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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇蛇の塒にて◇
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生きるってそんなに素晴らしいことですか?

 



 23年間、今まで緋乃として自分の人生を生きてきたけれど、子供の頃から漠然と生き辛い思っていた。


 生きているだけで必然的に苦痛を味わう事も多いし、世の中思い通りにならない事ばかり。


 生きているだけで幸せです。なんて、言えるほどハッピーな馬鹿でも 悟りを開いた落ち着きのある人間でもない。



 別に死にたかったわけでも無いけれど、決して生きたいわけでもなく…………。毎日を惰性的に過ごし、他人と関わるときは世間の当たり前を意識して人間関係をクラッシュさせないよう気を遣う。



 毎日が精神的に酷く疲れた。



 この世は地獄。生きるは苦行。現実は無慈悲。



「……」



 目の前に転がる猿の死体と私に迫る白蛇を見て酷くそう思った。




「……」



 沈黙。


 私の目の前で動きを止める白蛇。身体に力が入らないので逃げる事も叶わない。



 来るな!


 なんて言った所で蛇が言葉を理解するわけも無いし、ワーキャー騒いでも無駄だろう。



 一体この白蛇はなんなのか。



 私の家とこの場に共通して存在してるのだから、私がここに居る事と無関係ではないとは思う。今の状況的に、白蛇は私を猿から救ってくれた私の味方と考えて良いのだろうか?



 味方って言ったって、爬虫類だろ? 意思の疎通? 無理無理無理。気持ち悪いし、地味に怖いし、お近付きになりたくは無い。




「ようこそトルニテアへ」


 !!??



 白蛇が話しかけてきた。

 落ち着きのある少女の声で歓迎の言葉をはなつ。

 トルニテア?? 聞いたことがありませんが何ですかそれ??世界、大陸、国、町、森??



 はははははははは。



 ちょっと私、疲れてるみたいだ。

 蛇が人の言葉を話すわけがない。声帯とかないじゃん。 それに、白蛇を見つめてたけど舌をチロチロ出すばかりで口を開け閉めしてる風でもないし。



「貴女が混乱する気持ちはわかりますが、落ち着いて聞いて下さい。私は貴女の味方です」



 なんか言ってる。白蛇がなんか言ってる。


 味方??

 私に害をなさないと??



 ダンッ!!


「!? なにをするんです!」



 チッ……避けやがった。



 私が地面に拳を打ち付けると白蛇は焦ったようにして反論する。何をするんだと聞かれても……。



 白蛇を潰そうかな……と思っただけ。あぁ、一応、現状に混乱してつい……というていでだけど。



「真顔で私を潰そうとしないで! 混乱は潰す理由になりません!」


「……」



 知らない夜の森に、私独りでいる現状を白蛇が打破してくれそうではあるんだけど、ようこそとか歓迎されても、来たくもない場所に無理やり連れてこられた感が私のなかで怒りに繋がって自然と拳を振り下ろしてしまってたわけで……。



「確かに、貴女にとっては理不尽な出来事ではあるけれど…………人選ミスをしたのかもしれない」



 白蛇が深くため息をこぼしたように見えた。

 理不尽勝手に振りかざしておいて、人選ミスとか言われたよ。蛇に。喋る爬虫類に。


 てか、私、声に出してないよな。なのに白蛇は混乱を理由に私が白蛇を潰しにかかった事を口にしているのは何故? 心を読まれてるの? なにそれ、ヤダ。



「嫌でしょうけど、貴女の心の声を聞いて、貴女の脳へ直接語りかけています」



 つまり、側から見たら、白蛇と私が無言で見つめ合っているってことですね。



「そうなりますね」



 それはそれは、すごくシュールな光景なんだろうと思いなから、白蛇とのテレパシーによる会話で少し落ち着いたのと、白蛇の性格が何となく気性の荒いものでない事が分かったのとで、ようやく話を進める気になってきた。


