痴女誕生に至る
白蛇とともに包まっていたブランケットから出て、盛大に伸びをする。
子供の頃のキャンプ以来の野宿だ。体のあちこちが不自然な体勢で寝た為に悲鳴を上げている。
受けた傷はリザの力で直ぐに治ってしまう体になってしまった筈なのに、こんな小さな不調はそのままなんて、なんて不完全で不便な不老オプションなんだろうか。
私の後ろの方では、白蛇がブランケットを異空間収納とやらに片付けている。几帳面にブランケットの角を合わせて畳まれたそれはフッと白蛇の手から消えて無くなってしまった。
凄っ!
驚きを隠しきれず白蛇を、見てしまう。
眩しい朝日でできた木々の隙間の木漏れ日を浴びる白蛇の白髪はキラキラと輝いていて、表情は繕った笑顔さえない無表情。なのに整い過ぎてるくらいに美しいので、えらく儚げに見える。
誰が見ても美少……?
美青……年?
白蛇の見た目年齢を計りかねる。
まぁ、どんなに綺麗でも中身は生粋のリザ崇拝者なのだから残念極まりない。黒髪、黒眼、至って一般人の私はこんなのの隣なんて心底歩きたくないわ。
白蛇から視線を外し朝の清々しい森の中で崩壊した集落を見まわす。そして思う。
ここに住むの無理じゃね??
森を出て王都に向かうにしても、取り敢えず着替えたい。身体を綺麗にしてちゃんとした服を着たい。
この集落に向かう途中に小さな川を見かけたが、川の水で身体を洗えるだろうか??
イヤイヤ、綺麗だとは思えないし、川の水に浸かったら逆に汚れそうだ。だって、この国、浄水施設無さそうだし、汚物、ゴミ、なんでもポイしてるんじゃないの?? と疑ってしまう。
ツラっ!
汚染された水で身体を洗うとか、考えただけで鳥肌ものだ。川で汗を流すのは最終手段にしよう。そうしよう。
「で、魔法なり何なりでパパッと綺麗になる方法ないの?」
ほら、トルニテアでは貴族とかが魔力を持ってるって言ってたし、なんか簡単に綺麗になる方法があるんじゃないの?
実用系便利魔法は誰もが欲しがるだろうし、過去に考えて編み出されてると願いたい。
白蛇の結界は魔法の類だろうから、魔法が使える白蛇にも出来るんじゃないかと思うんだよね。
「……私は無属性の魔法しか使えませんよ。魔法で身体の洗浄をしたいのなら、水と相性のいい貴方が自分でやるしかありません」
赤い瞳を細めて呆れ顔をするのやめてほしいです。
なんでも私に押し付けようとしないで下さい。と言いたげなのがその表情に出ている。
白蛇の奴、めちゃくちゃクールぶってる。
この世界に来てリザに会うまでは、かなり下手に出て私に対応し、リザが姿をくらました際には無様にも取り乱しワンワン泣いていたのが嘘のよう。人の姿になるとよりツンとした雰囲気を感じる。
いやさ、リザ復活に協力したらトルニテアでの生活に協力する的な事言ってたじゃん??
普通に出来ると思うじゃん?
仕方なくね?
仕方なく無いのか。
そうか。
そうか?
