お茶という恐ろしい飲み物
お茶という飲み物は戦争の引き金にもなりうる、人を魅了してやまない恐ろしい魅力を持った飲み物です。
えぇ。
英蘭戦争然り、独立戦争然り、アヘン戦争然り……。事の発端にあったのはお茶。
そう。
みんな、お茶が飲みたかったんだよ!!
みんな、お茶大好き!
日本人もお茶を愛してる。多分。
「………………」
「………………」
シオにゴミを見る目で見られても、今の私は気にしない。そんな視線ものともしない興奮。
はい。えぇ。
私のお茶が完成しました。
残念な鼻歌を披露してしまいそうなほどに嬉しい。小躍りしてもいいよ。スキップくらいなら余裕だわ。
先日、ギルド登録を済ませた日、シオが怪我をする寸前に使った魔法は、出来る出来ないはさておき、緊急でとにかく必死だったので、大量の魔力を消費したうえで、自分でも信じられない結果となった。
今、思い出しても恐ろしい。本能的に恐怖を覚えたあの爺さんを木に張り付けにしたのだから。力の入らない体でガクブルしながらも、頑張ってお庭をもとに戻そうとしたのは覚えてる。
それ以降の記憶は曖昧で、目覚めたら拠点のベッドの上。丸一日は寝てたらしい。
回らない頭で、買い物に行けずお茶の道具を買えなかった事を悔やんでいたら、シオが道具を揃えてくれていた。
その時は、シオをシオ様と拝んだね。
後にクドクドとお説教を受けたけど、反省なんてろくにしてない。
一応、シオの許可をとってから、翌早朝に風の魔法を駆使して大量の新芽をサクッと刈り取り、いくつかに分けて蒸した。
釜戸も土の魔法で作り上げて作業開始。
とりあえず一番茶は煎茶。緑のお茶が飲みたい。二番、三番で烏龍茶や紅茶を作ろうと思っている。
茶葉を蒸した後は、乾燥、炒る、揉む、炒る、揉む……様子を見ながら繰り返す。
結構量もあって大変な作業なんだけど、見慣れたお茶が出来上がると頬の筋肉が緩んでニマニマしてしまう。
魔法は便利だ。火力の調節も出来るし、湿度のコントロールで乾燥も可能。
最初に蒸しあがった分は基本的な方法を使ったけど、後の方は試行錯誤して魔法を使用したので時間の短縮にもなった。
出来上がりの見た目や香りにも大きな差は無い気がする。
元々、ビンに詰めて保管できちゃう系の食品を作るのが好きで、レモンピールやらコンフィチュールやら梅酒やら、子供の頃から祖母と一緒に色々作ったなぁ……。と、昔を懐かしみつつも、数本並べられた煎茶の瓶を見てホクホクする。
花の時期が終わる前にジャスミン茶も作らないとな……。
シオが買ってきてた果実でも色々つくりたいんだよな。天然酵母を作ってパン焼いてもいいし、ジャムにしてもいい。となると、保存容器が足りないんだわ。
ちょっと、考えてるだけで楽しい。
「シオさんお茶しません?」
読書中のシオをお茶に誘ってみる。
急須なんてのは無いので、シオのティーセットを借りようと思う。
まぁ、お茶受けないけどいいよね。
クッキー焼くには窯がない。窯も作ればいいんだろうけど、電子オーブン世代ですので石釜の仕様なんて知らないし。蒸し器で蒸しパンも考えたけど、型がない。紙の型なんてあるわけもなく、せめてココットでもあれば幅が広がるんだけど……。
個人的にパンケーキに煎茶は無いので、空腹にお茶は胃が荒れるというけど気にせず飲む事にする。
「下心が筒抜けですが……頂きましょう」
ですよね。
私は保管用の瓶が欲しいです。
ついでに、色々と自分の目で果実を見て買い物したいです。連れてってくれ。
洗浄したポットに茶葉を入れ、カップにお湯を注ぐ。温度を見計らってポットに湯を移し替え、茶葉を蒸らす。
少しずつ、湯呑みに注ぐのと同じようにティーカップに注ぐ。
いい香り。
いい色。
淹れ終わったお茶をシオに差し出した。
えぇ、畳に座って頂きたいが、この家にあるのは簡易テーブルのみ。
立ったまま頂きます。
カップを傾けお茶を流し込むと程よい温度。爽やかな飲み口。
非常に和む。トルニテアの劇物とは大違いだ。私の反応を窺っていたシオも問題ないと思ったのか、ゆっくりとした動きでカップに口をつけている。
前にも少し考えたけど、シオさんに毎度お金を出してもらうのを当然にするのは心苦しいというか嫌だ。
リザを救います!
とか言って、めちゃくちゃやる気がある人間が色々サポートされてワガママ通すのは納得できるけど、私みたいなやる気のない、「程々にゆっくり信仰集めてこうぜ」「面倒臭い。そもそもなんで私が?」みたいなタイプのヤツがおんぶに抱っこされるのは自分でもおかしいと思うのだ。
かと言って、魔石集めするしかないのは分かっているんだけど……。
やっぱり怖いんだよね。
や、異世界来たからって、普通に害獣殺せます! ってなったら結構やばくないか?
近代のゲームの悪影響が……漫画の悪影響が……とか、現実との区別が……とか、オタクが何か事件起こすと毎度そのオタクが好きだった物とかをディスるじゃない?
私は、ソイツの性格であってゲームや漫画のせいじゃないだろと思ってたんだ。
けど、害獣的存在の魔物を殺すのが一般的な世界であるトルニテアに元猟師でもない日本人が来たとして、平気な顔して害獣を殺し、その死体に刃物を刺して腑分けして魔石を取り出したら、社会不適合者、ゲームや漫画、現実との区別がつかない人、サイコパス、そう思わざるえないよね。
ものすごく、適応能力の高い人だったら出来るのかな。ソイツ、勇者かなにかかな?
酷い殺し方をしてしまって土の肥やしになったゴブリンの事も、何処か私の心の中でつっかえてるんだよね。生き物の命を奪う行為に慣れる気がしない。自身の適応能力の低さを恨むわ。私は勇者になれない。
道路でニャンコが轢かれてるのを見るだけでも怖いと思い内臓を掴まれているような感覚を得る。
可哀想だと思うと取り憑かれる。ついてくる。子供の頃そう言われて育ったんだよ。
別に信じてはなかったさ、私だけが可哀想と思うわけがないのだから猫の魂が物理的に足りねーよ。と子供ながらに思ってたさ。
でも怖いんだよ。無理だよ。
食肉加工された牛肉に可哀想とは思わないけど、肉にする為に絞められる瞬間を見たら可哀想だと思う。だから、食事の際は感謝を込めていただきますを言うんだよ。
てなわけで、魔石集めは無理なので、このお茶売れないかな?
お貴族様のお口にあいます?
生産数も少ないし、希少価値をつけて高値でお貴族様に売り付ける事を希望してる。
エルトディーンに先日の御礼と言って、淹れ方メモと一緒に一瓶渡したら上手い具合に広まらないかな?
えぇ。私。
勇者にはなれないけど守銭奴にはなれるんだわ。
「悪くはないです」
悪くは無いを頂きました!
劇物が平気なトルニテア人にも煎茶が問題なく美味しく飲めることがわかったのだ。
お茶を飲むのはカタルシスを得る行為。コレは広まります。いずれは戦争だな。
私は、後日、王都に行く約束と保存容器等の購入の約束をシオに取り付けることに成功した。




