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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇神々からの使者◇
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愛の伝道師現る


 聞くによると、東の門より入った人買いの荷が逃げだしたのだと言う。


 逃げる荷ってなによ。人買いなのだから、買ってきた荷物は人間なんだろうけど、生き物の中でも人間に対して普通は荷物とは言わないだろ。

 どういった人間が荷物扱いされているのだろうか。


 トルニテアには行動を制限する魔法が存在するのだから、犯罪を犯した危険人物であっても当然のように従える事ができる。

 であれば、取引に使われる人間は女子供ばかりとは言えないはすだ。


「一名を除き、全ての荷は捕らえたようですが、印を刻む前の事で何処へ逃げたのかわからない状態のようです」

「そうか、ご苦労」


 人買いに買われた人というのは、奴隷とは別物で、買われたお金に利子をつけて返せば自由の身になれるのだろうか。

 

 そうでなきゃ、夢も希望もない生を頑張れないよね。

 

「…………」


 頭を抱えていたシオが、そのまま髪を後ろにかきあげた。眉間に皺のよった怖い顔だが、相変わらずキレイだな。


(話にあった逃げた荷物……今、ギルドに来ています)


 え。

 その人怖い人?

 まさかの知人。

 

(まぁ、捉え方によるでしょうけど、まともな人間だとは思わないでください)


 シオの様子からして、会いたくない相手のようだけど、シオがここまで露骨に嫌がる人間ってどれだけやばい人なのさ。

 基本、シオは相手がクソでも対峙するときはサラッと流す。つまり、その人物はシオの思い通りにならない人物なのだろう。


 強烈そう。


「たーのーもー!!!」


「「…………」」


 …………。



(私の知る女性の中で一番の脳筋です。ギルドへ来たのもカナンヴェーグが目的のようです)


 たのもーって、道場破りじゃないんだからさ。声の主はギルドに何しにきてるの?

 脳筋だから、この国で最強と噂のカナンヴェーグに戦いを挑みに来たのかね。

 シオに用があってきた訳じゃないのなら、隠れてやり過ごしたい。

 いや、シオだけ会って来ればいいと思う。


(…………バレたようです)


 何故?!


 神の遣いのシオさんの知り合いだもの。相手も人の心が読めるのかな。怖いな。

 なんて思っていたら、ドタンバタンとギルドが騒がしくなった。


 騒音がコチラに近づいて来ているようにも思う。


 やな予感。かなり嫌な予感がするのだけどどうしたらいい??

 ねぇ、シオさん。どうします??


 バン!!


 勢いよく会長室の扉が開かれた。


 こんな登場の仕方は荒っぽいティアネェさんもやっていたが、今回の登場者はどこかおっとりとした雰囲気の女性だ。

 白金の髪に淡い緑の瞳。顔の左右に大きなおさげをぶら下げており、ヒダが多くてゆったりとした丈の長いワンピースを着ている。


 とてもじゃないが、ギルドに押し入って、引き止める受付嬢を気にも留めず、腰にぶら下げ引き摺り回し、会長室に乗り込んでくるような人間には見えない。


 驚きのあまり身動きが取れずに、開けられた扉の方を見つめてしまう。


「王国一の武人、カナンヴェーグ様とお見受けします。わたくし、ウェンディと申しますの」


 体の前で手を重ね、丁寧なお辞儀をするウェンディ。


 ゆっくり立ち上がるカナンヴェーグ。今となっては、特別、怒りを抱いているようには見えないが、カナンヴェーグは私達と初めて会った時のような厳格な雰囲気を醸し出している。

 あの、人を殺せそうな視線に、恐怖で足がすくむような威圧感。


 それらが、まるで無いかのようにニコリと笑顔を携えたままのウェンディ。


「何の用だ。其方を此処へ招いた覚えはないが?」

「えぇ。わたくし、義理の弟を訪ねる為に王都に立ち寄ったのですけれど、アドレンス一の武人が居ると聞いて、いてもたってもいられなくなりましたの。ですので、手合わせをお願いしたくて、失礼を承知でギルドに伺いましたわ」


 確実にヤバイ人だ。

 シオが脳筋だと言っていたのが的確だと思う。戦闘狂ではないが、多分、人の話を聞かないタイプの人だ。「出来るまでやるのです」みたいな事言う脳筋だと思う。

 

 というか、本来の目的そっちのけでカナンヴェーグと手合わせしようとするなんてイカれてやがる。普通にシオさんは会話してるけど、この爺さん、この国の大貴族だぞ。

 