魔法は想像力によって威力や性能が決まるってのが昨日のゴブリン虐殺事件で嫌というほどわかった。面倒な魔法陣やら呪文やらが無いというだけで私としては助かるのだが、力加減が適切でないとブラックアウトするなんて神経使うわ。
まぁ、自分でやるしか無いのなら多少危険があっても、やっぱり全身気持ち悪いのでサッパリしたいと思う気持ちは強い。なので、早速脳内で水浴びのイメージをする。
ここに水は無いので空気中から水分をかき集めるイメージで頭上に小さめのバランスボール位の水球を作る。
コレを綺麗に少しずつ降らせることが出来たなら簡易シャワーの出来上がりだな。
とか、我ながら器用!! と自画自賛してた私にバシャン!! と水の塊が降り注いだ。
「………………」
最悪。
服を着た状態で全身びしょ濡れだ。コントロール出来ずに塊のまま降り注いだ水で下着まで濡れてしまった。水浴び前より状況は悪化した気がする。
滴る水を霧散出来るならいいんだけど、なかなか難しい。基本的に凄いリザの能力も使用者が私であればそう簡単に思い通りにはならないらしい。
水をシャワー状に降らすイメージはジョウロやシャワーヘッド、あとは雲なんかを水球の間に挟まないと私の硬い頭じゃ出来ない。辛い。
「馴れればそのうち出来るようになるでしょう」
そう言って、白蛇は何処からか取り出したタオルを差し出してきた。
タオルじゃ服は乾かねぇよ。
口に出さず文句を垂れる。
「使って頂けなくても私は構いませんけれど
」
いやいや、ありがたく使わせてもらいますよ。っと、引っ込めようとするタオルを素早く奪いとり、髪を両手を使って勢いよく拭いた。
両腕を上げるとキャミのカップが水を含んで凄く重い。凄く鬱陶しさを感じる。
自分が胸の膨らみの無い子供だったなら、白蛇がそばにいようと、こんな下着脱ぎ去って思い切り身体を拭けるのに…………。
ため息が漏れる。
拭く面積も減るし、ガチで子供になりたいと思う。隠れて身体を拭きたい、ではなく、子供になりたいとか思ってしまう私は間違いなく残念な奴だ。
でも、人目も憚らず行動できるのはかなりの利点じゃないのか?
「そんな痴女嫌ですよ」
白蛇は瞳を閉じて、片手で顔を覆い深いため息を吐いた。
信じられない。アホじゃないのか。そう言いたげな白蛇をよそに、子供の姿であれば付いてくる利点が次々と浮かんでくる。
多少羞恥心を捨てても大目に見られるところや化粧とかオシャレとか見た目にそこまで気を使わなくてもいいところ。運動不足の今の私より子供の頃の方が体力だってありそうだ。
それに、今後、トルニテアの人間と関わる上でいい大人が常識知らずだったらかなり怪しくないか?? 街中で浮くんじゃない??
世間を知らない子供という事に出来れば怪しさは半減だろう。
子供って結構いろんなところで都合がいい気がする。そう思うのは私だけか?
「確かに、都合は良いでしょう。貴女の年齢でその髪の長さは犯罪者……もしくは不貞を働いて家を追い出された痴女そのものですし、あまり好まれません。子供の姿であればそこまで周囲の目は気にならないでしょう」
何もしてないのにボブカットなだけで痴女扱い。
一般女性の髪は長いのが当たり前のようだ。好きな髪型に出来ないなんて不自由な国。
犯罪者がショートカットって言ったって、髪は伸びるものだし、髪がのびたら罪が許されるって事なのだろうか?
「特殊な魔法で行動の制限がされますので、犯罪者は髪がのびたら切らざるえません。不貞の者では余程の事がない限り制限をかけないので時が経てば髪がのびますが、成人の一般的な長さになるまで長いこと白い目で見られますね」
行動の制限の魔法とか酷だな。
トルニテアで私の常識はまったく通用しないらしい。
それは、まぁ、当たり前と言えばそうなんだけど……他にも色々とトルニテアの固有ルールがありそうだな。
自分の肩上くらいで切りそろえられた黒髪に触れて考える。
子供の姿になるのは……多分できる。
白蛇が人の姿になれるのと同じに子供の姿になる事はおそらくできる。なんとなくそんな感じはする。
大人にしろ、子供にしろ、白蛇からしたら痴女扱い。なら、この国で過ごす上で都合の良い子供の姿の方が良いに決まってる。
願ってみよう。
魔法陣やら呪文は不要。
なら、想像力と記憶力をフル稼働させせばいいのだ。
きっと、たぶん。
大丈夫。
根拠の無い自信を胸に私は瞳を閉じた。




