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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇蛇の塒にて◇
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地上の楽園は実は地獄

 あぁ、なんだろう。

 私がシオの行動に対して"ドキドキッ!! 美少年との触れ合いに恋の予感!" みたいな風に考えられる人間だったら幸せだったんだと思う。


 わー素敵。

 真っ白。

 綺麗!!

 まるで塩みたい。



「…………」



 なんなの?

 気持ち悪い。

 無理。

 生きてるのしんどい。




 人生ままならない。




 舐められた頬をそぎ落としたい。


 私の混乱と不快感を察してほしい。それは貴方にしか出来ないお仕事です。



「ほら、何をしてるんです。さっさと来てください」



 座り込んだままの私に、何もなかったかのように声をかけてくるシオ。私の心を読んでるはずなのに完全無視で急かしてくる。これだけボロクソ不満をぶつけられてるのに微塵も折れやしない。鋼メンタルだな。




「早く取り掛からなければ日が暮れます」



 現在、日は登る途中。正午にもなっていない様子だが、広範囲の結界を張るのはそんなに時間がかかるんだな。



「…………」


 来てくださいとか言われても正直、近づきたくない心境。




「座り込んだままなら魔物に襲われても知りませんよ」



 シオが常時張ってくれてる認識阻害の結界。その恩恵を受ける為に今までシオの側に居なければならなかったわけで、固定型の結界を張るために動き回るのなら、一緒について回らなければ結界の外に出てしまい魔物に見つかってしまう。



 非常に困る。




 広範囲の結界が今後張られれば、そばに居なくても良くなるのだから、シオが嫌で気持ち悪くても憎くても今は我慢して頑張るしかない。



 魔物の餌食になって、エンドレス再生でムシャムシャされるのは論外だもの。



 蛇の状態のシオを肩に乗せた時と同じく、背に腹は変えられないのだ。



 意を決して立ち上がる。割り切れ。割り切れよ私。前回の手を噛まれた時だって、その後は普通にしてただろう。



 …………してたか?



 股に無用なブツをおったててなかったか??




「…………」



 しばらくは、シオを視界に極力入れない方針で活動しよう。



「まず、範囲を決めましょう」

「なら、元々あった村の範囲から少し広げて森を含むようにしてくれない?」



 木材の調達に結界から毎度出ていたら危険だし、魔物の邪魔が入れば作業効率もよくない。



「そうですね。ゆくゆくは魔物を排除できるようになってもらうので、今必要なだけ森も含めてしまいましょう」


「…………」



 ゆくゆく魔物の排除……できるようになるかな?? 疑問に思う。過度の期待はやめてもらおう。



 シオは淡々と準備にとりかかり、異空間収納から拳大のカラフルなガラスの塊? 石? のようなものを10個程取り出した。



 そして、そのうちの一つを握りしめて真剣に見つめてる。私には何をしてるのか理解出来ないが、淡い光が石から出ていて、小さく読めない文字が書き込まれてるように見える。




「コレは魔石と言って魔物から獲れる核です。この大きさの魔石はそう手に入るものではありません」



 へぇ。ここの地中に埋まってるゴブリンにも魔石があったんだろうけど……。それなんかよりずいぶん大きいということだろう。



「地中のゴブリンの核は貴女が分解を願って埋めたのです。粉々になって地の養分となったことでしょう」

「肥料になるって事?」

「大地の力になるのです」



 え、魔石砕いて埋めたら肥えた土壌になる。だったら、蛇の塒の魔物全部そうしたら良いんじゃないの?


 魔物は減るし、土地は肥えるし、それで寄り付く生き物も増えれば、より豊かな土地になる。



「それが実現できるのなら良いですが、そのように考える者はトルニテにはいません」


「なぜ?」




 トルニテア人馬鹿なの?



「魔石自体が高価で取引されていますし、色々と利用価値があるのです。現に、今も結界を張る為に使用しています。有用性もあり、金にもなるのだから、砕いて地面に捨てる者はまずいません」



 むしろ、馬鹿扱いされます。と、シオは言う。トルニテア人みんなが目先の利益に飛びついちゃうのね。残念だなトルニテア人。



 話してる間にシオは一つ目の魔石でする作業を終えたようで、次の魔石に手を伸ばしていた。



「魔石自体が手に入りにくいと言うのもあります。普通の平民には最も弱い魔物でさえ脅威なのです。魔石を手に入れることなど出来ません」



 農民が魔石を手に入れることなどまず無いし、手に入れたらそれを売ってお金にする。



 国の土壌が肥えてるのならそれで良いと思うけれど……。蛇の塒の様子からしてそうでもないんじゃないか?



「この国は今、豊かとはとても言えない状況です。リザ様の加護があるこの森ですらこの状態ですから。それでも、昔は、他国が羨むほどに豊かだったんですよ」



 魔石に何かを刻む作業をしながら懐かしむように目を細めるシオ。



 国全体が荒れてるのなら何故王は対策を講じない? 二次産業で儲けたお金で他国から食料を買い付けて事足りるならいいが、そうで無いだろう。


 土地が荒れているのは平民からしたら死活問題だ。



 民が減れば税収も減る。国の衰退は目に見える。




 この国の平民の姿を見たわけではないので何とも言えないが、楽な暮らしはしてないだろう。私は、選べるのなら豊かなところに住みたいぜ。



 与えられる理不尽や不条理を当然のように受け入れるのは日本でやってきたし、ココではしたくない。



「少なくとも、ここは誰もが羨むくらいに豊かにしよう」

「えぇ、そうですね」




 地上の楽園計画始動だな。




 そのあとは、シオが魔石に行う準備が終わるまでしばらく待ち、結界を張る範囲の外側に魔石にを埋めて回る。



 大きさにして、私の地元の中学校の運動場の二倍程。やや欲張った感は否めないが、作れるかはさておき温泉施設欲しいと思っていたし、後から広げるのは困難らしいので大は小を兼ねる。と、この範囲になった。



 村の中央あたりに移動して、シオは大きめの岩に何か魔法陣のような図を書き込んだ。そして今はおそらく魔力を流しているんだと思う。



 小さな声で囁くように呪文も唱えている。



 淡く地面が光り、陣が大地に転写され、魔石を埋めた範囲まで広がっていく。



 スゴイ



 そして。多分綺麗。



 私は陣や呪文も無く色々魔法を使用したけど、普通はちゃんとしたやり方があるんだな……と感心する。




「結界自体は終わりましたよ」



 シオは酷く疲れた様子で地べたに座り込んだ。白い服が汚れるよとか、口には出さないが思ってしまう。


 立って動き回る気力もなさそうで、私を見つめる視線は少し恨めしそうでもある。



 確かに、私はついて回っただけで何もしてないものな。全然疲れてないぜ。悪いな。



 シオに求められてるものは何となくわかる。疲れ切っている今、リザの力に溢れる私の体の一部がほしいのだろう。



 血……とか、痛い思いしないと出ないし、涙とか出ないし。いや、いや、いや。



 ないわ。




 唾でも飲んどけと。




「…………」




 キスでもすれば楽だし早いし痛くもない。

 効率的だね!!



 なんて……



 嫌だ。無理だ。

 嫌すぎる。

 考えただけで鳥肌が立つ。自分で指先切った方がよっぽどマシだ。




「ナイフ下さい」



 私は勢いよくシオに頭を下げた。



 この想いは切実。



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