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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇神々からの使者◇
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武神の花嫁(エルトディーン視点)


 本日、東の門より王都シルビナサリに入った人買いの荷が、刻印所(魔法で罪人や奴隷などに制限を課す部署)にて暴れ、逃げ出す事件が起きた。


 国の機関故に、配備されている兵士が対処したが、危害を加えられたうえ、荷には逃げられている。


 風貌は薄い黄色の髪と黄緑の瞳、大人しそうな風貌の女性で、左右に分けた三つ編みの髪が特徴だとの事だが、市井ではそう珍しい容姿ではない。


 広く、人口の多い王都で人に紛れてしまえば、印の刻まれていないその人物は見つける事は困難だろう。


 逃走の際に、荷馬車を破壊。兵士五人を負傷させたのだから、その罪過は逃走の罪だけでは済まない。

 荷として連れられていたのだから、丸腰で武器など持っていないはず。なのに、訓練された兵士を負傷させたのだ。一見、武術など使え無さそうな外見だったと聞くが、随分と、凶暴な女性のようだ。


 ただでさえ、クラリードの件で兵士団はゴタついている。

 それなのに、兵士が危険人物をとり逃したとの噂はすぐに王都内に知れ渡り、国民からの兵士団への不満が私の耳にも届いている。

 兵士の給与では、魔法での癒しを受ける事もできず、暫くの病床生活を強いられるというのに、怪我をした兵士達は余りにも不憫だ。


 日照りの水不足、国庫であるべき土地、クラリードの事実上の崩壊。

  

 アドレンスの東の国境にて緊張状態にある隣国の存在。いつ、戦争が起こるか分からない不安感。


 貴族にはぶつけられない国への不満は、平民から構成される兵士団に向けられがちなのだ。

 

 逃げ出した荷の事は部下に任せ、一旦頭の隅へおく。


 もとより、予定にあった約束のため、私はギルドへと向かった。

 兵士の宿舎を建てる件について、祖父と話し合う時間を設けていたのだ。


 休みの日のようにブラブラ街を歩くわけにもいかない。仕事中の事なので、移動時間の短縮に馬車を使う。


 ギルドにつくと、人集りが出来ていた。

 普段は、入り口を入ってすぐのホールにゴロツキまがいのギルド員がたむろしているので、一般人はあまり近づきたがらない。


「……!!」


 おかしいと思いながらも、人をかき分け中に入ると、ギルド内の様子は騒然としていて、その場にいる人間は皆青ざめた顔をしていた。


 職員に話を聞けば、魔力による威圧があったとの事。魔力に当てられ立つ事もままならないギルド員や職員。


 この場に居ない人間の放った魔力でコレ程まで……。


 この建物でこのような事ができるのは会長であるカナンヴェーグのみ。だが、自身の祖父が起こした事態とは思えない。


 不安を抱きながらも早足に会長室に向かう。歩み進めると廊下に横わる女性が目に入る。


「っ……」


 やはり、会長室で何かが起こっているようだ。

 駆け出し、扉から中に入ると…………。


「あら、いい男」

「ワシの孫じゃ」


「…………」


 何も無かったかのような態度の祖父と見た事のない女性。ソファーにはシオとヒノ。


 そして、目の前にいる女性は、黄色の髪に黄緑の瞳。今日、兵士が取り逃がした人買いの荷の特徴に酷似している。

 

 スッと、

 突然に自身の胸を指で撫でられた。

 

 その瞬間、ゾッとした。


 完全に気を抜いていたわけではない。なのに、動いた気配を感じず、体に触れられるまで近づかれた事がわからなかったのだ。

 彼女が私に殺意を持っていて、刃物を手にしていたとしたら、今、私は死んでいたかも知れない。


 この女性は一体何者なのか。


「あら、意外と大した事がないのですね。見かけ倒しとは残念。でも、磨けば光る原石なのは確実ですもの。どうです? 私と愛し合いませんか?」


 困惑。

 おさげをぶら下げた人買いの荷と思しき女性が、わたしを“大した事ない”と評価したのち、直接的な言葉で口説いているのだ。わけがわからない。罪人という自覚が本人に無いのかも知れない。


「お主、夫がおると言っておっただろう」

「えぇ。でも、夫は気に入ればすぐに新たな妻を迎えるので、私も自由にして良いと言われてますの」


 ニコリと綺麗に笑う彼女が、兵士五人をのしたとはとても思えない。

 胸が触れるかという距離まで、歩み寄る女性から後ずさる。


 なぜ??


 この女性と祖父が打ち解けている?

