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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
アルセリアスでの茶木栽培
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セテルニアバルナの聖女爆誕




 再び私が目を覚ましたのはカナンヴェーグと会った次の日の朝。

 体が鈍って動かし辛い気もするけど、例の気持ち悪さは残ってない。清々しい1日の始まりだね。なんて、心にも無い事を唱えてみる。


 とりあえず、全員無事というのは聞いたから安心はしてる。「生きてるけど半身不随です」なんて言われたら嫌だけど、癒しでどうにかなる気がするので命さえあれば良しとしよう。


「良くは無いと思いますよ」


 清々しい1日の始まりを否定するのはもちろんシオさん。大怪我の可能性なんて考えもしなかったが、当然のようにシオさんは全くの無傷。

 いつも通りのふてぶてしさ満載の呆れた口調は絶好調の証明だろう。



「私に不都合はありませんが……貴女が随分と馬鹿な事をしてくれたから妙な事態に陥ってますよ。主に貴女が」



 つまり、私が馬鹿だから私が何かヤバいことになってるって??


 いやいや。何もおかしい事は無いと思うけど。いつも通り、いっぱい寝て私の体は完全回復してるよね??

 

「自分が何日寝ていたと思っているんです。アルセリアスに着いてから5日ですよ」


 

 まじか。通りで後から来るはずのカナンヴェーグがいるわけだ。

 

 セテルニアバルナの家に来た時の誘拐事件の際に二日程寝込んで以来、倒れても半日くらいで復活していたから、皆に怪しまれはしなかったかもしれないが、流石に5日は長いな。


 水も飲まなければ点滴うつでも無く、栄養補給を一切してないのに全くやつれることのない体、普通の人間なら意識が無くても体に必要な排泄はあるはずなのにそれも無い。


 世話をするはずの侍女は確実に異常を感じた筈だ。


「その辺はどうにか誤魔化してあります」

「……どうやってかは知らないけどグッジョブ」

「…………」


 じゃあなに?

 それ以外に問題になるような事あったかな。


 苗木を失って目的だった茶畑を作る事が出来なくなったとか? 

 だったらすぐに帰ろう。カナンヴェーグも居るし今度こそ安心の旅路だ。そして二度と来るものか。


「違います。貴女が行った異常な程に強力な癒しが神殿の神官でも治せない傷を癒したり、あの土地自体に影響を与えた故に、あの場にいた騎士や噂で聞いた領民から聖女などといって拝まれているんですよ。……良かったですね」


 なんですかその心のこもっていない「良かったですね」全然良かないわ。

 大体聖女ってなによ??

 ガラじゃねぇよ。何処にこんな自己中面倒臭さがりのやる気なし聖女がいるんだよ。分け隔てない慈愛の精神なんかねぇからな。



「私もその点、不相応な呼称だと思います」



 自分で言うのはいいけど、シオが言うと無茶苦茶失礼に感じるな。スゲェ腹立つ。

 まぁ、不相応な聖女爆誕をリザの信仰に結びつけられれば、リザの復活に一歩近づくのだろうけど……。


 表には立ちたくなかったなぁ。出来ればシオさんを表に立たせたかったなぁ。まぁ、聖女とか言われてるっていっても大した事ないんじゃないかと思うけど。


 日本で生活してた時に例えるなら、出身校から全国大会出場者が出たくらいの関心だと思うの。関わりなけりゃ何とも思わないくらいの……ね。


 私はシオとの会話から情報を受け取りつつようやくベッドから降りて朝の準備を始めた。シオさんがいるけどお構いなしに魔法で温水をかぶってスッキリする。本格的に入浴しないのであれば洗顔も汗ふきもコレで十分だ。水分はすぐに飛ばしてサッパリ。


 着替えは侍女がいなのをいい事にゴテゴテしてない一人で着れるワンピースをチョイス。


 シオさんちょっとむこう向いてな。


 子供の体だからそこまで気にしなくて良いとは思うけど、ホイホイ見せるほどオープンでも痴女でもない。シオが後ろを向いたのを確認した上で、広い部屋の隅を陣取りコソコソ着替える。


 深いため息がシオから出たのは聞こえるけど知らないぜ。


「(異性と同室で着替えている時点で痴女なんですよ)」


 呆れた口調のリザの声が頭に響く。

 シオは言葉にするのが嫌なくらい呆れてるらしい。うん。知らんがな。土の家で暮らしてた時もこんなだったじゃん。今更なんだよ。


「(少なくとも、その頃より成長しているでしょうに)」


 っても、11歳の私の体はつるペタだよ。つるつるだね。毛さえないね。第二次成長はまだ先ですわ。えぇ、まだ余裕です。


「(貴女のそういうところが本当に信じられません)」

 

