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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇神々からの使者◇
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女神の意思を継ぐもの




(エルトディーン視点)



 室内には、殿下、カトリアンクスの子息スイードサフィール、祖父のカナンヴェーグ、祖父の執事、そして私がいる。


 殿下お付きの騎士は廊下にて待機中であるところを見ると、どうやら祖父のお眼鏡にかなわなかったらしい。

 元騎士団長の祖父に信用に足らないと判断された彼らは、今、どんな心境なのだろうか。


 少し、不憫に感じつつも、廊下で出くわした、そう親しくもない騎士達の顔を思い浮かべた。



 部屋には祖父による防音の結果が張られており、室内の人間以外に話が漏れないよう配慮されている。

 それだけ事は重大であると、重々しい雰囲気が部屋には漂っていた。



 今日、私のいない間にギルドで起こった事件は、それほどに注意を払うべき繊細な内容という事なのだろう。


 その場にいなかった私は主に祖父の口から説明を受けたのだが……。



 ヒノがレイティと共に下町のゴロツキに拐われた事。それを知ったシオが“おそらく”精霊を使ってヒノを探し出し、救出した事。


 問題点は、当然、ヒノ達を拐ったゴロツキ。そして、買い手であったはずの貴族だ。


 だが、それ以外に、今も降り続く雨を降らせた何かについてや、シオが放った魔力に反応した精霊らしき何か……。



 シオが精霊に命令を下した??


 そうだとしたら、シオは一体何者なのか。そして、ヒノは何者なのか。


 結論は出ないが、皆、恐らくそれが一番気になっているはずだ。




「もう一度言っておきます。今から話す内容は、ことの次第では後に進退に関わります。私などは既に引退して隠居間近の老いぼれ故構いませんが、特に、殿下においてはよく検討されますよう」



 以前、ウェンディから聞いたネヴェルディア神とリザ神の事に触れるのだろう。祖父が今一度殿下に確認をした。


 本来であれば、ネヴェルディア神に反することやリザ神について語ることは禁忌とされ、それらを破れば重い罰が下される。


 私の叔母、ティアの母は私にリザ神の事を語り、それで刑に処されたのだ。私自身は幼かったからと見逃され、ティアは名を改めさせられ平民に落とされた。


 祖父は慎重にならざる得ない。



「いぇ、ここまで来て、自らの進退の為にこの機会を捨てることなどできません」

「私もです。こんなに気になる情報をチラつかせて、いまさら引き下がるなんて出来るわけがありません。私にとって手の届く知識を知らずにいるのは拷問に近いのです」



 二人とも、ここに来て引き下がる気はないようで、真剣な眼差しで祖父を見つめている。



「口外は厳禁、ネヴェルディア神に反する事柄故、決してメリアリーデに悟られることのないようお願いします」



 メリアリーデはアドレンスにて、神殿の一切を取り仕切るネヴェルディア神に最も近い一族。セテルニアバルナ、カトリアンクスと並ぶ三大貴族の一角だ。



 ゆっくりとした口調で祖父の口から語られるのは、ネヴェルディア神が悪戯の神である事。人を作り出した神、リザ神への嫉妬から魔物を作り出した事。


 アドレンスの初代王と子をなしたのはリザ神であり、王族へ無属性の魔法を与えたのもリザ神である事。


 王族に取り入り、無属性の魔法のうちの記憶の操作を悪用しネヴェルディア神がリザ神になり変わった事。


 国民にリザ神を語る事を禁じることで、ネヴェルディア神は信仰を集め、リザ神は信仰を失っていった事。


 リザ神が消失したという事。


 ………………。



 産まれてから今日まで信仰してきた神が、国を陥れる存在であったなど、とてもじゃないが信じられないだろう。


 当然ながら、二人とも険しい表情をしている。



「神が消える事などあるのですか?」

「わかりません。しかし、武神の使いであるウェンディはそのように語り、リザ神を消失させたネヴェルディア神を懲らしめるため、ネヴェルディア神の使いを討つことが神々の総意だと語っておりました」



 事実がどうであれ、ネヴェルディア神とウェンディの語った言葉は真逆。つまり、どちらかが虚実という事になる。


 国教であるネヴェルディア神を今のまま信じ続けるのか、ウェンディを信じて協力するのか……。


 ウェンディ側につけば、どちらが正しいにせよ、現状では間違いなく国へ対するの反逆になる。



「私は、武神の使いウェンディの言葉を信じようと思っております。今すぐに国に対してどうこうするつもりはありませんが、昨今の国の様子はリザ神の衰退に無関係とは思えないのです。そして、リザ神が消えたとされた後に現れたシオとヒノの二人も無関係とは思えません」



 確かにそう。

 あの二人が無関係とはとても思えない。初めからウェンディと面識のあったシオは特に。

 シオは否定していたものの、義弟と呼ばれていたのも事実なのだ。




「コレは憶測の域を出ませんが……シオは、リザ神の後を継ぐために立てられた存在ではないかと思うのです。神の使いより立場が上、そうでなければ武神の使いへの強気の態度や言動に説明がつきません。ヒノの方は常識外れの魔力を除けばまだ子供らしいのですが……」



 シオはリザ神の使いではない。

 なら、神そのものではないのか?


