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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇ギルドにて◇
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小中学生の理科は大事




 目覚めると外は薄暗く、日の昇ったばかりの朝。頭がぼーっとして、夢の中にいるような、まだ半分寝ているような感覚だった。


 見渡すとテーブルに突っ伏すアドレンス王国の第一王子アドルディアフォイフォイだけが家の中ににいて、カナンヴェーグとシオは居ない。王子にこんな対応でいいのかと疑問に思うが、カナンヴェーグが一緒にいての事だ。この現状に私達の責任はないだろう。


 昨日は、一日が長かったように思う。買い物をする為に王都に行ったら、ライドと一緒にギルドの仕事を請け負う事になり、仕事を終えて王都へ戻る途中に大型の魔物に遭遇した。

 魔物はシオが倒してくれて、私は襲われていた王子の傷を癒した後、テイコで王子の身におきたことを追体験をする事になった。

 それで凄く痛い思いをしたのは覚えている。脳に焼け付くような鋭い痛みだったはずなのに、どんな痛みだったのか思い出せない。不思議と記憶の共有で見た景色も曖昧だ。

 テイコのせいで自分が苦しんだ覚えがあるのに全く実感がわかない。


 暫くして、エルトディーン達が来て、王子とカナンヴェーグが拠点で夜を過ごす事になり、私は、二人を利用してお茶の販路を見つけようとした。

 そのあと、お茶と食事にシチューを提供して……。


 その後の記憶が無い。

 いつ寝たのか覚えていない。

 眉間に皺を寄せて何か思い出せないかと考えるも何も出てきはしない。


 カナンヴェーグがシチューを褒めていたのは覚えているが、それ以降だ。それ以降が思い出せなくて頭を抱える。

 こう、プツンと記憶が途絶えるのはまるで意識が落ちた時みたいだ。落ちるような事をした覚えは無いけど、昼間からの疲労の蓄積ということにしておこう。それ以上の答えは私の頭から出てこない。


 痛みの記憶が曖昧なのも、都合の悪い事は忘れてしまえという私の体の自己防衛なのかもしれない。だとしても、昨日の事をこんなに曖昧にできるものだろうか。

 私の頭がおかしくなったんじゃないかと思ったけど、私がおかしいのは今に始まった事じゃない。


 それより、昨日、結局買い物をしてない。

 つまり、私の保存瓶は増えてない。これは由々しき問題だ。


 ベッドから立ち上がり、テーブルの上を覗くと、昨日、食事の前に広げられていた魔法陣の書かれた紙が無造作に広げられている。

 その紙の上に突っ伏している王子にはブランケットがかけられてはいるものの少し寒そうだ。

 クラリードからろくな睡眠をとっていなかったというのに、夜中までずっとシオと意見を交わしていたのだろう。


 彼は、なんでそんなに国の為に身を削れるのだろうか。

 弟のお遊びで騎士団が城にいなかったのは信じ難いが、それでもその遊びをすぐに切り上げさせて騎士団を連れ戻すという選択を取らなかったという事はさ、フォイフォイは見捨てられたも同じじゃないの?

 

 それを理解できないほど馬鹿では無いと思うの。

 なら、彼は良い人でいなければならないと普段から自分を縛っているのかもしれない。自分で自分の存在を肯定できないから、良い人である事で自分の存在価値を認めて欲しいのだ。


「…………」


 気持ち悪い。

 考えただけで、窮屈で息苦しくて、胃が不穏な動きをしだす。

 

 しんどい。


 これ以上、王子の事を考えるのは気分を害すだけだ。と、何となく、テーブルの上の紙に手を伸ばす。手に取って見た紙には水系統の魔法陣が書かれており、どうも、干ばつ地帯に大きな湖を作り水源を確保する計画書らしい。


 大きな湖? イヤ、そこから水をそれぞれの畑や家庭に運ぶのは重労働過ぎないか?

 しかも、魔法陣の動力は大きな魔石で有限のエネルギーだ。泉の底に石を沈めて盗難を防ぐと書かれているが、メンテナンスはどうするつもりなのだろうか。

 魔力を補給するにも、扱えるのは魔力を持った貴族のみ。水源に貴族を駐在させるのも経費の無駄だろう。


 それならいっそ、広域にわたってクリークを張り巡らせたほうがよっぽどいいと思う。すぐ脇の堀から農業用水を汲み取る事もできるし、排水も出来る。もちろん、生活用水にも。

 飲料にするには濾過が必要だろうけど、各々の家庭で工夫すればよし。あとは汚水の処理を考えてクリークを汚染しないよう気をつければ豊かな水の都の出来上がりだ。

 作るのが平地であれば水の流れも至って緩やかで、水門を管理する平民を雇えば事は済む。はじめにクリークをうめるだけの水を魔法で用意すればあとは湧水や雨水でどうにかなりそうだけど。いや、ならないのかな。雨降らないものな。


 あと、目についたのは深い井戸の水を汲み上げる計画書。これまた魔石を使ったもので、井戸に下ろしたパイプに魔石を埋め込み魔法陣で組み上げを補助するようだ。

 パイプがあるなら手押し式のポンプが作れるだろう。深井戸には対応できないんだっけか?

