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心底面倒ですが神様救ってみました  作者: 市川 春
アルセリアスでの茶木栽培
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生木を燃やすと凄く煙い


 戦いの準備は整った。


 らしい。


 耐熱耐火性のある衣装を纏ってお出ましのレントナードは自信いっぱいのキラキラお目々でお母様とお話中。


 対して私は、汚れたり傷がつくのが分かりきっているので、さっきの土いじり用の格好と変わらない。癒しの魔法を使えば反則になるのだから火傷には気をつけないとだな。



「水に癒し、そして土の属性までも制限するとは……あまりにも不公平では無いか?」

「それでも負けはしないでしょうけど」

「それはわかっているが、こうも不利な条件をつけてまで勝負をして何の意味がある。それにリヒノは対人の戦闘において精神面に不安があるではないか……」


 監視役もとい見届け役としてカナンヴェーグも訓練場へと足を運びシオの隣で髭を撫でている。


「彼曰く、自分も水と癒しと土は使わないのだから一方的に不利な条件ではない。だそうです」

「使えないのと使わないのでは全く違うのだがな。その屁理屈がまかり通ると思っているのがまず間違いだ」


 本当にね。

 セテルニアバルナの人達は剣術を得意とし魔法はあくまで補助の役割。私は魔法がメインで体術はなんちゃって体術なのだから、同じ条件での試合を要求されればかなり不利だ。


 それでも今回は選択肢が幾つかあるのだからまだまし。どうにかなるはず。


 高火力の炎でレントナードの扱う火を飲み込んでもいいし、風の魔法で大気を操り酸素を奪うことでレントナードの火魔法の発動を防ぐことも可能だ。てか、いっその事ことレントナードを酸欠状態にすればいいんじゃないか??


 あえて植物の魔法を使ってレントナードに燃やさせてその煙を浴びせて一酸化炭素中毒もありだ。嫌、なしか。死ぬわ。


 土の魔法は使えなくても風の魔法で砂を巻き上げてぶつける事もできる。



「今からでも遅く無いのでこの試合は中止した方が御子息のためですよ」


 シオさんは私の思考を読み取ってアルクザードに進言する。私でなくてレントナードを心配してるあたりがシオさんらしいぜ。


「…………リヒノは何と?」

「御子息の相手をする為に、我々には考えも及ばない理不尽な戦法をいくつも考えてますね。無事ですまないかもしれません」


 や、そんなのガチでやらないって。他人を怪我させるのとかちょっと無理目だし。


「危ないようなら止めに入るとしよう」


 深めに息を吐き出したアルクザードは息子の敗戦が目に見えているようだった。



「では、それぞれ負けを認めるか、気絶をした時点で勝負は決したとみなす。両者構えよ」


 いよいよ始まるらしい。


「初め!!」


 カナンヴェーグの声で試合は始まった。

 

 掛け声と同時に剣を両手で握りしめたレントナードが一目散にこちらへ駆けてくる。先手必勝ってヤツ??


「はぁぁぁぁーー!!」


「………………」


 あの武道とかの掛け声ってなんなんだろう。気合いを入れる為なのはわかってるんだけど引いてしまう。


 ズサーッ!!


 ヒョコッと進行方向の足元に植物の根を突き出してみたら見事にコケた。

 剣を振り上げて走っていたゆえに顔面から地面に落ちて非常に痛そう。


「卑怯だぞ!!」


 額と鼻の頭を擦りむいたレントナードは顔を赤くてし抗議してくる。大好きなお母様と認めてほしいお父様の目の前で派手に転んだのが恥ずかしいようだ。 


「…………」


 ギャラリーから……というかヴェルティーナからもキーキーと高い声でヤジが飛ぶが知らんがな。

 私の魔法は詠唱がいらない故に発動がわかりにくい。油断したのはレントナードであって私は悪く無い。


 立ち上がり体制を整えて再び切りかかってくる彼の足元に再び木の根を生やす。


「同じ手にはかかるか!!」


 得意気に叫んで、飛び上がって木の根を避けたレントナード。その着地点に根ではなく木を成長させるとグギッっと音がしそうなくらい不自然に足首を捻った上で、今度は後方に頭から倒れた。


「…………」

「完全に遊ばれているな」

「えぇ、開始後リヒノは一歩も動いてませんし」


 再び起き上がったレントナードは半べそ状態。このまま気絶でもしてくれたら良かったのだけど……。


 ま、足首も挫いてるだろうし、もう走り回れはしないだろう。


 反応の遅いレントナードは植物でグリグリに縛り上げたからもう動けもしない。


「レントナード、降参するんだ。もう出来ることは無いお前の負けだ」


 大きな怪我をさせる事なく無事終了できそうで何より。これだけ歳が離れていたら頭の出来が違うのだ。短慮な子供に負けることなどありえない。


「嫌だ!!まだ負けてない!!」


 負けを認めてないし、気絶してもいない。

 だから負けていない。


 私、こう言う屁理屈嫌いなんだけど。

 この悪あがきは結果が見え切っているのに、当人の我儘で相手の時間を奪うわけじゃん?


 ………………。



 首絞める??

 そんで気絶させる??


