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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode 9 愛ゆえのロンド。千里vsアルジ
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自我ゆえの反逆。千里vsアルジ中編・C

「お前さ…………今の『立場』を楽しんでるよな?」


その言葉で、アルジの目が見開かれた。


言葉が的を射た証拠だ。


「なんの報酬も受け取ってない……お前はそう言ったが。だが明らかに楽しそうだ。

そしてそれは、チエカの存在によって妨害される。なら『敵』としての『立場』を楽しんでいるのか? それも微妙に答えとズレているよな?」


推測は確信へ。


必要な材料は、既に全て揃っていた。


「ともかくお前は得ている。俺たちには縁のない、身勝手で精神的な報酬を。今、直ちにだ。

……そこまで思い至った時、俺たちがお前に渡せる報酬なんてないんじゃあないか、ってことに気がついた」


進むべき道の方角が解れば、結論まで辿り着くのは容易い。


「思えば、俺たちの元には十分過ぎるくらいの面子が揃っていた。司令塔として指揮を取り、いざとなれば前衛の噛み犬として体当たりで活躍する詩葉。

詩葉以上に「大人」でシンプルにメチャ強いユリカさん。或葉だって心の力じゃあ誰にも負けないしな」


千里の周りには、既にそれぞれ尖った特性を持つ仲間が居た。


だからこそ、彼の入る余地などなかったのではないか…………?


「だがお前を一番苦しめたのは……ひょっとしたら、チエカがこっちについたことじゃないのか?」


より鋭く考察はくい込む。


「チエカはこのゲームの始まりそのものだ。ソイツが味方ならこのゲームの事はだいたいわかっちまう。

だからオマエはチエカと同じ陣営に居る訳にはいかなかった。だってお前はこう思うはずだ。情報さえ流せないのに、そんな化け物だらけの集団の中になんて居たら……自分の『立場が無い』ってな」


「…………」


報酬も人質もなく、強大な力に従う理由がそれだ。


立場だ。立場こそが彼を切り分けたのだ。


「そうしてお前は天秤にかけた。常に大衆の前に立ち、多くの人々を楽しませる『Ai‐tubr』としてのオマエと……

お前にとっちゃ……なんの価値も……意義もない『友人』としてのオマエ。二つの異なる『立場』を」


一言一言。自分でも嫌になる羅列を食いしばるように吐く。


「そして選んだ。俺たちの敵となり、自分の価値を保証する道を。細かい枝葉を抜きにして……己の為に人生を使う道を。

だからお前は楽しんだ。今まさに自分の『存在』を有り有りと示しているから……そうとしか考えられない。そうだろアルジ……いいや風間傍楽!!」


「そうだよ」


肯定は、酷くあっさりとしていた。


「そうさそうだよクソッタレ。……まあわかってはいた。お前と戦ったらチエカが湧いて出るであろうことも、それと敵対したら心が漏れる事も。

だからバレるとわかってた。お前の頭の回りの良さは身近でよーく知ってるからな」


「こんな真実……辿りつきたくなかったけどな……なぁ、なんでだ……なんでよりにもよって『今』裏切るんだ……?」


困惑から、千里は問いかけた。


「別に今じゃなくたって良いだろう……化け物レベルのメンツが揃ってるってことは、それだけ勝ち目があるって事だ。

タギーの親玉を、みんなで協力してぶっ倒して『日常』を取り戻してからでも……」


「日常? ()()()()()()()()()()()()()()


返答は、千里の理解を越えていた。


「ほ、え…………?」


「あー、勘違いするなよ? お前との学校生活、別に楽しくない訳じゃあなかった。ただ霞んで見えただけだ。

正真正銘の天才の元で、新しい世界を創る『奇跡の時間』に比べれば色づいてさえいなかった! 高級ディナーに出向く予定の日に節約料理の番組に見向きもしないってくらいの理屈でなぁ!!」


「節約……料理……? 俺たちの日々は、お前にはそんなふうに見えていたのか……?」


「フゥーーーー……信じたくないって顔だな? 自分で出した回答が自分でも理解に苦しむって顔だ」


すう、と息を吸い込み仕切り直す。


真実にたどり着かれた動揺も一時。むしろ背負うものがなくなって気が晴れたようにさえ見える。


「だがこれが真相だ! 俺はお前達が思っていたほど善人じゃない。

無闇矢鱈と与えられすぎて、それを配って歩かないことには自分すら保てない。俺の『施し』は……ただそれだけの理由だったんだ」


「施し……施し?」


「ああ。結局の所、俺はビビり君に違いなかったと思うよ。まあ俺が恐れてたのは他の何でもない、かろうじて積み上がった自我ってヤツがなにかの拍子に崩れてなくなっちまうこと……だったんだけどな」


