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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇ギルドにて◇
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アドルディアフォイフォイは見た



(アドレンス第一王子視点)


 昨今、増え続ける魔物。人を襲う魔物もいるが、臆病で農作物などを狙うモノもいる。


 国中から被害の届けが王都には寄せられ、対策として数年前に国営にて各地にハンターズギルドが設立されるも、思惑通りの機能は果たさず、ゴロツキの溜まり場と化している。


 平民の中に魔物の駆除をして国や国民に貢献できる腕の立つ者はほんの一握り。後は税を逃れる為に義務づけられた魔石のみを提出する者、魔物を狩る力もないが、魔石を工面してもらう為に強者につき従う者など……ただでさえ厳しい国の財政を圧迫する存在だ。


 何か対策を講じなければならないとは解りきっているものの、多くがを背を向け触れようとはしない。王都では戦力の底上げにと、騎士団を引退しギルドの責任者となったカナンヴェーグ殿が見込みのあるものに声をかけて訓練を施そうと試みたものの上手くはいかなかったようだ。


 いっそのこと、廃止にするなり、規則を厳しくするなりしなければ、いずれは治安の悪化に繋がるというのに、私にその権限が無い事がもどかしい。


 魔物に加え、近年の雨不足による干ばつ。地域的に起こった深刻な食料不足や水不足。追い討ちをかけるような病の蔓延。それらは、このアドレンス王国内で今起きている事なのだ。


 近隣諸国で最も栄え、豊かな土地を多く持っていた強国。その姿は見る影もない。

 

 王都より離れた土地では、土地は痩せ、作物の生産もままならず、流通も魔物によって脅かされる上、貴族の介入で物資は平民に行き渡る事がない。耳に入る民の暮らしに心が痛む。


 このままでは、国は立ち行かない。

 この国は今、危機に立たされているのだ。

 

 人の気配を感じ、何か私に出来ることが無いかと読んでいた古語で書かれた魔術書を閉じた。


 魔術は手順を正しく踏めば適性の無い属性の現象を起こす事ができる。大規模な陣を用いて干ばつ地帯に湖を作る事ができないか、深い場所にある地下水脈まで井戸を掘り、その水を平民が容易に汲み上げる事が出来るような仕組みを作れないか。


 教えをこう相手がいない故、敷地内にて私なりに小規模な実験を繰り返すものの、魔法陣が発動することはなかった。


 バン!!


 大きな音をたてて私の自室の扉を開くのは私の腹違いの弟、パレアターナルフェンフェン。


「兄上!今日、父上から私用の馬を賜ったんだ!!今度、一緒に遠乗りに出かけましょう」


 余程、馬を賜ったのが嬉しかったのだろう。今の自分の行いが礼を欠く行為だと理解してはいなさそうだ。


「パレア。頂いた馬に慣れて、互いに心を通わせなければ外に出る事は出来ないぞ」


 王都の外は魔物も出る。乗馬場で満足して貰わなければ、王子の外出はただでさえ忙しい騎士団に迷惑がかかる。


「そんなの簡単だ。すぐに乗りこなして見せる」


 パレアは根拠のない自信の塊で私とは正反対だ。生まれながらに優れた才を持ち、父上からも大事にされ、欲しい物は全て手に入れて来た。

 今まで、パレアの願いを叶える為にどれだけの犠牲が払われたのかはわからないし、本人は気にも留めていない。

 自身が優遇されるのは当たり前で当然の事だと信じて疑わないのだ。

 

 いつもの事だが兄弟であるのに彼といると精神的に疲れる。


「王子!!」

「あ、まずい。ザガルが来た」


 家庭教師の授業から逃げだして来ているパレアを探し、護衛の騎士が城の中を走り回るのはいつもの事。


 パレアが慌ただしく私の自室をさって行くのを見送り深いため息を溢す。



"魔力の多い者、適性のある属性が多い者は高貴で価値のある人間である"



 トルニテア、殊にアドレンス王国ではその認識は強く、高貴な者ほど色の濃い髪や瞳の色をした者を欲した。魔力を持つ事は権力を持つことに等しかったのだ。


 しかしながら、近年では濃い色を持つ親から同じく濃い子供が生まれない事も多く、貴族の中にも薄い髪の色を持つ者や兄弟で濃さに差が出ることも稀では無くなってきている。


 私がそうで、濃い茶色の髪を持つパレアと比べると大分明るい色をしている。


 王妃であった母上は、私の生まれながらに持つ色、才の無さによってせめられ、後にパレアを産んだ側妻と比べられ、やがて心を病んだ。そして、昨年、この世を去った。

 

 幼い頃より足りない物は補うよう努めた。だが、四つも歳の離れたパレアに属性魔法の才は劣っているのだ。


 誰もがパレアが後に王になるのだと考えているだろう。明らかにパレアに媚び諂っている貴族もよく見かける。


 パレアの母君が正式に正室となり、もはや、後ろ盾も才もない私はただの飾り。この呼びにくく無駄に長い名もただの飾りだ。


 そんな事を考える自分に少し腹が立つ。


 静かになった部屋で深呼吸をすると先程閉じた本を再び開いた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ある日、



「視察……ですか」


 謁見の間

 父上に訪れるよう言われた部屋で告げられたのは干ばつ被害のある地域の視察。


 王族は国民の事を気にかけている。見放してはいない。そういった意思を伝えるの為の行為あって、解決策を講じるわけではない。こんなのはただの…………。


「父上!」


 謁見中に突然許可なく入室して来たパレアが父上に抱きついた。それを咎める事なく「どうしたのだ」と和かにパレアの頭を撫でている。


 私に向けられた事のない父上の表情。

 今まで父上が私に触れようとした事があっただろうか?

 胸の中がモヤモヤとした感情で溢れ返る。

 …………。


「謹んでお受けいたします」


 静かに瞳を閉じる。

 私は私の役目を果たそう。

 出来ることを出来るだけ。


「あぁ。しっかりとこなしてくるんだぞ」


 私は深く頭を下げて退出した。




 後日、護衛を連れての遠方への視察で私が現地で見た物は、書類で知らされていたモノとは違い、さらに厳しい状況下に置かれた平民達の姿だった。

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