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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇蛇の塒にて◇
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第一トルニテア人との遭遇

 




 敷地内にある大量の切株、その上に腰掛けて空を見上げて暖かな陽気に目を細めた。



 新緑の初夏。



 非常に清々しい。

 トルニテアに来て2ヶ月程、日本のストレス社会にもまれて荒んだ精神を浄化するには十分な時間だった。ストレスフリーとまでは言わないが最高に怠けている。だらけている。



 もう、何もしたく無い。



 エネルギー枯渇で落ちるくらいなら、魔法を極力使わない方針で行こう! と決めてからは、時間はあるし急ぐ必要はないだろうと集落跡地の開拓はあまり進めていない。



 なんとか気合でベッドもどきを二つ作って以降はろくに物作りもしていない。



 井戸もうまい具合に水は溜まっているけど、水を汲み上げるロープも桶も無いし作れないので運用には至っていない。



 洗濯や水浴び等、水を使う時は仕方なく魔法で水を汲み上げて使っている。



 真面にやっているのは趣味程度の家庭菜園くらいで、まぁまぁの広さの畑をほぼ一人で管理している。ナスにピーマントマト等、もう少ししたら夏の野菜が収穫できそうだ。



 もともと植物好きで、子供の頃から図鑑を見たり、祖母と一緒に実際に育ててみたりしていたのでポピュラーな植物は割と楽に再現できた。


 土弄りがトルニテア生活での私の唯一の楽しみだ。


 ボーッとして雲を眺めている最中に視線を感じ、仕方なく背後に立つ視線の主を薄目で見た。


 シオの白い髪に光が反射して非常に眩しい。ハゲてしまえばいいのに……。

 相変わらず白い服を着たシオは私を見下ろし不満げな表情をしている。



「………………」

「もうそろそろやる気を出しませんか?」



 やる気?

 そんなの何処かに出かけていったね。

 もう、戻ってこないんじゃない?



 リザを救うため?

 なんで、私が??



 巻き込まれてしまっただけの私が頑張る必要なんてないんじゃ無いかって思い至ってしまったのだ。不老というオプションは困るとはいえ、差し迫って死にたくなった時に頑張れば、後は緩めでも問題ないんじゃないかって……。



 魔力の枯渇を防ぐためには贄を得なければならない。



 それを考えただけで気分が悪くなる。


 他人の体の一部を取り込まなければならない? リザはシオの尾を食べていた?

 なんて……家を作った日のシオの話は私にとって衝撃的で不快でトラウマだった。



「言語の学習もあらかた終えたのですから、そろそろ引き篭るのはやめたらどうです」


「…………」



 実を言うと、砦の結界の外にこの2ヶ月一度も出ていない。シオは時折外に出て魔物から魔石を収集したりしていたが、私は完全に引き篭もっていた。


 引き篭り中は、シオに言語と魔法、魔物に対する護身術の指導を受けていたので何もしてなかったわけではない。



 今更外に向けて活動を起こす?



 酷く億劫だ。



 街にゆく? 人と関わる? 

 いやいや、無理、私、コミュ障なんだよ。たぶん。きっと、シオもそうだろ? 他人と何話していいかわかんないし、話す気もない。だから、私たちの会話はほぼ無い。




「外がどうなっているか確認をするべきです」




 変わらず森が広がっていると思う。



「今すぐに人間と接しろとは言いません。ただ、この囲いの外の景色も見ておいてほしいのです」


「………………」





 仕方ない。

 か。


 嫌々だが、門から外を眺めて、少し森をうろつけばシオは満足なのだろうか。魔物を狩れれば及第点もらえる??


 や、魔物狩る気は全くないけど……。



 重たい腰をゆっくりあげて街道のあったほうの門へ向かう。



 そして、門を潜ったとき言葉を失った。



「!!」



 瞳に映る光景が衝撃的で心臓がバクバクと脈打ち、驚きと小さな恐怖で力なくその場に座り込む。



「…………」




 私、何も考えて無かった。

 シオが外を確認しろと言うのも頷ける。



「初夏だと言うのに森に力が無いのです」



 ん??



