表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇ギルドにて◇
37/109

兎ちゃんは可愛くあればいい



 兎は可愛い生き物だ。角さえなければ。


「!!!!」


 草原にて、私に突進してくる白い兎。角さえ無ければただの兎。角さえ無ければな!!


 刺さるから!!

 お前の頭凶器だから!!


 避けるのに精一杯の私をよそにサクサク兎を斬り捨てていくシオ。ライドもシオ程ではないが一旦回避を挟んだあと兎にトドメをさしている。


 正直、どっちも怖くて近寄りたくない。


 スパッと切れ味の良すぎる細身の剣で兎の首を斬り落とすシオと、グシャッという効果音がつきそうな血飛沫の上げ方をして大剣で兎を叩き切るライド。タイプの違う二人は競うように兎を仕留めては証明部位の角を集めている。


 無理。私には無理。


 角兎はよく動物園で見かける兎よりかなり大きめで、私が抱えられるかどうかの大型犬サイズ。と言っても、ジャイアントの名の付く地球の兎と角以外何も変わらない。コチラに気づくまで草原の草をムシャムシャしてたくらいだから草食なのかもしれない。普通に可愛い。


 ギルドに依頼が出るのは、多分、兎の魔物だけあって繁殖力が強いのかもしれない。増えすぎを防ぐための間引きなのだと思う。


 いっそのこと家畜として飼えばいいんじゃないの?

 魔石を取った後はお肉としていただくわけじゃん。家畜として飼えば、魔石の生産も出来るし、肉の生産も出来るし、餌は草だし。私、生やせるし。


 残酷だけど、角さえとってしまえばただの大きな兎なんだから、ギルドの暇そうなおっさんとか、一等級のギルド員でも世話できるよね……。


 グサッ。

 

 …………。


 ………………。


 ったぁ!!


 余計なこと考えてたら私の左脹脛に激痛が走る。すぐさま視線を落とすと、ちっさい角兎が私の足に刺さっていた。


「…………」


 そりゃ痛いよね。うん。

 傷はすぐに塞がると思うので、ダラダラ流れる血を無視で兎の首根っこを捕まえて持ち上げると、兎は脚をバタつかせて抵抗している。


 子供だろうか?

 お父さんをミートパイにされた兎のモデルと言われる種類と同じサイズ感だ。コイツもお父さんをライドに食べられ、あの兎と同じ運命を辿るのだろう。

 

 ソレにしても可愛いな。


(可愛いではなく、必要なくても傷を治すフリをしなさい。不自然です)


 確かに、ライドに人外なのがバレるのはさけたい。

 「大丈夫か?」と、心配そうに声をかけるライドの顔を見るに、頭上には疑問符がたくさん飛んでいるようだ。


 暴れる角兎を抱えたまま脹脛に手を当てて、痛みも残っていない傷跡に癒しを施した。


 大丈夫だよ。と伝えるべくライドに笑って見せる。


「油断するなよ。小さくても魔物なんだから」


 そう言うと、ライドはポリポリ頭をかいたあと、倒した角兎の処理を始めた。

 初めから持ってきていた長い木の棒に次々とロープで逆さに括り付けられてゆく首と内臓のない兎肉。

 

 oh……。

 滴る血がショッキング。


「じゃ、進むか」


 首と肩で棒を支えて、まるでヤジロベエなライド。進むにつれ背後には血の道ができている。日程詰まってるにしてもホラーだな。


(この血で、今度は赤狼を誘き出すんです。それより、その角兎、逃すなりとどめをさすなりしたらどうです)


 血抜きしつつ、拠点に向かい、次のターゲットである赤狼を臭いでおびき出す。理にかなった効率的な行動だったのね。

 

 自分が食べる気ないから別にそれでもいいけど、血抜きなら生きたまま脈を傷つけて心臓にポンプの役割をしてもらう方がいいとか、直ぐに冷やさないと断面から侵入した細菌が肉の中で繁殖しちゃうとか、齧歯類から感染する野兎病とかあるから素手で触んない方がいいとか…………。

 色々思うところはあるけど、トルニテアではコレが常識かもだし、病原菌もいないかもだし……口は出さないでおこう。

 

 もとより、話せないけどな。

 そんな事考えつつ捕まえた角兎を見る。


 ブーブー鳴いてもがいているが、獲物とはいえ小さいからかリリースもありのようだ。


 選択肢は、逃す、殺す。

 あとは…………。


「…………」


「ブーッ!!!」


 風の魔法で角を落とすと角兎が一際暴れて大音量で鳴いた。そして、動かなくなる。


「…………」


 え、死んだ?

 前後に揺さぶるが動く気配はない。でも、息はしてるっぽい。気絶か?


 コロンと地面に転がる角をとりあえず拾う。正面でライドが顔を引きつらせていた。


「残酷だな」


 え?

 や、残酷だとは思うけどライドよりマシじゃないかな。


「雄の角兎は角の大きさや丈夫さが求愛行動の成果に大きく影響するんだ。言わば雄の象徴。一度角を切ったら生えてこないし、雌に相手してもらえなくなる」


 コイツ、雄なんだな。


「人間に例えると一物を刈り取られたようなもんだぞ」


 ……ソレは言い過ぎじゃないかな。精々ハゲにされたくらいじゃないの?

