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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇セテルニアバルナの一員として◇
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セテルニアバルナの娘




 雨が止んでいる。



 真っ暗な視界、何もみえていないのに、ふとその言葉が頭をよぎった。



 ………………。


 …………。



 柔らかくて、何かに包まれている感覚。


 ゆっくりと目蓋を開き、普段寝起きしているベッドよりフカフカの寝所から上半身を起こした。


 自然と木漏れ日の差し込む窓の方を見やると、雨の滴の滴る木々が目に写る。雨上がりの風情を感じる綺麗な景色……。とても静かであって、響くのは鳥の声ばかり。


 

 しばらく、ボーッとしていると意識は覚醒してくるもので。



 ここはいったいどこだ??



 ようやっと、機能し始めた頭が現状を把握しようと活動を開始する。


 見渡すと、装飾に凝った調度品が備わった広い部屋で、室内には自分一人だけ。

 何故、私は、知りもしない場所に一人でいるのか。



「…………」


 記憶を遡る。


 お茶の試飲会。


 そう。お茶の試飲会の為にギルドに向かって……、ギルドにフォイフォイが居るからと、ティアの店で留守番をすることになり、成り行きでレイティとお遣いにでたら拐われたんだった。


 どうにか、逃げ出した先でシオとウェンディに助けられた所までは覚えている。


 魔法の使いすぎで倒れて以降は何かあったか全くわからない。


 おそらく、レイティも無事だろう。


 うん。

 


「…………」



 で、どこよここ。

 分からん。


 考えても仕方ないし、もう一回寝ようかな。なんて、考えることを放棄。

 随分と寝た気がするが、正直まだ眠いんだよね。



 寝よう。


 上掛けに包まってベッドに体を沈めて瞳を閉じる。誰もいない場所で寝れるなんて幸せか!


 慣れてはきていたけど、シオさんと同じ室内で寝るのガチでしんどかったんだよね。仕方ないとわかっていても人がいると深く眠れないたちなのだ。


 とはいえ、知らない場所でも眠れませんが何か??


 まぁ、なんでもいいや。ゆっくりのんびりしてやろうじゃんか。ウェンディのお世話を考えなくていいとか最高じゃんか。


 ん??


 お世話といえば、ベンジャミンは大丈夫なのだろうか??


 魔力の使い過ぎで倒れた時は大体、半日ほど時間が経っていたりするもの。


 さっき、窓の外を見たかんじだと夕刻では無さそうだったので一日近く経過してそう。


 エサは大丈夫なのだろうか。ていうか、腹減りで脱走してないかな。

 ベンジャミンが大人しく飢える事はないと思う。兎だし、貪欲だしで、土の壁なんか穴をあけようと思えばできるだろうし。


 畑荒らされてないかな?

 心配になって来たぞ。寝てる場合ではないのか??


 私がモンモンとしていると少し荒々しく扉が開く音がした。シオかと思ったが違うようで、聞こえて来たのは高くて透き通った若い女の子の声。



「貴女が曾祖父様が養女にする色だけが濃い平民ね。虚弱にしたって、いつまで眠り続けるつもりよ」


 ペチッ!


 オデコ叩かれたんですけど!

 知らない女の子に叩かれたんですけど!! 


 養女ってなに??

 曾祖父様ってだれよ!!


 身に覚えのない事で攻撃を受けたんだけど……。寝たフリやめた方がいいのか?


 まてよ。もしかして、シオに助けられたと思ってだけど、それは落ちた後にみた夢だったとしたら……。

 もし、拐われた先でお貴族様に売られたのだとしたら、この部屋の説明つく気がする。


 豪華な調度品。

 シオが側に居なくて一人。

 曾祖父さんの養女になる私。


 oh……。私はお貴族の爺さんに何させられるの?

 ちょいと怖くないか?

 

 永遠に目覚めなくて良い気がしてきた。


 …………。


 って!!

 レイティ!!


 どうでも良いやと現状をやり過ごそうとしたとき、拐われただろう時に一緒にいたレイティの事が頭をよぎり、勢いよく起き上がった。



 私が売られたとしたならレイティはどうなった?! あの可愛らしい猫耳娘も売られたのか? 無事なのだろうか。傷つけられたり奴隷のように扱われてないだろうか?


 どうする?


 私は此処から逃げるべき?

 レイティが何処にいるかとか分からないけど、ティアには事実を伝えるべきでは?


 目の前にはドピンクというかサツマイモみたいなの赤みのある紫色の髪を腰まで伸ばしている少女だけ。


 逃げようと思えば、窓からでも、扉からでもこの子を振り切って逃げられるはずだ。



「ちょっと!! いきなり起き上がらないでよ!! びっくりするじゃない!!」

 


 私の動きにお怒りのご様子だが関係ない。

 扉までの距離を確認。


「全く、コレだから平民は……」


 困ったわ。と、左右の手の平を天井へ向け、瞳を伏せて首を振る。


 その仕草をしている隙にと扉まで駆け出したのだけど…………。



「!!!!」



 何が起こったのか訳がわからなかった。

 手首を掴まれた事、それを認識した瞬間には衝撃と共に床に押さえつけられ、後ろ手に腕を捻り上げられていたのだから。



 や、痛い。


 痛いです。脇を走り抜けようとしただけで、中学生くらいの女の子にこんな事されるなんて思いもしなかったわ。



「セテルニアバルナの娘をなめてもらっては困るわ。貴女もこの名に恥じぬよう鍛えなければいけないわ。覚悟なさい」



 痛い痛い痛い。グイグイ締め上げないでください。わかりました。もう逃げません。ここがカナンヴェーグかエルトディーンの家だという事はわかりました。よく分かりました。


 貴女がカナンヴェーグのひ孫様だってわかったから!! トルニテアで出会った二人目の脳筋女だってわかったから!!!!



「それにしても、小さいし、ひょろひょろね。本当に私と同じ歳なの??」



 知らねーよ。


 一向に手を緩める気のない彼女に、痛みさえどうでもよくなって抵抗やめた。



「私はアリステリアよ。コレからよろしくね」



 きっと今、素敵な笑顔をしてるんだろうね。でもね。私には見えないからな。よろしくして欲しかったら体重かけて押さえつけるのやめろな。


 セテルニアバルナの娘になる気なんか少しもないから、力技でマウント取ってくるのやめろな。



 …………今、私の目は多分死んでると思う。





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