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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇神々からの使者◇
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私じゃなくてお前が悪い




 はぁ、はぁ……


 苦しい。


 自分の息づかいが荒い。大地を踏むたび視界がグニャンと歪んでいるようにも思える。私はちゃんと走れている??


 怪しい。


「ヒノ、大丈夫なの?」


 今日は、水を凍らせたり、ぶん殴られたのを癒したり、縄抜けの為に身体の大きさを二度変えた。力を使ったのはそれくらいだが、自身の燃料切れの気配を感じる。


 コレはよろしくない。姿を変えたのが大きな負荷だったのだろうか??


 そう思いつつも、レイティには口角を上げて顔を縦に振って返事をした。


 声を出せる事もバラしたのだが、今は声を出す余裕もない。


 次は容赦しないとか考えてたけど、コレ、ここでもう一度魔法を使ったら確実に意識が落ちる。落ちる自信がある。



「待てやゴルァ!!」


 眼帯をつけた男と、兄貴と呼ばれていた男が雨でぬかるんだ地面をバシャバシャと音を立てて走り、わたし達の後を追ってくる。見つかった時にそこそこあった距離は殆どない。


 やるなら確実に一撃でどうにかしないと、私は落ちると暫く起き上がらないだろうし、レイティが私を置いて逃げれるとも思えない。


 雨がコレだけ振っているのだ、水を大量に使って壁を作るか?

 篭城するのもアリかもしれないが、現在体力面に不安があるのでナシだ。

 

 なら、土はどうだろう。都合の良い事に地面は土だ。奴らをドーム状の土壁中に閉じ込めるのは…………私が落ちた後どうなるかわかったもんじゃないな。


 あれか、落とし穴はどう??

 それがいい。


 登れないくらいの深い穴に落とすのだ。


 立ち止まり振り返る。


「お、観念したか??」

「悪いようにはしねぇさ、ジッとしてろ」


 ジッとしてて欲しいのはお前らだけどな。

 集中し、タイミングを見計らう。失敗はできない。



 さん、にぃ、いち。



「「おわぁあああ!!」」




 奴らの進行方向、踏み出した足の先に大穴を作り上げた。狙い通りに二人とも上手いこと落ちてくれたので一安心。これで直ぐに捕まる事態はさけれる。


 そこそこ穴は深くしたし、あとは植物で格子状に蓋でもすれば完璧だろう。



 バシャン


 体に打ち付ける雨で服は重たく、立っている事も辛くなり、ぬかるんだ土の上に座り込んだ。地面についた手や服には思いっきり泥がついてしまっている。


 既に全身雨で濡れているのだ。今更、濡れる事や汚れを気にする事もない。



「ヒノ!!」



 私の安堵とは裏腹、レイティは焦りを含む声を上げた。



 何事だ……って、嘘だろオイ。



 視界には穴から這い上がる眼帯の男の姿。しばらく安心だ。なんて、全然ダメだったじゃん。


 穴は4メートルくらいは掘ったイメージだったんだけど、どうやって登ったんだよ。



「あークソ。全身打撲でクソいてぇぜ。このヤロー。兄貴、後で引き上げるから待ってろよ」



 明らかに不機嫌なそいつは腰から剣を抜きブンブンとバツを刻むように空を切った。



 上から手を伸ばして届くのなら、眼帯の男が兄貴と呼ばれていたヤツを踏み台によじ登る事も可能なはずだ。


 マジか。


 絶対多絶命のピンチじゃんか……。

 なんで、魔法も使えないゴロツキ市民相手にこんな事になったんだよ。力の使い方を誤りすぎだろ私。


 はじめに、水を凍らせたのは"雨"から水を連想したからだと思う。普段から水系の魔法はよく使うから慣れているってのもあった。今の地面の穴だって、足を取られそうになるぬかるんだ地面からの瞬時の思いつき。



 私は馬鹿か。

 


 以前に、この国の一番の武人を無傷に絡めとった事があっただろうに、何故それを初めに思い出さなかったのか。


 カナンヴェーグと比べれば、こんな奴らなんともない。初めから植物で足止していたなら、あの二人を確実に縛り付けておけただろう。


 更には、お使いも間に合っただろうし、痛い思いもしなくて済んだし、こんな事にはならなかった。



 絶望感。



 自分の馬鹿さに呆れる。




 一歩も動けない私を動かそうと、レイティが私に腕を回してなんとか抱き抱えようとするが、もう眼帯の男は目の前だ。


 もういいよ。

 レイティ、私を置いてけよ。

 逃げろよ。


 微かに声を発しても雨にかき消される。耳のいいレイティには聴こえているかも知れないけれど、逃げてくれない。



「手間かけさせやがって!」



 苛立ち、声を荒げる男の振りかぶられた腕、剣の矛先から視線はそらさなかった。そらせなかった。全身の血の気が引いて、力も入らないし物凄い寒気もする。

 


 もうダメだ。そう思った瞬間。




 見慣れた白い髪が視界をよぎった。




 鈍い音とともに、眼帯の男は地面を転がり、泥水を跳ね上げて数メートル先まで飛ばされる。


 私とレイティの前に立つシオは、どれだけ走ってきたのか、珍しく肩で息をしている。



 なんで……?

 誰にも知られずにさらわれたのに……。



 言葉が通じるはずもないと思っていた精霊がシオに伝えてくれたのだろうか。

 まぁ、その辺の細かい事はどうでもいい。


 今度こそ大丈夫だ。と、緊張から解放され安心感で涙腺が崩壊する。何だよこれ。止まんないな。


 同じく涙腺崩壊で、嗚咽を上げて泣き出したレイティに抱きしめられつつ、私は、いい年(精神年齢)した女が子供と同じように泣いてるなんて思われたくないから、流れた涙は雨だと言い訳したい。


 それから、シオの後にウェンディが駆けつけ、少し遅れて穴から這い上がってきたもう一人の男を一撃で沈めた。


 こんなに呆気なくに終わってしまうなんて、どれだけ私とレイティが苦労して逃げ惑ったと思ってるのかな。もう少し、あの男もウェンディに抵抗してくれても良くないか?


 なんて考えるのは、こんなに弱い奴相手になす術が無かった自分が情けないから。



「こんなヘナチョコに追い詰められるなんて精進が足りませんわ!」



 振り返り私にもっと鍛えろとの言葉を浴びせる説教モードの彼女に私は怒りを覚える。


 現状は私が弱いせい??

 や、違うだろ。


 私じゃなくて、間違いなくウェンディ、お前が悪い!


 そもそも、この一連の騒ぎは、ウェンディが人買いの馬車に乗ったことが元凶なのだ。まじで私は悪くない。


 ウェンディに抗議をしょうとしたが、急にガクッと体の力が抜けた。後に倒れる体をシオが支える。



 いよいよ体の限界だと悟る。



 次第に意識が薄れてゆくなか、私は心の中でウェンディに強く抗議した。

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