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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇セテルニアバルナの一員として◇
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不真面目な生徒が可愛がられる不快な不思議

 着せ替え人形に徹した後、館内を案内される。


 最中、エリーゼが色々と語ってくれるが、セテルニアバルナの歴史とかどうでもいいし、どれだけ王族に仕えてきたとかその熱量を語られても私はスゴイ! 尊敬! 抱いて! とはならないし、セテルニアバルナの家門で無属性の魔法が使えるのは現当主であるカナンヴェーグとエルトディーンのみだとか……。


 うん。


 マジでどうでもいいんだよね。


 当主カナンヴェーグの住む本館を挟んで、東西の棟にそれぞれ息子家族(エルトディーンの家族)、孫家族(アリステリアの家族)が住んでるらしいが……。


 例え、この屋敷でしばらく暮らすことになっても、逃げ出す以外では一歩も外に出る気は無い。


 なので、延々と広い屋敷内を歩かせないで欲しい。


 そう思いながら、二人の言葉を聞き流し、雨上がりの窓の外をチラリと見た。


 強い日差し、光る雨粒、生き生きとした緑が生えるお庭。


 ガラス張りの中に緑が見える建物は……温室だろうか。


 確か、トルニテアでは温室で茶葉になるハーブを育ててるんだよね?


 屋敷には興味ないけど、トルニテアの植物は日本にないトルニテア独自の物なので興味があったりする。


 トルニテアのお茶は美味しいのだろうか?


「……そろそろ、稽古の時間ね」

「そうですね。外の案内はまた夕刻にでも」


 え。

 外の気になるところの案内だけがお預け??

 酷くないか??


 

 不満を感じながらも、作法の先生を迎える部屋へと案内され、しばらくして現れた講師と挨拶を交わし、まずは作法の座学が始まった。



 ………………。



 ……………………。




 突然だが、私はシオに対して疑念を持っている。

 それ自体、悟られているとは思うけど、彼のいない今は、その疑念について頭を整理するにはもってこいだと思うの。




 トルニテアに来たばかりの頃、シオとリザは私に信仰を失った神は消えてしまうと言っていた。


 しかし、ウェンディの話を聞く限りでは、神は人々の信仰によって生まれたのではなく創造神であるはじまりの神によって作られた存在だ。


 信仰が神々の力になるというのはわかる。しかし、人間がトルニテアに登場する前から存在していた神が、人間からの信仰が無くなれば消えるというのは納得がいかない。



 シオもリザも私を騙している。



 たんに、私にわかりやすく伝えるため言い換えただけなのかもしれない。あの時のシオの取り乱し方は異常だったし、リザが姿を消したのも事故で間違いないとは思う。


 しかし、他の神々はリザは消滅したとしている。何故、リザがここにいないのか。消滅したとする理由は??


 消滅が事実であれば、シオがそれを知らないはずはない。けど、現在も私ののんびりながらやっている拠点の発展計画には協力的だ。


 無意味な事を嫌う合理主義的なシオは何のために信仰集めをしているんだ??



 パンッパンッ!!



 リオネイト夫人が手を叩き大きな音をたてて私の思考を呼び戻した。



 貴族の令嬢の歩き方講座。

 講義は少し前に座学から実技にいこうしていた。



「関係の無い事を考えていますわね?」


 

 リオネイト夫人はセテルニアバルナがアリステリアの為に雇った作法の先生。


 初見こそは、私の色を確認して目を見開き、数回の瞬き、そして、素晴らしい営業スマイルを携え私に接してきたリオネイト夫人も疲れが出てきたのだろう。険しい表情でコチラを見ている。


 なんなんだこの失礼な小娘は。


 そんな感じの視線だ。

 


 そう思うのも仕方がないとは思う。

 突然にアリステリアと共に講義を受ける事になった私が、リオネイト夫人の講義を不満たらたらの真顔で右から左に聞き流し、講義に関係のない事を考えては出来もよろしくないのだから。



 私は、何もわからないよ。わかってないよ。関係の無いことってなあに??


 とばかりにリオネイト夫人に微笑み、小首を傾げた。



「っ………。最後にもう一度!」


 

 馬鹿にされたと思ったのかな。リオネイト夫人は少し顔を赤くして、一度だけ手を叩き鳴らした。




 あまりに不真面目なのもかわいそうだし、最後くらいは真面目にやるかと、やる気を出してみる。



 背筋を正し、顎を引く、まっすぐ前を見据え堂々と。



 久方ぶりの少しヒールのある靴は歩きにくいし、鮮やかなブルーのドレスは重く体にまとわりつく。けど、それらがないかのように華麗に歩いてやるさ。見てろよ夫人。



 スタスタとアリステリアと並んで歩く。歩幅の違いでやや遅れをとるので若干の早足になりつつも、姿勢を意識して歩ききった。



「お二人とも良く出来ていましたわ」



 パチパチ音をたてて拍手をするリオネイト夫人はグスンと鼻を鳴らし薄っすら涙を浮かべている。



「(不出来だと思っていた子供がこんなに立派に歩けるなんて……)」



 いったい何が起こったんだ。何に悲しんでる? もしくは感動しているんだ? わけがわからず頭が混乱しそうだ。


 夫人は感受性が強い、絵画を見て涙を流せるタイプの人なのかもしれない。私とは真逆の性質だと思う。理解できない。



「ありがとうございます。リオネイト夫人の丁寧な指導のおかけですわ」


 うんうん。


 アリステリアの言葉に便乗して頷いておけば失礼ではないだろう。





「そうですわ! 私たちこの後、お茶をいただくのですけれど、お時間がよろしければ一緒にいかがですか?」


 音がならないように、そっと手のひらを合わせ、今、思いついたと思わせる仕草でアリステリアがリオネイト夫人をお茶に誘った。


 用事があったとして、夫人がセテルニアバルナの人間からの誘いを断れるのかは謎だ。



「まぁ、よろしいのです?」

「えぇ、曾祖父様が商会で扱う予定の珍しい茶葉をいただきましたの。第一王子殿下も口にされて、お気に召されたそうですわ」



 珍しく新しい物に目がないだろう貴族の夫人に、世間に出回っていない茶葉の存在をチラつかせ、この国のトップである王族のお墨付きを主張する。


 断れるはずがないし、またとない機会を逃すわけもない。



「ぜひ、ご一緒させてくださいな」


「夫人とお茶が出来るなんでうれしいですわ」



 品のある綺麗な笑顔を振りまくアリステリア。


 夫人をお茶に誘い、商会で扱うお茶を振舞う事で、貴族の間に新な茶葉の存在を認知させる。曾祖父であるカナンヴェーグの指示なのかもしれないが、打算的で非常にしたたかな面が垣間見えた気がした。



 きっと、アリステリアはティアとは別の意味で敵に回してはいけない人間なんだろうな……と、別室にお茶の準備が整うまで世間話しをしながら待つ二人を見て思った。

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