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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
アルセリアスでの茶木栽培
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父と息子の会話



 勝負の後、大火傷を負ったレントナードはリヒノの癒しで一命を取り留め、急ぎ迎えた神官に残りの傷を癒してもらった。


 リヒノの癒しを受けた時点で命の心配は無くなり、神官が到着する前には俺は今後の動きについて考えていたのだが……妻からの批判は避けられなかった。


 多少の火傷なら神官が綺麗に治してくれる。


 それは、俺も幼い頃に炎を剣に纏おうとして両の腕を炭にしかけたことがあるし、実際に戦場や魔物討伐に駆り出された者の治療の現場は見てきたので、どの程度の怪我まで大丈夫なのかは把握しているつもりだ。


 とはいえ、体は綺麗に治ったもののレントナードの心は無傷とは言えないだろう。

 その分のケアは必要なのはわかっていたが、明日に迫った領地の事業計画と、分不相応の勝負を挑み自業自得の怪我を負ったが癒しにより命の心配のない息子……。

 妻との衝突は優先順位が互いに違っただけの事。


 レントナードはひとまず部屋で安静にさせて夕食はユズリハより持ち込んだ非常に食べやすい食材で軽い物を運ばせた。


 食事の指示は祖父からだが、もとはリヒノが提案したらしい。コレを気配りだとか優しさだと言うのかも知れないが、俺には違うように感じる。


 リヒノは子供でありながら状況を冷静に判断できる。多少の甘さはあるが決して優しいだけではない。

 

 食事に関しても何かしらの意図があってのことのはず。


 正直、今まで食べていたものはなんだったのか……そう思うほどにあの土地で育った作物は美味だ。セテルニアバルナの恩恵もあり王国では上位貴族の一員として常に最高の物を手に入れているかのように教育されてきたレントナードにはユズリハの食事は衝撃的だろう。


 言ってしまえば飴と見せかけた鞭。

 お前は井の中の蛙なのだと、リヒノの方が上位の存在なのだと知らしめるかのような。幼稚な嫌がらせとも取れるが、都合の悪い言葉を聞き入れないレントナード相手では効果は覿面だ。


「気分はどうだ」

「最低の気分です」


 ベッドに上体を起こして座るレントナードは覇気のない声で答えた。

 部屋の中には俺とレントナードのみ。話を円滑に進める為に妻には食後部屋を出てもらっている。


 こうして、二人きりで会話をするのは久しぶり……いや、初めてかも知れないな。

 それほどにアルセリアス領の業務は忙しく、家族との時間は取れない。部下任せにして屋敷で書類を待っているだけでは、この領の領民の信頼を得ることができないのだ。

 

 義父はやや頭が硬く保守的で変化を好まない。故に以前からの体制を変える気がないのだが世間は常に変化している。新たな時代に取り残されない為にも、いずれ自ら治めるようになる領地の為に俺は動かないわけにはいかない。


「痛みは?」

「ありません」


 押し殺した声。


 リヒノの癒しを受けたのだから痛みが無いのは当然と言えば当然だが、流石に恐ろしい苦痛を数時間前まで味わっていては今の状況を楽天的に喜べはしないらしい。正常な反応に何処か安心するも、この落ち込みが見当違いの落ち込みでないことを願ってしまう。



「わかっていると思うが、今日の勝負はお前の負けだ。異論は認めない」

「はい」


「なんでも言う事を聞くと言っていただろう? 早速で悪いがリヒノの願いを伝える」


 レントナードのした幼い故の愚かな発言。


 どんなに妻が「あなたは悪くない」と言ったとしても、相手がリヒノだったからこそ今無事でいられることを痛感してほしいものだ。


 いずれはレントナードもこの地を治める事になる。自らの無責任な発言に首を絞められることが無いよう、冷静に状況を見極める目を養っていかねばならないのだ。


 無条件に許す甘さを愛とは言わない。いくら幼いとはいえレントナードが大切だからこそ今回の事で俺が「レントナードは悪くない」と伝えることは絶対にないだろう。



「リヒノの願いは、明日、俺達と共にタテスに行く事……だそうだ」


 意外な願いに驚きを隠せない様子の息子の背にそっと手を添えた。


「但し、条件はある。俺の息子としてではなく労働力としてだ」



 この提案は決してリヒノの思いやりではない。こんな事になった翌日に長時間の馬車移動やヴェルティーナの庇護下から引き離すこと……。コレらはリヒノがレントナードに課した罰なのだ。



「もちろん貴族としての扱いを受けることはできないが、来るか来ないかはお前が決めていいらしい。しかし、ついて来れば貴重な体験となるのは間違いない。どうする?」

「行きます。ついて行きます!」


 返事は迷いなく返り、消えていた蝋燭に火が灯ったように明るくハリのある声が部屋に響いた。

 明日、どれだけ大変な思いをするのか想像が出来ていないようだ。


「行く事を決めたのはレントナード自身だ。どんなに弱音を吐いても屋敷に帰り着くまで俺が助ける事はないと思え」

「わかっています」



 コレはわかっていないな。

 そう思って「随分と甘い罰だろう?」と問えば頭を縦にふった。


 反省は……しているのかしていないのかわからない。


「コレが敵対している相手だったらこんな内容で済んではいない。とんでもない口約束をしたことを自覚して、今後己を不利にする発言は控えるんだ」



 己とその周りの人間を不幸にしない為にも……。視野は広く、考えることを怠ってはならない。



「ヴェルティーナはお前を可愛がるあまりに、幼いから、子供の言った事だからとお前庇うだろうが、他領の人間にはそんな考えは一切通じない。いや、この屋敷の外に出れば貴族の権威などそんなものはなんの役にも立たん」


 強ければ良い。強い者が正しい。

 そんな思想がこの領地の荒くれ者達にはあるのだ。


 それに極限状態の他人は自身を守るためなら相手が貴族だろうがなんだろうが関係がない。


 まぁ、明日は一応護衛はつけるようにするが……。



「他の者達と同じように出来るだけ……やれるだけやってみるといい」

「はい!!」


 何か特別なものを期待されていると勘違いしていそうな返事に頭をかかえたくなる。与えられた役目を全うするだけでいいんだがな。


 指導者も監視者もつけるとして……。

 問題が起こらないことを願うばかりだ。


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