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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇ギルドにて◇
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見放された南の大地


(第一王子視点)


 私は馬に乗り一人野をかけている。


 数人の護衛も行きがけに乗っていた馬車も今はない。この馬もずっと走らせたままで、随分無理をさせている。

 しかし、一刻も早く私が見た物を王都の騎士団に知らせねばならない。早急に隊の編成をして騎士団を派遣する。でなければ多くの国民が命を落とす事になるだろう。

 




 私は数日前に干ばつ地帯の視察に出た。


 城の外、早朝、馬車の中から覗く王都の街の様子は、物価の高騰により食事もままならない者、仕事にあぶれた者など生活難の国民がいると聞き及んでいたものの活気があり、通りには多くの人がいた。


 そこまで深刻ではないのか、又は、この大通りを一本奥に入れば別の景色が見えるのか……。


 兵士団の詰所を横切り馬車は南の門へ向かう。

 今、兵士団は改革の最中。現、騎士団長の三男が若いながら兵士団長を務め、以前は野蛮人の掃き溜めであった兵士団を街を守る正しい姿に戻そうとしている。

 しかし、それにより兵士団が窮屈になり逃げ出した者がだいぶギルドに流れたとも聞く。


 門の側では見送りに兵士達が敬礼をして立っていた。公の仕事とはいえ盛大な見送りはいらないと伝えていたものの最低限の見送りはつけてくれたようだ。


 その中に一際鮮やかな赤、兵士団長であるセテルニアバルナの子息が目に入る。


 アドレンス王国の三大貴族は、長い歴史の何処かで皆王家の血を迎え入れているので、王族の血筋のみの魔法を使える者が稀に生まれてくる。それが彼だ。


 真紅の髪。恵まれた体躯、大貴族の三男という自由且つ優れた身分、魔力量に魔法の才能。そのどれもが羨ましい。

 兄二人にも劣らない、兄弟でも随一の才を活かすためにも兵士団ではなく騎士として国に貢献して欲しいと思うがその気はないようだ。それどころか、本人は家督を継ぐ気も、結婚する気さえない変わり者と聞く。

 

 門を出ると草原にはしる一本の道。のどかな光景。

 

 王都シルビナサリから南の中堅都市クラリードまではいくつか小さな町がある。それらを通り過ぎ、今日中に王都より南の流通の要であるクラリードへ向かう。

 今回の公務の行き先はクラリードの更に南にある干ばつ地帯。一旦クラリードで宿泊し、明日、干ばつ地帯の水源の確認や民の暮らしを視察する予定だ。


 馬車に揺られ外を眺めていると不思議な事に、王都を離れるにつれ野が荒れてゆくのがわかる。

 若草が茂っていた草原が荒野と変わり、クラリードに着く頃には草木草木一本生えない剥き出しの大地が広がっていた。

 岩肌の間に作られた外壁をくぐると、さびれた街がそこにあった。活気はなく開いている商店などない。民の表情にも生気が感じられない。

 

「酷いな」


 掠れた声で小さく呟いた。

 その後、この街を治める領主に出迎えられて屋敷へと案内される。


 その際に説明されるのはクラリードより南の様子やこの街の置かれる状況。


「我々は苦しい生活を強いられているのです。どうか、陛下によろしくお伝えいただきますようお願い申し上げます」


 そう、頭を下げる領主はぷくぷくとしていて、余分な脂肪を頬や腹等、全身に蓄えている。ニヤニヤとした笑みを浮かべ手を擦る彼は、要するに父上に支援金を増やすよう言ってくれと……。私にそう言っているのだ。


 クラリードより南の干ばつ地帯は農作物を作るどころか、強力な魔物が跋扈し、人が住むのも困難な土地と化していて、クラリードが砦の役割を果たしているというのだから、事実だとすれば大変な苦労だろう。


「私がこの公務で見聞きした事はすべて陛下にお伝えすると約束しましょう」


 安堵し頬を緩ませる領主。


「ところで、干ばつ地帯の住民の保護はどうなっているのですか? 農作業はできず、人が住めないとあれば、勿論この街で保護をされているのですよね?」


 私にそう問われると領主は汗を拭き取りながら「勿論、保護していますよ」と答えた。

 しかし、その動揺具合からして嘘をついている事は容易にわかる。


「今日は一日馬車での移動でしたので、そろそろ休ませて頂いてもよろしいですか」

「えぇ。勿論。お部屋へご案内いたします」


 公務用の笑顔を作り退出する。

 用意された部屋は豪華な装飾品が多く置かれた広々とした部屋。


 私はソファーに座り、テーブルに資料を広げると明日の動きを護衛の騎士と話し合う。


「クラリードの騎士から情報は聴けましたか?」

「はい。油断は禁物ですか、出没しているのは聞く限りでは私共で対応できる魔物のようです」


 少人数の騎士で対応できる魔物であれば、ここまで酷い状況にはなっていないはずだ。


 何か大事な事を隠している。或いは、支援金を着服し、私腹を肥やした事で衰えた街を、強力な魔物が出た為と虚偽の報告している。


 確たる証拠は無いものの、私の勘が領主を信用してはならないと言っている。


「……今回運んだ物資が民に行き届いているかの確認もしなければならないな」


 可能であれば、保護されているらしい民の声も聞いておきたい。


「一番近い農村が此処から馬車で二時間ほど。馬で向かい、水源となっていた川と村の様子を確認する」


 馬車ではなく馬で移動すれば機動力も出る。なるべく早く戻り視察を済ませて王都に報告をするべきだ。原因が何であれ、この街の事態は深刻なのだから。


「では、そのように。数名で向かい確認してまいります。殿下はコチラに残られてください」

「いや、自分の目で確認したい」

「しかし、危険です」

「自分の身くらいは守れる。私には結界があるのだ。そうそう怪我をする事もない」


「…………」

「…………」


「わかりました。明日に備えて今日は早くお休みになってください」


 テーブルの上の資料に視線を落として騎士はそう言った。



 翌日、クラリードを立ち農村へ向かう。

 その道中は赤狼や鎧猪など中型の魔物が見られたが、コレらは王都付近にも生息しているので難なく切り捨てられてゆく。


 ただ、気になる事は、小型の魔物が見られない事。草木が無いのだから、それらを食べる事でも生き長らえる角兎や青猿がいないのは理解できるが、小型の魔物を餌としている中型の魔物はいったい何を食べている?


 農村につくが、村人の姿などなく住居も荒れ果てている。辺りを見渡した私は額に手を当てキツく瞳を閉じた。


 既に白骨化した人のものと思われる骨が散らばっているのだ。綺麗な人の形を保ったものがないのは獣にバラバラにされたからだろう。


 一体、いつからこの様な状況だったのだ。何故、ここまで放置していた?

 あの領主は、国に報告を入れなかったのか?

 それとも国が放置しているのか?


 無人の村をまわり、井戸に小石を落としてみても乾いた音がするばかりで生きた井戸はない。

 カラカラに乾いた土。

 緑などどこにも無い。


 水源まで足を伸ばしても、そこには水はなく完全に干上がってしまっている。


 この先、更に南にはいくつかの村があり、その先は海と面し、断崖絶壁の海岸が続く。

 上流であるこの村の川が枯れているのだ。コレより先に向かっても水があるとは思えない。


 もはや、この地は……クラリードより先は人の住む場所ではない……。


「戻ろう」


 騎士達に告げ、私達は農村を後にした。

 




 

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