悪意との前哨戦。千里一同vsカルトヴェイン!!
「悪意の氾濫カルトヴェインの効果発動。自分のマシン一枚を破壊し、同名のカードに変換。その後相手のマシン一枚を破壊する。
消し飛べジューダスーーーー『マリス・インフェクション』」
「ガイルロード・ジューダスの効果。登場時に場札三枚を捨て札にすることで、場のアシストカードを全て破壊する。
ビビりやがれマリスーーーー『テラフォーミング・ランページ』!!」
敵のしもべの影が唸る。
手近な水晶を一撃粉砕し、そこから新たな力を取り出し放つ。
千里のしもべのジューダスが唸る。
クロガネを喰らい、一斉掃射の銃口を向ける。
敵意と敵意が激突する。
ーーーーズガガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガガガガガガガガガッガガガガガガッgガガッガガッガガッガガガガガアアッガッッガガッガアッッ!!!
地獄と地獄の正面衝突。
視界がゼロになるほどの戦塵を上げてもなお圧し合う。
天井すらも崩れ落ちる衝撃の中、更に前へ、前へ。
しかし両者の差は歴然だった。
煙る光が注ぎ出す中、思考は交わされる。
「うむ? 手応えがないな……?」
「うし、手応えバッチリ!! 随分ぶっ壊せたみてーだなぁ?」
戦塵が薄れる中、灰のように焼け落ちるのはマリス側のカードのみだ。
千里も実感たっぷりに。
「こりゃすげぇや。十枚や二十枚じゃねー。どんだけ仕掛けていやがった? まあ、全部壊せたみてーだからいーけどよぼ!」
「何故破壊されない……いや」
仮面越しに、目を細めるような気配。
観察の瞳がすみやかに正解を導き出す。
「なるほど……ルールの力を使ったな?」
「ああ。カードレース・スタンピードのルールでは、センターに一枚しかマシンが置かれていないなら、そのマシンは破壊されない……。
だから、自力で自分の下のカードを剥せるコイツは、完全耐性を持ってるも同然ってワケだ」
「ほうほう。全く、あの小さいな魔王サマの置き土産には苦労させられる」
ポリポリと仮面の裏を掻きながら、しかし彼は静かに歩みを進める。
「それで? そのまま俺をぶち抜く気か?」
「それで良いってんならアリだが、それよりももっと状況に合ったやり方がある」
目を細めて千里が凄む。
「俺とカードレースで勝負しろ。それがオメーがやるべき『礼儀』だろ」
「……んん? 礼儀だって?」
「このゲームを侮辱しまくったオメーには、ゲームのルールの中できっちり裁かれてもらう。見ての通り、ジューダスの破壊は不可能だ。それをわからせたかったんだ。
このまま押しつぶされたくなかったら、俺たちの土俵に降りてくるくらいしたらどうだよ?」
「なるほどね。勿論断る」
平然と言ってのけた。
「ちょ……おいおい」
「断るに決まってるだろ? 俺さんとお前がゲームで戦ったら十中八九お前が勝つ。
そんな出来レース……もとい予定調和。そんなものに乗ってなるものかって話だ」
自分は弱い、と。まるで自慢するみたいに言い切ったのだ。
あるいは、これこそがマリスの、タギー社の長・稲荷鞠守の強みなのかもしれないと千里は思った。負けそうな戦いには決して乗らない以上、彼が敗北者になる恐れはない。
ある意味無敵の処世術。
だが今回ばかりは押し通らせない。
押し通らせない!
「お生憎と…………はいそうですかと回れ右する訳には行かねーのよな」
ちらりと手近な水晶を確認する。
ステアリングキーの影響か、それともジューダスの影響か……とにかく千里はステータスを確認できた。
《マリス・クォーツ》✝
ギア1マシン サイサンクチュアリ POW3000 DEF3000
◆【潜伏(上にカードがあっても、このカードの効果を適用してよい)】
◆【このマシンを疲労】自分は、センターのマシンと他のマシンゾーンのカードを入れ替える事ができる。
◆【このマシンの破壊時】山札から 《マリス・クォーツ》一枚を選んで場に呼び出しても良い。
案の定、オブジェクトもまたマシンの一種として示されていた。
(それが、この一面に)
周り一面の美しい光景、その全てが敵。
アシストカードの仕込みだけではない。あらゆる敵意がこの広間に詰め込まれている。
「どうやら、今のお前にはこのゲームの全てがわかるようだな」
すっと片腕を掲げる。彼が従えるカルトヴェインはいつの間にか二体に増えていた。
「だがそれでも何も変わらない。悪意は、どこまでも氾濫するぞ。
マリス・クォーツの効果、破壊された時、山札から新たなマリス・クォーツを呼び出す」
広間に新たな水晶が供給され。
「そして再びカルトヴェインの効果。マリスクォーツを破壊し分身体を呼び出す」
それを砕き、新たな影が立ち上がる。
誕生の余波がジューダスを襲うが、もはや身動ぎひとつ取らずに受け止め弾く。
