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カードレース・スタンピード!!  作者: 能登川メイ
episode 9 愛ゆえのロンド。千里vsアルジ
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戦慄すべき意思。千里vsアルジ中編・A。

風間傍楽は、平凡であることを望まれた少年だ。




非凡に生きた結果深く傷ついた夫婦の間に産まれ、幼い頃からごく普通の生き方をさせられていた。


しかし、蛙の子は蛙というか。非凡に生きた血を引き継いだ彼もまた、やはり非凡な血に目覚めたのだ。


「なんでだ……なんでお前は『普通』にできないんだ!!」


点数、体力。どちらも容易く極める彼へ、そんな言葉が毎日のように浴びせられた。ただあるがままで居たかった彼は、その言葉に日々苦しんだ。


しかし少年の気も知らず、困り果てた両親は彼を塾に入れた。それは彼を高めるためではなく「周りに合わせる」ことを学ばせるためだった。


皮肉にも、その試みは彼自身の成長をもって成功した。




そこは、能力しかない弱者の集いだった。




狂気的に点を稼ぎ、ただ「結果」で飾る事しか脳の無い面々が身を削ってまで潰し合う煉獄だった。


それらを余裕をもって観測した事により、幼いながらに彼は知る。


ただの数字に、ただの順位に縋らなければ己を保てない人間が大勢居るのだと。それを気まぐれに、それも苦せずして奪い去ってきた自分は遠からず憎悪の対象になるのだろうと。


そうして彼は非凡であることをやめ、極力目立たず平凡に生きる道を選んだのだ。




傍楽とは「傍観者こそ楽な身であれ」という意味で両親がつけたものだった。


そんな名前をつけた「彼ら」と和解する気にはなれなかったけども、不器用なりに我が子へ何かをしようとする彼らを裏切る気にもまたなれなかった。




だが、彼は小学四年の頃にふと二つのことに気がついてしまう。


一つは、彼の両親が「傍楽を普通の人間にする」ことをゴールとしてしまっていていた事。人生は親元を離れても続いていくと言うのに、まるでゲームのエンディングを目指すかのようにそれだけを目的にし、その先の未来を見据えていないことだ。


さながら東大に受かったら自殺する受験生のように、自分の人生が途中半端で投げ出されることを思うと足元さえ信頼できまい。


もう一つは、彼自身もまたなんの目的も持っていなかったこと。なんの趣味も持てず、秀でた道に魅力も感じず、果てなき未来を描くことが出来なかった事だ。


無いものねだりとはよく言うけれど、結局人は多くの場合現状に満足せず、そこから抜け出そうと足掻くものだ。


しかし産まれた時より刷り込まれた「普通」の呪いに加え、今後も二人の両親によってさらに鎖が追加されるとあっては、彼が未来に絶望……いや「失望」するのも無理はないと言えよう。




