モノトーンの出会い!
チエカのカード紹介コーナー! 今回紹介するのはギア2の《リーサルライド・バトルドライブ》! 所属クラスはスカーレット・ローズで、 パワー8000、ディフェンス5000、走力10!
ギア1である《リーサルシード・レフト》《リーサルシード・ライト》をゴーストからセンターに置く事で、デッキ外から生産されギアアップ! 自身の下に二枚の合体元がある限り完全耐性を持つ心強いマシンですね!
でもサービス開始直後からこんなルールに触れるカードあったら危険だと思いませんか? 実際どのくらい危険かは本編をご覧下さい!
時間は少し遡る。
「ぐああああああああああぁあああ!!」
黒い影……シルヴァがきりもみ回転で吹き飛んだ。
所詮は負け犬。
そんな事はわかっていたけれど。
シルヴァ残り走行距離……150
yagami残り走行距離……0=GOAL!!
(なんだ!? いったい何が起きればこんな圧倒的な結果になるんだっ!?)
「上出来、かしら。良き働きでしてよ《マスター・フォーミュラー》」
《マスター・フォーミュラー》
ギア5 スカーレット・ローズ/マシン
POW15000 DEF15000 RUN30
《??????》??????????????????
《??????》??????????????????
◆????????????????????????
「……く、そ。ギア5、だと……? 使いこなせるのか、環境じゃ無き者として扱われているのに……」
「ふふ……はっきり答えましょうか?」
ゴール地点で、彼女は夢うつつのままに答える。
彼女の背後に君臨するのは、青色の機械巨人だ。
「このゲームの原状のセオリーは、センターのギアを一段ずつ上げながら、その過程の入れ替え疾走で走行距離を稼ぐというもの。
ですが標準的なギア1から5の走力を合計してご覧なさい。5+10+15+20+30で80キロ。間の効果や初手のギア1での疾走を加味すれば」
「入れ替えを行わずに済み、結果ギア5への到達だけに専念できる……か?
机上の空論も良いところだ、ギアカーブも何もあったもんじゃあない!」
「ふふ……確かに、普通にやろうとすれば空論ですけれど」
Yagami123は最早シルヴァを見ていない。
青い巨人へと向き直り、浸るような笑みを浮かべながら語る。
「例えばリーサルシード。あれはレフトとライトを揃え合体するる事で、いつでもギア2のバトルドライブに進化できる。その手の手段を揃えていけば……ほら。手札にくわえておくまでもないギアなんて……ね?」
「最早不要……指定のギアそのものをデッキから取り除く事ができるということか!」
「ええ! いつかの重量級を愛するお方が私を導いてくれました。ほら言いますでしょう? 『好きこそものの上手なれ』」
Yagamiが頭蓋だけで振り返る。
その表情は喜悦に満ちていた。
「わたしの溢れんばかりのマスター・フォーミュラへの……ギア5への愛が、この戦術を可能にしたのですよ」
「く……」
「おっと」
会話の最中、Yagamiがわざとらしく驚きを造る。
「どうやら今日は、ここまでのようです。わたしも忙しいもので」
「ま……待て!」
「ではまたいつか」
声とともに、Yagamiは消えてしまった。ログアウトしたのだ。
「……くそっ!」
最早打つ手無しと悟り、シルヴァもまた一旦落ちる事にした。
桃色の世界から暗黒へ。
雑多な暗がりの現実へと帰還する。
「くそ……なんてこった」
没入感の暴力。
実際には体も意識もずっとここにあったというのに、魂ごと「向こう」に飛ばされてる感覚だった。
荒れる呼吸の中、シルヴァはどうにか思考する。
ーーーーあのYagamiの発言。
愛があればどうとでもなる、という発言は確かにそうなのだろう。
コンボが成立している以上、あとは気持ちの問題というのはすごくわかる。
だとしても、とシルヴァは回想する。
(それをサービス開始初日からやるのはアウトだろう)