気がつけば、マリスの周囲には三体の影が立ち上がっていた。
「……これでこちらの攻め駒は三体。お前のジューダス自体は無敵でも、これから繰り出す攻撃からお前自身を護り切れるかな?」
「へぇ? 邪魔な相手にはカードを物理でぶつけると?」
「その減らず口ごと塞いでやろうか。ーーーーやれ、カルトヴェイン。先駆千里自身を攻撃しろ」
もはや体裁も何も無い。
影が、カルトヴェインが千里のジューダスの脇を抜い迫り…………
「待たんか、我が息子よ」
声が響いた。
『作戦』に従い後方にて待機していた『会長』の声だ。
《試練の与え手ホムラ》✝
ギア4マシン ステアリング POW11000 DEF14000
【デミ・ゲストカード】
【一ターンに一度】場のこのマシンをアシストカード扱いで設置することができる。
【一ターンに一度/相手のマシンが走行又は攻撃する時】アシストカード置き場にあるこのカードをセンターに呼び出し、発動条件となった相手マシンとバトルする。このバトル終了まで、このマシンのギア以外のステータスは倍になる。
その会長は、巨大な化け狐の姿をして、一振りの刀を握っていた。
マリスが静かに驚く。
「親父…………か。すっかり敵型に懐いちゃってまあ」
「残念じゃが、お前の横暴もここまでじゃよ。儂の効果、相手マシンの行動に対して倍のステータスとなって迎え撃つ。居合いの一撃をくらうがいいわ!」
千里と影の間に割って入る。
宣言通りの一撃がカルトヴェインを襲う。
WIN ホムラDEF28000vs14000POWカルトヴェイン LOSE
スッパリと一刀両断。
手駒をひとつ失っても何も狼狽えない。
「ふん。邪魔が入ったが二度目はどうだ? 行け二体目のカルトヴェイン。これで決まりだ」
再びの宣言。こちらの影も突進を始めるが……
「ーーーーだ、か、ら! なんでもかんでも勝手に決めてんじゃないってえの!! くらいなさい 《スナイプ・シュリーカー!!》」
やはり千里には届かない。
乱入してきた女王ユリカによって、またも影は退けられる。
《絶影! スナイプ・シュリーカー!!》✝
ギア1アシスト ステアリング
【相手マシンの攻撃宣言時】センターと同じギアを持つマシンを捨て札から呼び出す。その後、使用条件となったマシンに攻撃を行う。この処理が終わるまで対象のPOWは+3000され、他のカードの効果を受けない。
《極上の乗り手ユリカ》✝
ギア4マシン ステアリング POW16000 DEF9000
【デミ・ゲストカード】【センターがのギア4である】このマシンをセンターに置ける。
【バトル開始時/自分の下に置かれたカードを一枚疲労】コストカードが持つPOWとDEFを、バトル終了までこのマシンに加える。
【デッドヒート4(相手が走行する度に、自分の残り走行距離を4減らす)】
「ユリカ……上司への当たり散らしってかぁ?」
「ほざきなさい! スナイプ・シュリーカーの効果であたしの攻撃力は3000追加。そのままカルトヴェインを撃ち落とす!」
「む」
嫌味を蹴散らす踵落としの一撃。
メギョリとえげつない音を伴って影の頭蓋を捉える。
WINユリカPOW19000vs11000DEFカルトヴェイン LOSE
あえなく爆散。
二体目の攻撃も防がれ、しかしあくまでマリスは揺らがない。
「足掻くのはいいが……結果はなにも変わらないぞ?」
不意に、千里の頭蓋ががしりと掴まれる。
大人達の顔が蒼白に染まる。
「千里ィ!」
「おっと動くなよ? 親父が一手打つまでの間に、コイツの心に一生モノの傷を残す事だってできるんだーーーー」
と、勝鬨を上げる声は途中で寸断された。
理由は単純明快。
その頭蓋に。
鉄巨人の拳が突き刺さったからだ。
「ーーーーグベラッ…………!?」
さしもの鉄仮面も初めて苦悶の声を漏らし、サッカーができる程の広間の端まですっ飛んでいく。
ドガゴギズガグシャガシャン!! と酷い音と共に水晶の海にダイブする全ての元凶。
それを冷めた瞳で見下ろす千里の背後には、ジューダスの上に被さる格好で巨大な鉄鎧が浮かんでいた。
「守護神ルイズは、プレイヤーがピンチの時に現れる…………てな」
これこそがアルジ戦で散々駆け引きに登場した 《豪鬼の狩り手ルイズ》だった。万事休すの窮地を遠ざけ、屈強な装甲で後続を食い止めるその力強さは、これまでにも幾人ものプレイヤーに恐れられて来た。
「全部は自業自得なんだよ、マリス」
締めくくるように。
冷めきったように、地面にめり込んだ悪意に突きつけた。
「色んなモノを利用するだけ利用したツケはいつか返ってくる。それが今だ、ってだけだ」
ルイズの手のひらに乗り、瓦礫の中の悪意の元に向かい告げる。
「せめてさ。ツケの払い方くらいは格好付けてもらえるか?
もう拒むなよ…………『俺とカードレースで勝負しろ』」
絶対零度の宣告が、マリスに差し向けられていた。