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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇神々からの使者◇
73/109

見たくはなかったもの

(エルトディーン視点)




 夕刻。


 兵士団の仕事を終えて、今日、行われた試飲会の結果を聞くためにセテルニアバルナの本邸へ向かうと、邸内はいつもとは違う張り詰めた空気があった。


 何かよくない事でもあったのだろうかと使用人に理由を尋ねると、客人が来ているとの事。


 しかも、その客人が第一王子とカトリアンクス家の子供というのだから、皆が緊張するのも当然だろう。


 シオたちとの茶の試飲会には殿下がお見えになると聞いてはいたが、セテルニアバルナには何故??

 

 そのまま応接室に行くように言われ、本邸の廊下を祖父の執事に案内されながら、窓を横目に眺める。



 暗い空、厚い雲。大粒の滴がザーザーと音を奏で、時折、窓ガラスに強くてあたっては弾ける聞くに久しい音。

 情緒的とは言い難い激しい雨は何年ぶりだろうか。



「シオはあまりにも非道徳的ですわ」



 客室の前で聞き覚えのある声を拾い、私は足を止めた。



「関係ないわけがないでしょう。初めからその気はなかったのでしょうけど、このままでは貴方は不完全なままですわ」



 少しだけ開いている扉から漏れ出す声は、武神の使い、ウェンディのものだけだ。おそらく会話の相手はシオのはずだが、一体何故ここに?

 



「例の兄妹の妹君が昼間に誘拐事件に巻き込まれた後、意識を失い倒れたそうです。旦那様の計らいで今日は客室に宿泊されます」



 私の足が止まった事に気づき、祖父の執事が視線の先の部屋から察して私の疑問に答えを出した。


「誘拐?! 王都でか?」


 兵士団の詰所にいた私の耳には届いていない。ヒノは無事なのか?


「幸い、買い手との取引前に保護する事ができ、怪我などはありません。さ、旦那様がお待ちです」


 あまりに察しがよく、私の聞きたい事を先回りして答えてくれる有能な執事。ヒノの無事を確かめたい私が寄り道をしないように先手を打ってくる。


 確かに殿下をお待たせするわけにもいかない。ヒノが無事だと分かったのだ、見舞いは後回しでもいいだろう。


 そうはわかっていても、後ろ髪を引かれる思いで去り際に扉の隙間に視線を向けてしまった。


 小さな隙間、しかし、その隙間から覗けたモノに驚愕し、ドクリと心臓が大きくはねる。


 ベッドから上半身を抱き起こされたヒノの姿。黒く美しい髪に指を通し頭を支えられている彼女の表情は見えないが腕は力なくたれ下がっていた。ヒノは意識がないようだ。


 しかし、それは問題ではない。


 抱き起こしていたのはシオ。特徴的な白い髪ですぐにわかる。そのシオのとった行為が信じられずに私は目を見開いた。




 シオがヒノの唇を奪っているように見えたのだ。


 


「エルトディーン様」



 名を呼ばれ、いったん視線を外す。止まってしまった歩みを進めるよう催促されているのだとわかるが…………。


 頭の中がごちゃごちゃしていてすぐには動けず、数秒後に一歩を踏み出した。


 きっと勘違いに違いない。見間違いに違いない。二人は兄妹なのだ間違いが起こるはずもない。そう思いながら、離れてゆく扉にもう一度だけ扉に視線を向けた。


 僅かな隙間を介してシオの真っ赤なあの瞳と私の視線が確かにかちあう。

 まるで嘲笑うかのような挑発的な視線は、意図的に私に向けられたものだと確信できた。


 ゾワリと肌が粟立つ。


 今すぐ、部屋に乗り込みたい。そんな衝動にを必死に押さえ込んだ。


 殿下を待たせている状況で、シオを問い詰めている時間などない。


 執事の後を歩きながらも頭を占めるのは先程の事ばかり。



 アレは一体……。


 ウェンディもいたのだ。意識のない妹を襲っていた……など見間違いに違いない。


 絶対にあってはならない事だ。

 ヒノに意識があれば望むはずのない行為なのだから。



 だが、シオのあの挑発的な視線は??

 意図的に向けられたそれはなにを意味する??


 ウェンディの言葉を思い返す。

 

 もし、見間違いなどでなければ、その行為は非道徳的に違いない。


 ならば、シオが不完全とは??

 

 酷く頭は混乱している。

 モンモンと考えている間に応接室までたどり着き、執事が開けた扉をくぐる。



「失礼します」

「あぁ、お前もここに座れ。今日起きた事、今後のあの兄妹の扱いについてもお前も知っておくべきだろう」


 客人に挨拶を済ませたあとに案内された席に着く。


 未だ先程の事が頭を巡っていてあまり冷静ではいられないものの、彼らの身に起きた事やコレからの事を知り、考えることは姪のように大切にしたいと思った彼女のためになるはずだ。


 少しだけでも落ち着こうと私は深く深呼吸をした。

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