いくら事前情報があっても限度がある。初日からギア5で暴れまわれる人間なんて、サービス関係者くらいのものだろう。
あれは間違いなく難敵になる。
その前に手を打たねばならない。運営が紛れているのが問題なのではない。
運営に精神状態のマズイ人材が居るのが問題なのだ。
このゲームの問題の本質は彼女ではない。
彼女以上にヤバい存在の手綱が握られてないのが問題なのだ。
(だがどうする。一人では無理だ。信頼できる仲間が要る……)
と、シルヴァはひっそり参加していたチャットの内容を思い出す。
(そういや、「アイツ」の知り合いって言ってたな、あのガキンチョ)
チュートリアルを突破した二人の対決。
その片割れはブラフを絡めた容赦のない手を打って、もう片割れをリタイアに追い込んだ。
部屋の時計で時刻を確認する。
午後四時すぎ。おやつの時間は終わってるはずだ。
「……仕掛けて見るか」
影は起き上がる。
シルヴァが案じるのはこのゲームの未来。
そのために、行動は惜しまない。
そして、再び時間は現在へ。
男との戦いを終えた千里は、再び或葉との散策を続けていた。
「ここ《シュガー・マウンテン》は、カードのクラスにも存在するにござるよ」
「マジで?」
「マジにござる。ここに限らず、拙者の操る《サイエンス・サンクチュアリ》の風景も科学の都市となって存在している故」
「そーいやスカーレット・ローズの世界……現代っぽい街並みも見えたっけなぁ……」
彼らはあくまでもブラウザゲームをプレイしているに過ぎない。
リアルでは野菜クッキーをたっぷり詰め込んだ少年少女は、電子世界では菓子の町並みを進む。
現在、傍楽は床に雑魚寝でチュートリアルの真っ最中だ。パソコンが足り無いからとタブレットを使わされてる。
「なんで俺だけがああああ!」という声が聞こえるが、きっとそんな事はすぐにどうでも良くなるだろう。
このゲームを遊ぶ間、画面の中こそが彼らの世界なのだ。
桜並木の中、石畳を共に行くアルハがセンリに語る。
「現在クラスは8つある。拙作の使用クラス、科学のマシンを統べるサイエンス・サンクチュアリの世界も近場にあるにござる」
「マジで!? 後で行ってみよーぜ!?」
「環境トップの修羅の国にあるがよろしいか」
「悪い今の無しで」
呑気な会話。
それも彼らが平和な日常を謳歌しているからこそだろう。
戦いさえも容易く飲み干す……それがゲームの魔力なのだ。
と。
「ところでよ……根本的な事聞いて良いか?」
「よろしいが。なんにござる?」
「クラスってなんだ?」
「ッ!?」
アルハは派手にずっこけた。
「な、ムゥ!?」
「いやな。種族とか属性に該当するもんだってことはスゲーわかる!!
だがよ、スカーレット・ローズとステアリングを併用してるけどさ、ルール上どういう扱いなのか全然わからなくてさ」
「ムウ……確かに、ステアリング以外は統一したデッキを使っているとわかりにくい面もあろう」
言うと、アルハはゲーム上の窓を開く。
パソコンの中にパソコンじみた画面が現れる。
「ほれ、ちょうど先日クラスを解説する講座動画が投稿されておる。拙者は口下手故、これを見た方が早いにござる」
「マジか気づかなかった! サンクスだぜ!」
「なに、礼には及ばぬ。ほれ座布団」
「お、ワリワリ」
言いながら、二人はゲームの中で、浮遊する座布団にアバターを正座させる。
…………二人は今、スデにリアルで隣り合って机について座っているのだが。
二人がそんな事を気にする様子は、これっぽっちも無かった。
ただ純粋に。
「ほれほれ、始まるにござる!」
「おう!」
二人電子の身を寄せ合い、この瞬間を楽しむだけだ。
その様子を、影ことシルヴァが眺めていた。
「なんか、良い雰囲気じゃないか……?」
シルヴァは冷や汗を流し呟いた。
なんと! カードゲームの主人公が未だに基本ルールを知らないとは! これは講座を開かざるを得ません! 次回チエカとマアラの初心者講座〜クラス編〜をお楽しみに!