 祖父には荷が逃げ出した話が届いていないのだろうか。


 ソファーにかけるシオとヒノに視線を送るが、何も言う気になれないといった疲れ切った顔をしている。


 この部屋に魔力を多く持つ人間は、祖父、シオ、ヒノの三人。この様子であれば、誰が魔力で威圧したのか想像ができない。


「これは一体、どういった状況ですか」

「…………その狂人がカナンヴェーグと手合わせをしたいと、突然訪ねてきたのです」

「では、お祖父様が威圧を?」


 祖父はゆっくりと左右に首を振る。


「先程から、義理の姉に対して狂人、狂人と……失礼すぎますわ」

「ですから、その認識が間違っていると言っているのです」


 シオの姉?? 

 全く似ていない。冷静なシオに対して、彼女の勢いは、まるでリーナを前にしたライドのようだ。


 全くついて行けない。


「私の勘違いでなければ、貴女は今日、逃げだした荷なのでは?」

「人を荷物扱いしないで頂きたいですわ」


 荷物扱いするなと言うのだから、彼女が積荷だった事は明らかなのだが。


「荷物云々を抜きにしても、馬車を破壊した器物損壊の罪、兵士に怪我を負わせた傷害の罪、罪状は他にもある」

「えぇ、まぁ、破壊した事と怪我を負わせた事は認めますわ。しかしながら、あの貧弱さで私に向かってくる事自体が許し難い行為でしたの。本当に罪深いですわ。手加減はしましたが、もう少し、訓練をした方が良いのではなくて?」


 ………………。

 反省の色は全く無し。

 弱いのが悪いとでも言いたげだ。


「貴女にはこの後、兵士の詰所に来ていただきます」

「……いやですわ。わたくし、アドレンスを転覆させる使命を受けてきましたの。そんな暇はありませんわ」


「………………」


 やはり、理解できない。


 罪は認めるが投降はしない。祖父と手合わせする時間は惜しまないが、詰所に行く暇は無いという。


 そして、目の前の女性は「今日は買い物にきたの」と、日常会話をするかのように、軽い口調でとんでもない事を口にした。


 アドレンス王国の転覆を目論む敵対国からの刺客……。にしては、行動が軽率だが……。


「それは……どういう意味だ」


 先程と違い、険しい表情で女性を見る祖父。視線で人を殺しそうな程の目力。


「隣国、ターナリアより、何年も前からアドレンスには警告がされていたはずですわ。諸悪の根源はアドレンスだと」

「それは知っている。だが、なんの根拠もなく、我が国が魔物を生んでいる。異常気象や病をはこんでいると言われても、覚えのない事を認めるはずがないであろう」


 セテルニアバルナの代表、誇り高き国の剣。普段、ひ孫にデレデレしていたとしても、アドレンスを侮辱する人物には祖父も相当な怒りを感じているようだ。


 私はというと、怒りよりも今後の展開にどう対応すべきか悩んでいる。

 祖父が暴れれば、此処はきっと焼け野原になってしまうだろう。

 ギルド近隣の人間を避難させることや、被害を最小限に留めるにはどうするべきかなどと考えてしまう。


「覚えが無いからこそ質が悪いのです」

「言い掛かりはよしてもらおう。これ以上はただではおかん」

「望むところですわ。わたくしがギルドへ来た目的は、貴方と手合わせをする為だったのですから」

「表へ出ろ!」


 あぁ………。

 収集が付かない。


「脳筋二人は黙って大人しく椅子に座りなさい!」


 シオが頭を抱えつつも声を張り上げた。

 珍しい光景だ。常に冷静なのだと思っていたが、随分、今の状況に疲弊しているように見える。


「まず、ソレは人ではありません。いくら、リズ故に魔法が使えないとは言え、武神の使い。武神の加護を受けた狂人と張り合ったら、いくら、カナンヴェーグといえ無事ではすみません」


 祖父と女性の緊張状態は続くものの、祖父は握っていた拳を下ろした。


「それは、事実か?」


 神の使い。しかも、武神のお気に入り。

 それが事実であるなら、此処で戦闘をするわけにはいかない。


 国際的に、神の使いの行動を制限してはならないと決まりがあるのだ。

 神の使いは我々に神の意志を伝える尊い存在である。基本的に人間に干渉する事は少ないが、神の使いの行動は神の意志。神の怒りに触れぬよう好きにさせなければならない。


「否定する事はありませんわ」


 ニコリ。女性は迷いなく答え、服の袖をめくり、武神の刻印を私達に見せた。


 つまり、彼女が神の使いである事は事実であり、人買いは神の使いを商品にしようとしていたという事。


 それから、アドレンス王国が諸悪の根源だとする意見は神が認めた事実だと言うこと。


 普通であれば起こり得ないような現実に、私は軽くめまいを覚えた。

 


 


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