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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇神々からの使者◇
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あの人の弟に会うために

今回、視点無しです。



 昔々、あるところに神がいました。


 その神は、始まりの神。

 何も無かった場所に大地を作り、水で大地を潤し、太陽と月で光をあたえ、緑という生命を生み出しました。


 神の作った物には全て、神の力が宿り、それはやがて精霊という意思を持った存在になりました。


 生まれてきた多種多様な精霊達を見て神は思います。「私にも、永遠につづく時を共に過ごす、自分と似た存在が欲しい」と。


 そして、神は自分の伴侶となる女神を作りだしました。後に生まれる神々の母となる"愛"の女神の誕生でした。


 神は愛の女神との間に、多くの子をもうけました。神の作ったトルニテアに溢れる精霊達のまとめ役をさせるためです。


 強さを求める武神や、知識を愛する女神、海の神、山の神。数えられない程の神々が生まれました。その中に蛇の精霊を束ねる女神がいました。


 その女神は、黒く美しい髪と赤く輝く瞳を持った女神で、父である始まりの神の力を強く継いでいました。


 ある時、蛇の精霊が女神に言います。「私達にそっくりな生き物を作って欲しい」と。


 女神は言われるままに、土で形を作り精霊に似た生き物を作り出しました。

 作られた生き物は高い知能や長い寿命は持たないものの、自らの能力で子孫を残して命を繋いでゆきます。

 実体を持たない精霊たちは、それらが不思議で、己によく似た生き物を観察したり、時には蛇のからだに乗り移り、蛇達を統率する事もありました。


 トルニテア中で、多くの神が同じように生き物を生み出し、豊かな生き物の楽園を築きました。


 そして、多くの時が流れ、蛇を束ねる女神は思います。「精霊に同じ姿の生物を観察する娯楽があるのだから、私にも同じ娯楽があってもいいのでないかしら」と。


 親、兄弟と離れて、蛇の姿をした精霊達と暮らしていると、変わらない毎日の繰り返しに気分が滅入るのだと。


 女神はすぐに神々の姿に似せた生き物を生み出しました。

 それが、後にトルニテアで文明を築く人間と言う生き物だったのです。


 女神の後を追うように、他の神々もまた神に近い生き物を作り出しました。森の民や地の民、海の民。

 今はそれぞれが国を作り、それぞれの神を信仰してトルニテアで暮らしています。


 

「お姉ちゃん、もう、私、眠い」

「あらまぁ、此処からが愛憎渦巻く面白い展開だというのに……」


 物語を中断した女性は、残念そうにして頬に手を当て首を傾げた。

 対して、眠いと訴えた少女は女性にもたれかかり、トロンと辛うじて空いている瞳を擦っている。

 

 此処は人買いの走らせる馬車の中、幼い子供が数人と二十代に見える女性が荷台に乗せられている。あたえられているのは薄いボロ布だけで、子供達は身を寄せ合い、夜の寒さから身を守っている


「お姉ちゃんの話はよくわからないの」

「そうですわね。アドレンスには精霊信仰がありませんものね。分からないのもしかたないのでしょう」


 瞳を閉じて、軽くため息を吐き出す。


「私達、コレから何処にいくの?」

「この馬車は王都、シルビナサリに行くそうよ」

「王様のいる街なの?」

「えぇ」


「王様は私達を助けてくれる?」

「どうかしら? 過去に尊い方の血を継いでいるとはいえ、もう、随分と精霊には見放されている頃合いでしょうし……。気にもとめないのではないかしら」


 ハテ。と首を傾げて、女性は少女の頭を撫でる。


「私達、お家に帰れないの? もうママに会えないの?」

「わからないわ。でも、拐われたわけでなく此処にいるのだから、売られた先での奉公は必然でしょうね。それが義務と言うものですわ」


 アドレンス王国にて人買い、奴隷は合法である。そのため、一度、王都に立ち寄り奴隷達の体に印を刻むのだ。逃げ出しても一般人との違いがわかるように。


「此処にいるのは貴女の望んだ事ではありませんけど、貴女の親が望んだことよ。逃げ出すのなら今しかありませんが、逃げ出せば貴女の親に会う事は二度と叶わないでしょうね」


 印を付けられる前に逃げ出せば、自分は一般人に紛れて生きて行けるかもしれないが、その責任は親に降りかかるだろう。罪に問われる、又は、かわりに奴隷にされる。どちらにしても少女が会う事は叶わなくなるのに違いない。


 先程までの眠気はどこへやら、悲しみに震えてるからだを抱いて涙を溢す少女は震える声で訊ねた。


「お姉ちゃんも売られてゆくの?」

「いいえ、私は彼らに路銀を渡して王都まで連れて行ってもらっているのです。義理の弟に会うために」

「王都についたらお姉ちゃんともバイバイなの?」

「そうですわ。でも、悲しむ必要はありませんわ。人生は出会いと別れの繰り返しですもの。貴女が生を諦めなければいずれ会う事もあるでしょう」


 女性は微笑み、自分の指先を見つめた。

 まるでそこに何かが居るかのように。


「もう、王都が近いようですわ」


 女性が外を眺める事もなく言い切った十数分後、馬車は王都、シルビナサリの門を潜る事となる。


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