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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇蛇の塒にて◇
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自称変温動物と恒温動物の私

 



 結果から言うと、私が作った家の数は一つだった。昨日の作業の疲労具合からして二つ家を作るのは無理だったのだ。


 シオの発言を無視して家を二つ作ろうとしたが、一つ作った時点で動悸と頭痛、吐き気がおそってきて、とてもじゃなく二つ目を作る余裕がなかった。


 意識を失わなかっただけマシな気もするが、意識のある状態でろくに動けないのも辛い。



 シオは座り込んだ私を無視して、出来上がった家の中に入って強度を確かめるように内側の壁にふれ、安全を確かめた後に私を抱き抱えて中に入った。



 蛇の塒の気温の変化は年間通して穏やか。リザが気温の変化を疎ってのことらしいが、人里のあったこの場所はリザの恩恵は薄い。


 初日の夜、キャミにショーパンという軽装備でありながら寒さを感じなかったのは夏だったからではなく蛇の塒というリザの恩恵を受けた場所だったから。



 今の季節は春で、もともと雪が降るほど寒い土地柄ではないらしいが朝晩は冷えこむ。シオが常に作り出していた小型結界の中はその寒ささえ無いものにしてくれていたが、今、この土地を守る固定型結界には適温維持の機能は無い。


 昨晩、意識の無い私は気温の低下に気付かなかったものの、シオは随分寒い思いをしたらしい。



「蛇は変温動物なのですから」

「や、お前、今、人間だから」



 極度の寒がり。けど、ソレを蛇は変温動物だと屁理屈を言ってごまかしているようだった。


 結界はれば寒くないんじゃないの??

 と、思いはしたけど、ブランケットに包まればしのげる寒さに対して、わざわざ結界の中に結界を張るのは流石に体力の無駄遣いだ。



 あたりが暗くなり、日が完全に沈むと確かに肌寒さを感じた。土の壁があってこの寒さなのだから、昨日は野晒しで中々に冷えただろう。



 しかしながら、寒いからと言って、私が他人の人肌を許容できるわけではない。蛇の姿のシオを肩に乗せたときと変わらないくらいの不快感。



 よく考えてみろよ。



 私じゃなくても会って数日の他人、しかも異性とくっつくのは嫌だろう。嫌だよ。



 諦めが悪い。と、言いたげな視線は無視。自分でも動けないくせに何様だと思うけどな。


 そして、シオも私の不満は無視して壁際に私を下ろし、自身も腰を下ろしてブランケットに包まった。


 クソッ。なぜ一つしかブランケットがないんだ。思うように動かない体は自分の意思とは裏腹に、シオに寄りかかるようにしてバランスを保っている。


 もどかしい。とにかくもどかしい。



 あーあーあー。

 もうやだ。



「貴女は、なぜ、魔法を使うと倒れるのかわかっていますか?」



 突然振られた話題。よくよく考えてみると何故倒れるのかわからない。ていうか、倒れた後、半日くらいで復活できる謎よ。普通に考えたらおかしい。



「リザの能力に私の体がついてきてないからか?」



 とりあえず、ソレらしい事を言ってみる。

 つい先日まではただの日本人だったのだ。私の体が魔法やら魔力やら無縁の存在に対応出来る仕様なはずがない。



「ソレも確かにあるでしょう」



 他にもあると?



「…………」



 何故黙る。



「貴女は、トルニテアに来て何も口にしていません」



 確かに。でも、それはシオがそれでも死にはしないと言っていたからだ。空腹感がないのだから食事という面倒な行動は省くのが合理的じゃないか。


 しかしながら、足りていないのが食事なのだとしたら私の症状はエネルギー不足か。


 たぶん、リザというデータが重すぎて処理落ちしていたわけではなく、私の体が魔法を使ったことで電池切れを起こしていたのだ。睡眠で数パーセントを回復させ、再び魔法を使って電池切れになる。それをずっと繰り返していたという事か。



 携帯ならバッテリーに悪そうな運用方だな。



 とはいえ、何を摂取すればエネルギーを得ることができるのか。きっと、ただ食べ物を食べればいいというわけではない気がする。基準は人間の体ではなく神であるリザのはずだ。



 信仰を得ればいいのか。

 それとも、贄が必要になるのか。



「リザは……どうしていたの」



 もとは大きな力を持っていただろうけど、近年は信仰が足りず力も弱まっていた。もちろん枯渇すれば補っていたはずだ。


 シオは一度瞳を伏せゆっくりと言葉を発する。



「私の尾を」



 時には焼き、時には生、時には香草を添えて…………。


 脳内にナイフとフォークを持ってテーブルにつく女性と皿の上の蛇の尻尾が再生される。リザの姿を見たことがないので、完全に女性は私の想像になるが……。



 おい。



 リザ。



 再生するとはいえ、便利な食料にするには流石に酷すぎないか??



 もともと、贄として差し出された人間ではあるだろうけど、リザを慕うシオの体をチョンパしてパクーは出来ないわ。普通の神経してたら出来ねぇよ。



 好き好きリザ様のシオも大概だけど、リザ本人もマジで結構やべぇ。

 きっと、神なんて全部が人間をおもちゃみたいに扱う存在なんだろうけど私には全く理解できない。



 そして、尾を食われても法悦な表情でリザを慕うシオが想像できてしまうのが痛い。痛すぎる。もうやだ。



 ………………。




 つまり、要約するとシオは私に人間を食えと。倒れないためにもそうしろと言うわけか。




 スン。と、心の中で何かが落ちた気がした。



 怒りなのか、呆れなのか。昂る事のない冷め切った感情に支配される。



 えぇ、そりゃあ、人外になったさ。

 でも、心は人としてありたいわけだ。

 なのに、倫理的に無理な事を強いられるわけですか。



 へぇ、そう。



 なんだよそれ。



「…………」


「そこまでは言っていません」



 ただ、そばに居て他人の魔力と接するだけでも多少は回復する。だから、嫌悪感があろうとも動けない今は拒絶するべきではない。



 それが伝えたかったらしい。



「無論、他者から捧げられた体の一部を摂取できるのならそれが一番の回復方法ですけど」




 貴女はそれが嫌なのでしょう?



 無論、嫌に決まってる。

 力の限り拒絶した。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 月が高く上り、土造りの室内も寒さが一段と強くなった。



 その状況下で静かに寝息を立てる緋乃。なんだかんだ、疲労には勝てず、完全にシオに凭れ掛かり無防備な寝顔を晒していた。


 シオは瞳を細めて少女の姿をした緋乃の寝顔をしばらく見つめ、そっと背に回した腕に力を入れて抱き寄せる。



 小さくて、細くて、繊細で、壊れてしまいそう。けれど、暖かくて離し難い。




「リザ様……」




 自身の腕の中に収まる緋乃の首元に顔を埋め、体温や魔力を感じると愛おしそうに主の名を呟いた。




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