しかし「運命」は彼にチャンスを与えた。




「あたしと一緒に『世界』を創ってみない?」




春風舞う放課後。とある少女に告げられたそれは、死した心に命を吹き込む言葉だった。


彼女こそが、後に『カードレース・スタンピード』を作り上げるゲームマスター・鳥文良襖だ。


枯れ果てた心に染み込んだ色彩。新たなる遊戯を生み出す日々は途方もなく楽しく、またかけがえのない日々であった。


彼女と共に電子の幹部Ai‐tubrとして活躍する日々は、彼にとって失った自我を取り戻すにふさわしい輝きを放ち続けていたのだ。


そして。


それ以上にーーーーーーーーーー。












《反応炉心コサイン》✝

ギア3マシン サイサンクチュアリ POW10000 DEF8000

◆【センターのカードを二枚疲労】ターン終了まで【このマシンの連携攻撃時】このマシンを回復する、を得る。




《絶命ドライバー》✝

ギア2マシン ヘルディメンション POW2000 DEF9000

◆【マグネスイッチN(マグネスイッチSを持つ効果で場に出たなら有効)/バトルフェイズ開始時】自分のマシン全てのPOW/DEFを+2000する。




《ヴァイラスヴェント》✝

ギア2マシン サイサンクチュアリ POW4000 DEF4000

【マグネスイッチN/自分マシンの連携攻撃終了時】相手の残り走行距離を3増やし、自分の残り走行距離を3減らす。





晴天吹き荒れる科学の街。


激戦のサーキット。


そこに君臨するは、閃光纏い空を切る大炉心である。


並び立つモンスターマシンが傍楽に従い、敵対する先駆千里を威圧する。


底なしの敵意に、苦笑気味の返答が返る。


「ヒュー…………。さすがのぶっ壊れ具合だ。どこかのアリスが霞んで見える!!」


「そりゃあどうも。……さてとだ。俺がこれから何をするかはわかるな?」


愉しむように確認してくる。


「最初に絶命ドライバーの効果でバフが乗り、炉心コサインは自分の効果で回復、再行動が可能になる。お前の下級軍団も、コイツらの連続攻撃で消し炭ってワケだ」


「それだけじゃない、だろ?」


受けて立つ千里が引き継ぐように語る。


「二回の連携攻撃の度にヴァイラスヴェントの効果は起動する。成功すれば、二回分の効果で俺は6下がり、オマエは6進む。

レースは逆転……俺は逆に追い詰められるってわけか」


「そういう訳だ……さてバトルフェイズ。行くぞ、コサインとヴァイラスヴェントの連携攻撃。吹き飛べフォーミュラ!!」


確認はおしまい。


轟!! と、号令と共に二台のマシンが唸りを上げる。




アルジ全マシン……POW&DEF+2000


high 連携攻撃POW16000vs2000DEFフォーミュラ low




景気のいいオーバーキル。


連携をした方がアドバンテージを取れる、だからこその戦術だ。


無論、この攻撃を黙って見過ごす千里ではない。


「はっ……そーは行くかよ。手札から《巨影への転身》を発動する!!」


「!!」


号令と共に、光の束と化したエネルギーが放たれる。


それが三又に別れ三台のマシンに降り注ぐと、それぞれが巨大化を始める。


天上のサーキットの上、彼の日見据えた青き巨影の如く君臨する。


轟音が、響く。




ーーーーGOOOOOOOOOOOOOONNN!!!!




《巨影への転身》✝

ギア2アシスト スカーレットローズ

◆自分マシン全てのDEFは20000になる。




ダーク・キリギリス………POW4000→20000!!


フォーミュラ×2……………POW2000→20000!!




強化数値は絶命ドライバーのそれの数倍。


タダで付与するにしてはあまりにも豪快なバフが乗る。


見下ろす二万の防衛打点。


マシン二台分のパワーを返り討ちにする、千里の秘策がこれだった。


「ほう? 対策を積んできたか」


「ああ。混成デッキってのは予想外だったけどよ……攻め込む場所のサイサンクチュアリが。

連携攻撃で強くなるテーマだってのはよーっく知ってる」


常に多対一の構図を作り、バトルの勝利を以てアドバンテージを稼ぐサイサンクチュアリ。


ならば、その攻撃を残らず返り討ちにしてしまったらどうなるか。




Low 二体連携POW18000vs20000DEFフォーミュラ high




両者が激突。


巨影と化したフォーミュラが敵を引き潰しにかかる。


「これは俺たちとタギーとの戦争だぜ?」


巨影の上から、当たり前の前提が語られる。


「ファッションデッキのフリー対戦じゃないんだ、相手の強みが出ないよーにメタカードくらいは積んでくる!

