国教の強信者に憐れまれたんですけど逆に憐れよ
「まぁ、自分の家族を信じたいところだが……エリーゼの言う引き離し行為に対して、レントナードが過剰に反応し、ヴェルティーナが助長しているってとこだろう。どちらかというと先に無礼な行為をしたレントナードに非があるな」
聴取を終えてアルクザードが総合的な判断を下した。普通の感覚持ってたら誰が考えても同じこと言うような簡単な決断ではあるけど、この場ではとてもありがたい言葉だ。なんせ次期領主だもの。
「自分の息子が嘘を言っていると疑っているのですか?! 何があろうと自らの子供を信じるのか親の務めではないの?!」
レントナードを抱き寄せて、キリッとした険しい顔でアルクザードを非難するヴェルティーナはとてもじゃないが正常には思えない。
レントナードが怪我をしたわけでもないのに、母親というだけでここまで擁護して我が子を正当化したいものだろうか?
「間違いを正すのも親の務めではないのか?」
「ですから間違いなど犯していないと言っているのです。まだ幼いこの子を疑うなんて、心に傷を負ったらどうするのです」
「悪いがエリーゼとレントナードの発言では、信憑性はエリーゼの方にあると思っている。それこそ子供の言うことだ。自分可愛さに嘘をつくこともあるだろう。それを許すのが愛だと君が言うのならばそれでいい。が、それは家族内での話。家族以外の相手がいて、その相手が領地に利をもたらすために招いた客人では話が違う」
「我が子を傷つけた余所者を客人だからと許せと、我慢しろと仰るの?! しかも、こんなメイドの方を信じるなんて!!」
「エリーゼは王都の屋敷で子供の頃から知っている相手だ。共に過ごした時間は正直君よりも長い。とても真面目でどんな仕事もそつなくこなす優秀な人材だ」
「いいえ、このメイドは主人が色が濃いからと調子に乗っているのよ!」
レントナードが悪い可能性がカケラも頭にないヴェルティーナとアルクザードの会話はどうにも噛み合っていない。
ていうか、私、もう帰っていいかな?
どうでもいいんだけど。
「違う……」
平行線の会話に疲れてしまったのか、額に手を当て息を吐き出している。
「仮に、レントナードの言っている事が事実だったとして……リヒノは君の養父の兄の養女。つまり君たちは従姉妹同士なんだ。レントナードは痛がっていないし怪我はないのだろう? リヒノには先日の件で何人もの騎士達が命を救われている。あの時リヒノがいなければアルセリアスの損失は計り知れなかったんだ。ヴェルティーナもレントナードもここは引き下がってくれないか?」
伝わらないのでアルクザードもとうとう折れた。視線でコチラに折れてくれと訴えてくる。
騎士を一人育てるのにどれだけ費用がかかるかは知らないが、辺境の地で安定した戦力を失うのは命取り。その恩があるんだからわかるだろ?? って、言葉はヴェルティーナに伝わっているかは知らないよ。
つまり、レントナードが嘘をついていない事にしていいから、私達に謝罪をさせずに二人に引き下がってほしい。ってことか。
別にそんな意地張ってゴネまくるほど私は怒ってはいないんだよ。非常に不愉快だったけど飲み込めないほど子供じゃない。
ただ、事を面倒にしてるのはこの母子だ。
「何でお父様は穢れたリズの妹をそんなに庇うんだ! 俺は可哀想だから遊んでやろうと思っただけなのに……お父様は俺の事が嫌いなんだ!!」
「「…………」」
問題が収まりかけたここにきて爆弾投下。
唖然としたのは三人。もちろん母子以外。
こんなガキに憐れまれた私とは??
え、ウケるーーーー。
シオが色を持たないリズだから私が可哀想だだって?? しかも穢れてるって??
……クッソ笑えねぇな。
色が濃い方が偉い。そんなネヴェルディアの教えを信じるのは否定しないよ。
リズを嫌うのだって個人の自由だ。でもリズの関係者を攻撃するのはいただけない。嫌だ。こそは我慢しろよ。
頑なに強気で譲らなかったのはそういう思想だったからか……。
「すまない!」
問題発言からそう時間をおかずにグシャッと地面に押さえつけられたのはレントナード。悲鳴を上げたのがヴェルティーナ。
私はなんとも言えないよ。謝られてもなんも言えないし、エリーゼも気にしないでとは言わないだろう。
シオは性格悪いと思うし、凄いムカつく事もあるけど……なんで生まれ持った色で穢れてるとか言われないといけないんだよ。
そんな事言ってるとシオにゴミのように扱われる事になるぞ。シオさんはけっこう怖いんだぞ!! 知らないって恐ろしい。
でも、口に出さないだけで腹にこういう差別意識を抱えてる人も多いんだよね? ソレが自動的に頭に入ってくるってキッツ。シオさん人生ハードモード。よく毅然としてられるわ。
「何で!!」
「ヴェルティーナに教育を任せるべきではなかった。もういい。二人を連れて行け!」
「辞めなさい! 無礼ですよ! 離しなさい!」
アルクザードに付いてきていた執事が二人を連れて行こうとする。もちろん抵抗していたけど有無を言わさず退場。
暫くして、静かになってから再びアルクザードは頭を下げた。
「リヒノもエリーゼも……妻と息子が無礼を働き申し訳ない」
「…………」
ホントにどう答えていいかわかんねぇんだよ。
「本当に……です。お二人とも名乗ることもなく終始あの様子でしたから」
思い返せば初めから対等どころか下の下扱いだったよね。
「……ヴェルティーナは生まれこそ貴族の血筋だが……そう裕福でなかった幼少期にネヴェルディアの教えを信じて祈り続け、結果、色の濃さを理由にアルセリアスの養女になった故に熱心なネヴェルディア教の信者なんだ」
国教だし、信者がいるのも当然だよね。
ヴェルティーナは信じて救われたのだから尚のこと。
むしろ、セテルニアバルナの人間が宗教に対してわりかしフラットな考えを持っているのが不思議なくらいだ。
エルトディーンも初めてシオを見た時、驚きはしたけど差別的な行動は取らなかったし友好的だった。
カナンヴェーグは初めは怪訝な対応をしていたけど剣を交えた途端にまるでお友達だ。
セテルニアバルナのお屋敷に居る人は心の中までは知らないがシオに皆普通に接してくれている。アルクザードだってそうだ。
「(宗教は自由)」
紙に書き込んでみせた。
「本当にすまなかった」
何度も謝られても困る。
もちろん気にしてないわけではない。ただ、今後あの母子二人に優しく出来るかは定かではないというだけ。