 あり得ない。

 引き摺り回されても必死に止めようとしていた受付嬢の顔も真っ青だ。


「でも、ギルドに着いたら不思議な事に義弟がいるのです。わたくし、夫から与えられた使命と自身の欲求と、どちらを優先すべきかとても迷いましたのよ」


 ギルドにいる義弟。

 …………。


 自然と皆の視線はシオへと向かう。見られているシオは非常に不快そうな表情で額を抑えている。


「迷った結果、手合わせをお願いしたいのですけれどいかがでしょう」


「小僧の義姉だと?」


 怪訝そうに眉を寄せるカナンヴェーグ。義姉を前にしているにしてはシオの様子が不可解たったのだろう。

 私はと言うと、状況がさっぱりわからなくて、シオとウェンディを交互に見てばかりいる。


「違います」

「違いませんわ。我が夫の妹君の配偶者ですもの。義弟に違いありませんわ」

「私に配偶者などいません」

「いいえ、契りを交わさずとも愛し合う男女が共に過ごしていれば、それは夫婦も同じですわ」

「誰か、この狂人を連れ出してください……」


 鳥肌がたった。やっぱり、話を聞かないタイプの脳筋。しかも恋愛脳。 

 私は、愛とか恋とか恥ずかしげもなく口にできる人が非常に苦手なのだ。

 今となれば、シオが会いたくなさそうにしていたのがなぜか理解できる。コレは関わりたくない。


 私には、ウェンディの言うように、シオに妻と言える相手が居たとは思えない。

 シオが大好きなのはリザ。大好きだけど、リザとの其れはきっと主従関係だ。……そう、思いたい。


 ただ、ウェンディがリザを妻として話しているのであれば、ウェンディの夫はリザの兄だ。つまり、何かしらの神なのだろう。

 神から与えられた使命より、自分の戦闘欲を優先する神の遣いってありなのか?


「妹君の事は非常に残念でしたわ。でもね、アークア「黙りなさい!!」」


 突然、シオがウェンディの言葉を遮り、魔力込みの威圧を放った。ウェンディに向けたものであろうけど、部屋にいた人間、皆が寒気を覚えたと思う。


 ウェンディが何を言おうとしたかは知らないけど、シオさんは典型的な怒らせたらダメな人なんだよ。でもね、怒ったからって巻き込まないでください。


 カナンヴェーグもその付き人も冷や汗をかいたと思うし、受付嬢に至っては床に崩れ落ちて失神している。


「魔力込みで威圧されては敵いませんわ。武術でしたら私の圧勝ですのに。同じリズでしたのに、コレ程差があるのは不服ですわ」


 威圧に屈してか、不服そうにしているが、先ほどの話を続ける気は無いようだ。


 ウェンディがリズ??


 頭をよく見ると、金髪の間に白い髪がキラキラしているのが分かる。シオより、随分わかりにくい仕様だ。一眼見ただけではリズとはわからない。


 神様の遣いはみんなリズなのだろうか。

 それとも、贄にされるのがリズだからそうなるのか。


「ひとまず、今の私はシオです」

「また、難儀な名をつけたものですわね。自ら険しい道を行くのが趣味ですの?」


 そういうウェンディの視線は私を捉えている。荷物(私)を抱えて生きるのが好きなのねって言っているのだろう。


 シオさんが名を名乗ったという事は、アークなんちゃらとはシオさんの本名の可能性があるな。

 

 ま、どうでもいいけど。


「結局、この娘は何者なのだ」

「…………先程の話にあった、逃げ出した荷ですね」


 シオさん、それ言う?

 一応、知り合いなのに人買いにつきだすとか、鬼畜だろ。余程、嫌いなのか。


「荷とは失礼な。愛の伝道師ですわ」


 あぁ、ごめん。私もこの人ダメだわ。


「それに、わたくし、王都まで乗せて戴く話で金銭をお支払いしましたのに、王都についた途端商品扱いされたのです。あの人買い達は牢に入れるべきですわ」


「そうだとしても、毅然と反論するでも無く、色んなモノを破壊して脱走したのでしょう。カナンヴェーグ、彼女は、余程身体を動かしたいようですので、私の代わりにクラリード連れて行くといいでしょう」



 賛成ー!!

 うん。今回はシオさんの意見に賛成です。

 なんて……。

 強烈すぎるウェンディを前に、心無い事を願いってしまう私がいた。

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