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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
アルセリアスでの茶木栽培
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いざ辺境の地へ

  



「ほぅ。これが茶なのか……」


 悪くない。


 エリーゼの出したお茶を堪能しているのは、先程、ウェンディと共に庭で暴れ回ったアルクザード。


 彼は三人兄弟の末っ子であるエルトディーンの真ん中の兄で、普段は婿入りした辺境の地で力を振るっているが、仕事で王都に立ち寄ったついでにセテルニアバルナに挨拶を……と、ユズリハを訪れたらしい。


 確か、辺境を治めるのはカナンヴェーグの弟で未だ現役で国境を守っているとの事。夫人との間に子を授からなかった故に二十年程前に娘を養女にし育て、セテルニアバルナで屈強に育てられたアルクザードを婿入りさせたのだと聞いている。


 うん。

 だからどうした??

 なんで、私はそんなアルクザードさんとお茶してんの??


「して、この茶葉はどこでどの様にして作っているのだ? 原料は??」


 思いのほか好奇心旺盛かな?

 若干食い気味の反応でシオに詰め寄る。


「カナンヴェーグは暫くの間はごく少量をユズリハで生産するつもりのようですが……」

「という事は、この地に元となる植物はあるのだな」


 今はお茶を作れるのが私だけの状態だ。お茶の製造や管理が出来る者が育っていない為、他の地で大規模に生産するのはまだ早いとの判断されたのだ。

 初年度は王都シルビナサリの需要に足れば問題ないという考えらしい。

 故に、今年はユズリハで畑の周りを囲うように植えていた茶木以外にも茶畑を用意し、去年よりは量産できるように対策はたてている。


 茶木は接木で増やすわけでわなく、小枝を土に挿して魔力を注ぐ方法で存外簡単に増やせる事がわかっている。私にかかれば茶木を増やすのにそう時間はかからない。なんなら、まだ今年の収穫に間に合わせる事だってできる。


「規模の大きな温室は無さそうだったが路地栽培なのか?」

「野外で栽培してますね」


 トルニテアのお茶は基本温室栽培のハーブが原料だけど、そんな事聞いてどうすんだ?

 根っからの武人……というか騎士であろうセテルニアバルナの人間が植物なんかに興味を持つのか?

 仮にも、先程までウェンディと暴れていた奴だぞ?


「その植物は辺境の地でも栽培は可能か??」

「辺境というのは、貴方の住む領土の事でしょうか?」

「あぁ」


 彼の領土というのは、北を隣国に接した防衛の要。ここより寒い地域ではあるけど極寒の地ではない。

 アドレンス自体がトルニテアにおいて暖かい地域にあるし、無理な事はないんでないかな。


「……無理な事はないでしょう。ただ、確実に育つとは保証出来ません」

「構わん。よし!! 苗を買い取りアルセリアスで育てようぞ!!」


 は??


「苗の買い取りと言いますが、苗をお売りしたところで普通に育てれば収穫可能になるまで相当な年数がかかりますよ。領地運営の利にはなり得ないかと」


 うん。苗の状態まで育てたモノを売っても一般の人が魔力供給なしで育てられるのかってのはわからないよね。ここの土壌はゴブリンさんの魔石が眠ってるし、薄れてはいるもののリザの加護がある土地だからうまく育っただけかもしれない。それは、茶の木に限らず他の地球の野菜にも言える。


「やらねばわからんと言うなら、やってみるしかなかろう!」


 むちゃくちゃだな。

 そりゃそうだけど、普通は小規模で試してからやるもんだろ。一年目はよくても二年目がどうなるかわからないし。


「そうと決まれば準備だ!! 苗が用意でき次第領地に戻る!!」


 普通、そんな簡単に用意出来るかよ。や、トルニテアの魔法ありきの常識ではあり得る話なのか?


「(普通は無理でしょう)」


 だよね?

 シオさん教えてくれてありがとう。って事で無理だ。嫌だ。どうぞお一人ですぐにお帰りください。


「……無茶をいいますね。せめてカナンヴェーグに話を通してからにしてください」


 そうだ! そうだ! シオさんよく言った。保護者に話を通すべきだ。本気で茶の木の栽培を始めるのなら私が直接行かねばならないはず。他国と睨み合いの続く辺境に行く? 到底無理だ。カナンヴェーグの許可が降りるはずがない。






 と、思った私が馬鹿だった。


「行ってくるといい。王都以外の土地を直接見るのも悪くはない。そもそも茶の木はリヒノが居らねばは増やせぬ。暇のある今のうちに増やしておくのがいいだろう」


 夕食時、テーブルを囲み晩餐を取る最中にカナンヴェーグが言った言葉に眉をひそめた。

 いやさ。義理とはいえ娘にした11才の子供を他国との睨み合いが続く辺境に送るか普通。

 お前が今食べてる食事の野菜を誰が育てたと思ってんだ。デザートのレシピは誰が教えたと思ってんだ。私がどれだけセテルニアバルナの人間の舌をこやしたと思ってんだ。元のトルニテア料理に戻れないくらい気に入ってるくせになんて仕打ちだよ。


「なに、辺境とは言えアルクザードと居ればまず危ない目に遭うことはない。ワシの弟もまだ現役だ。何が起ころうとも心配は要らん。それに、あの地に新たな産業をもたらす事はあの地に住む人々のためにもなる」


「どうだ、お爺様の許可は得たぞ!」

「………….」


 ドヤっとした得意気な笑みを浮かべ、私を見るアルクザード。なんて殴りたくなる素敵な笑顔だろう。


 年齢的には年上でも、立場的にはお前は私の甥だぞ。


 私はシオさんに助け舟を求めて視線を向けたのだけど……。シオさん。完全我知らずで優雅にお食事してるし!!


 もう知らん。なるようになれ。



 この時の私はもう一度あの地獄を見ることになるとは思いよらなかった。

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