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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
◇蛇の塒にて◇
12/109

そういう設定って事にする

 


 問題なく子供の姿になった私。

 問題ないと思ってしまう辺りが問題だと思うけど、不思議と今朝の野宿のせいで起こった体の不調は無くなった。


 鏡はないが、今の私の見た目は小学4年生くらいじゃないかと思う。10歳くらいのイメージだ。


 本当は、トルニテアの常識を知らないという点からしてもっと幼くても良いと思ったが、流石に魔物と対峙する事もあるのを考えると体力面で心許ないので、この年齢にすることにしたのだ。



 髪は変わらず肩より上のボブカットだけど、ここから人並みに成長してくれたら願ったり叶ったりで、髪が伸びてくれれば脱・痴女も夢ではないはずだ。



 不老というのがどう作用するのか不明で、ずっと10歳の姿のままであれば、かなり不自然な子供になってしまうけど……仕方ないよね。


 その辺の加減は私にはどうする事も出来ないしな。と、縮んだ体で伸びをする。



 まったくもって残念な思考回路と先を深く考えない行動力を持った私を、白蛇は憐むような目で見てくる。


 リザを救う人間の人選ミスをしたのは白蛇であって私ではないので、私は悪くないと思う。



 とりあえず、今後の方針は話合わなければならないので、軽く白蛇を睨みつつも白蛇の服の袖を引いた。


 私の思考を読んでいるのだら、設定決めの会議をしたいのは白蛇に伝わっているはずだ。


 先程の水浴び事件のせいで地面が濡れてる箇所を避けて木陰に移動し座り込む。



 ふぅ、と息を吐いて見上げると、ゆっくりと木の根に腰掛ける真っ白な少年が視界に入る。



 私は白蛇に情報開示を求める。



 お名前は?

 お年はいくつ?

 何処から来たの?

 ママは??



 迷子の子供を相手しているかのように訊ねたくなるほどに白蛇の情報は無い。


 数日、一緒に過ごしているのに知っているのはリザの狂信者ということと、百年以上生きているという事だけ。


 私が知りたい年齢は今の人間の姿の年齢だ。これから会う他人に百数歳です。とは言わないはずだもの。私も知ってなければ不具合が起きかねない。



 逆に、白蛇も私の何を知っているのか。名前くらいしか伝えた覚えはない。というか、名前を伝えたのも白蛇へではなく、名を訊ねてきたリザに伝えたのだ。


 白蛇は私の事を貴女としか呼ばない。

 それは、まだ他所でも通用するかもしれないが、私が白蛇と呼ぶのは世間の目からしたら絶対におかしいはず。



「て、ことで、白蛇さんや。あんたのお名前は?」


「人の姿の名は捨てました。貴女が適当に付けてくださって構いません」



 目蓋を下ろし静かに呟く白蛇。



 いや、いや。人の名を捨ててたとしても……リザから何かしらの固有名詞で呼ばれていたはず。リザ以外からその名で呼ばれたくないのかもしれないが、名付けなんて極力したくない。遠慮したい。



「リザからは何て呼ばれてたの?」

「そうですね……百年程前は蛇ちゃんと……。ここ数十年は二人称で呼ばれてましたね」


「…………」



 リザ様意外と酷い。白蛇が可哀想で笑えてくるくらい酷い。


 名付けが面倒なのは私も理解できる。昔、緑川家で飼ってた猫の名前はニャン子♂だったし……。リザにとやかく言える立場では無いとこだけは確かだ。



 そんな私が白蛇に名前をつける??

 そんなの無理だろ??



 あだ名もつけずにこれまで律儀に白蛇、白蛇と心の中で呼んでいたところから察してくれないだろうか?


 白蛇が自分で自分の名前考えればいいんじゃないか??



 まぁ、私だって自分で自分の新しい名前を考えろって言われたら困るけど。



「…………」



 白蛇をよく観察する。


 でも、いくら見てても「白いな」としか思わない。シロとか見たままを名前にしたら犬みたいだ。


 動物に目の赤いこんな配色のヤツがいなかっただろうか?? ハツカネズミ?? いや、ネズミはヘビのエサですね。


 雪兎は?


 白蛇の雰囲気がウサギって感じではない。



 白い食べ物だったら?

 もち?

 うどん?


 語呂が悪い。


 調味料から

 塩とかどうよ?

 ソルト。どうよ?


 砂糖でもいいよ?

 シュガー。シュークル。


 薄力粉、強力粉、片栗粉、米粉……

 もう、何でも良く無い??



「…………」

「…………」



 考えるのシンドくなってきたよ。この世界の基本的な名前で良くないか?


