美少年風ヤンデレジジイとか言うジャンル
光の消えた洞窟に私と白蛇がポツリと残されていた。
突然な事に唖然として放心状態。言葉も出ないし、思考も回らない。
「リザ様、やっと……」
と、涙でも流しそうな声で白蛇が言う。もちろん、神 リザの声でだ。洞窟に着いた頃から何となく、白蛇が好き好きリザ様なのは伝わって来ていた。
「や、あんたのリザ様居ないんですけど……」
どっかに消えちゃったんですけど。
「!?」
何驚いてんだか、お前、心読めるんだろ?
何でわかんないんだよ。
「嘘でしょう……貴女は、その……」
めっちゃ泣いてる。嗚咽が頭に聞こえてくる。
なんか、リザ様居なくなるのが予想外だったっぽい白蛇は「なんで、なんで、なんで」と、非常に取り乱してる。
正直。怖い。
まぁ、大好きなリザ様が居なくなるの分かってたら、ワザワザ私を探し出して同調なんかさせないよな。白蛇的には、神が私の体を乗っ取る予定だったんだと思う。
だから、さっき、私の事をリザ様と呼んだのだ。
さらには、私が神と対面して、神がリザと名乗るまで、私が神の名を知らなかったのも……あえて、白蛇が神の名を呼ばなかったから。
そして、リザ様と私を勘違いしてだが、名を呼んだと言うことは、普段は神を名前でよんでいたから。もしかしたらコイツ、自分以外の奴に神の名を呼ばせたくなかったのか?? さらには、白蛇自身も名乗って無い。リザ様以外に名前呼ばれたく無いとかなのかもしれない。
独占欲??
だって、弱ったとはいえ従者が白蛇一匹なんて事あるか? 白蛇が他の従者を追い出したんじゃ? さらには、リザ様を思うのは自分だけで良いとか言って、近くの集落の人間も追い出したとしたら??
声も、リザを真似てるし、凄い信者じゃ無いか?
ヤバッ。
コイツ、ガチの怖い奴じゃね?とかなり引く。
でも、まぁ、ワンワン泣かれてもウザいし、リザ様帰って来るわけでもないだろうし、私は現実的な話をしたい。
具体的に私は何をすれば良いのか。
信仰を集めれば神の力が戻ると仮定すると、リザを復活させるには信仰を集めればいい。
神の力を使っての信仰集めか……
人に敬われると良いのか?
けど、私とトルニテアの人間が関わったとしてリザの信仰を増やせるのか??
リザの力を受け継いだらしいが、 リザは蛇をまとめる以外に何が出来たのだろう?
地球の神であれば、さっきあげたメデューサは髪が蛇の女、その目で見た者を石にする。下半身が蛇の女神、女媧なんかは人類を創造した女神だった気がする。たしか、土を捏ねくり回して人間作ったとかなんとか。
白蛇が従者の弁財天は豊穣とか商売、縁結びや芸術の神だったはず。商売なんかは私的には恵比寿の方がイメージ強いけど……白蛇自体に金運や子孫繁栄、再生のイメージがあるから、商売の御利益があるのもうなづける。
私はいったい何ができるようになったのか。
一切、変化がわからない。私の体は至って平常運転だ。
未だ嘆く白蛇をよそに、足元の湿った粘土質の土を弄ってウサギを作ってみた。それが動き出すとか、命をもつとか非現実的な事は起こるはずがないと思いつつ、作り上げたウサギの出来栄えはかなり良い。
手から地面に、土でできたウサギをそっとおろすと、次の瞬間には……
「!??」
ちょ、は? 待て。は??
茶色の毛並みのウサギがそこに居る。
捕まえてみたら、えらく抵抗されたが、温かくて生きているのがわかる。
暴れた末に、私の手から離れてぴょんぴょん跳ねて、洞窟の外に出て行ってしまった。
「……」
唖然とする。
リザって死にかけの神じゃ無かったのか??やばくないか。人智を超えてる。私、人を辞めさせられたのか。
怖っ。私、怖っ。
とりあえず、説明。
説明欲しい。
白蛇の首をを問答無用で握り上げて問う。
「どうなってんの。力残って無いんじゃなかったのかよ」
「貴女自身を贄として、身体を手に入れたことで力を少し取り戻したのです」
グスッ
と、鼻をすするような音が私の脳に響く。
贄とか、
もう、完全に私、餌扱いだったんだな。
「貴女は……よくも悪くもリザ様に似ています。面倒を嫌ったり、軽く生を諦めていたり……だからこそ、リザ様と同調が可能だったのでしょうけれど」
だからって、百年以上仕えた私を置いてこんな小娘一人残していなくなる事ないでしょう!と、また、ワンワン泣きだした。
激しくウザい。
「リザ様は、水や土、植物などと相性の良い方でした。……なので、新たに生命を作ることなど、力さえあれば容易なことなのです。あぁ、貴女にリザ様を感じるのに、リザ様で無いなんて……」
遠回しに、お前なんかクソって言われてる気分になるんだけど……この蛇握りつぶしてやろうか?
白蛇を握る手に力を込める。
でも、私にリザ様を感じるって事は、
「つまり、あんたのリザ様は死んだわけじゃ無いんだろ? だったら、アンタに出来ることをやれよ」
つか、それしかねぇだろ。
といえば、貴女に言われなくたって、と涙声で帰って来る。
あーー
結局、信仰集めする流れになってるな。
今日から白蛇と信仰集めってのもしんどいわ。
なんせ、蛇。
一緒にいたくはないが、別行動は、外の魔物やこの世界の環境に慣れるまでは避けたいところ。
どうしたものか……
と、白蛇を握ったまま考えていたら、突然、ガリッと手を噛まれた。
「!!」
何すんだよ! は? なぜ噛んだ?
コイツ、昨日猿を噛んで殺してたじゃん! 毒あんだろ? 何してんの?
動揺する私をよそに、手から滲んだ血を舐める白蛇。
気持ち悪くて、今度こそ地面に叩きつけた。
叩きつけようとした。
叩きつけられなかった。
「……怖っ!」
私の目の前には、おそらく白蛇だったものが居て。それは、人の形をして片膝をついて地面に座ってる。
白い髪と赤い瞳でコチラを見てるそいつの顔は、色白で恐ろしいほどに美しく整っていて。
怖っ。マジで怖っ!
「貴女の身体のすべてがリザ様の力で溢れているのです。ですから、少し分けて頂きました。人の形を保てば貴女も抵抗なく信仰集めが出来るのでしょう?」
少し涙目のそいつは、間違いなく白蛇であったもので、さっきまでのテレパシーではなく言葉を口にする。
「…………」
その声は声変わり前の少年のようで、リザのモノとは別だ。
本能的に、無理だ。
鳥肌が立つ。
あ、まじで無理なやつだ。
後ずさる。
やめてほしい。来ないで欲しい。
やめろ。
私の心が読めているはずなのに、ソイツは御構い無しで立ち上がった。
全裸で
フリチンで。
性器を隠すこともなく。
私は、百歳以上生きてる美少年風ヤンデレジジイ(白蛇)を問答無用、全力でぶん殴った。