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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇セテルニアバルナの一員として◇
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引越し業兼橋職人への任命



(エルトディーン視点)



 今朝、祖父から蛇の塒のシオ達の拠点に行き彼等の荷物を引きあげてこいとの指示を受けた。

 本当に急な事で、私は日が暮れる前に仕事を切り上げる必要性があるうえに、明日から工事が行われるので職人が資材を運び入れる事ができるよう橋を築いてこいとまで言われた。


 ヒノが拠点から離れいる今、あの溝には橋はかかっていない。


 シオやウェンディはあの深い溝など気にせず出入りをするかもしれないが、職人は一般市民だ。拠点に入るためには砦の周りにある溝に橋をかけるしかない。


 生憎と私には土の属性がないため、溝を土で埋めることも、岩を積み上げることも、植物で橋を築くことも出来ないからどうしたものか……。


 土の魔法が使える貴族に応援を頼もうにも、あの拠点の存在を伝えて問題ない人間は限られてくる。すぐに頭に浮かんで来たのは先日のカトリアンクスのスイードサフィールだが、全く親しくはないし、突然に連れ出す事もできないだろう。


 祖父を前にして額に手を当て考えていると、祖父は呆れたように目を細め、首に手をやり、フゥと息を吐き出した後、机の上にドンと酒瓶を乗せた。


「持っていくといい」


 ………………。



 何故、酒なのだ。



 しばらく、理解が追いつかずに呆けてしまったが、酒の銘柄を見てようやく祖父が言わんとしている事がわかった。


 ヘスティアだ。


 この酒を見返りに彼女に協力を仰げと伝えたかったのだ。

 祖父は常々ヘスティアには関わるなと言い、まるで犬猿の仲とばかりに顔を合わせれば喧嘩腰の言葉しか発しないが、ヘスティアの好きな銘柄をこうして出してくるあたり、ヘスティアの現状の把握に人を使わせているのだと思われる。


 表立って構うことはなくなったが、私と共に過ごした幼少期も、平民となり大人になった今も孫娘であるヘスティアを思っているところは変わっていないのだと気付かされ、すこし嬉しく思う。


 私は挨拶をして祖父の部屋を退出したら、その足でヒノの眠る部屋に向かった。


 ヒノは一昨日、そして昨日と、暗い雲が空を覆いシトシトと雨が降り続く間、全く目覚める気配が無かった。明け方にその雨も収まり、雲間から光が差し込んでいるが彼女は目を覚ましているだろうか。


 期待しつつ、ヒノ付きのメイドのエリーゼと共に部屋に入ると、私の兄の娘、姪のアリステリアがヒノを床に押さえつけている最中で、驚きで言葉を失ってしまった。


 すぐにアリステリアを退けさせたが、床に伏せたヒノに手を差し伸べるか迷う私を見て小鬼が揶揄いの言葉をかけてくるので、逃げるように仕事にむかった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 仕事を終え、ヘスティアの酒場へ向かう。賑やかなのはいつもの事。まだ、日も暮れていないと言うのに、ギルドの人間、街の商人、仕事上がりの兵士、職種を問わず大勢の人で溢れていた。

 先程詰所で見た顔は皆、私を見てビクリと肩を震わせていたが敢えて触れないことにする。


「あらん。珍しいお客様。今日はお一人?」


 戸をくぐってすぐの位置でヘスティアの姿を探していた私に、薄桃色の髪の配膳担当の女性店員が声をかけてきた。


 初めて会うわけではないが、夜の時間帯に店を訪れる事が少ないので接する機会はあまりない人物だ。

 波打つ長い髪を高い位置で束ねた店員は、私の腕に絡みつき豊満な胸を押し当てては甘ったるい声で空いた席に誘導する。


 年頃の娘にこのように接触されれば鼓動が高鳴るものなのだろうが、不思議と私の胸は静かで、逆に拒絶を覚えた。



「店主に用がある。呼んでもらえないか?」



 店頭にいないヘスティアを呼ぶよう頼むと、パチパチと数回瞬きをした後に「私には全く興味がないのね。残念だわ」と言い残し、店の奥へ歩いて行った。



 しばらくすると、獣人の少女を連れたヘスティアが荒い動きで足を組み正面の席に腰掛けた。



「で、何のようさ。調書は十分とっただろ?? 当日、急に時間を開けておけとだけ手紙をもらっても、こっちにも都合ってもんがあんだよ」


 獣人の少女はヒノと共に拐われた少女だろう。ベッタリとヘスティアにくっついて離れない様子。


 かなり怖い思いをしたのだろう。兵舎での取り調べで事件を思い出させる内容の質問を多く投げかけられたのかもしれない。



「それはわかっているが、誰にでも話せる内容ではないのだ。今から共に橋を架けてほしい」


 何処にとは言わないが、恐らく伝わっているはずだ。


「おいおい、いつからアンタは橋職人になったんだい?」

「なった覚えはない。お爺様から明日から使う橋を作るよう押し付けられたのだ」

「はっ! ジジイが相手なら急でも有り得ない話じゃないな」

 

 異次元収納から朝預かった酒瓶を取り出しテーブルに置く。

 


「コレでどうだろう」



 ヘスティアが好む酒。そう希少なものでもないが、高価で市井にはあまり出回らない品だ。



「はんっ! 糞爺のくせにいい趣味してやがる。レイティも連れてくけどかまわないよな」

「構わない」

「すこし待ってな」



 一度、店の奥に下がったヘスティアが準備を終えて戻ったら、馬を借り塀の外、南の草原へ三人で繰り出した。






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