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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇ギルドにて◇
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嘘をつかずに騙す奴は性格が悪い


 シオにお茶を振る舞い、王都での買い物の約束を得た数日後。念願のお買い物に気分は上々、着替えを渋ることなくルンルンで外套羽織り、数時間の道のりを文句を言うことなく歩き王都にたどり着いた。


 ギルドの会員証を門番に見せて中に入ると、見たことのある黄緑色の頭がそこに立っている。


「お、約束通りの時間に来たな」 

「…………」


 ??

 約束とはなんぞ?


 私は、ライドと約束を交わした覚えはない。今日は、私のお買い物をしに来たのであって……。


「頼まれてたギルドの利用法を教えるついでに、日帰りで出来る依頼をこなす予定だがいいよな?」

「えぇ、構いません。よろしくお願いします」


 先日あった時のビビリはもう何処かに行ってしまったようで、自然体の爽やか笑顔で声をかけてくるライド。

 そして、当然のように返事をするシオ。


「…………」


 シオさんや。


 元々、王都に来る約束があったわけだ。私のお買い物の為に来たわけではなかったのな。

 私は一人で王都に行けないので引率を頼むシオさんを巻き込んで悪いと感じていた。だからこそ、最近、めちゃくちゃ聞き分けのいい良い子でいたのに……。


 何ソレ。

 おい。


(嘘をついていたわけでも、騙したわけでもありません。実際、王都には足を運んでいるわけですし、私の用を済ませた後に買い物をすると言っていたはずです)


 でも、意図的だ。

 絶対わざとだろクソッ!

 一瞬で感謝の気持ち何処かに行ったぞ。


(声に出さないにしても、その品の無い言葉遣いはやめていただけませんか)


 あーー。

 正当性を主張して全く譲る気なしに話を逸らして私をせめてくる。嫌なヤツ!!

 心の中でくらい吠えさせろ。

 

「お前ら、前回相当やらかしたらしいな」

「そうでしょうか?」


 ヘラッと笑いながら言うライドに、シオがそんなことありましたっけ? と言わんばかりにすっとぼけている。


「やらかしただろ。その日何があったかは箝口令出てるっぽくて、ギルド員に聞いても何もいわねぇけど、怯えながらお前らの様子を俺にたずねるヤツもいたし、中庭もなんか変わってるし……」


「…………」


 やらかしたか、そうでないかと言われればやらかしたが、中庭は変だったか?

 かなり、いい感じに仕上げてたろ。トルニテアの植物わかんないから知ってる植物で仕上げたけど、雰囲気はそのままのはず。


 寧ろ、よかったろ?


 四季を楽しめるように、あの短い時間でいろいろ考えたんだぞ。偉いよね。

 あの庭の植物が薬草ばかりで、貴重な植物があったとか言われたら困るけど。


「ま、ギルドがどんな様子かは行けば分かると思うが」

「……面倒そうですね」


 本当にな。


 あ、このあと、普通にギルドに向かうわけだよね?

 ギルドの利用方法習うんだもんな。冷静になって考えると、前回張り付けにした爺さんがそこにいるんだよね?


 私、やばく無いか??

 罪人一直線。ムショ行き?

 サーッと血の気が引いていく。


 ぶっちゃけ、知りたくないと思って目を背けていたのもあるのだけど、あの日どうなったかとか詳しくシオに聞いてない。

 まず、爺さんが怒り狂ってたのなら無事帰れた事が奇跡よな。エルトディーンあたりが上手い事宥めてくれたのだろうか?

 

 そんな気がするので心の中で感謝しておこう。ありがとう!


 ……………………。


 え。うん。

 やばい。


 恐いぞ。心の底から行きたくない。

 自分の罪状は把握してるさ。ソレに対する処罰が見当がつかないから恐いんだよ。今すぐギルドに隕石落ちてこないかな。ズドンとそこだけなくなってしまえばいいのに。そしたら行かなくてもいいだろ?


 あーーーー。ヤダわ。


 爺さんに変に絡まれて責任追及されたら、今日、買い物なんかできなくなる可能性あるよね。できれば避けたいなぁ。

 

 どうするべきか、どうしよう。

 

 エルトディーンにと持ってきた茶葉を爺さんにお詫びの品として渡せば良いのか。ソレで機嫌取りできるのだろうか?

 そんな、上手いこといくわけないよね。無罪放免とはならないだろう。なんで私がこんなに焦ってるのにシオさん冷静なの? なんなの? 余裕なの?


(まぁ、あの老人に危害を加えたのは私でなく貴女ですからね)


 あーーーー。

 耳を塞ぎたくなるけど、頭にリザの声が響いてくる。自分は悪く無いとかさ、そんな答え聞きたくなかったわ。


(そう、構えなくても彼は怒っていません。既に話はついています。貴女が今後彼から迫られるのは、せいぜいエルトディーンとの縁談くらいでしょう)


 は?

 なぜ、なにゆえ自称十歳に縁談を持ちかけるのさ。しかも、エルトディーンの。彼に相応ないい人が絶対いると思うのだけど居ないの?