このままバトルを処理すれば、攻撃したお前のマシンがお陀仏ってワケだ!!」


連携攻撃によってアドバンテージを得るのなら、攻撃を受ける側を強化し、攻撃するという選択をさせなければいい。無論殴り返せるならそれも狙う。


彼だってピンメタは本意ではない。千里自身さえ苦虫を嚙み潰したような顔になる戦術だが、状況がそれを要求した。


だってのに。


そこまでされてもアルジの余裕は全く崩れない。


「あー、もちろんわかってはいた。お前がメタを積んでくる事くらい」


あくまでも落ち着いて。


敵対者は余裕を持って、冷酷にカードを切る。


「だからもちろん、真正面から乗り越える準備だってしてくる。手札から《イグニスー叡智の篝火ー》を発動!」


「…………ん?」


間の抜けた声を無視して、侵略者の炎が吹き荒れる。




《イグニスー英智の篝火ー》✝

ギア2アシスト サイサンクチュアリ

◆発動ターン終了まで【自分マシンの連携攻撃時】に攻撃に参加したマシン一枚を選択し、そのPOWを5000増やす。




「ちょ……!?」


甘かった。


読み合いは重ねがかるものだ。


「これがサイサンクチュアリの新しいパワーリソースだ。……効果を処理、コサインを強化する」


反撃の手が動く。


更なる輝きを得た機体が、距離を超えてフォーミュラを狩る。


炎熱の輝きがタイヤを切り裂く。




炉心コサイン…………POW12000→17000


WIN 二体連携POW23000vs20000DEFフォーミュラ LOSE




パワーは逆転。


轟音。


撃破。


「ぐっ…………!!」


フォーミュラのうち一機が横転しつつ爆散する。


浮遊する炉心が配置に戻り、閃光の次弾を装填する、その最中にも。


「連携攻撃の成功により炉心コサインは回復。さらにヴァイラスヴェントの効果!

お前の走行距離を3増やし、俺の走行距離を3減らす! 烈風よ吹き荒れよ!」


「がっ……!?」


攻撃は凄まじく。




千里残り走行距離…………9→12


アルジ残り走行距離……18→15




巨影ごと足元が揺さぶられる。


せっかく稼いだ走行距離が削り取られる。


「チィ……!?」


「まだまだ。回復したコサインと絶命ドライバーの連携攻撃! もう一体のフォーミュラを踏み砕け!!」


号令が飛ぶ。


炎熱を帯びた閃光が距離を無視して照射される。




炉心コサインPOW…………17000→22000


WIN 二体連携POW26000vs20000DEFフォーミュラ LOSE




更なるオーバーキルが、二台目のマシンを襲う。


爆発四散。


「おいおい嘘だろ…………!?」


立て続けに爆散する自機を前に唖然とする千里。


《巨影への転身》の事は、軽さの割には随分なバフを載せるカードだと思っていたが……変化を続ける戦場では防御力二万程度は壁にもならないのか?


それとも。


(防御力を上げる「だけ」のカードは大した脅威にはならないってことか?)


例えばアルジの場にある絶命ドライバー。あれは条件を満たして場に置く事で、攻撃ごとにバフを撒くモノリスと化す。


強化値は貧弱、自身の防御力も強化込みで11000止まりだが……強化により打点の「基準点」を超える事も、乗り超えたマシンが場に残る事も重要な意味を持つ。


それは盤面を蝕み、敵対者を追い詰める一手になりうる。


利点が重複すればこそのアドバンステージ。


ただのドローソースより、ドローとバトルを同時に行うキルハルピュイアの方が遥かに危険な存在であった時点で気付くべきだったかもしれない。


彼の原初に近いカードゲームでは、ただの魔力(マナ)充填の呪文よりも、魔力を供給してなお場に居残る青銅の獣の方がしばらく評価されたように……このゲームもまた『重複する利点』こそが重要なのだと。


(流石に、ぶっつけ本番で繰り出すのは無茶があったか……久々にやらかしたかもしれねぇ!)


