのはちょーっとキツいか」


「へ……?」


「この数値設定……一ターンで削りきるのは無理じゃろうて……千里よ、儂らが犠牲になった後で削り切れるか?」


「おま……馬鹿言え!! あんたらを置いてここから出ろってのか!?」


「しゃーないでしょ、それがオトナの役割なんだもの。身をすり潰してでも先に繋ぐっていうね」


大人のオンナなユリカはニィ、と笑ってのけていた。


「逆に言えば、彼はまだコドモ。夢見がちなね。自分が世界の中心に立てると本気で思い込んでいる。

だからどんな酷い事でも『やれてしまう』。その先にイイコトがあると思い込んでるからね」


屈みこみ、目線を合わせ、


「だから、ここから先は貴方の仕事。アレと真正面からぶつかれるのは貴方だけ。

貴方なら、あたし達が居なくても大丈夫。アイツの頭のお花畑に踏み込んで、土足で荒らしてきてやんなさい」


「…………」


ここで、犠牲を受け入れる道はあるだろう。精神を砕く権利はジューダスにしか無い。事態の解決まで肉体を守り切れば、彼らを取り戻す事もできるだろう。


だが、それでいいのか。


不完全さを許すのは『最適な道』か?


「………まだだ。まだ終わっちゃいない」


ここで犠牲を受け入れるのだけが道か?


良襖の時のように、また完全な結末を取り逃すのか?


「まだ終わっちゃいない!」


もう一度、その身を奮い立たせる。


今度こそ、完璧な結末を手に入れるために。


「え? なに……」


「諦めることないっすよ。まだ、なんとかできる」


「待って……ちょっと待って!? まさかこのミッションを一ターンでクリアするつもり!?

無茶よ……だって10万よ10万! 絶対二ターンはかかるーーーー」


「それでも!」


確固たる意思で立ち上がる。


「それでも何とかしますよ。もう取りこぼすのは嫌だから。絶対に、絶っっっっっっ対に嫌だから。

だから俺が守りますよ。あんたらを犠牲にして先に進んだって、きっと上手くは行かないっすから」


「…………そ。それじゃ、何とかしてもらおっかな?」


根折れするように動くユリカに対して、ホムラは語ることもしない。


納得したように、緩やかに配置につく。


前代未聞のミッションに挑むべく、戦士達が立ち上がる。


「……まだ見ているな?」


そして、宣戦布告が放たれる。


「マリス! このゲームに対するお前の考えがはっきりわかった。お前に愛なんて最初からなかった!!

このゲームにはこれ以上近ずけさせない。お前の悪事を並べあげ、必ず刑務所にぶち込んでやる! そのためにも……」


降りかかる隕石を睨み。


並び立つ勇姿、背後に待つ少女、利用し尽くされた友をも想い。


「ーーーーこのミッション! 必ず完璧にクリアしてやる!」







打ち破れ、先駆千里。


悪意に負けることなく、その正中の悪を挫け。

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