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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇蛇の塒にて◇
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文化的な生活の拠点づくり

 


 シオとの設定会議をとりあえず終えたことで、他者と遭遇してもとりあえずの体裁は保てるようになったと思われる。


 私自身、言葉が話せない設定なので会話の必要もないし、トルニテアでの活動もボロが出にくくなったはずなので少しは安心できる。



 トルニテアの人間と接する事があっても、こちらから声を発する予定は無いが、他者の言葉を聞くという点でトルニテアと日本の言語の違いは、会話のみであればリザの力で意思の疎通が出来るらしい。



 今も、その能力でシオと会話が出来ている。というのは初日の森の中で聞いていた。あの時は私はまだリザと同調してなかったのでシオの能力で会話が成り立っていたのだ。



 かなり、便利な能力。何かと残念に思えるリザが本当に神様だったんだな。と思えるほどに凄い。



 しかしながら、読み書きは別で一から覚えなくてはならないので、最終的には私はトルニテア語をマスターしないといけないもよう。



 酷く面倒に思うけれど、馬鹿は舐められるから常識を全て覚えるのは無理でも読み書きくらいは早めにマスターしたいところだ。



 コレは直近の課題。




 あと、今後の行動予定の詳細も決めなければならないよね。



 私の希望としては最低限の文化的な生活がしたい。



 それは、私の切なる願い。



 が、しかし。

 頼る相手はいない上、この地を拠点にしようにも大自然からのものづくりは私の脳みそからじゃ原案をひねり出せないようだ。



 背後には文明を感じさせない森と平らになってしまった集落跡地。そこから続く街道。全く手入れがされてなくて草も生えているが辛うじて道があったのだと思える。



 この道を使って、近いらしい王都に向かえば何かしらリザの信仰集めの道も開けると思うのだが、生憎、都に入るための門で払うお金がない。



 無一文なのだ。



 かといって、この跡地で生活するにも、木を切る道具もないし、あったとてそんな体力もない。木材と道具があっても建築方法も分からないのだから、文化的な生活を送るのは難しい。



 誰か、専門知識のある者に助力を願わなければならないのはわかりきっているが、そこにも報酬としてお金が必要になってくる。



「世の中金か」



 お金がなきゃ生きていけないんだな。

 つらっ。



 シオに所持金を尋ねても、瞳を閉じて首を左右に振るし……最初から行き詰まっている。



 お金を稼ぐには、働くか物を売るのが手っ取り早いが、公衆向けに物を売るとなると()()としての登録が必要になるらしいからハードルが上がる。


 となると、商人に商品を卸す生産者として物を売るのが良いだろう。と思ったが、それにも生産者としての登録がいるらしい。



 そもそも、門の内側に入らなければ登録も何もないのだが……。



「……」



 もう……

 王都進行を考えるのしんどいな。色々面倒になって投げ出したくなる。



 そもそも、リザの信仰集めに乗り気じゃなかったのに不老とかいらないオプション付けられて仕方なくやってるボランティアなのだ。




 そんなに事を急ぐ必要は無いんじゃ無いか?




 かつて、ここに村があったのなら生活できる基盤があったということだ。



 建物も何もかも無くなってしまったけど作り直しを地道にしていけばいい。ひとまず、人二人が暮らせる程度に簡単な作りの家を素人なりに作ってみよう。


 釘も工具も無いけどな。



 私もシオも普通の人間より頑丈だろうし、何よりシオの結界があれば魔物の侵入もない。



 早期の王都進出を決行するよりは現実的で危険も少ないだろう。



 森に家を建てる。

 作物を育てる。

 信仰対象のいる森を管理して豊かにする。



 あわよくば、他都市と王都を繋ぐ街道の中継地点として宿経営でもして栄えさせる。



「蛇の塒を管理して豊かにするのは賛成ですが、ここは街道から少し離れていますから他都市の人間はわざわざ立ち寄りませんよ。魔物もいることですし」



 なら、立ち寄りたくなるくらい魅力的な価値を持たせるとかすればいいんじゃないか? 



 王都にもあるかもだけど森林浴のできる天然温泉とか、ここだけの特産品を作るとか。簡単なことではないだろうけど……。リザの能力が有れば穴掘りは楽にできそうな気がする。



 時間はかかりそうだけど、二人とも不老だし、私と同調した事でリザは私が死にでもしない限り完全に消える事はないのだから時間はいっぱいあるわけだ。



 実現できるかはさておき、やはり、そう急ぐ必要は無いと思う。




「確かに、すぐに王都に行っても貴女はボロを出すでしょうし、トルニテアの生活に慣れる事もしなくてはなりません。魔力の扱いや、魔法について、言語や身の守り方等、学ぶ事は沢山あります。それらを満足に得る事が出来るまでは他者との接触は避けた方がいいでしょうね」



 課題が一杯だな。ツラッ。



「ひとまず、此処に腰を据えるつもりなら固定型の結界を張りましょう。貴女の教育をする上では人の来ないこの地は好都合ですし」



 話合いは終了だ。と言わんばかりに立ち上がったシオは私に手を伸ばした。


 立ち上がりの補助?



 別にいらないけど……とか、思いつつも、伸ばされた手を無視するのは流石に罪悪感があるので躊躇いつつも手をとった。



 のだけど。



 !!?




 手取った瞬間に強引に引き寄せられた。10歳の子供の体は軽いし、シオの体も12歳の子供とはいえ男だからか私より遥かに力があるようで、それはそれは簡単に私はシオの腕の中に収まってしまった。



 抵抗とかそんなの出来るか!! ってくらいに突然で驚きの感情と一瞬にして鳥肌が立つ不快感で脳内は混乱している。




「っ!!」




 混乱で動けない状態からの一撃。



 首筋に噛みつかれた。

 痛い。



 人の姿だから油断してた。服を着て落ち着いた会話ばかりしてたから忘れていた。



 私にとって、シオは前科有りの油断してはいけない相手だって事を……。



 言ってたじゃ無いか。



 拠点を守る様な広範囲の結界を張るためには下準備と燃料が必要だって。



 今、正に、わたしからその燃料を手に入れようとしていたんだろう。




「……人の姿ではうまくいきませんね」



 固まる私の首筋から顔を離して真顔で呟くシオ。人の体は歯が鋭くないので、首筋に歯形がつくばかりで出血には至らなかったようだ。




 噛まれ損!!



 血が出なかったとはいえ、ガチで痛い首筋と表現に困るほどの不快感、怒りで、目尻に涙が溜まる。



 なんだよコレ。ヤダ。ヤダ。ヤダ。




 あまり力は入らないもののどうにか腕の中から脱出出来ないものかと、足掻くが意味はなく、体格と力の差が腹立たしい。






 怖い。





 シオを見上げ睨みつけた瞳から一雫涙が溢れた。




 !!!!




 再び近づいてくるシオの整った顔。距離をとる事が出来ずに必然的に肩を竦めて目を閉じる。




「ゃ……っ…….」




 目を見開いた。

 それと同時にシオに解放される。



 ヘタリと座り込んだ私をシオは満足そうに目を細めて見ている。



 左頬に手を当てる。



 何をされた??




 いや。わかってはいるんだけど。理解したく無い。認めたくない。無かったことにしたい。気持ち悪い。不安に駆られたみたいに心臓が脈打っていて力が入らない。




「ご馳走様です」




 私の涙を舐め取り満足気なシオを私は唖然として見上げる事しかできなかった。


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