(その歳での婚約は珍しいものではありません。正式な婚姻は何年も先になるでしょうけど)


 十歳の婚約は珍しく無いとな。にしたってこの歳の差が有れば日本じゃ事案だろ。実際の歳はそう変わらないけど、この見た目年齢でしか判断出来ない人から勧められるのはないわ。引くわ。


 トルニテアの恐ろしきかな。


 服屋の店員にしても、爺さんにしても、冗談なのだろうけど尚のこと言うべきじゃないと思うの。相手が私でなく脳内お花畑の女だったら、冗談を本気にしてエルトディーンに擦り寄っていくだろう。エルトディーンは顔も中身も悪くないから格好の餌食だ。

 確かに私は黒髪の黒眼だけど、それ以外になんの取り柄もないんだものエルトディーンかわいそうじゃん。

 

 そうこうしてる間にギルドにたどり着く。静かに扉を開けると人の視線が集まり、騒がしかった室内がシンと静まりかえった。


 うん。どうした?

 カウンターに向かう途中にすれ違う人は何故かビビリあがっているし、カウンターのお姉さんも顔が引きつっている。


 ギルド内の半数程度が「なんだあのガキ」と、前回同様の反応をしているが、もう半分は必要以上に距離を取りたがっているようにみえる。


「日帰り可能な依頼があればいくつか出して欲しい」


 ギルドの受付嬢が返事をして書類をピックアップしてくれていると、後方から前回同様に保護者同伴とかトルニテアの"金魚の糞"的な僻みが聞こえて来る。


「一応、今回は俺の等級の依頼に同行する形をとるけどいいな? ギルド員と依頼には五つの等級があって、登録したばかりのお前達は一等級。基本的には等級が同じ依頼しか受けることはできない」


 へぇ。能力に見合った依頼をこなせという事ね。掲示板に貼り付けられている依頼書に目をやると、一等はハンターとは名ばかりの雑用係のようで、草むしりから引越しのお手伝い、繁忙期の臨時スタッフ募集……シルバー人材や派遣スタッフのような仕事もある。

 この仕事で食いつないでいる人間には年に決まっただけの魔石の提出をするのは難しいだろう。


「今回は何等級の依頼なのです?」

「俺が三等級だから三等級だな。一般的なギルド員は二、三等級だな。近隣に出る魔物の討伐なら三等級あれば問題ない」


 ライドもそこそこ強いんだな。私がビビりあがったあの赤い狼も問題なく処理できるって事だもの。


「依頼をこなしてゆく内に自然と等級は上がるから、地道に頑張るんだな。ちなみに、等級が上がるほど報酬は良くなるぞ」


 地道にと言っても、草むしりの報酬なんてお小遣いレベルだろうし普通はやってられないだろ。強面のおっさんが庭で土いじりしてたらビビるわ。

 私は土いじりばっちこいでモーマンタイだけどな。寧ろそれだけでいいや。ついでに庭もいじってやるよ。私好みにな。



「日帰り可能な王都付近の依頼はこちらですね」


 受付嬢がライドの条件に沿った依頼書三枚をテーブルに並べたが、案の定私には見えない。


 「西の森での薬草採取、南の草原で赤狼の討伐、同じく南で角兎の討伐か。南に行くか……」


 ライドは南の依頼二枚を受ける様子。三人分のカードを提出して依頼を受けたという記載をした。

 この行為はどんな依頼を受けていたかをギルドが把握するためのもので、達成出来なかったらペナルティがあるわけではないらしい。


 ギルドの依頼を受けて帰らなかった場合の捜索や、死亡者を出した依頼の等級変更などに利用されるのだろう。


「上位等級の奴と同行する場合は、等級の違う依頼も受けれるが、基本一等級の依頼は掲示板にあるからソレを剥がして受付に持って行けば嬢が受理してくれる。場所や獲物情報は聞けば教えてくれるから、なれないうちは詳しい話を聞いておいた方がいいぞ。ま、一等級のウチは外に出る依頼はないけどな」


 その他、ギルド内の使用可能施設の説明やギルドに屯しているおっさんが何をしているのか等、ライドの説明を受けながら外に向かう。


 危惧していた爺さんとの遭遇は避けるとこができた模様。


「赤狼は塒の側まで行かないと出ないから、ついでにお前達の拠点も見せてもらうぞ。エルトディーンが家を建ててやれとうるさいんだ」


 そういえば、ライドの実家が大工だってこの間家に泊まらせてもらった時聞いた気がする。

 今は、材料費の値上がりで家建築費も高騰。建てる家もなければ、改築増築の依頼もなく収入的に生活は苦しくあると言っていた。

 生活苦は職人系全般に言えることで、物価の高騰、収入減と来たらエンゲル係数は上がるもの。食べ物以外をまず切り捨ててゆくしかない。王都は不景気真っ只中だな。


 供給の復活、物価の安定、外貨取得。経済を回せよ。と、詳しいことは何も知らない私は思うけど、簡単ではないんだろうな。


「そうですね。拠点と王都を往復すれば、依頼内容の達成に十分な魔物はかれるでしょう。行きの魔物は魔石と確認部位のみを取り、あとは拠点で加工して後日運びましょうか?」


「そうしてもらうと助かるぜ。やっぱり異空間収納は便利だよな」


 エルトディーンの魔法を羨んでいるライドと共に私達は南の門から外にでた。



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