王都侵入を試みる
蛇の塒が豊かな理由を知る事ができたエルトディーンはここへ来た目的を達成したことになる。
私たちがいる事で別の疑問が生まれた可能性はあるが、王都には帰るので、帰るついでにギルドまでの案内と護衛的な事をしてくれるらしい。
つまり、すぐに出発ということ。
シオはそれなりの格好をしているから問題ないだろうが、私は流石に今の格好で人前には出たくない。
シオの手持ちの女物の服は大人用で私の体には合わないのだ。しかも、ゴスロリとかコスプレ用ととれるドレス。心底着たくねぇ。
いまだ夜は冷えるし、このままの衣装にフード付きのコーディガンを着込めば、裾を引きずりそうだけど行けるか?
衣装を漁って袖を通す。エルトディーンは少し恥ずかしそうに視線を逸らしている。前を閉めてコレで出れる。と思った瞬間、頭に衝撃が入る。
そんなに強くはない。フワリと頭に乗せられた物を手に取るとかなり明るい茶髪のズラだった。
シオさんこんなものまで日本で拝借してきてたの??
"拐われたくなければ付けておきなさい"
や、拐われたくないけど、ズラとか付けたことないからちゃんと着けれるか知らないよ。
手櫛で整える。
「髪色は少し目立たなくなったが、瞳の色はどうにもならんな。服も何処で手に入れた物か知らないが目立つ。王都に入ったらまず服を整えよう」
「そうですね」
そうですねじゃないよ。
お前の頭はいいのかよ。真っ白じゃんか。
"私は構いません。頭の悪い言葉をかけられるくらいでそこまで害はないでしょう"
…………
シオさん強い。
シオの準備は少しぼろっちいマントを羽織っただけで、手荷物はお金になりうる魔石のみ。
剣は持ち出さないようだ。なので、私が預かってるナイフを返しておく。
エルトディーンと共に行動するのだから、きっとシオは結界を張る事はないだろう。魔物にあった際は、物理的に排除する事になる。
"私のなりで武装していると余計な面倒を呼びますしね。魔物は貴女が倒してください"
何をやっても白い髪は面倒な事に巻き込まれるらしい。
私に魔物倒せとか面倒だな。本当に面倒だな。魔物はエルトディーンに任せる事にしよう。そうしよう。
"正直、貴女も変わりないですよ。何処に行っても何をしても、目立つ上に面倒に巻き込まれます"
そんな事ない。そんな事ないと信じたい。
準備OK。いざ行かん。
家を出ようとした時、私だけ靴を履いていないのに気づく。仕方なく、大人物の靴を履いてみたもののパコパコいってろくに歩けない。この状態で、魔物と遭遇しようものならすぐにムシャーされる自信がある。
"私が抱えます……"
え、嫌だけど。
「ヒノが嫌でなければ、私が抱き抱えて向かってもいい。長時間歩くのは子供には酷だろう」
や、嫌だけど。
「…………」
後ずさる。
逃げようか迷う。
"余計な事はせず大人しくしておいてください"
「…………」
逃げた。
が、
捕まった。
oh……。
膝をついて項垂れたいけど抱き抱えられてできない。
"コートがあるので直接触れるわけじゃ無いのだから妥協してください"
あーあーあーあーー。
「…………」
無理。お姫様抱っこ無理。
シオの顔が近すぎて不愉快。不快過ぎてシオの顎を両手で押し上げた。
エルトディーンは呆気に取られたように言葉をなくしている。
「人肌が触れるのを極端に嫌うのです。兄の私でもダメでして」
もう、仕方のない子でしょう?
気苦労も絶えないんです。
みたいな、ニュアンスに聞こえるのだ。もう、やめてほしい。ハイハイ。そうですね。私は悪い子。
諦めてフードを被り、キュッとコートに丸まった。
三人で廃村跡地をでて橋を渡った後、後ろを振り返る。
今、家の中はシオが異空間収納が使えないので荷物は出したままになってる。
人は来ないと思うが、鍵も何もない家に貴重な物を置き去りにして行くにはあまりに無用心だ。
土の魔法は直接地面に触れた方が楽だが、できないこともない。
とりあえず、防犯の為に一つしかない橋を落とす事にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
どれほど歩いただろう。
赤い毛の狼。変な色の猿。目つきのやたら悪いイタチのような生き物。
色々と遭遇したが、全て軽々とエルトディーンが切り捨てた。
魔石の剥ぎ取りもエルトディーン任せ。異次元収納に魔物の体ごとポイポイ放り込んでいくのでサクサク進んで行くことができた。ホント、エルトディーン様々だ。
あいだに休憩も挟みつつ、抱えられること数時間。目の前に大きな門が見えてきて、近づけば強そうな体格をした男の人が二人立っている。おそらく門番。
門番て……。日本で言う警備のおじさん。
門の中に入るのはお金がかかるらしいが、この門番に怪しまれずに入れるのか少し不安になる。
「ライド!」
エルトディーンが急に右手を上げて左右に振りながら大きな声を出した。門番に知り合いがいるらしい。
門番は若葉色に白を混ぜたような色の髪をした男とクリーム色の髪をした男。
赤、緑、黄色……。コイツら戦隊ものでもやるのか。後から青とピンクも来るんだろ?
