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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇ギルドにて◇
30/109

合法的脱税に手を染める



 朝、目覚める。


 目覚めると言っても、他人の家で寝れるわけもなく、意識を落とす事なく夜をやり過ごした体をゆっくりと起こした。

 スプリングなどもちろん入ってないベッドは、硬くて寝心地の良い物ではないけど、廃村の自作ベッドよりはるかにマシだった。

 なんと言っても、体を伸ばして仰向けに寝れるところがいいよね。


 昨日は食事の後、エルトディーンは自身の家に帰った。早朝にまた迎えにくるらしい。

 時計が無いので時間は分からないが、エルトディーンが来るまでに支度を整える。

 

 エルトディーンが来たのはライド家で朝食が取られる前。正直、助かったと思ってしまった。


 今日の日程は正直楽しみだ。

 私のお茶作り用の道具が買えるのだ。

 緑茶♪ 烏龍茶♪ さんぴん茶♪ 紅茶♪

 蒸し器と鍋と板。普段使いにまな板包丁は欲しいよね。あと、保存容器。


(余計な物は買いませんよ)


 余計な物のわけがない。私の心の安らぎのために必要な物だ。

 確かに、今日、お金に変換する魔石はシオが集めた物だ。無論、私が稼いだお金ではないのでシオの許可なく物の購入ができないのは道理。

 自分で自由にできるお金は今後欲しいな。

 とすれば、真っ当な方法でお金を作るには私も魔物を倒して魔石を剥ぐか、野菜やお茶なんかを卸してお金を手に入れるしかないか。

 商売をする程の時間と人手はないと思う。茉莉花の匂袋くらいなら安価ですぐ用意できるけど……いったいいくらになるやら。何を売るにしても販売を考えたら商業ギルドにも登録しないといけない。そう考えるとめんどくさいな。


 しばらくは魔物を狩るしか無さそうだ。静かに深く息を吐き出した私はフードを深く被りエルトディーンの後をついて歩いた。


 立ち止まったのは立派な建造物の前。随分と儲かってるように見える。看板にはハンターズギルドの文字があり、ここが目的地で間違いないようだ。魔物の討伐者は猟師的な扱いなのね。と思いながらもエルトディーンに続いて中に入る。


 朝市の賑わいから扉を潜った瞬間に空気が変わった。静かで突き刺さるような視線。

 先程までは談笑していたくせに、侵入して来た私達を警戒して息を潜めているような変な空気。

 それを気にする風もなく、エルトディーンとシオはスタスタ歩いて空いているカウンターに向かっていく。


 コイツら周りの空気あえて読まないタイプの人間だ。


 私はソワソワしながら二人に続く。


「この二人をギルドに登録したいのだが」

「はい、会員登録ですね。こちらの用紙に記入をお願いし…………え、……エルトディーン様??!!」


 若い薄桃色の髪の女性がエルトディーンを認識した途端慌てている。

 この、ギルド……見渡す限り厳ついおっさんばかりだものな。受付嬢も「何が悲しくて毎日毎日おっさんの相手をしないといけないんだ」とばかりに適当に決まり文句を口にしていたのに、ふと見上げると目の前にイケメン貴族がいたりしたらビビるわ。


「今日は、え、会長に御用でしょうか?!」

「……いや、この二人の登録の付き添いだ。会長殿は呼ばないで欲しい」

「か、かしこまりました!」


 カウンターは立って記入する仕様で、受付嬢は多分カウンターチェアに座ってる。


「………………」


 知ってた。ハンターズギルドは大人仕様だって知ってたよ。


 届かない。辛うじてカウンターの上に目が出る程度なので用紙が見えない。


「代筆は可能ですか?」


 シオが受付嬢に尋ねる。


「はい。後に血液を登録しますので代筆でも構いません」


 シオちゃん頼んだわ。


 サラサラとすぐに書き終わった登録用紙を提出すると、それを見て受付嬢が固まっている。あれか。二音の名前に驚いてるのね。そして嫌悪を感じてるのね。略奪されるとか、殺されるとか、考えちゃうのかね?

 よく分からんが。


「名は仮の名なので安心してくれ」


 エルトディーンの言葉に明らかに安堵している受付嬢。

 きっとこの先新たに人に出会うたびにこんなやり取りしないといけないんだろう。


「仮の名前なら他の名にした方がトラブルは避けれるかと……」

「本人達がこの名を気に入ってるようなのでこのまま頼む」

「でしたら……。しかし、仮名での登録は年齢に応じた税を払っていただくことになりますけどよろしいのですか?」

「構わない。登録後に魔石を換金してやってくれ。二人分に足るくらいは手持ちの魔石があるはずだ」

「かしこまりました」


 聞き分けよく手配を始めた受付嬢は針とカードを差し出しカードと登録用紙に血判を押すように言う。


 え、やだ。ナイフで切ってもすぐに治ってしまうんだから、針で出血させたところですぐ塞がるよね。一回で二箇所押すのに足りる?