 まぁ、ポンプつけられないにしても滑車の原理利用すれば汲み上げの際の重さは軽減できるんだし、極力魔力無しでやるのが理想だろう。設備の必要な井戸がトルニテアにどれだけあるか知らないが、年間の魔石の費用も馬鹿にならないはずだ。

 魔法は便利だから私も自分の生活に使用しているが、魔法が使えない人が使う道具や設備が魔力無しで使えないのはいただけない。

 魔法ありきの計画が貴族の権威を示す為であれば、私が口を出す問題ではないけれど、そうでなければ選択肢を増やしても良いよね。

 私は、白紙の紙にいくつかの案を書き込み、散らばる企画書の中に混ぜ込んでやった。見なければそれまで。見て不要だと思えば捨てるだろう。


 私はペンを置き、外套を肩にかけて外へ向かった。


 家から出ると早朝の冷たい空気が肌にあたり、たまらず顔をしかめて腕を抱く。


 キンキンと金属のぶつかり合う音を視線で追えば、朝っぱらから敷地内の開けた場所で剣を交えてるシオとカナンヴェーグが視界に入り呆れてしまう。この二人は老人だから朝が早いのか?

 や、シオさんは朝は怠そうにしてる事が多いから、どちらかというと朝は強くない。カナンヴェーグに無理矢理付き合わされているのだろう。


 可哀想。

 横目に二人を見たあと、ベンジャミンの様子を見に行く。


 ベンジャミンも既に起きていて、私に目もくれず草を食んでいる。コイツは食欲お化けか。

 ずっと食べてるな。去勢した猫が太るみたいなのと一緒で、ホルモンのせい? 

 それとも角を切られたストレスを食事で誤魔化しているのだろうか。


 あと、見た目にわかるくらい大きくなっているように思うのは気のせいであって欲しい。

 一日でそう大きくなるものじゃないだろう。まさか……な。

 まだ私が寝ぼけているに一票いれておこう。

 

 私は家に戻り、顔を洗ったあと、籠とハサミを持って畑へ向かった。

 摘み取るというか、切り取るのはハーブ畑のミントとレモングラス。ミントのメントールとレモングラスの爽やかな風味で頭がスッキリとするハーブティーでも入れよう。

 そうすれば、流石に目も覚めるだろう。


 皆、昨日は遅かったんだろうけど、今日 

はエルトディーン達が手配した馬車が来る為、朝のうちに森の入り口に向かう事になる。

 そろそろ、準備をしなければならないんじゃないかな。

 家に戻りがてら、ベンジャミン用の敷地に草を生やし、少しだけ塀を高く盛った。今日こそ私は保存瓶を手に入れるのだ。王都に行っている間に大きくなって飛び出されては困るもの。


 王都に行くついでにリーナに昨日の角兎の肉を持って行くべきだろうか。リーナの家に保管して、あの大量な肉が消費できるのかは知らない。

 実家にお裾分けして、保存食にでもするのかも知れない。

 桜チップなんかで薫製にして、干し肉にしたら野生感溢れていそうな角兎の肉も美味しくいただけるのかねぇ?


 とにかく、我が家の冷蔵庫と冷凍庫に空きを作らない事には、私の保存瓶が入れられない。私とシオは食品の消費はほぼ無いから、どうにかして減らさないといけない。


 出発が早朝だもの、カナンヴェーグ達は朝食をきっと王都で食べるよね。こんな朝っぱらから胃に食べ物なんかいれてらんないしね。


 釜戸に火をつけ湯を沸かす。

 "お茶を淹れるから、そろそろ切り上げてテーブルの王子を片付けて欲しい"とシオに伝えてハーブの下処理をする。


(もう少し、表現に気を使ったらどうです。そのうち、筆談でも貴女の本性が知られてしまうのではと私は不安です)


 シオからのお返事もあったけど、華麗にスルーする。えぇ、コレが私の本性ですわ。


 ミントの葉を茎から切り離しながら、スーと鼻に通る刺激を楽しむ。思い出すのは祖母の家の庭のハーブ畑、季節折々の花々、縁側に差し込む日差しと昼寝のニャン子。


 植物の香りは基本私にとって凄く懐かしい香りだ。

 コレは目が覚めるわ。そう思いながらも、目を細めてあくびを一つこぼした。


 


 

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