 日本で言う太郎とかさ。二郎とかさ。



「二音がいいです。リザ様と同じ……」

「じゃあ塩だな」



 考えるのをやめた。イントネーション変えればそれなりに名前に聞こえるだろう。



「シオですか……」

「ok?」


「えぇ、それで構いません」



 ずっと、ツンとした表情か私を憐む表情しかしてなかった白蛇が少しだけ頬の筋肉を緩めた。


 余程、リザと同じ二音の名前が嬉しかったんだろう。美少年の微笑みは随分と綺麗だった。



「で、シオさん。アンタおいくつ?」

「この姿は12の頃のものです。リザ様と出会った時と変わりはないようなので」



「…………」



 12で贄としてリザのもとに差し出されたって事?


 百年以上前はリザの力もそれなりにあって、信仰されていたからこそお供えとして子供が差し出されたんだろうけど……。



 なんとも言えない白蛇事情。


 アルビノで世間から疎まれていた可能性もあるだろう。それでも、信仰のためとはいえ周囲の大人から贄としてリザに差し出されるのは、大人の意見に逆らえず、のみこむしかない子供にとってはあまりにも理不尽だ。



 その結果シオにとって良い出会いがあったのだから無問題なのだが……


 子供を差し出させるなんて、リザは一体どんな影響を人間に与えて信仰を得ていたんだろうか?



「…………」



 答える気はない。か。



 リザは新しく生まれた神でなく、元々いた神なのだから元からある信仰を復活させる感じになると考えていたけど……シオは非協力的。



 ま、その辺の布教活動的なのは追々でいいか。まずは文化的な生活のための下準備が大事だ。



「今後二人で行動するわけだけど、シオと私の関係はどうする?」



 子供二人で保護者なしに活動してたら怪しいよね。どう言う設定なら怪しくないのか。



 孤児同士とか?

 幼馴染で冒険してたら家に帰れなくなったとか?


 孤児は粗雑に扱われそうだし、迷子は家に連れて行かれそうになってバレそう。


 誰かの庇護下に入るにしてもどこに伝があるだろう。考えつくのは孤児として教会や施設に保護を願うくらいで、教会はリザ以外の神の手の内だもの。リザの信仰を増やそうと思えば無いな。



「兄妹でどうです?」



 や、似てないよね??

 私はこんな美形じゃない。

 一般人ですので。 


 輝くような白い髪でもないし、真っ赤な宝石みたいなお目々も持ってない。



 黒髪だし、眼だって「虫みたい」とかディスられるくらい真っ黒だ。目つきもあまり柔らかくないから、第一印象もよろしくない。




「田舎の貴族の兄妹。それだけ決めていればあとは状況に応じて対応します」



 いや、いや、いや。

 平民希望。いきなり貴族とか、ハードル高くないですか? 無理だろ。



「そもそも、平民を名乗るには貴女の外見に無理があるのです」



 無理ないだろ?

 ただの日本人の一般人なんですけど。



「トルニテアでは気位が高い者ほどハッキリとした色彩の髪や瞳を持ちます。色の濃さが魔力の量、色の違いが属性に直結するのです。なので、魔力を持たない平民は淡い色彩の髪や瞳をしています」



 視覚的に魔力の量や質がわかってしまうなんて……魔力の少ない貴族は人間性や能力を無視して髪色の濃い貴族に差別されてそうだな。



 その点、シオは純粋な白に真っ赤な瞳。無属性の魔法を使うあたり、白という色が無属性と繋がってるんだと思う。



 貴族に擬態しようとするのだから、人間時代はそれなりの貴族だったのだろう。

 でも、貴族の坊ちゃんを贄にするか??



 トルニテアの階級社会はわからんな。



 まぁ、私はいくら髪の色が濃くても……ねぇ。貴族なんて会ったこともないからどんなものか想像もつかないし、なれるとも思えない。



 貴族と言われて頭に思い浮かぶのは、マリーアントワネットの盛り盛りの頭とかエリザベス一世の強そうな肩まわりに目がいってしまう肖像画だ。



 たぶん、トルニテアの貴族はそんなんじゃないと思いたい。


 あんなゴリゴリのドレス着てる人いたら笑ってしまいそうだ。そのまま斬首の刑に処されそうで怖い。



「…………ボロが出そうだから、口がきけない設定にして人間と出会ったらシオに会話は任せる事にしようか」



 そうしよう。



 田舎の貴族の兄妹。

 原因は未設定だが家を出て兄妹で生活中。

 妹の私は口がきけない。


 そういう設定。




「よろしく、お兄様」

「…………」



 こんな美形の兄と比べられる私が可哀想。

 そう思いながら私は皮肉まじりにシオをお兄様と呼ぶのだった。



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