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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
アルセリアスでの茶木栽培
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契約条件はキチンと明確にしましょう



 アルセリアス領にて、茶の木栽培をする候補地に向かう前日のこと。

 昼下がりに私はシオとともに荷車に積む苗木の確認をしつつ、明日の日程の説明をアルクザードから受けていた。


 馬車で半日ほど揺られた先にあるタテス村が比較的魔物の被害も少なく、村の外れに泉があるために茶の木を植えたとしても水枯れの心配は少ないのでは無いかという判断らしい。


 ま、タダで茶の木を渡したわけじゃ無いからな。私達の出張にもお金がかかってるんだもの失敗は避けたいはずだ。


 アルクザードの説明は軽く聞き流し、私は土いじりに精を出す。細かいことはシオさんが把握してたらいいと思うしな。


 私が目覚めなかった間、持ち込んだ苗木の管理は庭師さんがしてくれていたらしい。先日の褐色肌の人かな。いつも外で仕事してるんだろうねこんがり焼けてたものね。


 なんて考えながら土に枝を挿木し、魔力を流して成長を促せば苗木の数がどんどん増えてゆく。

 

 ………………。

 人外感は否めないな。


 でも、ま、単純作業は無心になれていいよね。



「…………このように植物を増やすのは異常ですし、極力人目につかない方がいいので、多少かさばるでしょうけど持ち込む苗木は屋敷で数を揃えた方がいいでしょうね」


 無言で淡々と苗木を増やす私を流し目で見ては呆れたようにシオが提案する。


「そうだな。お爺様も行くから量は気にするな。変に注目されるよりは荷が増えたほうがずっといい」


 無属性の魔法……異空間収納は便利だもんな。アドレンス最強の男が便利な運び屋扱いされてるのも凄いと思うけど……。


 まるでエルトディーンを便利家扱いするティアねぇさんだ。さすが血族。


「タテスは古くは他国からの移民だった者たちの村なんだ。俺たちとは違った種族でやや警戒心も強くアルセリアス……いや、この家の者に友好的ではないんだが……文書で承諾は得ているし、タテス出身の者も連れて行く予定だから問題はないだろう。お前たち二人なら問題を起こす事もないだろうしな」



 何故、友好的でない種族の村を選んだ。やはり水源の確保で枯らすリスクを減らすためか?

 それとも、商業的な利益をタテスが得る事を前提に異種族との交流を深めたいとか??


 それに、違った種族……ね。レイティみたいな獣人系の人なのかな??

 獣人系って勝手に強そうなイメージあるし、辺境の地の戦力として欲しいとか??


 でも、屋敷で獣耳の人とか見かけなかったけど……。


「アルセリアスはあまり農業が盛んではない。食糧の殆どを他領に頼っていて領民は戦場や戦闘を好む者が多いんだ。戦争がなくとも今は魔物を狩り魔石をギルドに売る事で彼らの生活はどうにかなっているが、アルセリアスのギルドは治安もあまり良くない。力さえ強ければ偉いかのように勘違いしている者ばかりだ」


「アルセリアスのギルドは国庫を脅かすタチの悪い金食い虫状態……という事ですね」


「あぁ。いつ国が今のギルド体制を廃止にするかわからない。ギルドの報酬を領内で賄えなどと言われたら先行きが不安だからな」


 だからアルクザードは猶予をもらえるよう王都にわざわざ出向いてたわけか。


 今は魔物が居るから、領でギルドを運営しても他領との魔石取引で何とかなるだろう。けど、魔物が居なくなったら領には何も残らない。逆に魔物が増えたとしても魔石の流通量が飽和してしまえば領民に待っているのは絶望的な飢えと他国からの侵略の恐怖。どちらかといえば増えた時の方が悲惨だな。


 だからアルクザードは、今後、紅茶が流行すれば利益が見込める茶の木の栽培に手を出したんだね。目の付け所はいいと思う。今だって数は少なくても戦闘を得意としない人は居るはずだもの。農業で成果が出れば戦えない人たちの希望にもなるだろう。


 アルクザードは本当に働き者だな。


 正直、目の前の青年には未だに見慣れない。眼帯を取る前は目元に隈もあって本当に悪人ヅラだったもの。


 誰だよこの好青年。


 流石、エルトディーンの兄。荒々しいところもあるけど良いヤツに間違いはない。なのに訳のわからん奥さんと息子に振り回されてアルクザードは不運なの??



 そしてその不運ぶりを決定づけるかのように私たちの前に現れたのはレントナード。

 コレ、私の不運ぶりも加算されてます?


「(否定できませんね)」


 そこは否定しろよ。

 私は心の中でツッコミながら作業の手を止めた。



「俺もタテスに行く!!」



 突如現れてレントナードは私達へ盛大に駄々をこねだしたのだけど。ねぇ、お宅の息子さんおいくつ?? 

 年は幼くても私と変わらないくらいの背格好の子供が駄々こねてたらかなり引くんだけど。


「レントナード。タテスには遊びで行くんじゃないんだ」

「そんなのわかってる!!」


「じゃあ聞き分けるんだ。領内であってもタテスは決して安全な場所じゃない」



 まぁ、タテスの民が領主一族にあまり友好的でないのならレントナードは恐ろしい着火剤になりかねないね。彼の言動はその馬鹿さ加減も相まってよく燃えそうだ。


 私も巻き込まれたくはないし、中々に不愉快な存在であるレントナードと一緒に行動するのはゴメンだね。



「子供には危険だし大人しく家に居ろ」

「ソイツだって子供だろ。俺よりも小さいし弱い」


 うん。強ければ良いってわけじゃないんだよ? 