 心を読まれるのは嫌だけど、口を開かなくて良いのは……すごく楽だしな。




 白蛇曰く、



「ここは貴女がいた国のある世界とは別の世界です。この地に住む者たちは 世界をトルニテアと呼びます」



 だそう。

 そして、此処は蛇の(ねぐら)と呼ばれる森であり、蛇に纏わる神が棲まうとされていたらしい。



 されていた……というのは、今は居ないというわけではなく、今も変わらず神は森にいるというのに……。



「森の周辺に住んでいた人間が集落を手放し王都へ移住したのが数十年前。その時点でこの森に棲まう神の事を奉る事は無くなっており、今現在、私達の神は人々の記憶から消えてしまわれたのです」



 信仰をなくした神は消えてしまう。



 今は辛うじて、塒の蛇達の信仰で辛うじて存在を保ってはいるもののいつ消えてもおかしくないほどにその力が衰えてしまっているらしい。



「ですから、貴女には私たちの神を生かすために信仰を広めるお手伝いをしていただきたいのです」


「はぁ?」




 と、突拍子もない白蛇の発言に、私は白蛇との会話で始めて声を発した。



 神を助けるために、信仰を得る手助けをする人間を探すのは、白蛇の当然の行為だと思う。


 ただ、その対象が、異 世 界 である日本の緑川 緋乃という人間でなければならなかったのか。しかも、さっき、人選ミスとか言ってただろ。この蛇。



 人選ミスとか言うくらいなんだから私じゃなくても良かった筈だ。



「いやいや、ないわ。何で私が? 何のメリットもないじゃん??」



 神様の為に!!とか、張り切って信仰集めたりしないから。私は善人ではないぞ。その辺、私からしても人選ミス甚だしい。



「私は、神の使いとして、私たちの神と同調しその力を扱える者を長年探していました。しかし、このトルニテアでは見つける事ができず、他の世界に希望を託しました。そして、漸く私は貴女を見つけたのです」



「……」


 神と同調??

 どう言う事……だってばよ。



 何言ってんだコイツ。は?

 やっぱりコイツ潰そうか。


 相変わらずチロチロ舌を出して私を見つめる白蛇を見つめながら拳を握りしめる。




「潰さないで!この話は貴女にももちろんメリットはあります」



 白蛇は自身に迫る危機を感じたのか、一際大きな声が私の頭の中に響いた。


 ぶっちゃけ、この白蛇……毒持ってそうだし、ましてや世界を越える能力を持ってるくらいなんだから私の拳くらいどうってことないだろ。



「待って!待って下さい。私は貴女を此処へ連れ帰る事に神から与えられた力を殆ど使い切ってしまっています。なので、暫くはただの蛇でいるしかないのです」




 ただの蛇は喋らねーよ。



「つまり、私には貴女を元の世界に帰す力はないのです」


「……衝撃発言だな」



 握った拳が解けてしまった。

 勝手に連れてきたくせに帰せないという。


 なんて無責任な。明日は仕事だし、帰れなければ賃貸の支払いも滞るし、失踪届けも出されるだろうし……。別に仕事に行きたいから帰りたい訳では無いのだけど。なんか、色々面倒くさい事になりそうで非常に嫌なんだが。



「貴女は必然的にこのトルニテアで暮らす事になりますが、トルニテアでうまく生き抜くには神より力を授かるほかありません」



 トルニテアには魔物と呼ばれる獣や化け物が生息している上に、上流階級の人間は魔力というエネルギーをもち魔法を駆使する。魔力もなく、身寄りの無い人間は楽な暮らしをする事は出来ないのだと言う。


 メリットは……神より力を授かる事で、このトルニテアで生きやすくなる事。


 この地で生きるにはこの白蛇の言うことをおとなしく聞くしかないと?



 やだなぁ………。



「そうなってくると、生きないと言う選択肢しかなくなってくるよな。神もろとも。おとなしく朽ち果てようぜ」



 なんて、割とガチで言えば、白蛇は「そんなこと言わないで下さい」と涙を流して訴えてくるのだった。





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[良い点] ニートは勇者にゾクリとしました! 独特の世界観で面白く読ませて頂いております。 仕事やら自分の執筆活動やらで、なかなか読む時間ないですが、これからも楽しみに読ませていただきます( ̄^ ̄…
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