 そっち?!

 そっちですか。




 私は、塀を作る時に削り取った土でできた大きな溝の事だと思ったんだけど違うのか。



 溝の幅は5メートルほどで、深さは7メートルくらいだろうか。断崖絶壁に立たされてる気分。落ちたら登れる気がしない溝が塀の外側をぐるっと囲んでいて森側に渡れないのだ。



 そこには橋が一切無い。もはや陸の孤島。他者の侵入を寄せ付けない。そして、私も外に出られない。



 よく、シオは外に出れたものだと感心してしまう。



 まぁ、削った丸太でも置けばどうにでもなるか? いや、土でアーチを作ればいいのか?



 どちらにしても、解決は出来るだろう。




 で、シオが問題視していた森の様子だが、確かに初夏だというのに新緑の気配があまりない。全くないわけではないのだ。木々は少しながら枝を伸ばしている。



 でも、強い生命力を感じない。

 リザの加護が弱まっているという事?




「………………」




 蛇の塒は相変わらず下草もろくに生えてない。

 だいぶ温かいし、雑草の蔓延る気候なのにどうした事か。



 そいうやぁ、ここ2ヶ月、雨降ったか?



「…………」



 記憶にない。



 え、



 雨を降らすのがリザの役目とか言わないよな。雨が降らないの私が怠けていたせいじゃないよね?



 ほら、あまりに塀の中の家庭菜園が順調すぎて外がこんなシオシオのカレカレになってるなんて思いもしなかったんだよ。




「森に貴女の魔力をみたさなくては、いずれ森が枯れます」



 リザの恩恵が薄れてきているのだ。リザの力をもらった私が行動しなければリザ様の帰る場所がなくなる。と、瞳を伏せるシオ。シオも百年をこの森で過ごしたのだから枯れてしまえば思うところがあるだろう。



 魔力は極力使わない方針とか言ってる場合ではないのかもしれない。



 このしばらく雨のない状況は蛇の塒以外にも深刻な影響を与えているだろう。そんな中、この森が豊かであれば、それはリザの信仰の柱になりえるかも知れないのだ。



 ひとまず橋を土で作りあげて、壊れて下に落ちやないかと恐る恐る慎重に橋を渡り森に入る。



 地面に触れて、ここ2ヶ月で学んだ魔力の扱いで自身の力を森に溶け込ませる。



 随分、森の力が枯渇していたのか、私からぐんぐんと魔力を吸い出してゆくので逆に私が枯れそうだ。力を吸い出されるにつれて、視界に写る景色明らかに変化してゆく。



 芝生程度の下草が生え、木々に葉が新たに芽吹き、しまいには花まで咲き出した。



 森が急速に育っている。




 非現実的な不思議な光景に言葉もなく魅入ってしまう。



 チカチカと視界が眩んで、慌てて手を引いた。流し込む魔力を遮り立ち上がると立ちくらみを起こしてシオに支えられる。



「ありがとうございます」

「…………」




 初めて、真面にシオに感謝されたかもしれない。不思議な感じがしてシオの顔を見つめて瞬きをする。




「ッ!」




 シオが気恥ずかしそうに視線を外した時だった。



 私を支える腕に力がこもり、私の体も反射的に固まった。



 シオの視線の先を追うとそこには目立つ赤い髪の男性が一人立っていて、コチラを見ては唖然としているように思える。



 見られた?

 森に魔力を流しているところを?



 シオは険しい顔をして、まるで私を隠すように抱き寄せ私の頭を自身の胸に押し付けた。




「リズ……」



 知らない単語。

 シオとの言語学習で習わなかったので動詞とかじゃないと思う。おそらく名詞。



 赤髪の男は明らかにコチラに向けてそう呼んだ。






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