 

 ちょっと深めにさしてみる。

 冗談抜きに痛い。涙出そう。


 とにかく治る前、乾く前に! と急いで用紙とカードに指を押し付ける。


 なんとか間に合ったようだけど痛かった。

 恨めしそうに血のついた指先を見つめていたら、シオがハンカチを持ちつつ私の手を取るので、自分の手を拭いたついでに私の指も拭くのかと思ってボーッと眺めてたら……。


「!!!?」


 舐めた。舐めやがった。人前で。当然のように。やだ。傷は舐めとけば治る。とか、治らねぇよ。そんなんじゃないんだよ。逆に細菌が入りそうだよ。怖っ。


 あーあーあーあー。

 何も考えたくない。

 気持ち悪い。


「これで登録は完了しましたので、魔石の買取をしますね」


 何も無かったかのように、シオは受付嬢に魔石の入った小袋を差し出す。

 憎い。シオが、憎くてたまらない。全く無意味だとはわかっているけど、シオの事を睨む。


「中々、大量ですね」


 受付嬢は驚きつつも、魔石を大きさごとに分けて買い取り価格を提示。そのあと、税分を差し引いたお金をシオの前に並べた。


「ご確認をお願いしますね」

「……確かに頂きました」


 そこそこの量はある。

 シオの受け取るコインの価値が一切わからないけど通貨の単位はなんなんだろう。


「用は済んだので一旦でよう。依頼の受け方、ギルドの利用方法は後日ライドに時間を作ってもらう」


 さっさと立ち去りたい様子のエルトディーンを奥から出てきた男性が引き留めた。


「エルトディーン様、会長がお呼びです」

「………………」


 エルトディーンが嫌そうに顔を歪める。


「私は用はない」

「そうは言われましても、部屋でお待ちですので……」


「いないだろうと思って早朝に来たと言うのに……」


 深い息を吐くエルトディーンは、相当会長さんとやらに会いたくないらしい。


「悪いが、少し知人に会ってくる。すぐに戻るようにするが、その間二人で待ってもらっても構わないだろうか?」

「構いませんよ」

「すまないな」


 カウンターの奥にある部屋に向かうエルトディーンが扉の向こうに消えると、ギルド内の空気が変わる。まるで、緊張状態から解放されたように急にざわつきはじめた。


「ガキじゃねぇか」

「だいたいココはお貴族様が来るところじゃねぇんだよ」

「子供は家でかーちゃんの乳でもしゃぶってな」

「兵士団長様におんぶに抱っこでお小遣い稼ぎなんていいご身分だな」


 うわー。

 他人のこととか、心の底からどうでもいいだろ。私達に聞こえるように言う神経がわからん。

 ま、実害がなければ何言われても気にしないタイプのシオさんと、気にはするけどドウコウする気がないタイプの私が相手なのでギルドにいるオッサンたちは好き勝手言い放題だ。


「無視してんじゃねーよ。お前らの事を言ってんだよ。怖くて口がきけねーのか?」

「そんなんじゃ、魔物なんて狩れないだろ」

「さっきの魔石も他人からもらったんだろ」


「…………」


 なに?

 へ?

 おじさんのいいがかり?

 下らないわー。


 お前らうちのシオさんが剣持ったら人間の動きしないの知らないから言えるんだよ。護身術教わってたときのシオさんバケモンだったからな。ガチで。

 いつも涼しい顔してるけど典型的な怒らせたらダメな奴だからな。無視してくれてるうちに手を引いた方が良いぞ。マジで。


「…………」


「皆さん落ち着いて。仮に譲られた魔石でも違法ではありませんので」

「ハンターとして最低限の実力がなきゃ認めらんねーよ。こちとら、いつも命がけだっつーの」


 受付嬢がカウンターの外に出てきて仲裁に入るが聞いちゃいない。エルトディーンが目の前にいないとはいえ、なにかあればすぐに出てこれる場所にいるってのに喧嘩売って来るってスゴイな。知性のかけらも感じないな。馬鹿だな。


「ズルは良くねーよな?」


 腰を曲げて見下ろしてくるおっさんの顔が思いの外近くて、無精髭で汚らしい顔を不快に思った私は数歩後退した。私の方に伸ばされる手はシオがつかんで止めてくれる。


 ありがとう。

 全体的に清潔感に欠けてるおじさんに触られたく無かったんだよ。助かりました。


「妹に触れないでいただけますか」

「はっ! お兄ちゃんナイトってか」

「可愛い妹ちゃんを守ってみろよ」


「ほら」


 へ?


