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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇セテルニアバルナの一員として◇
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憂鬱なお茶会の始まり




 嫌だ嫌だいやだ。

 助けて。助けて。たすけて!



「早く!!」

「……!!」


 アリステリアの誕生日パーティー当日。

 面倒そうなお茶会を自分の部屋でやり過ごすつもりだった私は、お茶会の準備や着替えを勧めてくるエリーゼを完全無視して、何をするでもなく寝巻きのままベッドに転がりダラダラしていた。


 しかしながら、準備不十分を理由にパーティーへの参加を拒否するという私の思惑は、メイド達と共に押しかけてきたアリステリアによって打ち崩される。


 問答無用で複数のメイドに押さえつけられた私は、やめてくれと声を上げる事も出来ずにジタバタともがくしかなかった。



「大人しくなさい」



 自分の半分も生きていない少女に叱られるのは大人としてどうなのかと思うけど、それどころでは無い。


 肌が触れている場所からゾッと悪寒がするし、鳥肌が止まらない。恐怖にも似た感覚で体の力が抜けるのだ。ヤメてほしい。勘弁してくれ。嫌。本当に離して。無理!


 抵抗虚しく解放されることないようで……。何よ。コレ。涙でそう。


 あれこれとドレスをあてがわれた後、アリステリアが「コレにして」と指示を出したのは真紅のドレス。


 そう。初めて王都に来た時にエルトディーンが私に買い与えたドレスだ。


「そのままの方が似合いますけど……第二王子がいらっしゃるから髪は隠してちょうだい」

「かしこまりました」


 不安になる言葉が聞こえた。

 え、なに??

 第二王子がいらっしゃる??


 ………………。


 第二王子ってフォイフォイの弟だよな。フォイフォイの一大事に騎士団連れたままお馬さんに乗ってた奴だよな??


 あ、い、た、く、ねー!!!!


 マジか。王子様招待しちゃうか。そうだよな。三大貴族の御令嬢だもんな。誕生パーティーに王族が招待されててもおかしくはないよな。


「私が望んで招待したわけではありませんわ。親しい御令嬢だけでお茶会を楽しみたかったのに、第二王子が来たいと駄々を捏ねたのです。おかげで、令嬢ばかりに囲まれて王子が退屈しないよう、同年代の貴族の子息にも招待状をださねばならなくなって、思っていたより規模が大きくなってしまいましたの」


 第二王子が来るのはアリステリアも望まない事だったらしい。


 女の子だけの楽しい誕生日パーティーのはずが、主役以外の人間に気を使う気まずいパーティーになる可能性がでてきた。


 王子はフォイフォイの時の対応からして、そんなに気が効くタイプじゃない。気が効くならば、呼ばれてもないパーティーに来ることはしないだろう。

 あと一時間もすれば始まるパーティーが憂鬱で仕方ない様子のアリステリアを不憫に思う。


 けど、その不穏なパーティーに私を道連れにするのはヤメてくれ。私、パワータイプじゃないからセテルニアバルナのメイドの腕力に勝てないんだよ。なんだよ。おたくら一般人じゃないのかよ!!


 こんなドレス破ってしまえば……。

 ベンジャミンに齧ってもらえば……。


 現実逃避も無駄で、凄い勢いでパーティー仕様に仕上げられた私はアリステリアに手を引かれ庭園に用意された会場へ向かった。


「今日はお招き頂きありがとうございます」

「お誕生日、心からお祝いいたしますわ」

「セテルニアバルナの庭園の素晴らしいこと」


 聞こえてくる言葉を左から右、右から左へと聞き流し、アリステリアの隣に並び来客者を迎え入れる。どうせ口を聞けない設定の私は会話しないし、ニコリと笑っていればそれでいい。


 面倒な会話はアリステリアがしてくれるし、なんなら私の紹介までしてくれるのだ。しっかり甘えておくべきだと思う。こんなゴテゴテのドレス着せられてるんだからな。


 開始時間になると大きめのテーブルに用意された席はほとんどうまり、いろとりどりの頭が並ぶ。


 改めてトルニテアのカラフルな髪の色に引きつつ目を細めたら、アリステリアが横から攻撃を入れてきた。失礼な事はするなとでも言いたいんだろう。


 城下の平民はパステルカラーだからそうでもないが、ここに集まった令息令嬢はビビッドカラーに近い。彩度が全くちがうのだ。目がチカチカしてしまうのは仕方がない。


 今日の主役のはずのアリステリアは一番の上座を空けて席につきパーティー開始の挨拶を始めた。本日はお集まり頂きありがとうございます。とか、おもてなしをご用意したので楽しんで頂けたら……とか。そう言うやつだ。


「それから、私の隣にいますのがリヒノ。ご存知の通りカナンヴェーグ……私の曾祖父様が先日養女にした者ですわ。今後、会うことがあれば仲良くしてくださると嬉しいです」


 リヒノ。どうしてもヒノという二音は貴族社会で受け入れられないからとつけられた名前だ。もっと長い名前も候補に上がっていたが、ヒノと呼んでも聞き違いと思われる可能性が高いリヒノに決まった。


 ぶっちゃけ、今後関わる予定も無い人間に態々偽名使ってまで紹介しなくてもよくないか?