 それが、祖父の導き出した答えらしい。

 

 神が人の姿をして、人の子として生活している??


 突拍子のない考えで到底信じられないが……絶対に無いと言い切れないのがなんとも言えない。


 剣術の腕も、魔術の知識も、古い言葉を容易に扱える事も、とてもじゃないが子供とは思えないし、それこそ、精霊に命令を下せるのが事実であれば、人であるかもわからない。リズであるというだけでは説明がつかない。



「ヒノという方は子供らしい……でしょうか? 会った事はありませんが彼女の知識は失敗を重ねてたどり着いたというよりは、まるで初めから答えを知っていたかのように正確で違和感を感じるのです」



 作物について、料理やお茶の知識、井戸水の汲み上げポンプの事。誰も知らない物事を知っているのに、トルニテアの常識には疎く、ヒノの知識は偏りが目立つ。


 それ故に、祖父は子供らしいと表現したのだろうが……。



 私としても、ヒノに関してはずっと引っかかっていた事がある。



「コレは、初めてあの二人と会った時の話ですが、ヒノは……名を奪われていないと証明しようとした際に、リザと記名していました。無関係であれば、リザ神の名など絶対にでてこないはずです」


「それは事実ですか!?」

「えぇ、間違いありません」


「であれば、女神が子供に姿を変えているとでも??」


 ……神故に人の常識に疎く、人が知り得ない知識を持っている??

 そうであるなら、しょっちゅう意識を失い倒れるだろうか??

 人を恐れる事などあるのか??


 思い出すのは、頭を撫でようとして怯えられた事や、倒れかけたヒノを抱き上げた際に粟だった彼女の肌。


 それに、今日のように神が人に拐われるような事が起こるのか??


 神であったとして、シオは神を襲っていた??


 …………。上手いこと記憶の隅に押しやっていた先程のことがよぎり、再び動悸に見舞われる。



「ヒノに関しては私からも一つ。アヤツは、意識的か無意識か時折魅了の魔法を使っている疑いがあります」


「……私は、決して魔法に当てられたわけでは……」



 殿下が反論するものの、最後は自信なさげに尻すぼみ。ヒノに対する好意に嘘はない。惑わされているわけではない。そう主張したいのだ。


 私自身その気持ちはよくわかる。

 可愛らしい彼女を姪として扱いたいと思う気持ちは、魅了によって操られた結果ではないと胸を張って言える。


 何故、祖父は魅了の魔法を使っていると思ったのか。


 ヒノは魔法の使用に呪文を必要としない。無意識に使っているとして、いつも側にいるシオは惑わされている……のか?



 だから……兄妹で唇を奪うような……。


 ……考えるな。考えるな。思考が乱れる。そう自分に言い聞かせた。




「そうでしょう。ヒノは普段より他人が苦手な事を完全には隠し切れていませんから。それすらも演技……といったいった、腹芸ができる人間でもないでしょう。しかし、微笑まれた瞬間、強制的に惹かれる感覚をえたのも事実です」

 

 

 おそらく、ヒノが自らの意思と反する魔法を意図的に使う事は無い。ただ、人を魅せる力がある事は確かだと思う。

 


「ともあれ、あの二人の真実など考えたところでわかりません。先程申し上げた事柄が事実かはさて置き、可能性として心に留めて今後行動されるべきでしょう。ウェンディはいずれ、神殿界隈で騒ぎを起こす事が確実ですからな」



 リザ神とネヴェルディア神の確執。

 シオやヒノの正体。



 真実はどうであれ、あの二人は神の関係者として公にする気はないようなので、今後も今まで通りに接するのが吉だろう。



「今後、私は、息子に家督を譲り、先日賜った土地に屋敷を建てて隠居しようと考えています。セテルニアバルナから離れたうえで二人を養子に迎えいれる所存です」



 二人を手の内に置いて保護するため。セテルニアバルナの家督の相続を終えておき、かつ、祖父の行動が責められた際にセテルニアバルナに影響を与えないための隠居なのだろう。


「その旨を書き留めた手紙を託す故、秘密裏にクソババアに渡すよう頼めるだろうか」

「お爺様!」


 スイードサフィールに向かっての発言だが、元々仲が悪いとはいえ、未だ現役で魔法士団を率いるカトリアンクスの女主人をクソババアと呼ぶのはあまりにも失礼だ。



「構いませんよ。彼女は紛う事なきクソババアですので」

「ヤツの孫にしては賢いようだな」



 ハッハッハと笑い出す祖父、ニコニコと笑顔で本当に気にとめていないようにうつるスイードサフィール。



 サラサラと直ぐに書きあげた手紙を渡し終えると今日はお開き、それぞれが帰路に着く事となった。

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