 下品で申し訳ございませんでしたー。



 なんて、会話をしつつ、着替えが終わったのでシオさんにもう大丈夫だと伝える。

 今まで着ていた寝巻きをたたんでいる私を見るシオの視線は非常に冷たい。



「…………。貴女の寝ていた間の世話は普段通りエリーゼが担当していました。もうすぐ戻ると思いますけど……まぁ、うまく扱ってください」



 エリーゼをうまく扱うってどういうことさ。彼女は何も言わなくても察して色々やってくれるスーパー侍女だ。うまく扱うどころか、私がうまく扱われてる自信がある。


 ていうか、先日大怪我したばっかりだってのに速攻で仕事復帰とかもう少し労ってやれよ。ブラックだなおい。



「セテルニアバルナの雇用人ですから貴女なんかよりずっと精神的に安定しているので、すぐに仕事についても問題ありません」


 鬼かよ。


「……。人から見たら不自然だと貴女が感じている箇所は彼女が黙認しています。まぁ、隠し通す事は難しかったのですから、協力者を得たと思えば……よかったのでしょうね。ウェンディに侍女をさせるのは無理でしたし」


 排泄ないとか食べなくても生きてるとかそういうヤツはエリーゼにはバレているってことね。うん。バレるよね普通に。


 てか、ウェンディが侍女?? 私に内緒でそんな事計画してたの?? だから、あの人メイド服着てセテルニアバルナの屋敷うろうろしてたのね。

 

 ははは……無理だろ。無謀すぎる。

 



 ガチャリ



 軽いノックの後に開いた扉。

 その先にいたのは湯桶を抱えたエリーゼ。大方、私の体を拭いてくれようとしていたのだろうけど……。彼女が五体満足な姿で動いているのを見てどこか安心している自分がいる。


 自分を守って誰かが死んだら私は立ち直れないし、自殺ものだわ。現状死ねないから仕方なく全て放り出して天岩戸に引きこもると思う。



「リヒノ様!! お目覚めになったのですね!!」


 コクリと首を上下させて返事をする。


「何処かお辛いところはありませんか? 無事に意識が戻って本当に良かったです。凄く心配したのですよ」


 湯桶を一旦置き、涙を浮かべながら私に迫るエリーゼに半歩ほど後ずさる。ごめん。勢いが良すぎてビビったんだよ。引いてごめんなさい。


「あぁ、少しお待ちいただけたなら私が朝の支度をしましたのに。お召し物も何故そんな……。いえ……お髪は私が整えさせていただきますわ」


 口元を隠してお目々をウルウルさせながら言ってるけど、私の服のチョイスに不満ありげというか、なんでそんなみすぼらしい物を着てるんだって声に出さずに飲み込んだのが丸わかりですよエリーゼさんや。


 体自体は完全回復しているけど、病み上がりにゴテゴテドレスなんか着てられないよ。ギルド活動や庭いじり用の身軽なワンピースが一番楽なんだもの。コレでいいじゃない。良いよね?


「エリーゼも戻りましたし、貴女は支度もあるでしょうから、私はカナンヴェーグ達に貴女が目覚めた事を伝えてきますね。今後の予定は決まり次第また伝えます」



 気持ち悪いともとれるニコニコの愛想笑いを浮かべたまま、シオさんは逃げるようにして部屋を去って行った。


 状況がいまいちわからない。


「リヒノ様、外は先日の件で少々混乱があり、今後は今までのように過ごす事が出来ないかも知れませんが、私、エリーゼはリヒノ様に救って頂いたこの命、リヒノ様のために誠心誠意ご奉仕させていただきます」


 膝をつき、私の手を包みその手に額を当てて拝むような行動を取るエリーゼ。

 ごめん。めちゃくちゃ引く。薄情なヤツでゴメン。


 重いよ。いらないよそんな忠誠心。

 私、そんなつもりで助けてないし。

 むしろ、私が油断しててエリーゼを怪我させてしまったんだし。痛かっただろうに。なんでそうなるのさ。私を恨むくらいあっていいと思うぞ。


 フォイフォイ助けた時みたいにエリーゼと手を繋いだからって一時的なテイコが結ばれるわけではないみたいだし……。


 伝えたい。この気持ち。


 「(普通に接してください)」


 そっと、手を引き抜いてベッド脇の紙とペンを取り書き込んだ。



 「……善処します」



 そう答えたエリーゼは、普段通り……とはいかず、やや凝り気味に髪をセットし出すのだった。

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