 や、ハゲにするのもかなり酷だけどさ。


 ま、とりあえず「一物ってなぁに?」みたいな顔して首を傾げておこう。ほら、一応、十歳設定だしな。と、実行にうつすと、ライドは何故かたじろいだ。

 視界の隅でシオがため息をついているのも見える。なんだよ。


 シオとライドの反応は置いておいて、この角兎は野に返しても生涯ハードモードって事はわかった。


 つまり、ペットにするしかないな。食べる選択肢はない。


 名前はなんにしようか。ピーターとかどうよ。ミートパイの子供だし。でも、響きがあんまり好きじゃない。ここは従兄弟のベンジャミンから名前をいただくか。植物の名前だし、つっかかりなく口から出てくるぜ。


「この子は……角兎を生かしたまま持ち帰る気のようです」

「はぁ? 魔物を飼う気か。元貴族様の思考にはついていけないぜ」

「いぇ、コレがおかしいだけです」


 魔物を飼うのはよほどおかしい事らしい。

 トルニテアには魔物以外で魔石を持たない動物も存在する。家畜などはソレ等で、ペットとして飼われる生き物もきっとそうなのだろう。



(確かに角兎の餌は草で問題ないですが、いずれは今のあなたと対して変わらない大きさになるんです。持て余しますよ)


 や、デカイウサギって可愛いじゃん?

 角切っちゃえば去勢したようなもんなんだろ。だったら、大人しいかもしれないし。いいじゃん?


 私は既にベンジャミンに緑の帽子を作ってやりたいぜ。

 

「…………」

(貴女には呆れるばかりです)

 

 リザの声のため息が頭に響く。

 気にしない気にしない。


「来ましたね」


 そう言われてあたりを見ると三匹の赤狼の姿。視線は肉を運んでいるライドに向いている。


「頼んだぞ兄!」


 引きつった顔でシオに声をかけると、ライドは少し腰を下げていつでも動ける体勢になった。避けるのに能力をさくつもりらしい。

 気絶したベンジャミンを掴んでいる私は戦力外扱いだ。


 頑張れシオ!

 ファイトだシオ!


 とはいえ、この赤狼というのが物凄く動きが素早いのだ。避けようと思って避けれるものじゃない。


 一匹。シオが仕留めるも、他の二匹がシオを迂回してライドに向かう。ライドは避けつつ肩にある兎付きの棒を使って牽制する。

 いや、その棒についてる兎が狙いだからね。


 !!!!


 って、ちょ、こっちくんな!!


 二匹の内一匹が弱そうな私に標的を変えやがった。急な方向転換もなんのそのな脚力で私に向かう赤狼は、ヨダレダラダラだし、土汚れも付いてる。アレに噛まれたり、引っ掻かれたら病気になりそう。

 そう思った瞬間にキャウン! と、シオの方でワンコロが断末魔の叫びを上げる。

 

 残り一匹。だけど、ソイツが私を狙っているってのが問題で。

 襲いかかる鋭い爪と牙をなんとか避ける。


 やばっ、焦ってベンジャミン落としたし!


 赤狼はすかさずベンジャミンを咥えて方向転換。迫るシオから離れる為に駆け出した。


 え、ちょっと、ベンジャミン!?


 逃げられる。そう思って、間に合わないかもしれないが、赤狼の進行方向に土の壁を地面からはやした。

 

 が、


 結果、間に合わなかった。


 土の壁で遮るつもりが、赤狼の方が少しだけ速く、土の壁は赤狼の腹部に直撃し、赤狼を空高く跳ね飛ばしたのだ。


 oh……。こんなつもりではなかったんだよ。急いでたから、余計に威力が強かったみたいだ。恐ろしい。


 ベンジャミンは赤狼が衝撃を受けた瞬間、比較的低い位置で落とされたので多分無事だと思う。

 

 ベシャッと地面に落ちた赤狼はピクピクと痙攣している。もう、生きてんのか死んでるのかわからない。


 南無阿弥陀、南無阿弥陀。

 普段なら手を合わせて拝むところだが、ベンジャミンが気になり其方に駆け寄る。


 噛まれた跡はあるし、出血もあるけど生きてるっぽいので急いで癒しを施す。


「信じらんねぇ」


 間抜けにも口を開けて固まってるライド。

 何が信じらんないのさ。


(平民にとって癒しが使えるのは聖職者のみですが、癒しを受けるには大金が必要なんです。其れを、自分のためならいざ知らず、魔物に使用したのが信じられないのです)

 

 ……。聖職者、金取るの? 慈善事業ではないのな。私も慈善事業はしないけど。


 ま、いいか。

 ともかく、もう落とさないようにしよう。


 魔石の剥ぎ取りと死体の処理は二人に任せて、私はベンジャミンを抱えて歩く為に、ベンジャミンを綺麗に洗う事に専念するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