 ヤジを言ってたオッさんの一人が手にしていた酒のような液体をコチラに向けて放つのが見えた。


 後退して避けようとするも、受付嬢にぶつかってそれ以上は行けない。


 あ。


 バシャッ!


「…………」

「…………」


「くそッ! ふざけやがって目に入ったじゃねーか! 痛ぇ」


 何が起こったかというと、シオが掴んでたおっさんの手を引いて迫りくる液体を防ぐ盾にした。


 少し酒をかぶってしまったのか、シオは不愉快そうにしている。てか、シオさんあんたさ……


「コイツ、リズじゃねーか!」

「嘘だろ!」


 おっさん振り回したときの風圧でフード脱げてます。

 現れたシオのご尊顔は、汚いおっさんと比べたら手を合わせて拝みたくなるくらい整ってるっていうのに、トルニテア人には顔より白い髪が目につくらしい。


「はっ、知ってるか? 人に危害を加えたリズは魔物同様処分しても罰則は無いんだぜ」


「何を言ってるんです貴方達! 彼は何もしていないでしょう」

「あー。コイツにやられた腕と目が痛い」

「! それは……貴方方が」


 ニヤついたおっさん達相手に受付嬢が庇ってくれているが、酒をかぶったおっさんが被害を訴えると押し黙ってしまう。

 腕は別に折れるほど強く握ってないだろうし、目は間接的には関わったかもしれないけど実際に酒をかけたのは周りのおっさんだ。


 こういう理不尽は嫌いだ。

 

 刃物を取り出し挑発を始めたおっさんを見て眉間にシワが寄る。やり過ぎだ、やめとけと数人か声をかけているが聞く耳を持たないようだ。

 対して、シオは気にする様子でもない。あれだな。道に捨てられたゴミに好きとか嫌いとか考えないのと同じで感心がない。どうでもいい。つまり、ゴミを見る目で見てる。


 実際に、シオからすればゴミ屑と一緒だ。一瞬で消し炭にできる存在。でも、消し炭にしたらしたで今後の生活に良くないよね。殺さないにしても怪我させただけでシオさん犯罪者になっちゃうよね。


 シオへ斬りかかるおっさん。


 ダメだ。どうしよ。ヘタに手を出したら向こうのいいようにされる。この国ではリズの正当防衛とか主張できなさそう。

 この場でうまく空気を変える方法。そんなの直ぐには思い浮かばない。無理だよ。私は正真正銘のビビリだよ。

 私に何ができ……


 バシャン


「…………」

「…………」


 その場にいた人間が固まった。その後、ドッと笑いが溢れはじめる。


 お風呂に入りたい私が編み出した、水に熱を加えてぬるま湯を作り出す魔法。それを、大量にシオに降らせたのだ。

 予期せぬ液体が塊で上から降ってくれば首への負担は計り知れないと思う。けど、浴びた酒も流れて綺麗になったし、場の空気も変えることができたし、よかったよかった。


 儚げに視線を落とすシオのまつ毛にのる滴、濡れてボリュームをなくした白髪から滴る水滴。うん。ホント水も滴るいい男だな。美しすぎて世界中の女性に謝って欲しいくらいだ。


「…………」


 ごめん。ごめんなさい。謝る。謝るから、そんな鬼の形相で私を見ないでくれガチで血の気が引くから。


(後で覚悟しておきなさい)


 怖っ! 私は慌てて水を空気中に霧散させてシオを乾かした。


「ハハッ傑作だ! 誰だ? 俺が酒をおごろう」


 おっさんが私に酒を奢ってくれるらしい。体が未成年なのでジュースにして欲しいところだが、トルニテアの飲食物への不信感が強いので遠慮するぜ。


「水の魔法が使えるって言ったらタイレンか」


 タイレンと呼ばれた水色髪の男は顔色を悪くして首を振る。

 魔法、魔力は貴族様のもの。ごく稀に平民にも扱える者もいるらしいが程度は知れている。けど、魔力を扱えない者よりも何が起こったのかは理解ができているらしい。


「あんなの貴族以外で出来るわけがないだろ。しかも、無音でいきなり大量の水を出すなんて、貴族でも聞いた事がない」


「じゃぁ、いったい誰が」


 あたりを見回しても、貴族は居ない。エルトディーンは奥の部屋。シオは属性を持たないリズ。つまり、私に視線が集まるので不愉快で睨み返す。


「…………」

「おい」

「嘘だろ」

「黒い」


 髪はズラとフードで二重隠蔽してるので瞳の色を言っているんだと思う。


 私の瞳を黒と認識したとたんに勢いをなくしたおっさん達を馬鹿だなと思いながら見ていた時、


バンッ!! 


 と、静まりかえったギルド内の空気を変えるように勢いよく外へ繋がる扉が開いた。





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