「…………」


敵味方はあれど善悪は無い。


目的はあれど思想は無い。


ただ、失った心を()()()()()()()を探し彷徨うのが彼の在り方か。


その有り様はまるで、命令を待ち望む傀儡人形のように見えた。


こんな正体に、ずっと一緒に居て気が付かなかったというのか……?


「さぁて、そろそろ御託は終わりだ。俺のターン、ドロー!!」




4ターン目


千里残り走行距離……………6


アルジ残り走行距離………12






「お前は俺のマシン全てを処理したつもりだったようだが……まだまだ甘い。

センターの 《オキシゲドン・カプセル》の効果!! ターン開始時に自分を破壊することで、デッキから任意のステアリングカードを手札に加える!」


「!?」


影に隠れていたマシンが明かされる。




《オキシゲドン・カプセル》✝

ギア2マシン サイサンクチュアリ POW5000 DEF5000

◆【ターン開始時/このマシンを破壊】デッキからステアリングを持つカード一枚を手札に加える。




(タンジェントの効果で出てきた中の一台、下地になってたか……!)


致命的な見落とし。


最初の光景で手を決めたのが間違いだったのか。


「俺は俺自身こと 《化学の担い手アルジ》を手札へ。からのバトルフェイズ!! オキシゲドン・カプセルの下のギア1、処方戦車タンジェントで走行!」


「ッッッ!!」




アルジ残り走行距離…………12→11




「そして攻撃時の効果!! 俺は手札を全て捨てて同じだけドローする」


「!? なんでサーチしたカードを捨てるんだ……?」


「すぐにわかる……ただしひとつ、小細工を挟むがな。タンジェントの効果に繋げて 《襲撃の地獄鳥》を発動!!」


不敵な笑みでカードを切る。


意地の悪さは罪悪感のなさ故だ。




《繁殖する地獄鳥》✝

ギア1アシスト ヘルディメンション

◆【手札一枚を捨てる】捨てたカードのギアと同じ枚数分 《キルハルピュイア》を作成して手札に加える。

◆自分の捨て札に 《キルハルピュイア》が存在するなら、このアシストをセンターの種類に関わらず使用しても良い。




「いっ、ハルピュイアを作成!?」


「おう、なんせ俺の手札は三枚しかなかったからなぁ? コイツでギア4の俺自身を捨てて四枚のハルピュイアを手札へ。

これを残った手札一枚と共に捨て、合計五枚のカードをドローする!!」


コンボによる手札補充、そこから更に展開する。


「そして効果の後半を処理! ドローの中にギア2があれば可能な限り【スイッチ】を押して呼び出す! 出てこい雑兵共!」


号令が響き、三体のしもべが躍り出る。


キルハルピュイア二体。


そして絶命ドライバー……。


その禍々しい外見は。


「全部が……ヘルディメンションのカードだと……?」


「そして全軍一斉走行。スリップストリームだッ!!」




アルジ残り走行距離…………11→9→7→5




「いっ……」


一息の元に千里を抜き去る、だけではない。


「そしてここで絶命ドライバーの効果発動!! バトルフェイズに一度、自軍全ての攻守を2000上昇させる!! ここで重要なのはキルハルピュイアが下級のラインを超えるって所だけどな!!」