エルトディーンのようにビビットカラーではなく、淡いパステルカラーではあるけど、見慣れない髪の色に戸惑いを覚える。ついでに、色の組み合わせでクリスマスが連想される。
「エルトディーン? お前、非番だろ。外で何してんだ」
若葉色の方が返事をしてるので、若葉色がライドだな。お貴族様のエルトディーン相手に随分砕けた話し方をしている。貴族にお前だなんて言ったら、普通なら首が物理的に飛びそうだ。
それに対して、エルトディーンも気にした風ではなく、お堅い雰囲気もない。
「ナトルもお疲れさん」
「お疲れ様です!」
黄色がナトル。多分新人。
ビシッとエルトディーンに敬礼している。
「いやな、休みに少し気分転換に外に出たら子供を拾ってな。しばらく面倒を見るつもりなのだ」
どうやら、蛇の塒に行った事は誤魔化しておきたいらしい。蛇の塒の中にまで入ってないけど、禁忌に触れたと思われるのもよくないだろうしな。
「は? 子供なんか気軽に拾うなよ馬鹿か」
「馬鹿とは何だ。コレでも考えてる」
「育てる気か? つっても、そこそこでかいな。12……3くらいか?」
「12です」
シオの年齢を言い当てるライド。12歳の身体とはいえ、それなりの身長がある。
マントのフードを深めにかぶっているシオの年齢判断は身長でしたに違いないが、何故分かる。
もしかして、全体的にトルニテア人は全体的に日本人よりデカイのか?
「自立できるよう手助けをするだけだ。私が養うわけではない」
「ふーん。ホント、お前は物好きだな。今のご時世、他人の世話までできる余裕なんか無いってのに。んで、こっちは……」
ライドがシオに歩み寄り、抱えられている私を確認しようとした。
至近距離で覗き込まれるのが嫌でフードの裾をキュッと引っ張り顔を隠す。
「ライド。やめろ。この子は人見知りなんだ」
「いや、人見知りだからって顔も見せずに門を通すわけにもいかんだろ」
「それもそうだが……」
知り合いだからと見逃されるわけではないのは分かる。そんなにセコい事をするつもりはないのだ。
顔を見せなきゃならないなら仕方ないし、距離があれば別に問題はない。
ゆっくり、ズラがズレないように気をつけてフードをとる。
「……!?」
驚いて口をポカンと開ける門番の二人。でも、すぐに片膝を地面につけて跪く。
え、
何が起こった。
急にどうしたのこの人たち。
"貴女の色を見て貴族だと判断したんです。こんな態度を示しても今更ですが"
「お前たち、よせ。今更態度を変えても無意味だ。それに、二人も気にしてはいない」
「しかし!」
「この兄妹は生まれこそ貴族だが、今は、家を出ている。そのようにする必要はない。私と変わらぬ接し方で問題ない」
だろう?
と、エルトディーンが視線を向けてくるので、私とシオ、二人で頷く。
「先ほどは失礼しました」
貴族と判断した途端、ガクブルの様子で声を若干引きつらせながら謝ってくるライド。
そんな急に腫れ物みたいに扱われたらこちらも気を使う。
エルトディーンとの扱いの違いよ。
どれだけ気を許してるのさ。
気にするな。と言う意味を込めて左右に首を振った。
「門を通る手続きを二人分頼む。費用は私が建て替える。それから、ライドに頼みがある」
見た事ない硬貨を異空間収納から取り出し支払いを済ませたエルトディーンはライドと小声で話を始める。
残されたナトルが私達の対応だ。ライド以上に縮み上がってる彼はどもりながら「コチラに触れてください」という。
出されたのは装飾品のついた丸い道具。
何コレ。石に触れろと?
"罪過がないか調べる魔道具でしょうね"
え、それって大丈夫なの?
兄妹とか嘘ついてるし、シオさん、色々拝借してたりするし、私もエルトディーン(貴族)に毒味させたよ。今まで、悪い事を全くして来なかったわけではない。
"流石に個人的な嘘までは暴かないでしょう。おそらく、王族によって制限をかけられた者かどうかを見るだけです。未逮捕の罪人には反応しないと思います"
確かに。
嘘ついたくらいで弾かれてたら誰も入れない気がする。それに、正確に罪人を弾く事ができるなら人件費かけて門番を置かなくても、犯罪者が来たら入れない仕組みを作ればいいのだ。
それがされてないという事は、犯罪歴がついていない犯罪者を門番が見て判断しているのだろう。
それでも、写真でない人相書き程度しかないのなら門番の監視もザルだな。
落ち着いて差し出された魔道具に触れるが何もおこらない。もちろん、シオが触れても何も起こらない。
「ご協力ありがとうございます。通っていただいて問題ありません」
ぺこりとナトルが頭を下げた。
エルトディーンもライドとの秘密のお話が終わったらしく「また後で」と手を挙げて都の中に入ってゆく。
「微妙な時間帯だから、ひとまず今日は買い物でもして身なりを整えて明日登録することにしよう」
確かに変な格好でギルド登録に行けば、ただでさえ子供の姿ゆえ確実に舐められそうだものな。
私は抱えられたまま王都侵入に成功した。




