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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇蛇の塒にて◇
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キャンプで爆睡できる奴は強い

 


 大変な思いしてまで異世界で生き抜きたくは無いので、提案したのは死んじゃおうぜ!っていう白蛇の苦労台無しの案。



「どうか、考え直して! せめて、神と直接会ってからどうするか決めてください!! お願いします」



 否定されるのは分かっていたけど、びっくりするくらい必死に私を思いとどまらせようとするあたり、私の代わりを探して連れて来るだけの力は神に残ってはいないらしい。



 最初で最期のチャンスが私だなんて、白蛇の運の悪さが伺える。そもそも、白蛇って幸運なイメージがあったけど。只の迷信だったという事だろう。



「ひとまず、夜が明けるのを待ちましょう。暗闇での移動は。不慣れな貴女には危険です」



 神が棲まう森で、神の使いが側にいても危険なんだな。



「えぇ。以前は豊かな森に人間や動物など、多様な生物が暮らしていたのですが、信仰を失い、神の力が弱まるに連れて魔物が住み着き出したんです。今では魔物以外の動物はこの森を離れて行き、殆ど見かける事はありません」



 つまり、この森には神、神の使い、私、魔物しかいないと。聞くからに豊かでない森の様子だし、魔物の餌は何なんだろう?? と不安がよぎる。


 例えば、ファンタジーなら瘴気とか言う霞みたいなもので存在を保ってたりする事もある魔物だが。他の生き物が逃げ出すくらいだからそうでは無いだろう。



 魔物以外の生き物が居なくなってどれだけたつか知らないが餌が乏しい状況に、無防備な私と言う餌が突如目の前に現れたら……間違いなく食べちゃうよね?



「一応、認識阻害と物理耐性の結界を張りましたので安心して休んで頂いて結構です」


 見張りは私が努めます。だとか、自称、只の蛇がなんかファンタジーな事言ってるんだけど……。



 明らかな危険地帯のど真ん中に、力使い果した白蛇の結界があったところで安心なんか出来る訳ないよね。

 只でさえ、お布団も無いこんな森の中で寝れるわけない。無神経な事は言うけど、その辺は神経質です。


 それに、わかりやすく結界は視認出来る訳でもないのだから不安に思うのは当然だ。範囲はどこまでなのか、動いても平気なのか、音も遮断しているのか。


 白蛇の言う魔物がどんなモノか分からないが、地球人が素手で相手して敵うとも思えないのでその辺の情報はキッチリ知っておかないとまずいと思う。



「只の蛇、とは言いましたが、神の使いでもあります。この程度の事でしたら、神より頂いた力を使わずとも容易なのです」



 つまり、使い果したのは神から与えられた力で、結界張ったのは自分の能力と言う事らしい。



「それに、一応、この森にも加護がありますのでそこまで強い魔物はいません。大きくても猪程度の大きさで、殆どが、先程の猿など、小型の動物を模した魔物ばかりです」



 いやさ、猪って結構でかいよ? リアルの猪見た事は無いけど大型犬より大きいんじゃ無いの?? 丸腰で相手できるわけがないわ。さっきの猿だって無理だわ。



「猪の魔物が出たとしても持ちこたえられるだけの強度はあります。音も遮断されますので、声も出して頂いても結構です」


「……なら、遠慮なく」



 心で会話するのも楽といえば楽だけど、色々と考えるモノだから、次々浮かんでくる疑問に、白蛇も何から答えていいか迷うだろう。優先的に聞きたい事を口に出していこうと思う。


 先程からの白蛇との会話で、信仰を集めて神の力を復活させない事には日本に帰る事が出来ない。と言うのがわかった。まぁ、帰れたとしてもかなりの時間を要するだろう。


 時の流れが日本とこちらの世界、トルニテアで同じだと仮定したら、私が消えた日本では数日で事件扱いになり、死んだと思われ。私の家の荷物や賃貸の処理、仕事においても多方面の方々にご迷惑をかける事になるだろう。


 どのツラ下げて「異世界に行ってました」とか言って帰れるんだっつー話。


 物には情が湧くが、人間に対して薄情な私は「家族と会えなくなるなんてヤダ!」とか言わないよ。


 自分が生きやすいか生きにくいかが行動の判断基準なので、頑張って信仰集めてまで日本に帰るメリットを私は見出せない。


 つまり、トルニテアで死ぬ日まで生きる事になるだろう。



「ところで、ここの一般人ってどんな暮らしぶりなの?」



 生活水準が知りたい。身分も何もない、異世界人が溶け込んで暮らせるようなシステムなのかも気になる。


 戸籍管理がされているなら、間違いなく私は存在しない人間。仕事や住居を手に入れるのも困難になるだろうし、裏ルートのコネクションが必要になるかも知れない。厨二っぽく言うなら闇の住人だ。真っ当な暮らしが出来る気はしない。


 白蛇は、私も最近の人間の事情は詳しくありませんが。と前置いて語り出した。



「人間は大きく、貴族、聖職者、平民に分けられます。平民は更に、兵士、商人、職人、農民、それ以外、の5つに分けられますが、平民の殆どは、商人、職人、農民のどれかに属しています。王都や地方、国や領地によって変わってきますが、皆が豊かな生活をしているとは言い難いです」



 そりゃ、さっきから時々()()って出てきてたから、王様がいるんだとは思ってたけど……貴族とか聖職者とか、ファンタジー感が満載で聞いているだけじゃ現実味がしない。


 ただ、万国共通で平民は働かなきゃ食っていけないってことは確かなようだ。



「私には貴女のいた世界はとても豊かに見えました。同じ水準の生活は貴族でも難しいかも知れません」


「なんなの? ここの貴族は貧乏なの?」


「いえ、お金の問題というより技術的な問題かと。魔法を用いたわけでもないのに夜に明かりが当然のようにある事。外の気温に関係なく、室内を快適な温度に保つ事。それらはトルニテアにはない技術です」



 白蛇の発言は衝撃的だった。電気が無いっぽい。つまり、水を組み上げるポンプも無いよね?? 水道も通ってないのか。この分じゃ、ガスもおそらく通ってないだろうし、料理はかまどで、暖は暖炉。


 日が昇ったら起きて、日が暮れたら寝る生活をしてるのかも知れない。土人なの??


 現代人の私がライフライン無しで生きていける気がしなくて、異世界ライフ始める前から挫折しそう。


 挫折したとしても、憂鬱な明日は当然のようやって来るわけで。



 白蛇の結界を信用していないわけではないが、森の中で寝る気にはなれず、その後も、言語の違いについてやお金についてなど……空が白むまでひたすら白蛇を質問ぜめにするのだった。




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