 拠点……ユズリハ村の環境が整えばセテルニアバルナのお屋敷からはおさらばするんだからさ。


「お待ちしておりましたわ。本日はおいでくださりありがとうございます」


 延々と文句をたれていた私は、アリステリアの声に反応して少しだけ顔を上げた。


 明らかに他とは違う煌びやかな衣装。濃い茶色の髪、遅れた事を詫びる事なく当然のように上座に座る少年。


 きっと、あれが第二王子パレアターナルフェンフェンなのだろう。王族の名前は長すぎるわ。あだ名はフェンフェンで決定だ。


 さっさと王子である私をもてなせ!! とばかりに踏ん反り返った態度のフェンフェンに苛立ちを感じつつも、私が気になるのは王子と共に現れた紺色の長髪の少年だ。


 王子の代わりに謝罪を入れ、柔らか笑みを浮かべている彼がどうも気になる。


 別にかっこいいと感じたとか、一目惚れしたとかじゃ無いんだ。どこかで見たことがあるような……。


 それより、フェンフェンはこのパーティーをなんのパーティーだと思っているのか。やってきた途端に自慢話を始めた。


 興味のない話を延々と聞かされる方は疲れるし、身分上、彼の話を遮る事のできる者がいない為終わりが見えない。


 此処には子供達とパーティーを準備してくれているメイド達だけだ。カナンヴェーグやエルトディーンの父親の騎士団長であれば嗜めることもできるだろうけど……。何か理由をつけて様子を見に来てくれないだろうか。



「ーー聞いているのか!! そもそも、なぜ、その女は私に挨拶もしないのだ!」



 フェンフェンの苛立った声が会場に響いた。


 やべぇ。多分私だ。適当に聞き流しているのがバレたらしい。だって、ガチでどうでもいい話だったんだもの。

 それに、私を紹介する間を与えずに延々と話し出したのはフェンフェンなのだから、怒られても…………ねぇ?



「落ち着いてください。この子は声を出すことができないのです」

「カナンヴェーグは平民の上にこのような欠陥品を養女にするなど、ついにボケたのではないか」


 カナンヴェーグと私を侮辱しつつ、パーティーを台無しにする馬鹿を本当に稚拙だなと可哀想に思う。


「今、この国に長年貢献してきた曾祖父様を侮辱なさったのですか!」


 我慢ならんと声を荒げたアリステリアの前に手を出し、乗り出す勢いの彼女を止めた。


 馬鹿に怒ったって仕方ないのだ。馬鹿は人の言葉を正しく理解できないのだから。

 きっと、その内誰もフェンフェンに注意もしなくなる。既に裸の王様になりかけてるガキにリスクを犯してまで反抗する必要はない。


 私はゆっくりとした動作で椅子を立ち、ドレスの裾を広げて中腰になり首を垂れる正式な挨拶を行い、申し訳無さそうな表情を取り繕った。



 馬鹿の発狂はこれでおさまるだろう。


 そう、思ったのだけれども。


 重いドレス。膝がプルプルしてきたというのに、馬鹿から声がかからない。いい加減顔を上げろとか、もういいとか言えよ。


 イライライライラ。


 なんなの?

 どうせ、プルプルしているのを見てニヤニヤ笑ってるんだろうけどさ。


 もう、なんでもいいよ。ウェンディでも誰でもいいよ。乱入してきてくれないかな?

 いっそ倒れるから、退場してもいいかな?



「殿下、もうよろしいのでは?」

「まだだ」

「この場はセテルニアバルナの御令嬢の祝いの席ですし、養女とはいえ主催者のご家族ですから。それに、体もそんなに強くはないと聞いています。無理をさせる事で倒れてしまえば殿下の責任となりますよ」


 うぬぬ…………。


 フェンフェンの連れの紺色頭の少年が、フェンフェンを説得しようとしてくれているけど、まだまだ粘ってくる。私にプルプルを強要してくる。


「ふんっ! もういいだろう」



 漸く姿勢を正す許可がおり、静かに深呼吸をした後、ゆっくりと顔を上げた。


 その際、紺色頭の少年とバッチリ目が合い、驚きのあまり、暫し固まってしまう。

 対する少年も理由は不明だか動きが完全に止まっている。


「なっ、お前!!」


 と、フェンフェンも驚いた声を上げていたけど知らんがな。


 それどころじゃない。

 なんだコイツ…………。


 その大きな瞳を見開いていたら、コイツ、まるで髪に色のついたシオじゃないか。

 所々、違う箇所はあるけどそっくりなのは間違いない。


 シオの家系の子孫??

 隔世遺伝??


 答えはわからないのだから、とりあえずこの場を取り繕わなければ……。


 気を取り直し、ニコリと笑顔を携え、「どうかしましたかしら?」と言わんばかりに小首を傾げ、私はもとの自分の席についた。

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