短慮のツケは結果になって返ってくる。


「再びヴァイラスヴェントの効果を処理! 吹き飛べ千里……俺が前、お前が後ろだ!!」


「チィッ!!」


烈風がふたりを覆う。


神の手のごとく戦局を操る。




千里残り走行距離…………11→14


アルジ残り走行距離……15→12



いよいよ以て距離は逆転。


だがアルジは攻撃の手を緩めない。


悪夢の炉心に、輝きを増した閃光が冷酷に装填される。


「さあ最後だ。回復し、POW22000となったコサインがまだ動ける……さてとどちらの行動を取るか」


「おい待てちょっと待て。オマエまさかここで俺のセンターを殴り倒すって言わないよなー? ここで走って俺を突き放した方が勝ちやすいよなーあぁ?」


照準が向けられる気配に、千里は命乞いにも似た戯言を語ってしまう。


しかし反発が来る。


「それは状況による。……例えばオマエの手札が上級に偏っていた場合、そいつを殴り倒すことで場に出ることを阻止できる。

逆に下級ばかりだった場合、二万に上がった防御力と二回行動の能力を使いそいつ自体が攻撃の要になりかねない」


考察は冷徹へ。


状況は手札二枚の千里、その未来を閉ざすことを選択した。


「つまり。どうあがいても。そいつを見逃す道理は無いって訳だ! 喰らえ三度目、コサインでキリギリスを攻撃!!」


三度、抹殺の閃光は照射される。




high コサインPOW22000vs20000DEFキリギリス Low




「いっ……!?」


ここでの敗北はただの損失では無い。


アドバンテージを削りに削られた所への一撃は異様に重い。盤面を立て直す力を狩りとる、重大な意味を持つ。


だが。


だからこそ。


「ちっくしょおおおおぉ…………なーんってな! 手札から《緊急サンプリング》を発動!!」


この先駆千里が、黙って攻撃を通すわけが無い。




《緊急サンプリング》✝

ギア2マシン スカーレットローズ

◆【自分の場または手札からマシンカード一枚を捨て札へ】

山札の上から三枚をお互いに確認し、コストカードのギア以内のカードを手札に加える。残りは捨て札にする。




アルジが息を飲む気配。


彼はまんまと千里の『演技』に乗せられ、手札から対策が飛ぶ可能性を失念したのだ。


「っぷひぃーーーーヒヤッと来た!! だが乗り越える。お前に壊されるくらいならこのカードのコストにしてやる。

ダークキリギリスを捨て札にして三枚をドロー! ……よしよし中身は全部ギア2以内だ!」


「……チ」


あわや討たれる寸前だったキリギリスが消え、代わりに千里の手札には三枚のカードが加わる。


巨影からは投げ出されるが……コンバットトリック成功だ。


攻撃対象を失ったコサイン、それに乗るアルジが千里を悔しそうにみつめる。


脅威こそ終わりではないが、これ以上攻め込む事も出来ない。


「……フン、やむを得まい。バトル終了……俺はこれでターンエンドだ」


「んじゃ俺のターン、ドロー……」


引き入れたそれを含めた五枚の手札。


からっぽ同然の場から再び切り返す。


自分の場に唯一残ったのは、最下級マシンを増殖させるだけの非戦闘員マシン 《コズミック・エッグ》。


対してあちらには凶悪な効果やステータスを誇る三台のマシン。正面の連続攻撃持ちのコサインは勿論、凶悪なサポート効果をもつヴァイラスヴェントや絶命ドライバーも見過ごせない。


それらを片付けた上で、更にチェックメイトの距離まで走行しなければ千里に勝利はない。


それなりにインフレの波が押し寄せるスタンピードだが、しかし一枚で全部を解決するようなリセットカードは皆無と言っていいい。


ならば、奇妙に理不尽な戦局をどうにかするには。


(…………やっぱり、こーするしかないわな)


逆転のルートは決まった。


ならば行動するのみだ。


先駆千里の、反撃が始まる。

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