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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇ギルドにて◇
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おろしたての服はすぐに汚れる




 エルトディーンの爺ちゃんの後を追ってついたのは、建物と建物の間に広く作られている中庭。中庭を挟んで反対にあるのがおそらく徴税局だろう。位置的に徴税局はギルドとは別の通りに一般用入り口がありそうだ。


 ギルドと徴税局を繋ぐ渡廊下が両端にあり、地面には立派な芝生と石畳、植えられている色とりどりの花は世話が行き届いていて、綺麗な寄せ植え花壇がいくつも点在。中央には噴水があり、かなり素敵なお庭だ。こんなところで暴れて土をひっくり返したら芝生と庭師がかわいそうだ。やめてやってほしい。


 そんな事考えてる私の目の前では、シオが剣を渡されて爺さんと向き合っている。老人と子供ならどちらが強いか……。二人の体格差からして何も知らない人が見たら、老人の方が強いと言うだろう。

 エルトディーンの爺ちゃんの鍛えられた体からは老いを感じないし、剣を持った彼は生き生きとしているようにも見えるのだ。

 けれども、実際はシオさんのほうがより多く年を重ねている。その分、経験値はあるはずだ。……あるのか? シオさんずっとヘビだったんじゃない? 大丈夫?


 不安になってくるぜ。


 まぁ、体若いし、軽そうだから素早い動きでどうにか対応してくれる事を祈ろうと思う。


 そんな私のお月様(笑)シオさんは真っ赤な目を細めて渡された剣の刃を眺めている。何してても綺麗なのが腹が立つぜ。


「魔法は使わないでおいてやる。小僧は何をしてもかまわん」

「…………助かります」


 シオさん何かする気だ。

 何するのか知らないけど、なんかやらかす気だと思う。


「初太刀は譲ろう。いつでもこい」

「………………」


 や、本当にやるの?

 怖くない?

 え、人の斬り合いとか怖いわ。


 いつも掴んでいるシオの背中は側にはないので、隣のエルトディーンの服の裾を小さく握る。一応、シワにならないように配慮はしてるよ。


 ジッと構えたまま動かない二人を観てると、しばらくしてシオが何気なく剣を振ったように見えた。


 ズドン!!


 衝撃音と振動。

 音の発生源は老人の背後。木が根本付近から倒れている。見慣れたあの綺麗な切断面。

 拠点で木を切り倒していた時のアレだ。人間なんか豆腐のように真っ二つになるだろうあの斬撃を老人に躊躇なく向けるシオの鬼っぷりよ。


 斬撃を受けた老人の方は「いい」と口角を上げ、シオに斬りかかった。

 あ、この爺さんももれなく化け物なのね。全く傷一つないや。信じられない。


 拮抗しているように見える戦況。やや、シオが引き気味か?


 キンキンと響く金属音と確実に庭を破壊する衝撃破。途中から、エルトディーンが観戦者を自身の後方に集めて結界を張ってくれたので、自身が負傷する心配は無いものの、素敵なお庭がぐちゃぐちゃになるのはつらい。信じられない。

 植物を愛でる趣味が無いのは知ってるけどあんまりだろう。庭師がどれだけの時間をかけて作ったと思ってんだよ。


 フツフツと何かが沸く。


「弱腰では勝てんぞ!」

「服がおろしたてですので汚したくないんです」


 楽しそうに剣を奮う老人と、いたって冷静に新品の服を庇いつつ斬撃をいなすシオ。


 とりあえず、もう良くない?

 いいよね?


 イライラ


 ねぇ、コレなんの意味があんの?


「…………」

「ヒノ」


 決着のつかない戦いにイライラしているとエルトディーンに声をかけられた。

 お前も観てないで止めろよ。

 そう思いつつ、エルトディーンを見上げると眉間に皺を寄せて少し苦しげな表情をしている。


 お腹でも痛いの?


「……もれている」

「…………」


 え?

 え、えぇ??


 パッと服を掴んでいた手を離す。

 ごめん。掴んでだからトイレ行けなかった? いや、私より、アイツらが戦ってたせいだよね?


 私悪くない……。


「魔力が漏れている。シオが心配なのはわかるが抑えてもらえないだろうか」


 でないと……。

 エルトディーンの視線を追うと後方で観戦していたギルド職員の人が真っ青な顔でへたり混んでいる。


 何事だ?


 漏れていたのは私の魔力。大地に流せば植物が育つのに、人体によくないの?

 それともイライラしていたのが原因なのだろうか。


 返事ができないのでとりあえず頷いておく。

 

 私のせいで具合が悪くなったのなら治してやるべきか……。そう思って、へたり込む人に近づくと、彼らは力の入らない体で少しでも距離をとりたかったのか、小さく悲鳴を上げてのけぞった。


 あ、知ってる。


 コレ、服屋でシオが向けられた視線。

 化け物を見る目だ。


 自分がそういった視線を向けられるのは何だか思うところがあるな。無心ではいられないよね。重い気持ちで視線が伏せ気味になる。


 サーッと彼らに対する興味が失せていくのは仕方がないと思う。表情を取り繕う気にもならない。


 癒しの魔法は水の属性。どうでも良い対称ではあるけど一応軽く癒しを施した。


 平民は魔力を扱うことがないので魔法を使う人間の事は基本別物扱いをしている。

 普段、貴族を敬うようにしてはいるものの、畏怖の対称であり、その存在はまるで、問答無用で無慈悲に襲いかかってくる天災と変わらない。


 つまり、害した体調を整えてもあの怯えた視線は無くならない。酷く居心地が悪い。


 早い事ここを出たい。


 離していたエルトディーンの服の裾を再び掴んだ。

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