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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇蛇の塒にて◇
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緑のキモい生き物

 


 どれくらい歩いたか、日も高く昇りきった頃に集落の跡地にたどり着いた。



 白蛇は移動中は結界に集中してもらっていたし、把握できてない能力で私が戦闘など出来るわけもなく、魔物と遭遇した際は毎回息を殺してやり過ごした。



 その間、毎度、寿命が縮む思いをしたが、おそらく私の寿命は縮むどころか不老とか言うおそろしいオプションで果てなく伸びている。



 今後、逃げてばかりではいけないと言うのは頭で理解しているのだが、魔物と戦うのは気が引ける。



 正直言うと、魔物とか害獣的な存在でなくても生き物殺すとか無理なのだ。極力死には触れたくない。



 だからといって平和主義でも、草食主義でも無いんだけどな。



 そんな私だが、今、非常に死に触れるか否かの選択を迫られている。



 森を抜け、集落跡地にたどり着いたはいいが、建物や人間の残した道具を利用しコロニーを作ってる緑の魔物がいたのだ。なんというか、集落跡地を、利用しようとしていた私の知能はこの緑の魔物と同程度なのだろうか?と、悲しくなる。




 ソイツらは人型に近い形をしているが、尖った耳、緑色の体色、飛び出してる犬歯、大きさは小学生低学年くらいで、明らかに人とは違う。


 そんなに脳みそが入ってなさそうな顔した奴らが、そそこらをウロウロしていた。



 みんな腰に蓑を巻いていて、私と共にいる白蛇よりは文化的に思えてくる。キャミソールに短パンの私が寒いと感じない気候なのだから……防寒で蓑を巻いてるわけではないだろう。だとしたら、急所を守るため、もしくは緑の小人に羞恥心が有るって事だ。





「……流石にゴブリンに劣るとは言われたくありません」



 白蛇がひどく嫌そうに言った。


 彼としては凄く不名誉な事なのだろう。私もあの緑の生き物と比べられたら不快な気分になるだろうけど、白蛇の事はあまり気にもとめずに、なんか聞いたことあるファンタジー生物の名前だな。なんて思いながら集落の様子を観察する。



 集落の周りには朽ちた木製の柵があり、その中にはボロボロの民家が8軒ほど、壁面は石造りなので辛うじて形を残しているが、家としての機能を果たしている建物は2軒ほどだろうか。それでも、屋根に欠陥はありそうだ。


 民家の中の様子まではわからないが、外の見える範囲だけでもゴブリンは10匹。


 何か困りごとでもあるのか私に理解できない言語で真剣に話合いをする4匹。それから、煮炊きのような行動をしている3匹。食べモノを作っている風だが、その割に良い香りは漂ってきていない。



 残りの三匹は石を木の棒に固定した斧のようなものの手入れをしている。薄い石を更に鋭くする為に研磨していたり、丸みをおびた長方形の石を棒に固定しようとしている。主に殴る目的で使用されるであろうそれらの武器を見て連想するのは原始時代。コイツらはマンモスでも狩る気なのだろうか?




 それから、疑問に思うのが全ての個体が腰に蓑を巻いているところ。どうにもコイツらオスくさいのだが、メスは建物の中にでもいるのだろうか?


 でも、煮炊きもオスがしているとなればメスは何をしている??



 なんて、考えていたら……




「この種にメスは存在しませんよ」


「は?」



 ゴブリンは雌雄同体? って事か。

 哺乳類っぽいけど、緑だし、植物みたく雄しべと雌しべを一つの個体で持ってるって事?


 もしくは、大きくなったら一部の魚……有名どころで言うとクマノミみたく性転換するのだろうか。



「てか、あれ、ちっさいけど子供な訳? 」



 親は出かけてる的な? 子供にちょっかい出したら怖いよ!! 的なやつ??




「ゴブリンはあのサイズで成体です。さっきも言いましたが、オスだけしか存在しません。それは、異種のメスと交尾する事で子を成す事が出来るからです」




 同種のメスが居ない。必ず異種のメスと交尾しなくてはならないのなら、ふつうに考えたらどんどん純粋なゴブリンの遺伝子は薄くなっていくはずだ。



 なのに、そんなようすは見てとれない。

 みんなそっくり。みんな緑。まったく違いがわからない。



 行き着く答えは、超スーパー優性遺伝で他の遺伝子を半分持っても見かけはゴブリン! と言うわけではなく、子は親となったゴブリンのクローンなんじゃないか? と言う事。


 ゴブリンは受精卵的なモノを体内で作ることができ、それを異種のメスに植え付ける。メスはただの苗床。謂わば托卵なのでは? そう思うと恐ろしい。



「怖っ」



 どの種のメスもあんな緑の小人に襲われたかないわ。


 眉間にしわを寄せる。




「異種のメスとは言いましたが、主に人間のメスを好みますね。弱く、蹂躙(じゅうりん)しやすいですので」


「…………」



 暴力で従わせ、暴れるようならその手足を落とし、死なないように止血する。そうやって、無抵抗のメスを犯し孕ませるのです。



 淡々と語る白蛇。


 あまりの内容に全身に鳥肌が立った。




「この地は、人が住まなくなってしばらく経ちますし、側にある王都は警備が厳重で侵入など出来ません。メスを狩る機会があまりなく、あのゴブリンどもは随分と欲求不満のようです」