 うまく力加減できる自信ないなぁ。


 指……折る?

 爪……剥ぐ??

 

「…………爪を剥いで指の骨を折ろうとしてますけど早く降参したほうがいいのでは?」


「トラウマものの拷問だな」

「レントナード大人しく降参しろ」


 シオさん考えてるだけでやりはしないから口に出さないで下さい。私の心象が悪くなるじゃんか。


「(仮にそれでレントナードが諦めてくれれば貴女も満足でしょうに)」



 いや、諦めてくれればね。多分馬鹿だから無理だよ。我儘を我儘と自覚してないし、自分の意見が通らないとこなんて無いと信じているんだからさ。



「嫌だ!!」


 ほらね。うん。

 帰ってくるのは否定の言葉だ。



「……あと3分。それだけ状況が変わらなければリヒノの勝ちとする」



 これ以上待っても膠着状態は変わらないだろうとカナンヴェーグが時間制限をした。

 あ、コレはもう勝ち決定ですね。


「………を阻む………を……」


 ??

 何かボソボソとレントナードがつぶやいている。コレは魔法を使う前振りか。



「……の赫き炎で焼き尽くせ!!」


 焼き尽くせ!!

 と叫んだと思ったらレントナードが次の瞬間炎を纏った。


 この為の耐熱耐火仕様の衣装だったのか。

 火だるまで突撃されたら確かに手出ししにくいかも。ま、それも接近戦であればの話だ。中遠距離型の私にはあまり意味はない気がする。


 一応、距離をとって様子を見るのだけど……、彼、ガチで燃えてません??


 大丈夫なの??


 拘束してる植物を焼き切ろうとしたのは分かるんだけど……。生木燃やして見事に燻されててその表情までは見えない。


 聞こえてくる叫び声は興奮の叫びかも知れないけど、悲鳴のようにも聞こえる。


 レントナードの服は耐熱耐火仕様と言っても長いこと火で直接炙られたら限度があるだろうし、首から上は丸出しなわけで……髪も肌も保護されて無い…………よね??


 風を送って煙をどかしてみると黒焦げの子供がそこにいるわけで……。


 訓練場にヴェルティーナの悲鳴がこだました。


「早く水を!!」

「誰かレントナードを助けて!!」



「………………」



 言葉が出てこない。


「水の魔法で消火して癒しの魔法を!! 早くなさい!!」


 私に向けられる高い声が左から右に抜けてしまう。なのに妙に冷静。


 や、水も癒しも今使ったら反則負けになるんだよね。レントナードは負けを認めてないし、3分間で状況を変えたのだから勝負は終わってない。残念な事に意識はあるようだし……。


 なんて言うか自業自得?


「勝負は終わりだ。ひとまずレントナードを助けねばなるまい!」


 ここにいる貴族みんな色的に水属性得意じゃないのわかってるから私がやんなきゃなんだけど……体が固まって動かない。


 や、助けないといけないのはわかるんだけど……。


 バシャン!!


 やや乱暴にバケツを水をひっくり返し炎をおさめたのは褐色肌の庭師。


 火傷に直接放水とかガチ痛そう!!


「ひとまず回復を!!」


 シオに手を引かれてレントナードに近づくも見てられない火傷具合。うめき苦しむ少年から目を背けて癒しを施した。


 怖い。


 刺し傷、切り傷より恐ろしい。私にはエリーゼの時みたいに助けたい気持ちが余りなくて……触れたくない。ただ、そう思ってしまう。

 若干震えてるのはシオにも伝わっているはず。


 名前を呼んで泣き叫ぶ母親、休ませる部屋の指示を出す父親。玄孫を心配する老人。


 しばらく癒しを続けると傷も見れるくらいに落ち着いてきたので手を止めた。


 まだ限界というわけじゃないけど、わりかしそれに近い。今日の苗木培養とか明日の体力を考えたらレントナードの治療はもう充分かと。


 あとは、神殿の神官呼ぶなり巫女を呼ぶなりして癒して貰えばいいと思う。



「なんで辞めるの!! まだ傷はあるわ!!」


 甲高い声で非難してくるのは無論ヴェルティーナ。


「コレだけ癒やせば充分じゃろう。むしろすぐに手当が出来た事に感謝するべきだ。この者にはこれ以上は過剰。痛みも自業自得の罰として受け入れさせるべき事」


 立ち上がった私に「部屋で休みなさい」と伝えて肩をそっと押したのはカナンヴェーグ。私にこのモンペの相手をさせる気は無いようだ。


「こんなに幼い子供に苦しい思いをさせるというの?!」


「あぁ。自ら起こした事象の責任は自ら負わねばなるまい。苦しませたくないと言うのなら直ぐにでも神殿に頼りを出し、ネヴェルディア神の加護を祈る事だな。其方が子を大事に思うようにワシも子が大事だ。馬鹿のために使い潰すようなことは見逃せん」



 実の弟の養女、自身の姪に対して中々辛口だな。仲良く出来ない気持ちもわかるけど……。


 後に衝突する未来が来ない事を願いつつ、私はエリーゼに案内されて屋敷の与えられた部屋に戻った。

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