 この勘違い野郎。

 ソイツ呼ばわりとか失礼過ぎない?

 てか、実際は私の方が弱い事はないと思うけど……もちろん魔法ありきでな。


「お父様はいつも屋敷に居ないし、今は居るのに仕事ばかりだ!!」


 …………つまり、


 普段領内を駆け回っていて中々屋敷にいないアルクザードが屋敷にいるのに自分に構ってくれない事がどうやら不満らしい。


 今だって遊んでるわけじゃなくて仕事をしているのだけど、邪魔をしてはいけないとか、仕事にどんな能力が必要とか、適切な人選がなされているとか……そもそも、その仕事は誰のための仕事なのかが理解できていないんだな。


 誰も教えてくれないのかもだけど。


 私みたいな子供……身長的に自身より若干小さい私が父親の仕事について行けて、なんで自分が行けないのかと不満に思っているんだろうね。


 馬車に乗れる人員はもういっぱいで、仕事には私の魔法が必要だから代わりに降ろす事はできないと説明すると、今度はシオを屋敷に残せと言い出す。


 馬鹿なの??

 乗車人数制限とか優しくオブラートに包んだ嘘に決まってんじゃん。遠回しに連れてゆけないって言われてんだよ。聞き分けねぇな。


「(わかりきった事を……)」


 当然のようにレントナードはシオにも馬鹿扱いされてるようだ。

 狭い世界で偏った価値観を植え付けられた可哀想な存在でもあるんだろうけど、知った事じゃねえ。正してやろうと思うほど私は優しく無い。


 仮にレントナードが行く事になったとして、ママンは行かないんだから誰も自分を守ってくれないぞ。ちゃんと先を考えた上で発言すべきだって誰か教えてやれよ。


「じゃあ、俺とコイツが勝負して勝ったら連れて行って」


 は??


「いや、レントナード。無理だと言っているだろう?」

「俺だってお父様の役に立てる! 一緒に仕事できる! 少なくともコイツより役に立つ筈だ!!」



 もちろん、コイツと指を刺されたのは私だ。


「仮に勝負をしたとして、水と癒しの魔法が得意なリヒノとお前では勝負にならないぞ」


 赤い髪の人間は火を得意とする。レントナードも例に漏れず火属性が得意なのだろう。


 この幼さで魔法が使える事自体凄いともてはやされて育ったのか、謎の自信に満ち溢れている。


「じゃあ、水と癒しの魔法は使ってはダメだ! 4つも歳が離れているんだからそれくらい制限があってもいいだろう!」


 アハッ。マジ??

 私より強いとか言ってたくせにハンデくれって??

 いや、そもそも私勝負するとか言って無いし。私に何の得も無いし。


「……土も扱えます。土の壁は火を通しませんから」


「じゃあ、土もだ!!」


 私に与えられた選択肢は風と火と植物……。雷なんて扱ったら勢い余って感電死させそうだし、氷は大きく捉えたら水だと反則にされそう。


「レントナード。それじゃああんまりだろう」

「じゃあ、俺も連れて行ってください」

「だから、勝負をしたとしても連れては行けないと言っているだろう」


 これは……勝負して負かさないと納得しないヤツだな。



「勝負を受けたとして、妹が勝った場合の報酬は何があるのかと……言ってます」


 シオが私の代わりに聞いてくれた。

 自分で聞くべきなんだろうけどメモ帳はいつもエリーゼが持ち歩いてくれているし、現在は席を外している。あ、地面に書けばよかったのかな?


 で、報酬だけど、レントナードは負けた場合の事なんて一切考えて無さそうだ。


「負ける事なんか無い!」

「(では、もし負けたら私の言う事を聞いていただけますか?)」


 予想通りの返答があったので、今度は自ら地面に石で言葉を書き込んでゆく。


「いいだろう! なんでも聞いてやる!!」


 わぁお。恐ろしい事言うなぁ。

 何でもって……怖くて自分なら言えないわ。しかも私、願いの個数指定してないからね??


 自分の言葉に責任がある事を思い知らせてやる??

 子供相手に大人気ないかな?

 でも、これだけ猛烈に喧嘩ふっかけられたら受けるしかなくないか?


 まぁ、此処で灸を据えても三つ子の魂百までと言うし、きっと何も変わらないんだろうね。


「其方の条件で勝負は受けるそうです。準備が必要でしょうから時間を置いて集合してはいかがでしょう」


 シオの言葉に「ヨシ!」と拳を握るレントナード。勝利を確信したその顔に影など全くない。打って変わってアルクザードは「これも勉強になるか……」と小さくこぼして額を抱えて息を吐き出している。


 か、わ、い、そ。


 まぁ、どうでもいいけど。


 あ、シオさん勝負は公平に評価してもらえるようギャラリー多めでお願いしますとお伝えください。


 自己防衛は大事。


 反則だなんだとか、やり直しがどうとか。レントナードが駄々をこねるのはわかりきってるからこその証人が必要な訳で……。


 予期できる未来には初めから手を打っておくのが正解なのだ。

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