「…………」



 さっきの謎言語の内容はそれか。

 女が居ない。どうやって手に入れる?? と、相談してたのか。最悪だな。



 耳を塞ぐ。




「聞きなくないと思っても現実ですよ。貴女など格好の獲物でしょうね」



 無情に言い放つ白蛇が憎ったらしい。打開策を考えて言うわけでもなく、現実だけを叩きつけてきやがる。



「もう、死にたい」



 ゴブリンと対峙したくない。()るのもヤラれるのも勘弁だ。もう、諦めようぜ? リザの復活。どうにかして楽に死ぬ方法を考えよう。




「死ねませんよ。貴女の身体はリザ様の力を得て簡単に朽ちる事が出来ないのだから。多少の傷は直ぐに再生しますし、老いもしません。酷く犯しても死なないし、子を孕み続けられる。ゴブリンにとって、それはそれは優良な苗床ですね」



 何その地獄

 不老の地獄に更なるエンドレス妊娠オプションとか無理だから。

 淡々とリザの幼女声で言うなよ。マジで。



 嫌だよ。

 トルニテア最悪だよ。

 こんな世界滅びろよ。

 ゴブリン絶滅しろよ。



 現実を呪う私。



 今は、もちろん白蛇の結界の中にいるのでゴブリン達には私の存在を気付かれていないが、もし、気づかれたら?



 襲われて反撃はできるのか。撃退可能なのか。

 今まで、息を殺してやり過ごしてきた魔物が目的地に住んでいるのだから、いくら待ったどころで離れていくことはないだろう。



 白蛇は使えるのか? 結界を解けば攻撃に力を回せる? 一応、人間の男にもなれるのだから体格的にも優るし、なんらかの魔法が使えればとうにかなるんじゃないだろうか。



 魔法が使えないのであれば、体格が優っていても10匹もいるゴブリンにタコ殴りにされたらやられてしまうだろう。



「因みに、私は攻撃系の魔法はあまり……」




 おい、頼みの綱!! 早々に戦闘辞退するなよ。毒の精製できるんだからさ、毒弾!! みたいに毒を飛ばすとかないの??


 小さな蛇になれるんだし、大きくもなれるんじゃないの??


 踏み潰してしまえないの?

 なんて、自分で戦う気ゼロだ。期待ばかりしてスマンな白蛇。



 真面目に自分で状況を変える手段を考えてみる。

 リザは土、水に相性が良いらしい。先程、ウサギを誕生させることができたのだから、同じように土からゴブリンを退治してくれそうな生き物を造れないだろうか?


 仮に、猛獣を造れたとしても暴れて逃げだウサギと同じく私の言う事をきくとは思えない。そうなると、私の身も危険だ。つまり、無いな。



 だとしたら、土で直接攻撃は可能か?

 もしくは、ゴブリンの血液中の水分を弄る事が出来るなら……と、ゴブリンを見つめて爆破でもしないかなと念じてみるが無理なよう。



 まぁ、そうだよね。

 私人間ですので。

 当然ですよね。

 うん、出来なくて良かった。


 と、割と人外になった自分に言い聞かす。



 次は地面に両手を当てて、土で出来た棘をイメージしてみる。厨二であればアースニードル的な名前を叫んで繰り出したそうな技。ま、出るわけないけ ど な ……っ!



「…………」



 言葉をなくす。



 地鳴りと共にゴブリンの悲鳴。と言うか、断末魔が響き、地面から剣山のような硬質な土が次々の生えてきてゴブリンを貫いたのだ。


 それらは全て3メートルくらいの高さがあり、串刺し状態で私の遥か上にあるゴブリンの死体から血の雨が降り、地面に血溜まりを作っている。



 しかも、現れた剣山は広範囲および、私の手元から集落全体に広がって、使えるのではないかと思っていた民家も全て蜂の巣。……や、穴は多数空いたが、土が未だに貫通した状態は蜂の巣とは言わないのか?ともかく、全壊。



 視認できていたゴブリンもそれ以外も全てが絶命してるだろう。もう何もかもぐちゃぐちゃだ。凄まじい威力だ。リザの能力はガチでヤバイ。



「これ、元に戻るの?」


「あなたがそう願えば」




 願うだけでこれだけの変化を起こせるとか、改めて人外になったんだなと、死に触れたくないとか思ってたのに人型の生物殺してしまった……と悲しくなってくる。



 辛い。辛いけど、目の前の光景をそのままにして置くのも辛いので、早速元に戻そうと思う。


 戻すついでに、がっつり死体も地中に取り込んで肥やしになってもらおう。微生物さんどうか頑張って分解してください。と祈る。




 再び、地面に両手を当てて平らな地面を願い、元に戻して立ち上がった私は、やっと目的だった集落跡地に踏み込んだ。


 求めていたモノは残っていないけどな……




 さて、これからどうしたものか。

 瓦礫、家の残骸、木片、それらが散らばる土地が広がっている。



 白蛇に意見を求めようとした時、立ちくらみを覚えた。視界の隅から黒い靄がかかって視野が狭まっていく。


 この感覚知ってる。貧血の時とかになるやつ。

 大概、少し屈んでじっとしてれば良くなるし、それで意識を失った事はないけど……今回は少し違うよう。



 既に、目を開けても閉じてもなにも見えない。バクバクと血液を身体中におくる心臓の存在をすごく感じる。



 意識が遠 く な る ……




 落ちる瞬間、暖かいモノに包まれた気がした。



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