キルハルピュイア二体…………POW&DEF5000→7000




「これで、進路妨害持ちのコイツらは雑魚の攻撃をシャットアウトする。

そしてだ……よーやく切り札を切れるってわけだ」


ゾワリとした威圧が舞う。


彼の周囲が死の気配で埋め尽くされる。


「ーーーーこの門をくぐる者一切の望みを捨てよ! 悪夢、絶望、嘆きすら薪と焚べ、我が物顔で世に蔓延る罪意なき愚者へ刑を下せ!!」


地響きが唸る。


ビル群が砕け散り、凝縮して門を形成する。


「起動せよ 《ヘルリアクター・ゲート》ッッッ!!」





《ヘルリアクター・ゲート》✝

ギア2アシスト ヘルディメンション

【自分の捨て札が十枚以上の時、捨て札から五枚を山札に戻さなければこのカードの効果は発動できない】

◆【設置(このアシストは場に留まる)】

◆【自分のターンに一度】自分の捨て札から、捨て札の枚数×1000以内のDEFを持つマシン一枚を条件を無視して呼び出す。




その異様もさることながら、その効果は。


「おいおい……おいおいおいおい!? これってまさか!」


「ああ。俺のターンが来る度に何度でも蘇生を繰り返す切り札さ。

まずは発動条件を満たすため、なんと二十五枚も溜まった捨て札から五枚を山札へ!」


言って、むしり取るようにカードを捨て札から山札へ送る。


彼が三ターンもかけて捨て札を増やした理由がこれだ。


しかもその中にも、ヤバいカードがあった。




《剛鬼の狩り手ルイズ》✝

ギア4マシン ステアリング POW  0 DEF20000

◆【デミ・ゲストカード(自分の効果でのみセンターに置け、センター以外では走行できない)】

◆【二回行動】

◆【ゴールキーパー(相手が残り走行距離を0にする行動を取るとき、このマシンを手札から呼び出せる。その後、このマシンの効果を先に処理してもよい)】

◆【このマシンの、自分の効果による登場時】相手の残り走行距離を8増やし、このマシンは三度目の戦闘まで【進路妨害】を得る。




「ルイズッ……!?」


「ああ、()()()()()()()()()()()()()()()。今手札から捨てたばかりさ。

前のターンにお前がゴールを目指してたら、お前はコイツに捕まってた……ぶっとんだ判断力だよなほんと」


自重するように言うが、それでも勝利へ向かう指向性は止まらない。


「だがここまでだ! 特殊凡庸クラス・ステアリングはどんなデッキにも投入できるが全部で三種類しか投入できない!!

そしてお前は既に 《コズミック・エッグ》《巨影への転身》《必勝・ウイニングチェッカー!!》で三種のステアリングを使い切っている!!」


「アルジ……お前……」


「つまり! もう『予想外』は起こらないって訳だ。これから俺が繰り出す走りに、お前のスカーレットローズデッキは着いて来れない!

指くわえて大人しく見ている事だな。俺の走りを、輝かしい『成功体験』をッ!! ……さあ地獄の門よ、俺を呼び戻せ!!」


そして。


今度こそ捨て札から自分の分身を掴み取り、高らかに口上を述べる。


「ーーーー背負う歴史のマリオネット。世を写し取るドブネズミよ。

嗚呼嘆くなかれ!! 全て手の内にあると知れ! 幾千の歴史を食らい、見える世界に革命を巻き起こすのだッッッ!!」


彼のマシンが爆裂する。


錆銀色の白衣、無数の化学式を纏う少年が現れる。


青い髪にも銀色のメッシュが幾重にも走り、幼くも鋭く世を写し取る眼は機械油を塗りたくったスクラップみたいに鈍くぎらついていた。


「唱和せよ! 我が名は 《化学の担い手アルジ》であるッッッ!」




《化学の担い手アルジ》✝

ギア4ステアリング POW9000 DEF15000

◆【デミ・ゲストカード】

◆【????????】??????????????????

◆【?????????】?????????????????????。???????????????????。




堂々と降臨する。


これから繰り出される攻撃をステアリング無しで全て受け止め、かつ逆転することなど千里にできるだろうか。


わからないが、ひとつだけ確かなことがある。


(それが出来なきゃ、何も解決しないよな)


ここで勝たなければ、周囲に舞い踊るドローンを止めることは恐らくできない。


或葉やユリカに危険が及ぶだろうし、タギー社の陰謀を暴く事も出来なくなるだろう。


そして、良襖の救出も叶わず……目の前の彼の心を救う事もできない。


(節約料理だぁ……? 随分と言ってくれたな……結構ショックだったぞ?)


だが、自身を裏切ったからと言って、千里にとって救う理由を失う理由にはならない。


(だが……だったら教えてやる。お前が節約料理とやらを切り捨てたのが、どんだけもったいねー事だったのかをなぁ!!)


気合いを入れ直す。


情熱と空望、次元の異なる敵意が激突する。


勝利の女神チエカの御前で。


(さーって、どっちが勝つことやら?)


最後の攻防が、始まる。

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